七月 18

Report: Red Bull Music Academy Festivals 2016

2016年4月から6月にかけて国内3カ所で開催されたRed Bull Musif Academy Fesivals 2016の模様をレポートする

By Hiromi Matsubara

 

Red Bull Music Academy(以下、RBMA)は日本の音楽シーンに実に様々な形で貢献している。その大きな例としては、やはり2014年10~11月に開催された『Red Bull Music Academy Tokyo 2014』が記憶に新しいだろう。現在は、その開催に際して作られたRed Bull Studios Tokyoを拠点に、メジャーやインディーを問わず多くのアーティストをサポートしており、多くの日本を発祥とする音楽を世界に発信する空間というコンセプトのもと、年数回のレクチャーイベントやスタジオセッション、毎週〈Diskotopia〉のラジオプログラムが放送されるなど多種多様で刺激的なプログラムを行なっている。しかしその一方で、外部のイベントとのコラボレーションを積極的に行なっているのもRBMAの魅力のひとつ。特に2016年は、毎年上半期に行われる日本を代表する3つのダンスミュージック・フェスティバルとのコラボレーションを『Red Bull Music Academy Festivals 2016』と題してツアー的に構成し、大々的に敢行。どれを取ってもRBMAらしい特徴を色濃く残しながら、フェスティバルのニーズに応えた融合が感じられるプログラムとなっていた。

 

 

Rainbow Disco Club 2016

4月29日~5月1日

Red Bull Music Academy Stage

 

『Rainbow Disco Club』(以下、RDC)とRBMAの関係は、RDCが現在の東伊豆クロスカントリーコースに会場を移す以前から続いている。RBMAがキュレーションを務めるステージは2014年から始まっており、初年度はRBMA卒業生のSan Soda、Kez YM、Hiroaki OBAを筆頭に、ゲストにはDJ KozeとKuniyukiを招聘。2015年にRDCが会場を移しての3日間開催となってからは、メインエリアに隣接する体育館にRBMA Stageは設営されている。RDC開催期間3日間のうち2日間にわたって行われるためアーティストのラインナップも増え、各日それぞれを切り取って見ても、都内のクラブで行なわれているような海外のゲストを招いてのショーケースのような豪華さが感じられる。また、インストールされているサウンドシステム、Pioneer Professional AudioのGS-WAVE SeriesとXY Seriesが放つ高低満遍なくクリアなサウンドも、山奥の体育館であることを忘れてしまうほどの興奮を大いに感じさせてくれる。

 

そして今年は、メインステージと並行して日中からタイムテーブルを組んでいた2015年とは異なり、RBMAステージのオープンを夜に設定。昨年はオーディエンスが分散してしまってRBMAステージががらんとしてしまう時間帯もあったが、今年はメインステージと被っている時間帯を減らすことで、21時のメインステージ終了後も踊り足りないというエナジーに満ちた沢山のオーディエンスがRBMAステージに詰め掛け、クローズ時間の24時まで終始大盛況となった。

 

 

初日は、RBMA卒業生のHiroaki OBAが2015年にAl Kassianと結成したユニットのOpal Sunnが卓越したレイヤーの構築や即興性など完成度の高さを感じさせるライヴパフォーマンスを披露。続くDJ Sodeyamaは、テクノからベースミュージックまでを縦横無尽にプレイし、RBMA Stageの床をも震わす深い低音を操り、オーディエンスのハートを掌握していた。そして、何といっても初日はDJ Funk。近年注目を浴びていたジャンル、ジューク/フットワークの原点的音楽であるシカゴ・ゲットーハウスを牽引したレーベル〈Dance Mania〉の主宰ということもあってか、フロアの前から後ろまで隙間無く、彼のパフォーマンスを心待ちにする人が集結していた。DJ Funkもその期待に応えるように、序盤からエンジン全開でゲットーハウス名曲づくしのプレイを展開。MCではコール&レスポンスやトークとシャウトで煽り、フロアを沸かせていた。

 

 

2日目は、今年のRBMA Montreal 2016に参加することが決定している三宅亮太を擁するCRYSTALが、Teki Latexをライヴ中継でゲスト参加させるというサプライズ演出を含んだライヴからRBMAステージはスタート。そして、昨年行われたRBMA Paris 2015の卒業後から海外でプレイする機会が増えているSapphire Slowsはイーヴンキックを起点としたロウで実験性漂うDJで続き、RDCの常連アクトであるKuniyukiはわずか1時間でひとつのトラックを作り上げるというRDCだけのエクスクルーシヴなライヴセットを披露した。Sauce 81からは、ラストを務めるEgyptian Loverへ向けてグルーヴィーで黒さ漂う空気へと一変。色気のあるヴォーカルが踊りくねるオーディエンスを余計に酔わせていた。Egyptian Loverが登場してからはさらにエレクトロニックなサウンドにシフト。ヒップホップ、R&B、ハウスのどれを取っても、Egyptian Lover節とも言える初期テクノポップ風の絶妙な軽さのシンセ・サウンドと、時折吐息が混じりセクシーさが垣間見えるヴォコーダーがかかったヴォーカルは、誰もが彼に求めていたパフォーマンスそのもの。クローズの時間を迎える最後の一瞬までオーディエンスを躍らせ続け、RBMAステージの有終の美に華を添えた。

 

 

THE STAR FESTIVAL

5月21日~5月22日

DJ NOBU All Night Long & Mumdance Lecture

 

関西のシーンを代表してきたフェスティバル『THE STAR FESTIVAL』は、今や日本が世界に誇るダンスミュージック・フェスのひとつとして注目を集めている。特に今年は、Resident Advisorが毎月行っている『Top 10 FESTIVALS 2016』の5月版に、「海外から来る人にとっては、DJ Nobuの母国でのプレイを見る絶好のチャンス」というピックアップ・コメントが添えられて8位にランクイン。2012年に、インダストリアルな風合いの大阪・名村造船所跡地から、心地よい大自然に囲まれた京都・スチールの森(京都府立 府民の森ひよし)へと会場を移してからも、シーンの屋台骨として年々成長を続けている。

 

 

そんな『THE STAR FESTIVAL』の新たな一歩となったのが今回のRBMAとのコラボレーション。Resident Advisorが注目のポイントとして挙げたDJ Nobuの7時間にわたるオールナイトロングセットと、RBMA Tokyo 2014の卒業生であるMumdanceが自身の半生や音楽性について語るレクチャーが開催された。

 

 

22時からDJ Nobuのオールナイトロングセットはスタート。ブースを中心に五角形(あるいは星型?)を形どるように5台のFUNKTION-ONEを配したメインステージから80メートルほど離れた、日中は日除けをするために人が集まる大きなパイプテントの中に作られた特設ブースにて行われた。立ち上がりから、DJ NobuらしいBPM130前後の硬質でシステマチックなテクノトラックでオーディエンスのハートを直撃。メインステージの終盤がPinch & Mumdance、Seiho、DJ Krushと続いたこともあり、イーヴンキックを欲していた人にとっては、まさに「待ってました!」と言いたくなるプレイだったかもしれない。DJ Nobuとレイヴ、やはり相性は抜群だ。アゲすぎることはなく、グルーヴをキープして、どんどんゾーンへとハメていく。VJも、線や点、コード、冷たげな靄などが揺らいだり交差したりし、DJ Nobuの世界観を盛り上げる。朝からテントを立てたり、日中も遊びまくっていたであろうにも関わらず、実に多くの人が深い時間まで踊っていた。スピーカーが音を放つ方向には小高い丘と山があったが、大きく反響することはなく、むしろソリッドな音が夜中の大自然に沁み入るかの様な趣の在る空間が生み出されていたことが、オーディエンスの集中を高めていたのだろう。終了の朝方の5時に向かっていくにつれて、緩やかなメロディーを持った4/4トラックが増えていく。なんとも心地よく踊れる明け方だった。その緩やかな波動は次第にスチールの森へとじわじわと広がっていき、それにつられるようにして、オーディエンスも散り散りに。今年の『THE STAR FESTIVAL』の注目ポイントだっただけでなく、そのフェスのニーズやサイクルにも合ったプログラムだったとも言えるだろう。そして、DJ Nobuのプレイも木々生い茂る山のどこかへと還っていくように心地良く終わりを迎えた。

 

 

TAICOCLUB’16

6月4日~6月5日

Red Bull Music Academy Presents Deep Ambient Forest

 

変化を恐れることなく常にシーンを半歩先取りしたようなキュレーションとコンテンツ作りを行い続け、ついに今年で11年目の開催となった『TAICOCLUB’16』も、RDCと同様にRBMAとのコラボレーションは今年で3年目となる。昨年と同じくメインステージと野外音楽堂の中間に位置する第3のステージ「Red Bull Music Academy Presents Deep Ambient Forest」(以下、RBMAステージ)を開催し、音楽の興奮へと深く没頭することができ、かつ包まれながら存分にリラックスすることもできる空間をこだまの森に生み出した。そのRBMAステージの順応性と重要性たるや、わずか3年されど3年という関係性は、今や『TAICOCLUB』にRBMAは欠かすことのできない存在だろう。

 

RBMAステージは、闇夜を照らすキャンドルに囲まれた小高い八角錐テント。ステージの正面と向き合えば生い茂る森林を背にできる、良いロケーションに設営される。RBMAステージの音響設計は今年もWightlightが務め、オープニングにはこだまの森に音を馴染ませるかの如く、フィールドレコーディングを用いたディープなアンビエント・セットを披露した。その寸分のズレもない音響空間は、この日降り続いた激しい雨の音とも結び付き、続く6組のアーティストを手助けした。

 

 

『TAICOCLUB』のRBMAステージのひとつの特徴は、この1度限りになるかもしれないアンビエント・セットが見ることができることにある。特に、蓮沼執太はトラックメイカーのAmetsubとドラマーの千住宗臣を編成メンバーに迎え、「こだまの森アンビエント」と題した、即興で電子音をアンサンブルさせるセットを披露。また、RDCのRBMAステージに登場したCRYSTALのメンバーの三宅亮太によるソロプロジェクトのSparrowsは、普段から音源やライヴで見せているメロディアスな側面を多少なり融解していくようなサウンドを見せるレアなパフォーマンスを見せ、RBMA Toyko 2014の卒業生であるHaiokaはいつもより強靭な低音を控えながら、伝統的な浮世絵からのインスピレーションをサウンドに投影するという自らのアプローチを大自然の中で実践していた。

 

今年は激しく雨が降り、実際の環境音が鳴っていたからこそ、余計に、有機的な存在と無機的な存在がアプローチし合って空間を織り成していく様相を体感し易かったように思う。Chihei Hatakeyamaがこだまの森の全方位に発信したアンビエント/ドローンは、機械的な印象を一切生み出すことなくそのまま空気へと伝わり、透明な空間に未知なる彩りを与えていた。そしてAkiko Kiyamaは、その未知なる彩りを、ミニマルテクノからエレクトロニカの間にある広大で深い空間を縦横無尽に行き来することで実現。高音から低音までが明け方になるにつれて現れ始めた雨靄を揺らし、こだまの森を広義的なアンビエントの深淵へといざなっていった。

 

 

そして、明け方の4時。RBMAステージの最後のアクトであり、今回の『Red Bull Music Academy Festivals 2016』としても最後を飾る灰野敬二が登場する。お馴染みの黒装束に白く光る長髪をなびかせる姿は、いざ現れてみるとこだまの森には異様に映る。心なしか背後の森や雨音も騒ついているのではないかと耳を澄ませれば、そこにはすでに灰野敬二の音像が拡がっており、不協和な空間や音への拒否の余地などもない。ただただ呑み込まれるのみだ。メインステージで、ライヴ・ヴィジュアル付きのOneohtrix Point NeverやArca + Jesse Kandaを目の当たりにしてもなお、圧倒的に感じる灰野敬二のパフォーマンスが、『TAICOCLUB’16』とこだまの森に、忘れることのできない何かを深く刻んだ。雨は降り止むことなく、むしろ激しさが増したが、音が鳴り止んだ空間は驚くほどさっぱりとしていた。