五月 22

TAICOCLUBの現在、そして将来の展望

オーガナイザーの安澤太郎氏にインタビュー

Interview By Yoshiharu Kobayashi (The Sign Magazine)

 

数々の新しいフェスティヴァルが生まれては消えていく中で、しっかりとそのブランドを確立し、オーディエンスから持続的な支持を勝ち得ているフェスは、まだ日本では決して多くはない。特に、中~小規模のインディペンデントなイベントに限って言えば、それは尚更の話だろう。しかし、今年で9年目を迎えるTAICOCLUBは、DIYで良質な体験を提供し続け、「晩春の風物詩」として完全に定着した希有な存在だ。

その魅力の核となっているのは、アンダーグラウンドのクラブ・シーンで人気の高いDJから、メインストリームで活躍するロック・バンドまでが出演しながらも、決してチグハグな印象は与えないバランス感覚の絶妙さ。Daniel BellやThe Black DogからPanda BearやJon Hopkins、そしてくるりやサカナクションまでが一同に会する今年のラインナップも他ではあり得ない幅広さながら、すんなりとTAICOCLUBの「味」として受け入れさせてしまうのは、流石と言っていいだろう。

過去数年と同様に、今年もチケットは事前にソールドアウト。好調が続くTAICOCLUBの現在と将来の展望について、オーガナイザーの安澤太郎氏に話を訊いた。



―開催も間近に迫ってきました。今現在の状況はどういった感じでしょうか?

開催一週間前には彼ら(他の運営スタッフ)はいなくなっちゃうんで、僕らも流石にちょっとバタバタし始めましたね。でも、だいぶ固まってきて、もうやるだけ、っていう感じではあります。チケットも発送しましたし。あれが一番大変なんですよ(笑)、かなりの重労働なんで(*TAICOCLUBのチケットは全て、運営スタッフ自らが購入者に発送している)。

―最近は毎年チケットがソールドアウトになっていますし、今年も既に売り切れています。かなり順調にフェスが成長して、安定してきたように思えるのですが、それに伴ってお客さんに変化はありますか?

以前より、ちょっとパイが広がってきたっていう感覚はありますね。昔からのお客さんと、最近のバンド寄りの出演者で興味を持ってくれたお客さん、それに地元の人もいたりして。お客さんの年齢層も幅広くなった気がするんですよ。前は20代前半から30代前半くらいのお客さんが多かったんですけど、今は上も伸び、下も伸びっていう感じになってきたかなと思います。子連れのお客さんも増えてきました。そういう意味では、凄くいい方向に向かっていると思いますね。狙い通りの方向に転がっているなと。今はクラブ・ミュージック系(のフェスティヴァル)だとruralとかRainbow Disco Clubがありますけど、僕らはそれらとは違った見せ方、やり方をしていければいいと考えています。やっぱり、何かに特化したものより、ミックスされたものを目指しているので。



―TAICOCLUBのミックス感、幅広さっていうのは、ラインナップによく表れていますよね。本当にいろんなジャンルのアーティストがいて、バラバラなんですけど、チグハグにはなっていない。そのバランスを保つのは難しくないですか?

それは僕ら(運営スタッフ)の中でも、聴く音楽が違ったりとか、元々聴いていたものが違ったりとか、そういうところがあってのことだと思います。それぞれ違うんですけど、何か共通して楽しんでいるものは、やっぱりあるんですよね。暗黙の共通理解みたいなものが。それがたぶん、お客さん側にも伝わっているんだと思います。それに、出演するアーティストが、他の出演者のファンだったり、そういうところで紐付いていることもあるんですよ。実際に、「このアーティストは観たいから、自分の時間帯の裏に入れるのはやめてくれ」っていうオーダーがあったりするんです(笑)。そういう自然な繋がりも、なんとなくの統一感として出てきているのかな、と思いますね。そしてその結果、ある程度は共通するところが生まれていて、来れば楽しめる、っていう形にまとまっているんじゃないでしょうか。僕らとしても、初めて来た人にも、「全体的に楽しかったね」っていう気持ちで帰ってもらいたいですしね。

―実際、アーティストのセレクトに関しては、これはダメ、これはやめておこう、といった線引きはあるんですか?

それは前の方があったかもしれないです。「どこまで踏み込んでいいのか?」、「ここまで行っちゃっていいのかな?」っていうのは、3~4年前くらいまでは結構あって。でも、一度やってみてからは、だいぶなくなってきた気はしています。自分が好きな音楽とは違うものを観た時に、「これは全然ないわ」っていう拒否反応を示されないくらいの距離感を保ちながらやっているつもりですね。実際、TAICOCLUBに来たお客さんで、観る前は「いや、ないよ」って言っていた人が、観た後に「凄いよかった」って言っていたりとか、そういう反応もあって。「あっ、そこが大丈夫なんだ」っていう意外な発見があったりするんです。その場で楽しむっていうことは、家で聴くとか、移動中にヘッドホンで聴くのとは、また違うと思うんですよね。ライヴの良さがあるっていうか。普段聴いていなくても、フェスでみんなで体験すると楽しく聴けるものってあると思うんです。そういった考え方をすれば、案外、幅広くいけるのかなと。それが僕らとしても、やっていて面白いところではありますね。

―具体的に、このアーティストもTAICOCLUBのお客さんは楽しんでくれるんだ、っていう嬉しい発見をしたのは、どのアーティストの時でしたか?

ちょっと前だと、例えば日本人だと、在日ファンクとかそうなんですよね。最初はちょっと毛色が違うと思われたかもしれないんですけど、思いの外、馴染んで、3年連続で出てもらうことになったりとか。サカナクションも、今までのお客さんから最初は批判もあったんですけど、いざ蓋を開けてみれば、みんな楽しんでくれていましたし。

―そういった点で、今年のラインナップでポイントとなるアーティストを挙げるとすると?

でも、今年は本当によくまとまったので、これは突出して外れているな、っていう感覚はないですね。まあ、Czecho No Republicっていう若いバンドは、全体のバランスからすると、ちょっと異色だとは思うんですよ。でも、若い子達が純粋にフェスを楽しむっていうところではハマっていると思うので。彼らのファンとVenetian SnaresやLightning Boltとか、全く合い見えない感じがするかもしれないですけど、意外とそういう子達もLightning Boltを見て楽しめるかもしれないし、Panda BearとかJon Hopkinsといった体で感じる音楽でも楽しめるんじゃないかなと思うんで。違いものを聴くきっかけとしては、そこが一番キーかもしれないですね。

―普段、自分が聴いているのとは違う音楽にも触れてみる、っていうのは、やはりTAICOCLUBにおいて最も重要なポイントなんですか?

色んな人が交わるっていうのが、凄く大事だと僕は思っていて。普段の生活でも、仕事をしていてもそうですけど、普通は同じ仕事の業種や、同じコミュニティの友達の中で生活していますよね。でも、フェスのああいう場は、いろんな人が絡み合う場所になっていて。実はそういう場所ってあんまりないと思うんです。だから、TAICOCLUBをよりいろんなジャンルの人が集まる場所にしていく、っていうのが面白いなと僕は思うんですよね。もちろん、同じ趣味の人達で楽しむっていうのも、ひとつの楽しみ方としてありだと思います。けど、僕はどちらかというと、よく分かんない人達がよく分かんない感じでグチャグチャに絡んでいる方が面白いものが出てくると思っているので、フェスとしてもあんまり偏りたくない、っていうのがあります。ただ、あまりにも平坦になり過ぎると他のフェスと同じになってしまうので、その微妙なところを大事にしながら、もっとジャンルを広く作っていければ、っていうのがありますね。

―なるほど。いろいろなものがクロスオーヴァーする場所としてTAICOCLUBを捉えると、今のTAICOCLUBは自分の中での満足度は何%くらいですか?

いや~、今はまだやっぱり、音楽と、せいぜいキャンプとお酒とか、そういうものがあるくらいで、全然新しいものではないですから。僕がやりたいな、と思っていることで言えば、まだ三分の一くらいだと思うんですよね。もっと違うジャンルのものを観たいなと思うし、これ良いなと思うものがいっぱいあるので、そこら辺に進んでいきたいと思っています。実際、音楽だけじゃなくてもいいと思うんですよ。今回、レクチャーをRed Bull Music Academyでやってもらうんですけど、それも音楽を違う見方で見る、っていうことに繋がって素晴らしいと思いますし。実際、レクチャーだけじゃなくて、もっと色んなものが混じっていかないと、どこも同じことをやっているだけになってしまうので。フェスの在り方っていうのは、もう一歩、先に進ませてもいい気がします。

―では、今回Red Bull Music Academyとコラボして、レクチャーと映画の上映があるのは、音楽だけじゃなくて多角的にフェスを楽しむという安澤さんの理想と上手く噛み合ったわけですね。ただ、Red Bull Music Academyとのコラボは、そもそもどのように実現したのですか?

僕らがTAICOCLUBを始めた時くらいから、ずっとアーティスト・サポートをやっていただいていたんですよ。もう8、9年目くらいになるんですけど。

(Red Bull担当者)で、今年、Red Bull Music Academyを東京でやるにあたって、フェスティヴァルでの活動を行うってなった時に、こちらとしても必然的に名前が上がってきたのがTAICOCLUBだったんです。長い間アーティスト・サポートをやっているフェスは他にもあるんですが、選定の基準はそこや規模の大きさではなくて、シーンに影響を与えているフェス、っていうことなんです。そこで出てきたのがTAICOCLUBだったんですよね。

(安澤)ありがたいです。僕らとしても、アーティスト・サポートはずっと続けてきてもらった一方で、それ以外のことは一緒にやったこともなかったし、っていうところもあって。それに、TAICOCLUBに来てくれる人の中にも、音楽を作っている人はいると思うんですよ。DJもいれば、トラック・メイキングしている人、バンドをやっている人もいるだろうし。そういう人にレクチャーを聞いてもらえるのはいいことですよね。もちろん自分で音楽を作っていない人が聞いても楽しめると思います。そして、それは純粋にライヴを観るのとは違うことなので、ひとつの違うきっかけを与えることが出来ると思っているんです。

―今回レクチャーを行うのは、サカナクションの山口一郎さんとDaniel Bellですが、このセレクトはどちらが?

(Red Bull担当者)これはうちの方ですね。まずDaniel Bellに関しては、ニュー・イヤーズ・イヴに来ていた時から話をしていたんです。内々にTAICOCLUBの出演が決まっているという話は聞いていたんで、一緒にやりたいね、っていう話をしていたんですよ。けど、彼ってコアなアーティストなので、それ以外にも、会場に来ている一万人のお客さんのみんなが何か聞いてみたいアーティストって考えたら、サカナクションじゃないかな、っていう話になったんです。実際、決まったら凄く反響もありました。彼らは考えていることも凄く面白くて、チーム・サカナクションとか(*バンド・メンバーだけではなく、PAや照明を含む、サカナクションのライヴを作り上げるチームのこと)、ステージでのこととか、プロダクションの話とか、引き出しもたくさん持っていそうなので、レクチャーをしてもらうにはぴったりだなと思って、オファーしました。

(安澤)山口さんとDaniel Bellっていう組み合わせも面白いと思っていて。見え方が全く違うアーティストじゃないですか。やっぱり、知ってもらわないと何にもならない、っていうのが僕にはあるので。そういう意味では、これまでとは違う引き上げ方が出来ると思っています。

―TAICOCLUBらしい、いいバランスだと思いますね。

そうですよね。



―映画は、先日、Red Bull Music Academyがウェブで無料公開した「What Difference Does It Make?」のディレクターズ・カット版が流れるということですが。

(Red Bull担当者)そのディレクターズ・カット版では、Brian EnoやRichie Hawtinなどがインタビューを受けている様子を流すんです。これは、本当は映画の中で使いたかったけど使えなかったところで。一人5分くらいずつ、5人分なので25分流します。なので、(映画本編より)もうちょっと砕けている感じですね。映画の一部分として使われていたものが長くなった形ですから。そして、その後にはレクチャーの録画を二本流そうと思っています。先日、Frankie Knucklesが亡くなりましたので、彼の過去のレクチャーを急いで翻訳しているところです。彼のレクチャーの追悼上映会と、もうひとつはMoodymannにしようかと思っています。

―ちなみに、レクチャーや映像の上映の場所は、どこになるんですか?

みんながキャンプしている一角を区切ってやります。場所は、迷路の手前くらい、入り口に近いあたりですね。そこにテントを建てたい人からすると、ちょっとあれなんですけど、Red Bull Music Academyのステージは早めの時間、12時半くらいには終わるので、その後はそこにテントを立ててもらってもいいですし。



―キャンプと言えば、今年からTAICOCLUBにはキャンプ券が導入され、それが比較的に早い段階でソールドアウトになってしまったことで少し混乱もありました。それについてもお話を窺ってもいいですか?

はい。キャンプ・サイトに関しては、人数も限られていますし、立てる場所も限られています。ただ、実際は段々と、キャンプ・エリアで場所を大きく取る人が出てきたり、「俺の陣地」みたいに場所を取ってしまう人が増えていて。快適にしたいっていう欲求はわかるんです。でも、他のお客さんもいるわけですからね。もちろん、僕らの方で(注意を)言いには行っていました。ある程度イベントの規模が大きくなっていくと、こっちでコントロールしなくちゃいけない部分がどうしても出てきてしまうとは思うんです。でも、あんまり干渉し過ぎたくもないんですよ。基本的に僕らのスタンスとしては、「(お客さん同士で)上手く、仲良くやってね」ですから。だから、年上の人達が、よく分かっていない若い子達に教えてあげる、っていうのもいいと思いますし。

とにかく、そういった状況があるので、今回は一回、これでやってみようと。それで逆に混乱している部分もあるとは思います。でも、一度これをやってみることで、「どうして、こういう不便な思いをしなくちゃいけないのか?」、「これってどういうことなの?」っていうのを一緒に考えてもらえたらなって。別に、人に凄く気を遣え、って言っているわけじゃないんですけど、みんなが楽しい方がいいに決まっているので、「互いに上手くやってね」っていうボールをこちらから投げたつもりなんです。それを感じ取ってもらえたら嬉しいですね。

―わかりました。では、話を戻しますが、音楽以外にも色々やってみたいと考えている中で、レクチャーや映画以外でトライしたいものはありますか?

テクノロジー系は親和性が高いですし、面白いものが多いと思いますね。今はアーティストをフィーチャーしていますけど、そうではないものを今後フィーチャーすることもあるかもしれません。ロボットですとか、ああいうものも音楽を楽しむことのプラスアルファとしてあると思いますから。それに、前にColdplayが使っていたような、リストバンドの光を同期させる仕組みも面白いと思います。要は、フェスを「楽しむ場所」として、どう表現していくかっていう。そういうことは突っ込んでいっていいのかな、っていう気はしていますね。あとは、Tomorrowlandのステージもそうですけど、ああいうのも、あれだけでちょっと違う楽しみがあるじゃないですか。日本のフェスは基本一緒ですから、もっと違う要素を入れてみていいのかな、と思っています。後は、今のキャンプ・フェスだと、みんなファッションも同じような感じですよね。でも、各フェスで色を出していった方がより面白くなるでしょうから、その辺ももっと違ったものを見せたいな、という思いはありますね。

―国内でも海外でも、そういった自分達のカラーを上手く出せているな、と思うフェスはありますか?

やっぱりTomorrowlandはそうですね。あれはEDMのフェスっていう見方をされることが多いと思うんですが、ラインナップを見てみると、もう全部いるじゃん!っていうくらい幅広いんですよ。テクノ系のアーティストもかなり入っていますし。あの規模感で、あれだけのアーティストをまとめて、誰が行っても楽しめるようにしているのは単純に凄いなと思います。他には、今年のLollapaloozaにはEDMがガンガン入ってきているのが面白いなって。あのフェスってロックじゃないですか?でも、若い子はEDMに目を向けていて、フェス側としても若い子に来てほしいっていうのがある。だから、EDMも入れる方向にシフトしていて、結果として本当に幅広くなっているっていう。そういうことが国内でもあっていいのかなと思うんですよね。国内って、どこかのジャンルに寄っているものが多い気がするんですよ。もっと色んなものを取り入れていいと感じるんですけど、そういうのが日本では見受けられなくて、同じようなものばかり量産されている気がして。だから、独自の色を出していくっていうことを、他の国と同じようにしてもいいと思っています。

―例えば、今年のLollapaloozaはRed Bullが全編中継しますけど、TAICOCLUBではUSTREAMの中継とかはやらないんですか?

やりたいんですけどね。最近は分からないですが、前は日本のアーティストから中継はダメと言われることが多くて。でも、だからと言って、外国のアーティストだけやっても面白くないじゃないですか。あれは全部やるから意味があるので。ブツ切りで、途中一時間空いています、っていうのも変な気がするんですよね。なので、なかなか難しいんです。まあ、来日アーティストだけで数珠繋ぎでやれば、出来ないことはないとは思うんですが……ちょっと訊いてみようかな?(笑)そういうのも、遅れている感じがするんですよね。取り残されている感じがするっていうか。

―色々とTAICOCLUBが先陣を切ってやってくださいよ。では、TAICOCLUBの今後の展望については既に色々と話してもらいましたが、日本のフェス文化の今後については、もっと独自のカラーを出していくということ以外に、何か考えていることはありますか?

もっと増えてほしいですね。いくら僕らが頑張っても、せいぜい一万人とかなので、それだけで何かやっても全く意味がない。だから、もっと増えて、全体として盛り上げていかないといけないと思いますから。それによって底上げさて、活性化してほしいです。実際、フェス自体はもっといっぱいあってもいいと思うんですよ。今やアーティストもCDが売れるわけではなく、ライヴでお金を稼ぐ方向になっているんですから、ちゃんとオーガナイズする人が増えれば、アーティストにもお金が回るようになりますし。だから、場がないよりは、もっと増えて、みんながしっかりやる、っていう方向に行ってほしいですね。でもやっぱり、若い人達にとっては、どうしても(年齢が)上の人がやっている感じになってしまうのは気になるんです。だって、感覚が絶対違うじゃないですか、僕らがいくら頑張っても。だから、若い感性の人が新しくやるのは、アリだと思うんですよね。本当に始めてほしいですね。誰か若い子達に、そろそろ出てきて欲しいと思っています。

 

Taicoclub 2014: http://taicoclub.com/14/