六月 14

DJミキサー:進化の歴史

“オーディオシグナルを混ぜる” というシンプルなタスクのために様々なリサーチやカスタマイズが重ねられてきた。BozakやUREI、クラブスタンダードからブティックロータリーまで、DJミキサーの進化の歴史を紐解く

By Greg Scarth

 

最も簡単な言い方をすれば、DJミキサーとはそこを通過するサウンドのベストを引き出すためのものだ。最初期のモデルは入力信号を混ぜることしかできなかった ― 近年もこのようなモデルがいくつか存在する ― が、精神性の重要性がDJシーンに浸透していくようになると、「DJミキサーとはサウンドを操る者たちをパーフェクトサウンドへ導くことができる機材」というアイディアが広まっていった。

 

ほんの小さなディテールがひとつのモデルの成否、さらにはひとつのメーカーの成否を決めることになる。フィルターのサウンドやクロスフェーダーの位置は厳しく評価される。DJミキサーのテクノロジーの進化は、新しいテクノロジーの開発、新しい音楽ジャンルの誕生、オーディオプロセッシングテクノロジーの増大とシンクロしている。

 

ブルックリンの “ゴーゴーボーイ”、Francis Grassoは、我々が知っている “ミキシング” を初めて成功させたDJとして広く知られている。GrassoはRek-O-KutやThorensのターンテーブルに載せた同じヴァイナル2枚を続けてプレイするようになると、やがてそれらをスムーズに繋ぐ方法を編み出した。しかし、1960年代にSalvation II、Haven、SanctuaryなどのアンダーグラウンドダンスクラブのDJプレイの中で行われていた最初の “実験” には、次にプレイするトラックを聴く手段が存在しなかった。

 

1970年代初頭、その雑な繋ぎ方に嫌気が差したGrassoはカスタムメイドのステレオDJミキサーを導入する。このステレオDJミキサーなら次にプレイするトラックをヘッドフォンで聴けたため、クラブのサウンドシステムに通す前にミックスできるようになった。

 

赤くペイントされていたことから “Rosie” と名付けられたこの原始的なDJミキサーを開発したのが、サウンドシステムデザイナーのAlex Rosnerだった。ヘッドフォン専用の増幅回路を用意してDJミキサーにキュー機能を実装することに成功したRosnerは、テープデッキとターンテーブル2台のためのレベルコントロール機能とマイクのオン・オフ機能も実装した。

 

純粋主義者は絶対に使わないと言うかもしれないが、近年はDJミキサーを使ったDJプレイは当たり前のものとして考えられている。

 

「トラックとトラックを混ぜる」、「トラックからトラックへ繋ぐ」というアイディアは、David Mancusoには理解されなかったものの、Walter Gibbons、Nicky SianoLarry LevanなどをはじめとするニューヨークのディスコDJたちに支持され、徐々にダンスフロアの常識になっていった。Rosnerも仕事仲間だったRudy Bozakを誘ってPA用モノラルミキサーをステレオDJミキサーに改造し、世界初の市販用DJミキサーの開発を進めた。

 

Rosnerの元で働いていたRichard Long(のちにParadise Garageのサウンドシステムのデザインを担当する)は、オーディオシグナルをフレキシブルに扱えるDJミキサーを開発するべきだと考え、センド&リターンを追加して、エコーボックスのような外部デバイスとの間でオーディオシグナルを自由に行き来させるシステムを構築するようBozakにアドバイスを送った。

 

そして数台のプロトタイプを経てBozak CMA-10-2DLが誕生した。1970年代を通じて業界のスタンダードとなったBozakの構造は、現代のDJミキサーの構造と驚くほど似ていた。このDJミキサーには、個別のバランスコントロールが備わっているステレオチャンネル6系統(PHONO2・AUX2・MIC2)が用意されており、キューはPHONOとAUXの4チャンネルで自由に切り替え可能で、マスターにはレベルコントロールとLR各チャンネルに2バンドEQが備わっていた。

 

やがて1980年代初頭にBozakが製造中止になると、1983年にハリウッドに拠点を置くUREIが1620をリリースした。このDJミキサーはBozakの内部構造を参考にして開発されたが、Bozakの回路が様々なコンポーネントの寄せ集めだったのに対し、UREIの回路は集積回路としてまとめられていた。UREI 1620はBozakのあとを引き継ぐ形で、ハウスDJのデファクトスタンダードモデルとなった。

 

 

 

"ロータリーミキサーに関してはサウンドや操作性が話題になっているが、混ざり方について話している人はほとんどいない。しかし、“複数のサウンドソースをひとつにまとめる” ― これがDJミキサーの目的だ。サウンドの混ざり方が、DJミキサーのフィーリングとサウンドに大きな違いをもたらす部分なんだ"

Laurin Schaffhausen

 

 

 

オーディオファンの間で長年に言い継がれてきたアンプに関する格言のひとつに「Straight Wire With Gain」がある。これは理想のアンプとはまっすぐな1本のラインでサウンドソースと繋げられるべきであり、色付けや歪みなどが存在してはいけないという意味だ。そしてこれに似たアイディアがDJミキサーにも持ち込まれるべきというのは考えられる話だ。なぜなら、DJミキサーも基本的にはターンテーブルとCDJのサウンドを変えることなくただブレンドするためのものであるべきだからだ。

 

しかし、電子工学者やサウンドテクニシャンに執拗に訊ねれば、おそらく彼らの多くが「Straight Wire With Gain」は複数の理由から実現不可能だということを認めるだろう。つまり、完全にニュートラルで何の色付けもされていないDJミキサーもまた存在しない。そしてそれよりも重要なのは、そのようなDJミキサーがそこまで求められていないということだ。

 

Laurin SchaffhausenはミュンヘンのクラブBlitzのサウンドデザインを担当しているオーディオエンジニアで、クラブサウンドシステムの熱心な歴史家でもある。BozakとUREIのオリジナルモデルをほぼすべてのモダンなDJミキサーと比較してきた経験を持つSchaffhausenは、クラシックなDJミキサーはオーディオシグナルをそれなりに色づけするが、これは特に悪いことではないとし、次のように説明する。

 

「何も色づけされていない完全にフラットなシグナルには逆に生気が感じられないからさ。どのDJミキサーも必ずサウンドに色を付ける。ARS 4100Rodec MXシリーズのようにほぼ色付けしないDJミキサーもあるが、Super Stereo DN78のようなかなり強く色付けするDJミキサーもある」

 

「BozakとUREIのオリジナルモデルも、モダンなDJミキサーほどではないがサウンドに色を付ける。DJミキサーのゴッドファーザーと言えるBozak CMA-10-2DLのサウンドは、Bozak AR-6のサウンドとは大きく異なる」

 

「個人的な意見を言えば、ダンスミュージックにはUREIの色付けが最も合っていると思う。UREI 1620とフラットなサウンドのDJミキサーを比較するなら、UREIは “ヴォリュームを上げてくれ! ダンスフロアはどこだ? ドリンクを買ってきてくれ!” と思うようなサウンドだ。UREIは音楽が内包しているエモーションを強調するから踊りたくなる」

 

1980年代はDJミキサーのメイントレンドが大きくシフトしていった。その主な理由は、ヒップホップとこのジャンル特有のミキシングテクニックの登場にあった。

 

Kool HercやGrandmaster Flashのような初期ヒップホップDJたちは、ダンサーを踊らせるブレイクビーツの尺を伸ばすために同じヴァイナル2枚をスムーズに繋いだり、素早くカットインさせたりする必要があった。そのニーズに応えるソリューションとして登場したのがクロスフェーダーだった。クロスフェーダーはGrandmaster Flashが開発したと言われることもあるが、これは都合に合わせて作られた逸話のように思える。

 

クロスフェーダーを搭載した初の市販用DJミキサーは、1977年に英国で発売されたCitronic SMP101だった。そして同年後半に発売されたGLI PMX 7000が同様の機能を米国に持ち込むことになった。

 

PMX 7000にはPHONO1とPHONO2の間をシームレスに切り替えられるクロスフェーダーと、ヴォリュームコントロール用ストレートフェーダー(全チャンネル)が用意されていた。EQは各チャンネルではなくマスター用の3バンドEQが用意されていただけだったが、このモデルには近年のストレートフェーダーDJミキサーとの共通点がいくつか見出せる。それらの多くはPMX 7000のレイアウトを参考にして開発されている。

 

 

ストレートフェーダーを採用しているTPI Type. 14 © Giles Smith / TPI Sound
 

 

 

1980年代前半までにヒップホップ用DJミキサーの基本デザインはすでに完成していた。基本的な機能だけを備えている耐久性重視の2チャンネルミキサーで、ヒップホップDJスタイルを定義づけることになるカッティング / スクラッチング / チョッピングをストレスなく行えるようにクロスフェーダー周辺のスペースが広く取られていた。

 

このレイアウトはその後20年に渡りスクラッチDJたちが好んで使用した「バトルミキサー」のスタンダードになり、1980年代前半に発売されたDMC PMX-2のようなモデルや、1980年代後半に発売されたTechnics SH-DJ1200、Vestax PMC-05 / PMC-07などはどれも非常に似通ったレイアウトと機能を備えていた。

 

そしてヒップホップのDJプレイはデジタル・ヴァイナル・システム(DVS)の登場によってさらに先へと進み、新世代のターンテーブリストたちはヴァイナルの操作感やマッスルメモリを失うことなくヴァイナル固有の制限から解放された。Rane Seventy-Two、Pioneer DJM-S9、Reloop Eliteのような近年人気のバトルミキサーは、デジタル・ヴァイナル・システムのコントローラーとオーディオインターフェイスに伝統的なDJミキサーを組み合わせている。

 

DJ QBert、Yogafrog、Hard Rich、Jesse Deanが共同開発した2019年夏の発売が予定されている最新DJミキサー、Thud Rumble Invaderにはコンピューターが内蔵されており、TraktorやSeratoのようなDJ用ソフトウェアをDJミキサー内で立ち上げることができる。また、このDJミキサーはタッチスクリーンやタッチセンシティブパッド、ロータリーコントローラーと伝統的なフェーダー&クロスフェーダーを共存させている。

 

1980年代以降、このようなストレートフェーダー系DJミキサーの開発が続いてきたが、ハウス&ディスコのハードコアファンたちはオールドクラシックへの忠誠を誓い続けており、BozakやUREIのヴィンテージモデルやVestaxやRaneをなどが21世紀初頭以降に新たに開発したロータリーミキサーを愛用している。

 

2003年、パリを拠点に置くハウス / テクノDJ、Cyril Etienne aka DJ DeepがエンジニアのJerôme Barbéに自分が所有しているUREI 1620の修理を頼んだのだが、この修理作業が進んでいく中で2人はUREIをベースした新しいDJミキサーの開発というアイディアを思いつき、さらにはEtienneの友人と仕事仲間がこのDJミキサーのデザインプロセスに参加した。Kerri Chandlerがツアーで携行できるようにコンパクトサイズにするべきだとアドバイスを送り、Joe Claussellはドラマティックなフィルタリングエフェクトを得られるアイソレーターをリクエストした。

 

その結果として生まれたのが、最低限の機能にまとめられた小型ハンドメイドDJミキサー、E&S DJR400だった。Barbéと彼のアシスタントDominiqueは今もはんだ付けを続けており、パリのワークショップで週2台製造している。DJR400はCan ElectricCondesaなどのブティックメーカーを含むコンパクトDJミキサーシーンを生み出すことになり、ハウスDJたちの間にロータリーミキサーブームを巻き起こした。

 

 

 

"他人のためのミキサーを作るのは大変なんです。個人の好みがありますから。ですので、私も結局は自分が欲しいミキサーを作りました"

Giles Smith(TPI Sound)

 

 

 

最も広く知られているロータリーミキサー関連の誤解のひとつが ― このタイプのミキサーを長年愛用しているベテランDJたちの手腕も原因の一部なのだが ― 「ロータリータイプのサウンドはストレートフェーダータイプより優れている」だ。現実を言えば、ノブを回転させるというコントロールメソッドはサウンド自体とは全く関係がない。違いはフロントパネルのノブの下に埋め込まれている電子部品、ポテンショメーターのちょっとしたスペック差だ。

 

「ロータリーミキサーはストレートフェーダーミキサーよりサウンドが良い」かもしれない唯一の理由は、前者がサウンドクオリティを優先した電子部品を採用している場合が多いからだ。他のミキサータイプが機能やエフェクト、多用途性などを重視しているのに対し、ブティックメーカーが製造しているロータリーミキサーは最低限の機能とアナログ回路を重視しているモデルが多い。彼らのあらゆる拘り(と資金)は、気の利いたエフェクトやデジタル機能よりも最高のシグナルパスの実現に向けられている。

 

サウンドクオリティ以外でも、ロータリーミキサーファンは人間工学的にも自分たちのミキサーの方が優れていると強く訴えている。

 

彼らはロータリーミキサーのノブを回転させる方がストレートフェーダーミキサーのフェーダーを上下させるよりも遥かに簡単だとしており、この特徴が彼らにヒップホップDJたちに紐付けられている高速チョッピングやカッティングとは対称的なスムーズなロングミックスをさせている。また、手を回転させてオーディオシグナルがゲインされていく感覚もストレートフェーダーの直線的なゲイン感覚とは異なる。

 

ロータリー、ストレートフェーダーを問わず、ほとんどのDJミキサーは対数式ポテンショメーターでゲインをコントロールするシステムを採用することで音量変化を非線形で捉える人間の聴覚に近づけてようとしているのだが、ロータリーミキサーファンはロータリーを回転させる方がより正確かつ簡単に音量をコントロールできると考えており、ストレートフェーダーよりも高精度だとしている。

 

 

MasterSounds Radius シリーズ © Ryan Shaw / MasterSounds

 

 

ここでSchaffhausenがDJミキサーの主要目的をあらためて指摘する。

 

「ロータリーミキサーに関してはそのサウンドや操作性が話題になっているが、混ざり方について話している人はほとんどいない。しかし、“複数のサウンドソースをひとつにまとめる” ― これがDJミキサーの目的だ。サウンドの混ざり方が、DJミキサーのフィーリングとサウンドに大きな違いをもたらす部分なんだ」

 

また、Schaffhausenは近年のブティックロータリーミキサーはすべて優秀だと続ける。「誰もが “ベストモデル” を探しているが、僕の考えるベストと他人が考えるベストは大きく異なる」としている彼の現時点でのベストは、MasterSounds Radius 2だ。

 

「非常にコンパクトでギグへの持ち込みも簡単だ。狭いブースにも収まってくれる。サウンドの色づけはかなり強目だが嫌味はない。通常、僕はEQをまったく使わないがこのDJミキサーのフィルターは素晴らしいね。信じられないほどスムーズだ。低音をカットするとまるでスタジオにワープしたような感覚に陥る。スタジオエンジニアにローをすべてカットしてくれと頼んだ時のようなサウンドになる。クレイジーだよ!」

 

Radiusは、DJ / エンジニアのRyan Shawが英国・ストックポートで立ち上げたMasterSoundsが展開するフラッグシップシリーズだ。Radiusは、ShawがAllen & Heath Xone V6を探し求めて “何の収穫もない徒労の長旅” に出たことがきっかけで誕生したモデルだ。ようやくAllen & Heath Xone V6を1台見つけて連絡を入れた相手が、偶然にもこのレアなミキサーをデザインした元Allen & Heathのエンジニア、Andy Rigby-Jonesだったのだ。

 

「Andyと仲良くなったあと、Radius 2を一緒に開発することにしました。Andyと僕はそれぞれ自分の会社を持っていたので、経理的にも特に問題はありませんでした。僕たちの製品は、サウンドとシンプルさを強く意識してデザインされています。Radius 2のデザインコンセプトは他の多くのDJミキサーの真逆で、機能はとてもシンプルにまとめられています」

 

「たとえば、一般的な3バンドEQを外してナチュラルなカーブを描けるハイパスフィルターを採用しました。また、チャンネルごとのEQをなくし、音楽的なカーブを描けるマスターEQ / アイソレーターを採用することで、ミックス全体の周波数をコントロールできるようにしています」

 

技術的な部分に関して言えば、DJミキサー市場をリードしているAllen & HeathやPioneerのフラッグシップモデルはBozakやUREI、そして最近のブティックロータリーミキサーとは完全に異なる。Allen & HeathとPioneerはアナログとデジタルをそれぞれ異なる形で組み合わせているが、デザインコンセプトは基本的に同じだ。

 

クラブへ導入され、多種多様なDJが使用することを念頭に置いてデザインされているこれらのオールラウンドタイプのミキサーは、様々なプレイスタイルやアプローチに対応できるように多用途性が重視されている。

 

 

Allen & Heath Xone:62 © Ella McClary / Allen & Heath

 

 

Allen & HeathのDavid MorbeyはXoneシリーズのシニアプロダクトマネージャーを担当している。Allen &Heathは1999年に同社初のDJミキサーXone:62を発売したが、その30年前からハイエンドなスタジオ / ライブ用ミキシングデスクを開発・発売していたと自社の歴史を説明するMorbeyは「私たちはDJミキサーにもハイエンドなオーディオミキシングデスクと同じ美学を持ち込んでいます」と語っている。

 

Allen & HeathはDJミキサー専門のデザインチームを抱えていないが、同社はデジタル、アナログ、メカニカル、ソフトウェアを含む各部門のスタッフがフレキシブルに協働しながらXoneシリーズを含む全製品を開発している。

 

 

 Allen & Heath Xone:96 © Ella McClary / Allen & Heath

 

 

サウンドを混ぜようとしたFrancis Grassoの実験が世界初のDJミキサーの誕生に繋がったとするなら、近年そのような実験はひとつのピークに到達していると言えるだろう。数多くのDJがデザインプロセスに関わっており、メーカーは彼らのフィードバックを取り入れながら機能の追加や新モデルの開発を続けている。

 

世界で最も生産台数が多いAllen & HeathのDJミキサー群も何年もの開発 / テスト期間を経て発売されており、Morbeyは「デザインチームの多くがDJのバックグラウンドを持っているので、オリジナルのアイディアは社内から生まれています。そのあとでDJやエンドユーザーの意見を取り入れながら開発を進めていきます」と説明し、次のように続ける。

 

「Xone:96に関してはEQのシェイプとサウンドの微調整に多くの時間を費やしました。それまでの15年でクラブのサウンドシステムが劇的に変化したことは私たちも理解していたので」と続ける彼は、30人以上のDJからフィードバックをもらって開発を続けたとしている。「多くの人に今も愛されており、業界のスタンダードとなった:92のサウンドキャラクターを失うことなくベストサウンドを提供したいと思っていました」

 

自分だけのユニークなサウンドを手に入れるために極端なアクションを取っているDJたちも存在する。彼らはメーカーと組んで自分専用モデルを開発している。

 

たとえば、Floating PointsはIsonoeと組み、惜しまれながら閉店したロンドンのレジェンドクラブPlastic Peopleで使用するためのロータリーミキサーを開発した。尚、Isonoeは同じくロンドンにあるリスニングバーSpritland専用のカスタムミキサーも開発している。また、Richie HawtinはRigby-Jonesと組んでPLAYdifferently MODEL 1を開発した。ちなみにHawtinの父親Mickが息子へのクリスマスプレゼントとしてこのモデルの10チャンネルバージョンをデザインしている。

 

しかし、低予算モデルからワンオフのスペシャルモデルまでほぼすべてのニーズがカバーされている今、他のモデルが開発される余地は残っているのだろうか?

 

Allen & Heath Xone:92は15年に渡りDJミキサーのフラッグシップモデルを務めているが、この期間はRosieからDMC PMX-2までよりも長い。この事実はDJミキサーに進化の余地がほとんど残されていないことを示唆している。DJミキサーのデザインはピークを迎えたのではないだろうか?

 

この意見に異を唱えているメーカーがある。レスターに拠点を置くTPI SoundはカッティングエッジなサウンドシステムTotemで知られているメーカーだ。ロンドンで開催されているPhonica Records関連のイベントやサウスロンドン・ペッカムの目抜き通りRye Lane沿いに立ち並ぶクラブバーに良く顔を出している人ならこのサウンドシステムを見慣れているだろう。

 

そのTPI Soundがターンテーブル用アイソレーター、アンプ、スタジオモニターなどと並んで製造しているDJミキサーは次世代を謳っている。

 

 

TPI Sound Type. 14 © Giles Smith / TPI

 

 

TPI Soundの創設者Giles Smithが「金に糸目を付けない人のためのモデル」と説明するType 14には、ミリタリーグレードの堅牢なコンポーネント(コントロールパネルはジェット戦闘機ユーロファイターと原子力潜水艦の操縦席をデザインしているエンジニアによってデザインされている)とあらゆるオーディオマニアを歓喜させるカスタムメイドのコンポーネントが採用されている。

 

Smithは、オーディオマニアを対象に製造されている一部のDJミキサーのルックスや機能の魅力を十分に理解しているが、それらに内蔵されている電子部品は個性がないデザインや “科学の授業” レベルのクオリティの製品が採用されていることがあり、回路も単純で、ヴィンテージスタイルのVUメーターと中程度のコンポーネントを美しいケースにはめこんでいるだけだとしている。

 

しかし、Smithは自分が開発したType. 14に関しては最高のクオリティを念頭にいちからデザインしたとしている。Smithは「このミキサーの性能値は世界最高レベルの研究施設やスタジオと同じです」と説明している。そしてこのモデルは超高額の受注生産となっている。

 

これらの事実は、このモデルが現在市場に存在するあらゆる競合他社のモデルとは比べられないレベルにあることを示している。Smithは「他人のためのミキサーを作るのは大変なんです。個人の好みがありますから。ですので、私も結局は自分が欲しいミキサーを作りました」と認めている。

 

この発言はひとつの真実 ― 時間とリサーチと調整にどれだけ時間をかけて音楽を磨き上げても、音楽には主観性が維持される ― を語っている。よって、音楽を混ぜて色付けるDJミキサーも究極的には同じく主観的なのだ。

 

DJミキサーの機能性を高く評価する人がいれば、サウンドクオリティを高く評価する人、スムーズなノブを好む人もいる。ダンスフロア全体の雰囲気はDJミキサーを "センド&リターン" することで作られていく。どんなにトライしても数値化できるものではない。

 

 

Header image:© Ella McClary / Allen & Heath

 

14. Jun. 2019