六月 03

Red Bull Music Academy Session @ TAICOCLUB’ 14 イベントレポート

5月31日から6月1日にかけて、長野県のこだまの森にて開催された野外フェス「TAICOCLUB’14」。長野の大きな自然の中、突如2つのサウンドブースが設置され、国内外から26組のアーティストが集結した。快晴にも恵まれ、会場は多くの人々で賑わった。

「TAICOCLUB’14」では、2つのステージに加えてレッドブル・ミュージック・アカデミー(以下RBMA)のブースが登場、Red Bull Music Academy Sessionが開催された。本イベントでは、「TAICOCLUB’14」でもライブを行う2組のアーティスト、サカナクションの山口一郎氏、そしてミニマル・テクノの第一人者であるダニエル・ベル氏によるレクチャーが開催。そして、RBMAによるドキュメンタリー映画『What Difference Does It Make? A Film About Making』の野外上映会が行われた。


Red Bull Music Academyの開幕を飾ったのは、サカナクションのボーカル/ギターを担当し、ほぼ全曲の作詞作曲も行っている山口一郎氏。ブースはイベント開始直後にも関わらず多くの人々で賑い、彼の話に耳を傾けようとしていた。今回「TAICOCLUB ‘14」ではサカナクションとしてライブも行った彼だが、会場に前日入りするほどの気合の入りようで、前夜はTAICOCLUBのオーガナイザーである安澤太郎氏らとバーベキューを行い、その時の会話を通して「音楽の一般リスナー層とクラブの楽しみを知っている層を混ぜ合わせ、一つのムーブメントを創りあげたい」というTAICOCLUBの方向性がサカナクションのそれと一致していることを再確認することができたと語った。

サカナクション 山口一郎氏
邦楽のメジャーシーンの前線を突き進み、全国の様々な大型音楽フェスに出演してきたサカナクションだが、同時に、彼らはサウンドにおいてクラブミュージック的なアプローチを行い、それを一般のリスナーへ響かせることに力を注いできた。山口氏は、クラブ的な環境で音楽を体感する経験をすることで、歌を中心とした音楽の聞き方ではなく、リズムのうねりから発生する「グルーヴ」や、サウンドプロダクションの真髄を理解することが出来ると語る。実際に、彼らの幕張メッセでのワンマンライブで三十数台ものサブウーファーを設置し、「クラブミュージックの低音」を再現した時の出来事や、アルバム試聴会を恵比寿LIQUIDROOMで開催した際には、AOKI takamasaをDJに招き、サカナクションのファンに実際のクラブミュージックを体験してもらう試みに挑戦したことなど、彼らの並々ならぬこだわりが垣間見える話を交え、レクチャーは進行していった。



山口氏は、サカナクションが重視するものの一つは「世界観」であると語った。ライブでは、彼らの楽曲を大きく再編集し、クラブミュージック的なサウンドプロダクションを常に構築してきただけでなく、PAやレーザーなどといったところの細部にまでこだわってきたという。その中で山口氏が重要視するのは、観客をサカナクションの世界へ「連れて行く」という感覚である。制作からサウンドシステムまで徹底的なこだわりを持つ彼ら故に、従来のフェスでは出音の面などで思い通りにいかない点もあり、苦労したこともあったという。また、今年が2度目のTAICOCLUB出演であり、「TAICOCLUBがホーム」と語る彼も、初出演が決まった際には、「ロックバンド」という彼らの立ち位置もあり、TAICOCLUBへ出演することに音楽リスナーからの様々な意見があったが、ライブで彼らの世界観をいつも通り押し出すことでそれに応えたという。

そういったシーンの話を踏まえ、日本のポップミュージックシーンとクラブシーンが分離してしまっていると指摘。ポップミュージックには音楽を歌として捉える層が、そして、クラブシーンにはそれを毛嫌いするような層が大半を占めてしまっているように、互いが互いを理解しない状況が出来てしまっていると語る。それは、音楽のある種マニアックな部分が紹介されなくなってしまった現状のメディア、音楽専門誌などにも一因があるという。そういった現状を打破し、音楽の本質的な体感を広めるべく、山口氏は、「アーティストが主体となって行うレイブ・パーティ」という構想を披露。バンドやDJ、様々なアクトが一体となり、様々な音楽を、大きな音量でリスナーに体感してもらうという趣旨のものだ。そういったパーティを「いつか必ず実現したい」と発言。サカナクションの、そして日本の音楽シーンの今後に大きな期待を抱けるレクチャーとなった。

ダニエル・ベル氏
夕刻になり、次にレクチャーを行ったのは、ミニマル・テクノの第一人者のひとり、ダニエル・ベル氏だ。1967年にカルフォルニアに生まれ、直後カナダへ移住した彼は、その生い立ちやルーツを、彼が自ら持参した音源を交えながら紹介した。彼とエレクトロニック・ミュージックの最初の出会いは、1969年に発表され、当時大ヒットしたガーション・キングスレイの「Popcorn」であった。幼少期からピアノに触れていた彼にとって、エレクトロニック・ミュージックとの出会いはとても衝撃的なものであった。

その後、引っ越しが絶えなかった彼の生活環境において、いつも彼のそばにあった音楽という存在は大きなものになっていったという。学生時代、ドラムマシンを友人に借りたことをきっかけにトラック制作を開始した彼は、ロジャー・トラウトマンやジョージ・クリントンなどといったファンク・ミュージックに出会った。その特徴的なベースラインや、エレクトロナイズされたミニマルなサウンドは、彼のサウンドにも深い影響を与えたという。そして、カナダのクラブ、トワイライト・ゾーンで聞いたヒューチャー(Phuture)の「Your Only Friend」に、今まで家で聞いていたハウス・ミュージックとは比べ物にならない衝撃を受け、当時彼がクラブから帰る車の中で聞いていたスティーブ・ライヒのミニマル・ミュージックのような要素を、ハウス・ミュージックの上で展開させるという彼のコンセプトが誕生した。


自身のミニマル・テクノのオリジネイターとしての感性を磨いてくれたのは、様々なインスピレーションも然ることながら、デトロイト・テクノが登場した当時に、彼がトロントから4時間のドライブを経てデトロイトで出会ったデリック・メイやリッチー・ホゥティン達の存在がある。特に、ダニエル氏はデリック・メイのスタジオに遊びに行った時非常に驚いたという。床に無造作に4つ程の機材が置かれていただけで、録音もテープレコーダーで行っていたからだ。ダニエル氏のハード機材に対する情熱は、このような経験の中からも培われていったのだろう。一時期、制作をラップトップに移行しようとしていた彼だが、結局「自分のコンセプトとかけ離れすぎている」として断念した、と語っている。

彼が当時制作に使用していた機材であるTR-909とPro-Oneは、当時から世代を変えて使用し続けているという。様々な思考の末、ライブ・パフォーマンスでもラップトップを使用せず、Sequentix社のCirklonという機材でシステムを制御するという環境に至った彼は、ラップトップを使用することで、「パフォーマーと観客に大きな壁が出来てしまう」と指摘。パフォーマーとして如何に観客を熱狂させられるかという答えについて、ダニエル氏は両者を引き離す「大きな机(DJ/ライブブース)」について言及した。バンドやオーケストラのライブには存在しないパフォーマーと観客を引き離す机が、なぜエレクトロニック・ミュージックには存在してしまうのか。また、存在して然るべきとされてきてしまったのだろうか。多くの人々が見落としていた独特の目線に、ダニエル氏のアーティストとしてのパワーが覗えた。

ダニエル・ベル氏
ダニエル氏のレクチャーの終盤では、新曲を含めた最近のワークスが披露された。彼の根底を流れるコンセプトは制作当初から変わっておらず、ファンク・ミュージック、ハウス・ミュージック、そしてミニマル・ミュージックというインスピレーションは彼の中で大きな部分を占めている。そして、今の関心ごとは、「未来にも通用する、タイムレスな音楽を制作すること」と語る。ダニエル氏のアイデアは、いつまでも尽きることが無いように思えた。

今回のRed Bull Music Academy Sessionのレクチャーでは、クラブミュージックとポップミュージックを通して日本の音楽シーンの活性化を狙うサカナクション・山口一郎氏のこだわり、そしてダニエル・ベル氏の25年間変わらぬ深いコンセプトとライブにおいて観客を楽しませるためのユニークな意見を伺うことが出来た。また、制作者としてだけではなく「リスナー側」に寄り添った感覚をも持ちえているのは両者とも共通であったように感じられた。そして、自らの音楽の為にできる最上で最適の環境について考え抜き、それを確実にコントロールする両者のアーティストとしての強いイズムを感じることができた。


日が沈み、辺りがゆっくりと夜に包まれていく頃、『What Difference Does It Make? A Film About Making』の野外上映会が開始した。こだまの森のはずれに設置された大きなスクリーンに映像が投影されると、人々がゆっくりとブースに集まってきた。『What Difference Does It Make? A Film About Making』は、2013年にニューヨークで開催されたRBMAの実際の様子を交えながら、ブライアン・イーノやジョルジオ・モロダー、リッチー・ホゥティン等といった著名アーティストのインタビューを通じ、アーティストが音楽と共に生きるということについて投げかける、長編ドキュメンタリー映画だ。今回は本編に加えて、本編で使用されなかったインタビューの光景をまとめたディレクターズ・カット版も上映された。


映画内のRBMAのシーンでは、公募により集められた様々な人間が、日々のセッションや制作を行う場面や、夜な夜な開催されるイベントの場面が登場し、自らの音楽、そして音楽との関係を追求していく様子が映し出されている。それに呼応するように、街の風景、様々な著名アーティストのインタビュー映像がカットインされていき、観るもののインスピレーションを強く掻き立てる。その映像は、音楽そのものよりも、音楽のために生きる人々にフォーカスが当てられ、それが自分の使命かのように生きるアーティスト達の人生がインタビューを通じて語られている。そして、『What Difference Does It Make? A Film About Making』の持つメッセージは、音楽家に限らず、見るものすべてに生きることそのものを考えさせるような大きな意味を投げかける。フィルムに収録された様々なアーティストの音楽と声、そしてメッセージが、「TAICOCLUB’ 14」に集まった人々に響き、こだまの森の夜に深く浸透していった。

文・和田瑞生