八月 28

REPORT:RED BULL MUSIC ACADEMY BERLN 2018 WORKSHOP SESSION 東京

RED BULL STUDIOS TOKYOで2日間に渡り開催されたRBMA BERLIN 2018へ向けてのワークショップの様子をレポート

By yuichi NAGAO

 

Red Bull Music Academy Berlin 2018への応募期間の只中である8月19日~20日の2日間に渡り、RBMAワークショップ・セッションがRed Bull Studio Tokyoにて開催された。

 

本セッションはRBMA Berlin 2018への説明会であると同時に、アカデミーの雰囲気を体験してもらうべく本番のコンテンツをシミュレートした特別ワークショップである。

 

日本全国から集まった若手クリエイターたちが一同に介し、共同作業を行う濃密な2日間となった。


 

 

 

 


■イントロダクション~Red Bull Music Academyとは

 


まずはアカデミーの概要やコンセプトのガイダンスとして、RBMA卒業生であるAkiko Kiyama、sauce81、Sapphire Slowsの3名によるレクチャーから始まった。異なる時期、国でのRBMAに参加した3名が、それぞれの視点でアカデミーについて語っていく。

アカデミー本番は2週間に渡って開催され、世界各国から集まった参加者が共同生活を行いながら進行する。

 

 


期間中は開催地の特色を生かした様々なイベントや、ゲストアーティストを講師に招いたレクチャーが毎日開催される他、24時間開放されたスタジオで自由に制作することも可能だ。

 



特に、世界各国から集まった参加者とのスタジオでの共同作業は非常に有意義な時間だったとSapphire Slowsは語る。


 

「私はロシアから来た参加者とスタジオに入りました。自己紹介のとき音楽性がすごくかっこ良かったので、絶対一緒に作りたいと思って声をかけたんです。Google翻訳で日本語とロシア語を行き来しながら作業していました」(Sapphire Slows)


 

参加者は事前に発表されるので、開催前にあらかじめSNS上でコンタクトを取っておくことも可能だが、Sapphire Slowsの場合は敢えて事前コンタクトは取らず、完全に知り合いゼロ、先入観のない状態で参加したとのことだ。

 

また、彼女の参加したRBMA Paris 2015では、Dorian ConceptやURのMad Mikeといったアーティストがチューターとして常駐し、技術面のみならず精神面でもスタジオの雰囲気を盛り上げてくれたという。Dorian ConceptはRBMA Barcelona 2008では生徒として参加しており、同じく08年参加のsauce81とは『クラスメイト』でもある。参加した同期たちのその後の活躍や交流、コラボレーションへの発展などもRBMAの魅力だろう。



 

 

 

日本人にとって気になる語学の壁についてだが、Akiko Kiyamaも参加当時の英語力は「リスニングが精一杯で、会話はギリギリのレベル」だったという。

 



「英語は確かにほぼ必須ですが、完璧である必要はありません。レクチャーを聞き取るのは難しくとも、スタジオワークに入ってしまえば音でやりとりできます。あと、イタリアや南米など非英語圏の参加者とは打ち解けやすいですね」(Akiko Kiyama)



 

「英語が苦手な人も、応募要項は必ず自分で書いてください。その人ならではの視点が見えるような質問になっていますし、文法が多少間違っていても構わないので、自分の言葉で伝えたいことを書くことが第一歩だと思います」(sauce81)



 

参加者の体験談によって、RBMAをより具体的なものとしてイメージすることができた。

 

 

 

 



■レクチャー~レジェンドから若手へ

 

続いてはKing Of Diggin’ことMUROによるレクチャーへ。日本のヒップホップを黎明期から牽引してきたパイオニアが、DJ/ラッパー/プロデューサーとそれぞれの視点から語ってくれた。

 



先行する音楽の膨大なアーカイブに囲まれた現代の我々にとって、情報のない時代に何もないところを切り開いてきたパイオニアたちの視点は非常に新鮮だ。

 

そもそもMUROの活動の最初期、周囲はメタル全盛であり、ブラックミュージック自体不人気の時代。情報不足の不自由さと、黎明期ならではの自由さの狭間で想像力を巡らせ、周りとは違うサウンドをDJ Krushらと模索した経験を、若い参加者たちに伝えていく。


 

「レコードがとにかく好きだという気持ちは未だに変わらないですね。1日中レコードを聴いていられます」(MURO)



 

レジェンドでありながらピュアな音楽愛、レコード愛に満ちたKing Of Diggin’のルーツに触れられるレクチャーとなった。




 

 

 

 

 

 

■スタジオタイム~多様な価値観の交流


 

昼食を経て、午後からはいよいよアカデミーの本番とも言えるスタジオタイムへ。RBMA Tokyo 2014でも使用されたスタジオ施設が参加者に開放され、ここから残りのワークショップは完全に自由な『授業』となる。



 

Red Bull Studio Tokyoには、本格的な録音やバンドセッションが可能な1Fレコーディングスタジオと、DTM環境のそろった4Fミニブースという2つの環境が用意されている。ミニブースでは思い思いにバラけた参加者たちが共同作業を行っていくという流れだ。



 

 

 

このスタジオタイムでは、卒業生のAkiko Kiyama、Sapphire Slowsに加え、Maurice Fulton、Seihoという豪華な4名のアーティストがチューターとして参加者をサポートした。

 



基本的に参加者は初対面が殆どで、簡単な自己紹介のみでの共同作業になるため、音楽が何よりの共通言語となる。最初は手探り状態ではあるが、誰かが音を出せば、それをきっかけに会話やセッションにつながっていく。

 



音楽的バックグラウンドの異なるもの同士の組み合わせとなったグループでは、音楽が共通言語になるとはいえ、必ずしもその作業は簡単ではない。異なるコンテクスト間で共同作業を行うためのプロトコルを探っていくところから始めなければならないからだ。

 





持参した機材、提供できるスキルやアイディア、あるいはやり取りを円滑にするユーモア。こうした全ての要素を動員して、「自分はこういう人間だ」ということを互いにプレゼンテーションしていく。

 



このような擦り合わせを通して、各自の音楽に対する姿勢や視点が浮き彫りになっていく過程は非常に興味深い。



 

逆に、近いジャンル同士で組になったグループは、初対面であってもすぐに音楽の共通言語が成立する。短期間でのコラボとしてはもちろんこれもアリだ。



 

 

 

個人的に目を引いたグループを一組紹介しておくと、『初対面で意気投合したビートメーカー2人+自作楽器で参加したノイズアーティスト』という異色の組み合わせで、彼らがかなり早い段階からコミュニケーションを確立させていたのは興味深かった。2日間を通して濃いセッションが行われ、最終的にMaurice Flutonのディレクションのもと、2曲を形に仕上げてきた。人間同士の化学反応の面白さを再確認したグループだった。

 



このように、各グループそれぞれのやり方で思い思いのセッションが行われていった。



 

機材やサンプルパック、チュートリアルの充実などによって最適化された現代の個人の音楽制作において、こうした共同制作はある意味『回り道』かもしれない。無駄を排除して純粋に楽曲のクオリティを高めていきたいと思うならば、アカデミーの方法論は非効率的でさえあるかもしれない。



 

こうした回り道によって提供されるものは何か?



 

それは、単なる技術だけでなく、音楽を取り巻く価値観の多様性に他ならない。「アカデミーを通して世界中に友人ができた」とAkiko Kiyamaが語るように、ある意味音楽をツールにして、さまざまな価値観に触れ自身をアップデートし、豊かなものにしていくという体験だ。



 

「アカデミーは何よりも自分自身の”課題”を見つける場でした。ここで見つけた課題はその後も付いて回り、向き合わざるを得ないものとして持ち帰ることができます」(Sapphire Slows)

 

 

 

 



■チューターによるサポート~全員で作り上げる学びの場

 


参加者同士のやり取りに加え、チューターによるサポートが非常に大きな役割を果たしていた点も紹介しておこう。

 



1Fスタジオでは、Seihoのディレクションのもと素材のレコーディングが行われていた。Red Bull Studio Tokyoの最高の環境で、ドラム、ウーリッツァー、ギターといったベーシックな楽器から、三味線に至るまで、さまざまな素材が録音されていく。

 

 



素材を録り終えると、Seihoによるビートメイクのためのミニレクチャーが行われた。録った素材をAbleton Liveのラックに組み、それを使ってビートメイクを行うプロセスを、PCの画面を見せながら解説していく。普段の制作でSeihoが行っているサンプルライブラリの構築から実際の打ち込みのティップスまでをそのまま追体験できる贅沢な機会となった。

 



商業レベルから個人レベルまで、さまざまな規模で多くの共同制作を行ってきたSeihoは、他人との作業によって自分の手癖が相対化される経験は非常に重要だと語る。

 

 



「1人で向かい合うことの多いトラックメーカーにとって、共同作業はティップスやアイディアをシェア出来るよい機会なんです。慣れてくると落としどころの目処も立てやすくなりますし、こうしたライティングセッションはどんどんやればいいと思います」(Seiho)



 

共同制作の経験はメジャーなプロダクションでのコ・ライティングでも生かされており、とあるメジャーアーティストとの仕事の際は、何度もやり取りを繰り返すことで、尖ったクラブミュージックとキャッチーなJ-POPとの間に納得のいく落としどころが得られたのだという。

 

また、「制作する時にスランプはないのか?」という参加者からの素朴な疑問に対しSeihoは、スランプはない、と答える。

 

 

「常に機材に触っているし、曲を作っていない日は何をして良いかわからないです。気分の乗らない日があっても、モジュラーシンセでスケッチをしたり、布団の中で小さいシンセを触って遊んだりしているうちにアイディアは湧いてきます。とにかく手を動かすこと、数を作ることが一番大事だと思います」(Seiho)

 

 

Seihoらチューター達はその後も個別にスタジオを訪れ、時に参加者に混ざって音を出したり、ディレクションを行ったり、一緒になって盛り上がったりと、非常に良い空気を作り上げていた。参加者の楽曲を尊重しつつ、時にそこへちょっとしたエディットを加えることで、楽曲のクオリティをプロレベルへぐっと近づけていく。『楽曲全体の印象を左右する細部』を的確にジャッジしてディレクションするセンスと経験値はさすがの一言だ。

 



チューターによるこうした『レクチャー』は全てスタジオワークの流れの中で自然発生的に行われたものだ。実際の制作に即した形での指導は、一対多の授業では得難い説得力で参加者に伝わったのではないだろうか。



 

同じくチューターのAkiko Kiyamaは、2日目の午前中に行われた全員参加の『スタジオ・サイエンス』にて、自身の機材と普段の制作の様子を披露してくれた。卓上に再現されたKiyamaのスタジオ機材を解説しながら、実際の制作の様子をシミュレートしていく。参加者は周囲を取り囲む形でKiyamaの機材を覗き込んだり、質問したりすることが出来る。

 



参加者と近い距離で、補助輪のようなかたちでレクチャーをサポートするチューターは、RBMAのクオリティを大きく支えている。RBMAは、まさに参加者全員で作り上げる学びの場なのだ。




 

 

 

 

 

■充実の2日目~アフターパーティへ

 

ワークショップ2日目になると、一気に参加者同士の距離感が近くなる。初日は近い音楽性同士で固まっていたスタジオに他のメンバーが覗きに来るなど、初日の組分けをベースにしつつ、少しずつ人材がシャッフルされている印象だ。



 

「最初は音楽的に似た者同士で固まるんだけど、ワークショップ半ば以降はもっと色んなアーティストたちとの交流が生まれます。2週間という期間があるから、じっくりコミュニケーションが取れるんです」と卒業生のsauce81が語るように、やはり一通り参加者同士がシャッフルされてからが本番といったところなのだろう。

 

 

 



しかし、残念ながら今回は2日目でタイムアップだ。

 



今回の2日間の成果としては、セッションを楽曲として完成させたグループ、アイディアのスケッチを大量に作ったグループ、ひたすらセッションをこなしたグループなど様々だ。落としどころは異なるが、どのグループも確実に新しい課題を見つけ、向き合えた2日間になったのではないだろうか。

 



最後はDJブースを開放してのアフターパーティへ。制作した楽曲をプレイしたり、即興でセッションを行ったり、普段のDJやライブセットを披露したり、オールジャンルのパーティを参加者全員で楽しむ。終始クリエイティブな雰囲気の中、2日間のセッションは幕を閉じた。

 

 

 


 

 

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2018年秋、レッドブル・ミュージック・アカデミーは再びベルリンへ 

 

 

REDBULL MUSIC ACADEMY BERLIN 2018 アプリケーション応募期間

2017年6月15日(木)~9月4日(月)

 

More info:www.redbullmusicacademy.jp