七月 12

Russell Elevado:ネオソウルを支えた男

グラミー賞受賞経験を持つプロデューサー / エンジニアが、キャリア前半に手掛けたD’AngeloやErykah Baduなどのネオソウルクラシックを語る

By Hanna Bächer

 

Russell Elevadoの名前を見つけるためには細かい文字で書かれている部分を読まなければならないかもしれない。しかし、心配する必要はない。1990年代と2000年代で最も革新的だったソウルレコードのいくつかに貢献してきた彼の名前は必ずそこに書かれている。

 

Alicia Keys、D’Angelo、The Roots、Common、Saul Williams、Erykah Baduなどのエンジニア / プロデューサー / ミキサーを務めてきたElevadoは、1960年代と1970年代のクラシックソウルサウンドをモダンに再現できる人物として高く評価されている。

 

Red Bull Radioの番組『Fireside Chat』からの抜粋となる今回の記事は、Elevado本人がキャリア初期に手掛けたネオソウルをはじめとするクラシックトラックの数々について語ってくれている。

 

 

Erykah Badu「Green Eyes」

 

 

僕はこのトラックに関われたことをとても誇りに思っている。なぜなら、このトラックのサウンドは様々な部分で突出していて、タイムレスだからだ。10年後もとてもフレッシュで革新的なサウンドに聴こえると思うし、世間からクラシックとして評価され続けることを願っているよ。これはネオソウルが生まれた頃にリリースされたトラックで、ある意味 “新しい始まり” だった。本当にフレッシュだったし、D’Angeloのアルバム『Voodoo』に参加したミュージシャンが数多く参加している。

 

当時、僕たちは同じスタジオに出入りしていた。共通のアイディアを実現したいと考えていた仲間が集まったひとつのコミュニティだったんだ。このトラックは3パートに分かれているんだけど、ミックスをする際に、各パートをそれぞれ異なる時代のサウンドにしてくれと頼まれた。だから、最初のパートは1940年代的なサウンドで、次のパートは1960年代初期のジャズ的なサウンドになっている。

 

最後のパートは “今” を表現するサウンドだ。つまり、ベースとドラムがヘヴィなサウンドさ。このトラックのミックスには約3日半かかった。最初のミックスが終わったあと、音を少し足したいと言われたから、そのあとでもう1回ミックスすることになった。それもまた3日間かかった。だから、全ての作業を終えるまでに約1週間かかったんだ。これは僕のベストミックスのひとつだと思う。

 

このトラックに参加しているミュージシャンには、世界最高のベーシストのひとり、Pino Palladinoが含まれている。ドラムはQuestloveで、ホーンセクションのアレンジはRoy Hargroveが担当した。スタジオはJimi Hendrixが建てたElectric Lady Studiosだったから、Jimi Hendrixのスピリットが全員の中に宿っていた。

 

 

Roy Hargrove Presents The RH Factor「I’ll Stay」

 

 

D’Angeloのアルバム『Voodoo』とErykah Baduのアルバム『Mama’s Gun』を制作したあと、Royから「なぁ、アルバムを作ろうと思っているんだ。同じサウンドに仕上げたいんだが、もう少しジャジーでファンキーなサウンドにしたい。参加してくれよ」と頼まれた。Royと一緒に仕事をするチャンスをもらえて興奮したよ。なぜなら、僕は彼の大ファンだったし、彼のホーンセクションのアレンジは最高だからね。Roy Hargroveは僕たちの時代のMiles Davisだと思う。このトラックには彼の友人が多数参加している。リードヴォーカルはD’Angeloで、ベースはPino Palladino、ドラムはQuestloveだ。もちろん、Roy本人の美しいトランペットもフィーチャーされているよ。

 

 

The Roots「The Seed (2.0)」

 

 

Questloveと僕の間で、音楽的な繋がりが生まれていったんだ。なぜなら、ドラマーに最高のサウンドを提供することができれば、永遠の親友として扱ってもらえるからさ。僕たちはD’AngeloとErykah Baduの作品で一緒に仕事をしていたわけだけど、最終的に彼からThe Rootsのミックスのオファーをもらったんだ。興奮したよ。一緒に仕事をするようになる前から、僕は彼らのファンだったからね。このトラックはスペシャルだ。彼らの中で最も有名なトラックのひとつだし、サウンドもクラブで聞くたびに - その回数はかなり多いんだけど - スピーカーのサイズを問わずビッグに響くからね。

 

 

Common「Time Travelin’」

 

 

アルバム『Like Water For Chocolate』に収録されているトラックだ。このアルバムもスペシャルだね。なぜなら、J Dillaがかなり関わっているからさ。この作品は『Voodoo』の制作とほぼ同時進行だった。『Voodoo』より少し遅れてリリースされたんだ。この頃は、全員が同じアイディアを共有していた。Electric Lady Studiosに全員が集まって、それぞれ別のスタジオルームに入って作業を進めていたんだ。だから、全員でそれぞれの音楽のシェアもしていた。本当に最高の時間だったよ。このトラックは2パートに分かれていて、アフロビートがベースになっている。このトラックにも、Roy Hargrove、Pino Palladino、Questloveが参加しているよ。

 

 

Saul Williams「Om Nia Merican」

 

 

Rick Rubinから突然連絡があって、当時はまだ無名に近かった詩人Saul Williamsのプロジェクトを手伝ってくれと頼まれたんだ。Rickはロサンゼルスの小箱でSaulがパフォーマンスをしているのを見て、本人に「君のポエトリーと音楽を組み合わせたアルバムをプロデュースしたい」とオファーしたんだ。かなり強烈なアルバムだったよ。というのも、Saulは真の詩人だし、抽象的になることがあるんだ。

 

このトラックは、Red Hot Chili PeppersのChad Smithがドラムで参加していて、Rage Against The Machineのサンプルを使用している。Zach de la Rochaもセッション中に立ち寄って、Saul Williamsと親交を深めていた。だから、Red Hot Chili PeppersとRage Against The Machineのメンバー、そしてSaulでレコーディングセッションをしたんだ。Saulはとにかく素晴らしかったね。最高のリリシストだ。僕はロックから大きな影響を受けているけれど、実際にロックの仕事をする機会は少ない。だから、このプロジェクトは、ヘヴィなギターとドラムを押し出して自分の中のロックを思う存分表現できた数少ない仕事のひとつなんだ。

 

 

D’Angelo「Untitled (How Does It Feel)」

 

 

『Voodoo』は僕の人生で最も重要なアルバムのひとつだと思う。人間としての僕を大きく変えたし、当然ながら、キャリアにも大きな影響を与えた。このアルバムは、Electric Lady Studiosで3年かけて制作した。これまで挙げてきたミュージシャンたちと一緒にね。『Voodoo』は大ヒットして商業的に成功を収めたけれど、僕はただただこのアルバムのミックスを誇りに思っている。いつ聴いても素晴らしいサウンドだからね。『Voodoo』は僕にとって本当にスペシャルなアルバムだけど、僕以外の多くの人にとってもスペシャルなアルバムだ。

 

 

D’Angelo「The Root」

 

 

このトラックには、Pink Floyd、Jimi Hendrix、The Beatles、Stevie Wonder、Marvin Gaye、De La Soulなど、僕が受けた音楽的影響が全て盛り込まれているんだ。逆再生のギター、ドラムに施した複数の処理、何時間もかけて作り上げたヴォーカルレイヤーなど、明確に聴き取れるものから、そうではないものまで、僕が受けた音楽的影響が数多く含まれているのさ。ギターとベースを演奏しているCharlie Hunterも素晴らしいし、D’Angeloのヴォーカルも信じられないクオリティだ。アウトロはまるで天使が歌っているようで、ある意味このアルバムのハイライトと言えるね。D’Angeloが『Voodoo』のあとにどこへ向かおうとしていたのかが示されている感じもある。

 

 

Header Photo:© Gil Inoue