十月 06

submerse インタビュー

デビュー・アルバムをリリースしたばかりのイギリス出身の気鋭プロデューサーが、音楽や日本について語った。

イギリスの北西部、リバプールとマンチェスターに挟まれた小さな町、ランコーン出身の、現在27歳のトラックメイカーsubmerseは、2000年代の終わりから、L2S、Maltine、Mutant Bass、Apolloなど複数のレーベルで作品を発表し始め、2ステップ、UKガラージ、ジャングル、アンビエントなど様々なジャンルを渡り歩いて来た。近年彼が作るサウンドは、ダウンテンポでメロウなヒップホップ〜ビート・ミュージック寄りであり、アナログな質感の淡いメロディーが、深遠でアンビエントな空間に溶け込み、ゆったりとしたドラムがリズムを刻み、声ネタが浮遊する。東京に1年半住んでいた経験があり、9月の終わりにインタビューをした際も、半年ほど日本にいる予定であると語っていたsubmerseは、大の日本好き。待望の1stアルバム『Slow Waves』を今年7月にProject: Mooncircle/flauからリリースしており、10月18日(土)に開催されるEMAF TOKYO DAY 1に出演することも決定している彼に、新作のこと、日本に対する気持ち、EMAFへの意気込みなどを伺った。

 

最初に音楽を作り始めたのはいつですか?

高校を出たあと、地元の大学の2年制の音楽コースを受講して、そこでReasonとかAbletonとかLogicとかに触れて、本格的に作り始めたんだ。

 

子供の頃はどういう音楽を聴いていましたか?

叔父がヒップホップ・ジャンキーで、彼によくテープを作ってもらっていたんだ。だから、Wu-Tang Clanとか、De La SoulとかA Tribe Called Questとか、彼のテープに入ってたものをずっと聴いていた。あと、毎日ずっとゲームばかりするような子供だったから、子供の頃からたくさんゲーム・ミュージックを聴いていたよ。『Final Fantasy』、『Dragon Quest』とか、『MOTHER』とか大好きだった。

 

最初に音楽を作り始めた頃は、どういったものを作っていましたか?

特に決まったものはなくて、色々なものを作っていたよ。ゲーム・ミュージックにも影響を受けていたし、90年代のアメリカのエモ・バンドとかメロコア・バンドも好きだった。作っていたのはある意味エレクトロニカと言えるものだったかもしれないけど、当時エレクトロニカが何なのかはよく解らなかった。

 

その後どのように制作スタイルが変化しましたか?

僕は元々ヒップホップ出身で、それからエレクトロニカを聴くようになって、そこからUKクラブ・ミュージックに行ったんだ。18、19、20歳ぐらいの頃にクラブに行くようになって、UKジャングル、ガラージとか、その頃UKで流行っていたものに影響された。色々なものにすぐ影響されちゃうんだけど、そうやって徐々に自分のサウンドを探していった。

 

もう10年音楽を作ってるけど、今はちょっと自分の原点に立ち返って、すこし落ち着いた気がするんだ。現在はUKクラブ・シーンからはちょっと離れていて、子供の頃に聴いていたようなもの、ビッグなイベントに行ったりする前に聴いていたようなものを作ろうとしているんだ。ヘッドフォン・ミュージックと言えるかもしれない。それが今しっくりくるサウンドで、今でも色々なものから影響を受けているけど、10年かけて作り上げたサウンドに落とし込んで、自分の音にできるようになったんだ。

 

では、『Slow Waves』はこれまでの集大成であり、 あなたの音楽の今を象徴しているわけですね?

うん、本当にそう思う。10年やってきた中で、聴いてきた音とか、経験してきたものが全て入ってる作品なんだ。これが今の僕の全てであり、やりたいことはこれなんだ、と自信を持って言えるアルバムだよ。

 

 

『Slow Waves』はどのようにして生まれたのですか?

去年ロンドンに戻ってから作ったアルバムで、テーマは過去を振り返って、子供時代だとか、旅先での想い出といったことをノスタルジックに表現したものだ。とてもチルなヘッドフォン・ミュージックだと思う。だから、1stアルバムなのにちょっとディープすぎるとか、静かすぎるとか思う人もいるんじゃないかって少し不安だったね。国によっても反応が違うかなって思ってたんだけど、全体的にはとても満足しているし、良い作品になったと自信を持っているよ。これほど1つのプロジェクトに時間はかけたことは無かったし、初のアルバムということで色々と不安だったけど、良いと言ってくれるひとがたくさんいて嬉しかった。

 

『Slow Waves』は、ノイズがたっぷり乗った埃っぽい質感が特に印象的でした。

あれは、やっぱり子供のころに叔父にもらっていたテープの影響だと思うんだ。彼は同じテープを何回も使って録音していたから、どんどん劣化していくんだ。あの質感がすごく好きなんだ。誰かが手作りしたものが、他に人に受け継がれてく感じ。あのD.I.Y.感というか。新しくてフレッシュなものじゃなくて、使い古された、年季の入ったものを表現したかったんだ。

 

過去にはMaltine RecordsからJポップやアニメのリミックスをリリースしていましたし、submerseさんは明らかに日本好きですが、日本に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

たしか8歳ぐらいのときに、父にアニメのビデオをレンタルしてもらったんだ。それが何なのかよくわからなかったし、内容はすごく暴力的だったけどハマってしまった。父も内容なんて解らなかったけど、表にロボットがあるからいいだろって借りてくれて。そうやってアニメに興味をもって、そのうちゲームも日本のものが多いと知った。そして、インターネットが使えるようになると、今度はネットで情報を色々と調べるようになって、13歳ぐらいのころはJポップのCDとかゲームのサントラとかを親のクレジットカードで注文しまくってたよ。(笑)ずっと日本に来たいと思ってて、2010年ぐらいに初めて日本に来たときは、もう全てが期待以上だった。ネットで見て好きになったものが、全て一ヶ所にある、みたいな。(笑)

 

日本には何か強く惹かれるものがあるんだ。ヨーロッパにあるものよりも、日本にあるもののほうが何だか惹かれる。それに、イギリスの田舎町出身の僕にとって、東京は対極的なんだ。真逆の世界だよ。田舎にずっといるとつまらなくてしょうがないんだ。ある意味、そのおかげでずっと部屋にこもって音楽を作ることができたのかもしれないけどね。最初に日本に引っ越したときは、日本語がまったく喋れなかったからとにかく大変だった。ひとりでレストランに入るのも怖かったけど、だんだんと言葉や文化が解ってきて、 ひとりでやっていけるようになった。今はとても居心地が良くて気楽だよ。

 

日本にいることで、音楽的にどのような変化があったと思いますか?

日本に来て初めて知ったアーティストがたくさんいて、彼らに凄く影響を受けているんだ。こっちに来てcosmopolyphonicクルーを知ったし、Budamunkとか、Yosi Horikawa、Daisuke Tanabeとかそういった人の音楽に出会った。UKのクラブ・シーンから離れて、この環境に自分を置くことで、視野が広がったんだ。流行を追いかけたりしないで、自分のやりたいことを自由にやっていいんだっていう気持ちになった。

 

日本のクラブに来るひとのほうが、アーティストがやろうとしていることを受け入れてくれる気がするんだ。UKみたいに、午前3時だから盛り上げないといけないとか、前のDJよりもテンポの早いハードなものをかけなきゃいけないとか、そういうプレシャーがなくて、自分の世界観を見せることが出来るし、実験的なことをやれる。プレイする時間とか場所をあまり考えすぎずに、やりたいことができるんだ。

 

特に気になっている日本のアーティストを挙げるとしたら?

mabanuaとか、Budamunk、ヒップホップ・レーベルのSUMMITとか、PUNPEE、Tofubeats、Seiho…もう、いすぎてキリがないね。(笑)あと、日本のシーンの良いところは、例えばSeihoみたいなアーティストは僕の音楽とサウンドは違うかもしれないけど、同じイベントで共演できるし、ひとつの大きなファミリーの一員みたいな温かさを感じるんだ。UKでは、細かくシーンが別れていて、皆その中で各々やってるって感じなんだ。あまり交流がなくて排他的というか。日本ではファミリー感があって、切磋琢磨してお互いを高め合ってる。皆、アンダーグラウンドな音楽を盛り上げようと、イベントをやったり、リリースしたり、同じ目的に向かって頑張ってる気がして良いね。最近、cosmopolyphonicというクルーに入れてもらったんだけど、彼らは集まって音楽を作ったり、イベントをやったり、podcastをやってる集団だ。イギリスの端っこの田舎町出身の僕からしてみたら、周りには音楽をやってる友達とかいなかったから、こういう友達同士のクルーが凄くうらやましかったんだ。だからcosmopolyphonicの一員になれたことは凄く光栄だし、今後色々とやっていきたいと思っているよ。

 

ゲーム・ミュージックが好きなsubmerseさんなら、現在RBMAで公開されている、ゲーム音楽にフォーカスしたドキュメンタリー・シリーズ、「Diggin’ In The Carts」はもう見ていますよね?

ああ、見ているよ。すごく良いね!大好きなゲームの作曲家たちが当時どのように制作していたのかを知ることができてとても面白い。特に初期の、限られた機材でメロディーに比重を置いて作曲していた時代が凄く興味深いんだ。多くの人が知らず知らずのうちにゲーム・ミュージックに影響を受けてきたと思うし、僕も物凄く影響を受けている。ゲーム・ミュージックは、今僕が日本にいる理由のひとつだね。

 

10月18日(土)に開催されるEMAF TOKYO DAY 1に出演することが決まっていますが、どんなお気持ちですか?

緊張するね。ラインナップを見ると恐れ多いよ。Luke Vibertがとても楽しみなんだ。彼のプレイは以前見たことあるんだけど、もう何年も前から彼の大ファンだし、彼と共演できるなんて思ってもいなかったから、とても楽しみなんだ。あと、Loneもすごく好きで、彼のニューアルバムも良かったから、それをどうやってライブでやるのか気になる。Addison Grooveも楽しみ。数年前にSonarで共演することができたんだけど、彼のプレイもとても良かった。あとLIQUID LOFT/KATAはflau Recordsがキュレーションを務めているから楽しみだ。flauは僕の『Slow Waves』の日本でのディストリビューションを担当してくれたレーベルで、ずっと前からこのレーベルが好きだったんだ。Mooncircleがflauと共同でリリースすることになったのは完全なる偶然だったから、本当に幸運だったと思うよ。

 

DAY 2に出演するLASTorderさんにも今回インタビューを行っていますが、彼とは共演経験がありますよね?彼の音楽にはどういう印象を持っていますか?

ちょっと前にイベントで一緒になって知り合ったんだ。つい最近、京都のイベントでも共演したよ。 独特なサウンドを持ってるね。彼の音楽にはUKとかアメリカのクラブミュージックとかの影響も聞こえるけど、彼が作るメロディーはすごく日本人的だと思うんだ。そのバランスが丁度良いと思う。ライブも良いね。

 

 

EMAFはどういったセットになりそうですか?

アルバムのキーとなるトラックを中心に、新曲とか、コラボした曲とか、友人の新曲とか、色々混ぜた感じになるだろうね。とにかく今の僕を表現することができたら嬉しい。最近はSP-404をラップトップなどに繋げないでそのまま使うんだ。アルバム制作時に使用していたし、使い慣れているから、ライブでもそのまま、制作の延長線上にあるような感じでやっているんだ。しかし最近はもうひとつ何か機材を加えたプレイも考えていて、色々試行錯誤を重ねているから、もしその準備がEMAFに間に合ったら、そういった新しいプレイも見られるかもしれない。

 

 

Text by Danny Masao Winston