五月 26

Tom Oberheim & Robert Henke: A Conversation

アナログシンセサイザーメーカーの巨匠と孤高のDAWデザイナー/アーティストの邂逅

By Dave Tompkins

 

音楽は想像力だけで生み出されるものではない。表現する際に使用する楽器やインターフェイスも作品制作に力を貸している。では、もし伝統的な楽器やインターフェイスを使用しなかった場合、どんな新しい世界が生み出されるのだろうか? この疑問がTom Oberheimと彼が設立したシンセサイザーメーカーOberheimに新しいサウンドの生成を探求させ、オシレーターを組み合わせ、お互いに会話をするような音楽機材の開発に向かわせた。そしてRobert Henkeも既存のルールの外側への挑戦を好む人物であり、今や業界スタンダードである音楽制作ソフトウェアAbleton Liveの開発に尽力した他、Monolake名義でダビーでディープなエレクトロニック・ミュージックの深淵を探り続けている。ミュージシャン兼インターフェイスデザイナーであるHenkeは、自由なアーティストと論理的なデザイナーの間を誰よりも上手くバランスを取りながら活動している。

 

Red Bull Music Academyが2013年に出版した『For The Record: Conversations with People Who Have Shaped the Way We Listen to Music』の企画のひとつとして、Henkeがカリフォルニア州モラガのショッピングモールの中にあるOberheimの小さなオフィスを訪れた。HenkeがOberheimを代表するシンセサイザーのひとつであるSEMを調整中のOberheimに挨拶をすると、Oberheimは木のボウルにポテトチップを盛り、彼にビールを差し出した。質問で頭がいっぱいになっていたような面持ちのHenkeは土曜の午後の日差しに目を細めながら、Oberheimの仕事場をひとしきり見やっていたが、2人の会話はドアが開くな否や、正式な取材を始めるより先に始まっていた。

 

Robert Henke:私があなたの作ったシンセを買えるようになるまではしばらく時間がかかりましたが、昔からシンセサイザーに興味を持っていたひとりとして、そして自分の憧れの人たちが何を使っているのかを注意深くチェックしてきたひとりとして言わせてもらえれば、Oberheimの名前はあらゆる場所で目にしてきました。私はTangerine Dreamのようなグループが機材の城に囲まれている姿に魅了されてきたのですが −

 

Tom Oberheim:「機材の城」というのは素敵な表現だね。

 

Robert Henke:キーボードの背面パネルが重なっている姿はまさに城壁のようでしたから。同時に絶大な広告効果もあったと思います。Oberheim Xpanderを大切に所有している友人がいたのを覚えていますが、彼がキーボードに接続しないで音楽を作っていたのに驚きました。彼にとってはあれだけでシンセサイザーだったんです。

 

Tom Oberheim:MIDIもなく、ノブとスイッチだけでね。

 

Robert Henke:その通りです。あれは大きなインパクトでした。私にとって音楽とは鍵盤を弾くことでしたから。まったく異なるアイディアとの出会いからは多大な影響を受けました。また、ルックスにも惹かれました。Xpanderはキーボードがなかったという点で、他のシンセサイザーよりも未来的なデザインでしたから。そのあと随分経って − たしか2003年頃だったと思いますが − ようやくXpanderを手に入れましたが、面白い話があります。そのXpanderのチューニングが完全に狂っていたんです。

 

Tom Oberheim:老朽化するからね。

 

 

 

「シンセサイザーの存在が表記されずに売られたレコードは数え切れない程存在する。 魅力はそのマジックにある」− Tom Oberheim

 

 

 

Robert Henke:「誰か修理してくれる人を探さないと」と思ったのですが、そのXpanderからは素晴らしい微分音が鳴っていました。ですので、このサウンドはもう二度と出せないかもしれないと思い、レコーディングしたのです。あの「壊れていた状態」のXpanderをもう少し色々試せば良かったなと。BBC Radiophonic WorkshopのMalcolm Clarkeが言うところの「グッドアクシデントは見逃すな」というやつです。

 

Tom Oberheim:私にもそういう経験があるよ。結線を間違った時に「これは間違っているがそのままにしよう」と思った。これは正しい考えだと思っている。私は1970年代初頭にシンセサイザーの世界に入ったが、当時「シンセサイザーは楽器ではない」という意見が多かったね。

 

Robert Henke:そうでしょうね。私も音楽の先生にそう教わりました。

 

Tom Oberheim:だが、Chick Coreaが素晴らしくクリエイティブな方法でMinimoogを演奏し、Joe Zawinulが私のシンセサイザーで「Birdland」を生み出したことで、世間は「これは機械ではなく楽器だ」という意見を持つようになった。しかし、私は最初から「機械」として捉えてはいない。シンセサイザーは機械的で電子機器的だが、基本的には楽器だよ。シンセサイザーの存在が表記されずに売られたレコードは数え切れない程存在するからね。

 

要するにシンセサイザーの魅力はその「マジック」にある。レコーディングやライブでシンセサイザー特有のマジックが生まれる時がある。

 

 

Robert Henke:Brian Enoがエレクトロニック・ミュージックの制作に求められる条件は何かという質問に対し、「楽器を演奏できるかどうかは問題じゃない。重要なのは判断力だ」と答えました。シンセサイザーがすべてのハードワークを担当してくれますが、芸術的な価値を付加するには、「これは良い、これは良くない」と言える自分の判断力が必要だというわけです。

 

Tom Oberheim:今はそのプロセスが複雑化しているね。ツールの数が増えているし、シミュレートしたサウンドも増えている。1970年代初頭にシンセサイザーの世界に足を踏み入れた時、私が一番楽しみにしていたのが、シンセサイザーをベースにした新しい楽器の登場だったが、結局そうはならなかった。

 

まぁ少なくとも、すぐにはそうならなかったよ。何故なら、既に存在する楽器のシミュレーションをしようとしたからだ。これはアナログシンセでは上手くできない。パーフェクトなストリングスやブラス、Fender Rhodesは生み出せない。そしてDX7が登場した時に私の試みはストップした。君の作品もいくつか聴いたが、私には多少難解だったにせよ、使用しているサウンドが説明できないという点は面白いと感じた。Weather Reportは知っているかな?

 

Robert Henke:私はJoe Zawinulの大ファンです。

 

Tom Oberheim:それならひとつ面白い話がある。1977年、私はサンタモニカの自分のオフィスにいた。Joeがリングモジュレーターを所有していた関係で以前から彼のことは知っていたのだが、お互い忙しく、しばらく会っていなかった。すると彼から電話がかかってきて、「君の8ボイスのシンセを持っているんだが、これは凄いね。使い方を教えてくれないか?」と言うので、私は彼のところへ会いに行き、フィルターのカットオフなど色々手ほどきをした。実演して示すしか…

 

Robert Henke:教えようがなかったということですね?

 

Tom Oberheim:彼は私の実演を聴いていたが、私には彼が返品するだろうということは分かっていた。買った店に持って行って、返金してもらうだろうとね。しかし、その数週間後、彼からまた電話があり、「Tom、俺が君のシンセで作った曲を聴いてみてくれよ」と言ってきた。私は「返品しなかったのか?」と思ったよ。その時に彼が聴かせてくれたのが「Birdland」のデモだった。心底驚いたね。自分にとって未知の楽器だったのに、優秀なミュージシャンだった彼は使用方法を自分で習得したというわけだ。簡単に扱える代物ではなかった。マウスだけで素晴らしい音楽を生み出そうとするのと同程度の難易度だったはずだ。しかし人間はそういう状況を乗り越えて進化していく存在なんだよ。

 

Robert Henke:一方で、現代のシンセサイザーは既知のテクノロジーとして扱われています。1990年代半ばまで、エレクトロニック・ミュージックの多くは新しく登場した機材をベースにして生み出されていました。新しい機材が新しいサウンドを意味していたのです。ですが、今はエレクトロニック・ミュージックの「新しさ」はもうなくなってしまいました。最近の私たちは完全に新しいユーザーインターフェイスの新しいソフトウェアやハードウェアの登場を期待していません。以前よりも成熟したバージョンを期待しているだけです。

 

個人的にはこの状況をポジティブに受け止めています。過去を振り返るチャンスを与えてくれているからです。現在レトロブームなのもこれが理由だと思います。谷底を見下ろして「あれは良いな。話に聞いたこともある。自分で行って試してみよう」と思うわけです。私は近い将来、そのような昔の財産を新しい何かと組み合わせるようなクリエイティブな動きが出てくると信じています。

 

Tom Oberheim:そうなるだろうね。

 

 

Robert Henke:ですが、その未来は過去よりもテクノロジー主導ではなくなる可能性があります。何故ならテクノロジーはもう知り尽くされているからです。世間が今音楽を聴くのに利用しているメディアはYouTubeです。YouTubeがラジオの役目を果たしています。つまり、彼らは視覚的情報も同時に手に入れていることを意味します。これが将来的にどういう影響を与えるのかは分かりませんが、映像と音楽の組み合わせが普通だという世代が台頭した時、CDは消滅するでしょう。こういうハードウェアとしてのメディア、つまり、ステレオ2チャンネルで最大74分というメディアは過去のものなのです。私はこのピークを迎えてしまった今の状況が面白い変化を生むのではと考えています。

 

Tom Oberheim:その通りだね。まだ標準化が行われる段階までは来ていないので、色々な可能性が残されているし、急速な変化が次々と起きている。私が生きている間、そして君が生きている間に大きな変化が起きるだろう。

 

Robert Henke:そうなって欲しいと思います。何故なら今は酷い状況だからです。今はありとあらゆるパワフルなプログラムが存在しています。これらはかつてないほど凄まじいパワーを持っていて、私たちはこのパワーを持てあましているのです。私たちは自分たちのテクノロジーをただ記録するだけの存在になってしまいました。

 

Tom Oberheim:商業的な面の影響もあるね。これはMicrosoftから始まったわけだが、次から次へと新しいバージョンが出ている一方で、実際は20年前とさほど機能は変わっていない。これが本質的な成長の妨げになっている。企業はソフトウェアに機能を追加し続けているが、これは芸術的な意味での進歩ではない。

 

Robert Henke:確かにそうですが、選択肢が多すぎるという問題とは違います。企業や製品が成熟していけば、自然と巨大化していくので、そこに変化を加えるのが徐々に難しくなっていくという問題は確かにあります。ですが、このような企業が存在しなくても、先ほどの「このパワーをどう扱えば良いのか?」という問題は残ります。このような機材をどう扱えば良いのかという問題です。

 

自分の音楽や研究を振り返ると、選択肢が多いという理由でまとめる作業にかなりの時間を取られてきたことが分かります。8トラックのレコーダーとリバーブ1個、それに小さなミキサーとキーボードとドラムマシンが2、3台しかないという状況ならば、選択肢は限定されます。今振り返ると、そういう時代は自分に良い影響を与えていたなと。自分がしっかりとした決断力を持たなければならなかったからです。テープが高価ならば、レコーディングをする前に音楽に対してしっかりと判断をしますので、実際の作業は素早く行えました。

 

 

 

「未来では、『どうまとめていくか』が大きなポイントになると思います。作業を無限に繰り返せる中で、いかにしてクリエイティブな瞬間を逃さないようにするかが重要です」 − Robert Henke

 

 

 

ですが、今は「アンドゥ」を無限に繰り返せますし、ハードディスクの容量はテラバイトですし、プラグインも100万単位で存在します。5秒ごとに新しいバージョンを作成することもできます。未来は、「今後もキーボードを使って音楽制作をするのか」や、「マインドコントロールで音楽制作ができるのか」ではなく、「どうまとめていくか」が大きなポイントになると思います。作業を無限に繰り返せる中で、いかにしてクリエイティブな瞬間を逃さないようにするかが重要です。

 

私が尊敬しているアーティストの多くは、驚くほどテクノロジーに関する知識が少ない。ゆえに彼らは純粋な気持ちで、そしてアーティスティックなアイディアと共にテクノロジーと接することができるわけです。これは彼らの大きな力になっています。ですが、これは私の方法論ではありません。何故なら私はその部分における知識があるからです。私が機械と自分の間に生み出したいレゾナンス(共鳴)はそうではないのです。自分が知っていること、またはその知っていることの境界周辺の中で改めて強く興味を持てる部分を探さなければなりません。私はもうフィルターのカットオフの操作には魅力を感じていないのです。

 

今は非直線の不安定なディストーションが突如として生まれる瞬間に強く惹かれます。自分では予想していなかった倍音が生み出されるからです。この瞬間、機材が活き活きとしてきます。何が起きているのか理解していますが、同時に感動するのです。こういう瞬間を私は求めていますし、これが私の探究心の根底にあります。

 

 

ですが、これもまた私にとっては危険な状況と言えます。エンジニアとしての私が「これは良いね。このサウンドがもっと強烈な魅力を放つように機材を調整しないと」と思ってしまい、「これを利用しよう」と考える代わりに機材の調整を始めてしまうのです。実際にそのサウンドや機材を扱う代わりに、その調整に時間を費やしすぎてしまう自分に対する恐怖心が常にあります。

 

 

Tom Oberheim:私はいつこの世を去ってもおかしくない歳だし、自分で確認はできないが、自分が開発したようなルックスのアナログシンセサイザーが数百年後も存在するのかに興味があるね。

 

Robert Henke:私もそれは確認できません。Ray Kurzwellの言っていることが正しく、私が自分の限界を越えない限りは無理ですし、そうなる可能性はまずないと思います。

 

Tom Oberheim:そうなるとまた疑問が生じるね。「未来でも依然として昔のOberheimが使われているのだろうか?」とね。

 

Robert Henke:それらがちゃんと機能するのかという点も疑問ですね。私は自分が所有している古い機材のことが心配です。熱応力に問題があるのは十分に理解しています。電源のオンオフを頻繁に繰り返せば、内部の温度が頻繁に変化するので良くないということは理解しています。ですが、使わないままで放っておくのも良くないですよね。そして放射線も問題です。内蔵チップの故障に繋がりますし、コンデンサも壊れてしまいます。

 

Tom Oberheim:そのあたりについては50年から100年後もそれなりに動いていると思うね。

 

Robert Henke:ですが、初期デジタル系機材についてはどうお考えですか?

 

Tom Oberheim:それは確かに問題だ。初期デジタル系機材の多く、つまり1970年代、1980年代に登場した機材の多くは、環境的な問題よりも化学的な問題で動かなくなるだろうね。チップが劣化していくという話を聞いた。当時は「このチップは永遠に機能する」と思っていたわけだが、実際はそうではなかった。

 

Robert Henke:個人的には1980年代初期の機材が心配です。

 

Tom Oberheim:確かに。私は自分の機材のことしか分からないが、2ボイス・4ボイス・8ボイスのOberheimの多くは修正する必要がある。世間は知らないが、これらには寿命がある。だが、モダンなバージョンに変えることはできる。そうなれば大半は更に長い時間生き残れるようになるだろうね。そして私には「アナログシンセサイザーのデザイナーとして何をどう改良すれば良いのか」という命題が与えられるわけだ。

 

写真:Sabina McGrew