三月 30

The Sound of Terminator

映画『ターミネーター』シリーズで知られる作曲家が初期2作を手掛けた頃の制作環境や苦労を語った

By Brian Reitzell

 

TVドラマ『ハンニバル』シリーズのサウンドトラックを手掛けたことで知られるBrian Reitzellが、映画『ターミネーター』シリーズのサウンドトラックを手掛けたBrad Fiedelに、初期2作の頃の制作環境や苦労について話を聞いた。

 

Reitzell:映画『ターミネーター』のサウンドトラックでMIDIを使用しましたか? 当時(映画本編は米国で1984年公開)はMIDI誕生直後だったと思いますが。

 

Fiedel:MIDIの存在は知っていたが、私の手元にはなかった。丁度『ターミネーター』のスコアを用意している時に発表されたのかもしれない。私が使っていたOberheim(OB-Xa・DMX・DSX)はシステムリンクされていて、Sequential Circuits Prophet 10にはシーケンサーが内蔵されていたから、私はこの2つのシステムをマニュアルで同期させようとしていた。

 

第1作のサウンドトラックは良い意味でルーズな印象です。John Carpenterの作品にも通じるところがありますよね。どこかずれているようなサウンドです。当時はサウンドを正確にループさせるだけでもかなりの労力が必要だったのではないでしょうか?

 

そうだね。あと、当時はモノだった。1トラックずつしか作業できなかったんだ。あの頃の私はサウンドトラックを数多く手がけていたが、スペシャルエフェクトを用意するのは本当に難しくて、時間もかかった。また、作業が終わったと思っても、映像とのタイミングのずれが発覚することがあった。どちらの問題も、優秀な編集に頼まなければならなかった。実際は、私がスタジオに入ってレコーディングをし直すケースが多かったがね。今は全ての作業がフレキシブルになったと思う。当時は、サウンドこそルーズだが、作業は融通がきかず、非常に時間がかかるものだった。

 

 

 

 

『ターミネーター』のサウンドトラックには作曲用ソフトウェアが一切使われていない。『ターミネーター2』の時はFairlight CMIが2台あったので、コンピューターを使用した作曲が多少はできるようになっていた。1台をパーカッションサウンド用、もう1台をサスティン系サウンド用と、用途を分けて使っていたんだが、その2台のタイミングを同時に鳴らすために、それぞれに同じテンポと拍子のデータをプログラミングする必要があった。どちらかのデータがひとつでも違っていれば、全てのサウンドがずれてしまう。そうなった時は、データを洗い直してどこが間違っていたのかを見つけなければならなかった。

 

だが、当時最先端の機材を使用するのは非常に楽しかった。1970年代前半に初めてMoogのシンセサイザーを触った時から、最先端の機材を触るのが好きだった。最近の人は、逆にこの当時のアナログシンセに戻りたがっているね。私は若い頃にありとあらゆるシンセプログラミングを学んでおいて本当に良かったと思っているよ。今はピアノとヴォーカルを使った作品に取り組んでいるが、私の人生にはテクノロジーという1本の横糸が通されている。1970年代、私は自分のデモ曲をプロデュースしてくれていた男性と話をしていた。数台のシンセをいじりながら、未来について色々と語り合ったんだ。未来のステージは、事前にサウンドをプログラミングされた巨大な装置が置かれていて、ボタンひとつで次から次へと曲を演奏してくれるようになるんじゃないかとね。今では100ドルで売られているCasioのキーボードでもそれが実現できる。当時はそんな夢を思い描いていたんだが、テクノロジーは私たちの想像よりも遥かに速く、遥かに深く進化していった。

 

昨晩『ターミネーター2』をスタジオで改めて鑑賞したのですが、あの映画のサウンドエフェクトは大音量ですよね。あなたのサウンドトラックの音量を9.5とすると、サウンドエフェクトの音量は11で、通常レベルを超えています。あの映画はサウンドエフェクトという意味で革新的だったと思いますが、あなたはどの程度そこに関わっていたのでしょうか?

 

それには理由があるんだ。残念ながら、サウンドエフェクトを含むポストプロダクションはSkywalker Soundが担当していた。一方、私はロサンゼルスのスタジオシティでサウンドトラックを担当していたんだ(編注:Skywalker Soundが位置するSkywalker Ranchはサンフランシスコ北部にある。スタジオシティはロサンゼルスのエリア名)。だから、私がサウンドエフェクトを聴くことはほとんどなかった。理論上は、サウンドエフェクトの担当と連携して仕事を進める方がベターだが、誰にもそんな余裕はなかった。自分の仕事を間に合わせるので精一杯だった。私の場合も、ガレージ(当時の私のスタジオはガレージを利用したものだった)の外に常に人が待っていた。サウンドトラックが用意できたら、その人がバーバンク空港(現ボブ・ホープ空港)に急行し、飛行機に飛び乗ってSkywalker Soundに運んでいたんだ。だから、チームとして一緒に働いていたわけではなかったが、最終的には上手くいった。

 

あの作品にはモチーフのようなサウンドエフェクトが入っている。サンプルを早送りしたり、巻き戻したりして、音楽的なアプローチで作られたサウンドがね。だが、T-1000のサウンドは私が担当した。ハリウッドで行われた『ターミネーター2』のプレミア上映が終わったあと、私が以前一緒に仕事をしたことがある監督が「この映画は新しい時代の幕開けだ」と言ってきた。彼はサウンドトラックとサウンドエフェクトのシームレスな関係を指してそう言っていたんだ。彼には私のサウンドとSkywalker Soundのサウンドの区別がつかなかったんだよ。あのサウンドトラックの中には、ある意味サウンドエフェクト的な楽曲も入っている。そうしようと意識していたわけではなかったがね。

 

この映画のサウンドは左右にパンニングされている多次元な仕上がりで、映画的に非常に素晴らしいですが、あなたとSkywalker Soundはこのサウンドデザインにそれぞれどの程度関わったのでしょうか?

 

「必要は発明の母」のようなもので、あれには技術的な背景があった。この映画のオリジナルミックスはドルビーステレオで、これはセンター・左右・リアの4.0サラウンドを2.0ステレオにまとめる合成テクニックだ。そして、ドルビーを通すと、左右の両チャンネルにまたがっているサウンドは消されてしまう。なぜなら、サウンドトラックにはセンターが用意されていなかったからだ。

 

センターはセリフのためのチャンネルなので、サウンドトラックは、楽曲としてのエナジーを保ちながらワイドに展開する必要があった。もしサウンドがセンターに寄ってくれば、それだけ音量が下がってしまった。この時に、エナジーを保つためにはサウンドを左右均等に配置してもダメだということに気がついた。パワフルなステレオ感が欲しい時は、同じトラックを左右で同時に鳴らす代わりに、同じトラックを12msほどずらして鳴らして、位相がおかしくならないようにしてワイドに鳴らしていた。もちろん、パーカッシブなサウンドの場合は、通常のステレオミックスと同じで、サウンドAを左に、サウンドBを右にと、音色ごとに振り分けて配置していた。

 

今のお話で『ターミネーター2』のサウンドトラックの強烈なステレオ感の秘密が理解できました。必要に追われて生み出されたわけですが、神の恵みだったのではないでしょうか。というのも、川をトレーラーが爆走してバイクを追いかけるシーンがありますが、ここで使用されている楽曲のパーカッションサウンドのパンニングが生み出しているエナジーは、それとは完全に異なるもうひとつのエナジーを生み出しています。パーカッションといえば、最近、僕はオーケストラと一緒に楽曲をレコーディングしたんですが、パーカッションセクションに演奏しないように伝えなければなりませんでした。パーカッションは自分特有のサウンドに思えたので、結局自分ひとりで仕上げました。

 

私にも自分のサウンドに感じられたものを自分のスタジオで仕上げていた時期があった。今まで映画の中で聴いたことがないようなサウンドに思える時は、自分で24chのテープにまとめていた。それをレコーディングスタジオに持ち込んで同期させたあと、オーケストラの演奏と組み合わせてレコーディングしていたんだ。

 

また、ニューヨークで仕事をしていたキャリア初期はライブレコーディングだけだった。MIDIはまだ存在していなかったし、シンセもほとんど見かけなかったからね。だから、当時は色々な方法で独創的な作品を生み出そうとしていた。最近分かってきたのは、世間の記憶に残り、世間に感謝されている作品は、私がシンセを使ってひとりで作ったものだということだ。

 

私には他人と比べて不足している部分があると同時に、自分だけのユニークな部分もあるということだね。以前、自分も “ハリウッド” なサウンドトラックが生み出せることを示すために、そのような仕事を請けたことがある。仕事は順調に進み、周囲も満足してくれたが、私の作品の中では、最も退屈で、最も記憶に残らない部類に入るね。