六月 25

Sicko Mobb:シカゴボップのホープ

シカゴのヒップホップデュオがポストドリルサウンドについて語る。

By Adam Wray

 

1年前、Sicko Mobbは1枚のシングルもリリースしていなかった。しかし、今の彼らはメジャーレーベルと契約し、ポップミュージックシーンのプロダクションチームStargateと組み、地元シカゴに熱狂的なファンを持ち、世界中でファンを増やし続けるという飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている。そのようなSicko MobbことLil TravとLil Cenoの兄弟にとって、トラックを生み出すのは簡単なことなのかもしれないが、彼らのそれまでの道のりは決してそうではなかったようだ。

 

他の多くのアーティストと同様、Trav(18)とCeno(20)はシカゴのウエストサイドにおける厳しい現実からの逃避手段として音楽と出会った。「同じことを繰り返す生活に疲れたんだ。だから別の何かをやろうと思った。監獄に入ったり、悪さをしたりするのに疲れたのさ。何かポジティブなことをやろうと思ったんだ」Cenoは その理由について電話越しに説明する。

 

音楽を選択した彼らは、シカゴで生まれつつあったBop(ボップ)シーンを活動拠点とした。ボップという名前はフットワークと同様、独特のダンススタイルから取られたものだが、どのようなダンスなのかはYouTubeでチェックする方が早いだろう。音楽的には明るめの液体的な音像のラップミュージックで、派手なシンセとディープなベースが特徴となっている。シカゴのラップシーンのサブジャンルであるドリルへの反作用とも言えるボップは、ドリルと音楽的な構造こそ似ているものの、そのムードは真逆と言える程異なっている。

 

 

ボップはドリルの陰湿で閉所恐怖症的な雰囲気とは違い、活気あふれるパーティーミュージックで、その軽快さは無重力のようにさえ感じられる時もある。「(ボップは)人を元気づけたり、ダンスさせたりする音楽さ。大音量で楽しむんだ。落ち込んでいる時はSicko Mobbが元気づけるんだ。俺たちがみんなを励ますのさ」Cenoは説明する。

 

Sicko Mobbは活動当初から、自分たち、そしてオーディエンスを盛り上げることを得意としていた。「かなり初期からライブをやっていたんだ。音楽制作は2013年2月から始めたけど、その3ヶ月後にはライブを始めた。友達のバースデイパーティーなど、近所を中心に活動していた」その頃、彼らはビデオクリップのリリースもスタートさせ、今から約1年前にLil Coryがプロデュースした “Fiesta” をリリースして地元でヒットさせると、夏を通じてビデオクリップをリリースし続け、数曲のヒットトラックだけで着実にファンの数を増やしていった。

 

シーンの事情通の人たちはSicko Mobbがブレイクすることを予期していた。「去年の夏、シカゴの事情通やマネージャーたちが俺にSicko Mobbの存在を伝えてきた時に、俺は奴らがビッグになると思ったよ」シカゴで大きな影響力を持つブログ「Fake Shore Drive」の創設者Andrew Barberは振り返る。「奴らはブログには数回しか登場していなかったが、世間は注目していた。俺たちは数多くのアーティストを取り上げているが、その中であそこまで急速に話題になるアーティストは少ない。取り上げてから数週間後にニューヨークへ出向き、2つのレーベルのオフィスを訪れたが、両レーベルが奴らの名前を口にしていたよ」

 

 

音楽業界がボップシーンに手を伸ばしたのも特に驚くようなことではなかった。地元密着型のスタイルが流行する中で、ボップは売りやすく、またサウンドは当時メインストリームで成功を収めていたAutoTuneを多用したミッドテンポのラップに本質的に似ている。しかし、なぜSicko Mobbがブレイクしたのだろうか? なぜ各レーベルは他のアーティストではなくSicko Mobbと契約したいと思ったのだろうか?

 

簡単に言ってしまえば、Sicko Mobbには天性のポップセンスがあるからだ。TravとCenoはわずか1年強しか音楽活動をしていないが、ビートのセンスはベテランそのもので、シンコペーションとドラムロールを多用したリズムと粘り気があるキャッチーなメロディーを上手く組み合わせている。初期シングル “Young Heavy” のバックトラックはうなるサブベースとクラップが用いられた、至って普通のサウンドだが、メロディーのしなやかなフックがこのトラックをアンセムへと昇華させている。

 

昨年12月、初のミックステープ『Super Saiyan Vol.1』が満を持してリリースされたが、Sicko Mobbは Rihanna、Katy Perry、Wiz Khalifaなどチャートの常連アーティストたちを担当しているノルウェーのプロダクションチームStargateが指揮を執るSony/ATV系のStellar Songs/Water Musicと音楽出版契約を交わしたことを発表し、世間を驚かせた。

 

 

また今年初めにはこのミックステープのリマスター版が正式にリリースされたが、これには2曲のボーナストラックの他、A$AP Fergをフィーチャーした “Fiesta” のリミックスが収録されたことが話題となった。「Fergが俺たちのトラックを聴いて、一緒にやりたいと連絡してきた。金目当てじゃなくて、単純に俺たちと相性が良いと思ったんだ」この説明に嘘はないが、Fergにはこのトラックに参加した理由が他にもあったようだ。なぜなら、先週Sicko MobbはFerg、A$AP Rockyをはじめ、A$SPのメンバーが所属するPolo Grounds/RCAとレコード契約を結んだことを発表したからだ。

 

尚、TravとCenoはPolo Groundsからリリース予定のアルバムについては口を閉ざしている。このアルバムは2作目のミックステープ『Super Saiyan Vol.2』のリリース後にリリース予定だが、彼らはこのアルバムについては、「シカゴ以外でのツアーの経験が反映された作品で、サウンドに多少の変化がある」とだけ明らかにしている。「ビートは前と変わったね。基本的に遅すぎないテンポだけど、以前より遅いテンポのトラックもある。前よりも良いサウンドさ」

 

「俺たちはLil Wayneに憧れていた。でも今は俺たちがその存在になった」

このように業界からの強固なバックアップを得ているSicko Mobbは大ブレイクを果たそうとしている。また、Polo Groundsとの契約は大きな励みになっているだろう。なぜなら昨年このレーベルからリリースされたFergのフルアルバム『Trap Lord』は、アーティストのヴィジョンが明確に打ち出された上で、積極的なプロモーションが行われたからだ。 Sicko Mobbのサウンドはレフトフィールドではあるが、恍惚感のある彼らのトランシーなラップが北米でブレイクするとしたら、今がそのタイミングだろう。そして、2015年にはレーベルメイトとなったPitbullのダンスラップと組んで全米ヒットを飛ばす可能性もある。いつの時代も予想外のことは起きるものだ。

 

とにかく、次に何が待ち構えていようとTravとCenoはこの先のボップシーンを代表するアーティストになるだろう。「音楽でのブレイクは小さな頃からの2人の夢だった。俺たちはLil Wayneに憧れていたからね。でも今は俺たちがその存在になった。俺たちは上に近づいた。スポットライトを得たのさ」