三月 29

Red Bull Music Academy 2018 Berlin:参加者リスト Pt.1

記念すべき20回目のRBMAに参加する世界37カ国から選ばれた61人のプロフィールを前後半に分けて紹介する

By Red Bull Music Academy

 

2018年9月、世界中の都市で開催されてきたRed Bull Music Academyが、全てが始まった場所に戻り20周年を祝う。世界から選ばれた61人のミュージシャンがドイツの首都に集まり、レクチャー、スタジオセッション、スペシャルイベントに満ちた5週間を過ごすことになる。

 

毎年、Red Bull Music Academyは世界各地で活動するアーティストたちから数千通のアプリケーションを受け取っている。ジャッジがそれら全てに慎重に目を通し、耳を傾けたあとで決定するクラスは、RBMAに届くアプリケーションのスタイル、アプローチ、文化的背景の多様性が反映されている。2018年は、ケニア、韓国、メキシコ、カナダ、フィリピン、ロシア、ニュージーランド、スペイン、トルコ、ブラジル、そして日本など、世界37カ国から選ばれたアーティストたちが、9月8日から10月12日までドイツ・ベルリンで開催されるRed Bull Music Academy 2018 Berlinに参加する。

 

Red Bull Music Academy 2018 Berlinに参加するアーティストたちの多種多様なサウンドとスタイルには、示唆に富んだ日本産エレクトロニカ、イランのアンダーグラウンドクラブシーン発のIDM、ニュースクールUKジャズ、南アフリカ産アフロフューチャーダンスミュージック、ドイツ産エクスペリメンタルヒップホップ、ナイジェリア産ネオソウル、ジョージア産ドローン、ポーランド産インダストリアルテクノ、US産ポストパンクなどが含まれている。

 

Red Bull Music Academyは、サウンドへの新しい視点と意見を提示してながら毎回独自の世界を生み出してきた。ベルリンの参加者たちも、トップアーティストたちによるレクチャーやワークショップに参加しながら、カスタムメイドの最新レコーディング施設で他の参加者やトップアーティストたちとのコラボレーションセッションを重ねていく。また、同時にRed Bull Musicによる1ヶ月間のフェスティバルも展開され、ベルリン市内で様々なコンサートやクラブナイトが開催される。Red Bull Music Academy 2018 Berlinではこれらを通じて、音楽史に残るトップアーティストたちと新世代のアーティストたちが交流し、お互いに刺激を受けながら、音楽の過去・現在・未来を共に祝うことになる。

 

ベルリンへ向かう61人のプロフィールを2回に分けて紹介していくが、Part.1では以下の32人を紹介する。(アルファベット順A〜L)

 

Akemi Fujimori // Akiko Haruna // Akkor // Anna Vs June // Anxo Ferreira // ArtSaves // Astro Children // Atariame // bear // Benjamin Sallum // BRUX // Camille Mandoki // Carga Aérea // Caroline Lethô // chawood // CHINO // Cornelius SA // Dj Heroin // FAKETHIAS // IARAHEI // Impey // indi // J Colleran // Jacob Stoy // Jakinda // Jakob Herber // Jeannel // Katarzia // L CON // Lindsey Abudei // Loradeniz // lullahush //

 

 

 

 

 

 

Akemi Fujimori

サン=トゥアン(フランス)

 

 

フランス出身のソングライターAkemi Fujimoriは、クラシックの音楽学校で歌とピアノの教育を受けてきたが、近年はナイトクラブやカバーバンドの世界に踏み込んでいる。ライブパフォーマー、スタジオミュージシャンとして活躍している彼女は、2017年の大半をイノベーティブなポップアクトと知られるLa Féline、Corine、Broken Bandのツアーメンバーとして過ごした。また、彼女はLéa Moreauとのエレクトロニックデュオ、dismazeとしてプロデュース、歌、ギター、シンセ、ドラムにも取り組んでいる。2016年にリリースされたdismazeのデビューシングル「Plastic Snakes」はクラシック音楽の技術でコズミックを再解釈した作品で、クリアなエレクトロニックビートと波打つコードが、クリスタルのように透き通った美しいヴォーカルハーモニーを支えている。他のトラックではさらに実験性が強められており、サウンドデザインにThe KnifeやArvo Pärt.などの音楽から受けた影響を組み合わせている。

 

 

Akiko Haruna

ブライトン(UK)

 

 

Chilly Gonzalesの洗練されたピアノ、モダンダンスアイコンPina Bauschの優美さ、そして精緻な工芸品のような音楽を生み出すAlva Notoなど、英国南部ブライトン出身のAkiko Harunaが影響を受けたアーティストたちにはひとつの共通した繊細さが感じられる。ピアノ、バイオリン、フルート、ダンスの教育を受けた彼女は音楽理論と作曲理論に通じており、近年はその知識と経験をエクスペリメンタルノイズの世界で表現している。AlunaGeorgeやJonn Newmanのミュージックビデオに出演するなど、約2年間に渡りプロダンサーとして活躍したあと、この方向に取り組み始めた彼女は、現在は音楽大学で学業に専念している。多種多様な才能を作品の中でしやなやかに組み合わせているAkikoは、2017年にはシューレアルなモノクロ映像の断片を集めた作品「i, omega」を発表。過激なグリッチとファズノイズで構成されるサウンドスケープの中で体を自由に動かしながら、謎めいた笑みを浮かべている。

 

 

Akkor

イスタンブール(トルコ)

 

 

最高のパフォーマンスは、アーティストの音楽を押し広げ、録音作品ではほんの一部しか触れられない新しい次元を加える。トルコ・イスタンブール出身のプロデューサーAkkorことÜstün Lütfi Yildirimは、ユニークなライブパフォーマンスのために楽曲を用意している。医学博士ながらフリーランスの作曲家としてショートフィルムやサウンドインスターレションも手掛けているYildirimの音楽は、その活動内容に相応しくシネマティックで広範だ。彼の音楽がライブでいかに上手く機能しているのかが確認できる好例は、2017年にイスタンブール・ビルギ大学で「Sound Picnic」シリーズとして行われた彼のパフォーマンスを収めた映像だろう。この映像の中で、Yildirimとコラボレーターたちは没入感の高い映像と魅惑的でサイケデリックなライティングに照らされたジオデシックドームの内側でパフォーマンスを披露しており、エレクトロアコースティックのオーケストラとも言えるYildirimのダークなサウンドを聴くことができる。

 

 

Anna Vs June

アテネ(ギリシャ)

 

 

Anna Papaioannouは、一見異種に思えるもの同士を繋ぎ合わせる才能を備えており、音楽に関して言えば、ギリシャ古来のフォークミュージックとテクノをデジタルとアナログを組み合わせながら表現している。エジンバラの大学で作曲を学び、アテネの音楽学校でピアノを学んだあと、劇場と映画の音楽とサウンドデザインのプロフェッショナルとして活動してきた彼女には、膨大な音楽的知識が備わっている。Anna Vs June名義で表現されているPapaioannouの実験的なサウンドアレンジと柔らかいが決してぶれないヴォーカルはポップの外縁へと続くソニックジャーニーを体験させてくれる。レイヤーを重ねて複雑なテクスチャを生み出すことを恐れない彼女のサウンドだが、インスピレーションの源は「旅と友人」とシンプルだ。逃避としての音楽に惹かれてきた彼女は、自分の作品で "心安まる場所" を再現することで、自分の音楽的ルーツに回帰している。

 

 

Anxo Ferreira

マドリッド(スペイン)

 

 

大きく異なる複数のジャンルに取り組んではいけないというルールはこの世の中に存在しないが、もしあったとしても、マドリッド出身のプロデューサー / インストゥルメンタリストのAnxo Ferreiraは意気揚々と破るはずだ。Adrián CanouraとのNistra名義で2016年にリリースした「Mästra」EPは、アンビエントテクノの秀作で、示唆に富む自由なサウンドスケープとダンスを促すビートを絶妙なバランスで組み合わせている。収録されている6トラックを通じて、Ferreiraはありとあらゆるサウンドを引用しており、凶悪なシンセと強烈なパーカッションサウンドでリズムが内包しているトロピカル感を薄めながら、強烈なイメージを打ち出している。また、Anxoはガリシア地方のポップロックバンドNovedades Carminhaとの共作やソロプロジェクトにも取り組んでいる。このようなカメレオン的なサウンドパレットと実験への貪欲な姿勢を持っているAnxoの次のリリースがどのような内容になるのかは誰も予想できない。

 

 

ArtSaves

モントリオール(カナダ) / テヘラン(イラン)

 

 

法律でナイトクラブが禁止されており、深夜になれば通りがひっそりと静まりかえることが多いイランの首都テヘランで生まれ育ったイラン人プロデューサーのArtSavesは、市内で密かに開催されていた小規模なハウスパーティからキャリアをスタートさせた。そこでの経験が感じられる彼のサウンドは、失われたものを探しに夜を徘徊するようなダークな好奇心に溢れている。ArtSavesは、脈打つリズムと繊細だが不穏にビルドアップされていくサウンドでリスナーを未知の世界へ向かうナイトライドに誘っていく。現在はカナダ・モントリオールに住む彼は、2016年にKopiからアルバム『Seuil』をリリースしている。

 

 

Astro Children

ダニーデン(ニュージーランド)

 

 

ニュージーランド・ダニーデンを拠点に置くデュオAstro Childrenのフロントウーマンを務めるMillicent Lovelockは、Fender Telecasterで攻撃的なコードをかき鳴らしている時も、不安と厭世の間を漂いながら歌っている時も、リスナーを自分の世界に引き込んでいく。「Boys Encourage Female Rivalry」や「Play It As It Lays」のような楽曲でのAstro Childrenは、オルタナティブとシューゲイズの間のスペースを埋めながら、フェミニストの視点から綴られるLovelockの鋭い歌詞を歪みの効いた曖昧なメロディで補完している。英文学の博士課程に進むことを考えている読書家でもあるLovelockは、Repulsive Women名義(彼女が尊敬する作家ジューナ・バーンズの著作『嫌味な女たちの書』の原題の一部から取られている)でも活動しており、One Directionの楽曲を大真面目にギターでカバーしている他、ギターとチェロを使ったオリジナル楽曲も発表している。

 

 

Atariame

モスクワ(ロシア)

 

 

AtariameことNatalia Salminaは、捉えどころのないエレクトロニクスと内省的でフォーキーなメロディが作り出す濃霧の中から感情を力強く放ってくるアーティストだ。2017年にリリースされたアルバム『Fear is the World』は、サンクトペテルブルクの孤独な冬の間に作られた作品だが、Saliminaの隠者的アプローチは彼女の音楽に魅力的なディテールを加える助けになっており、歪んだ静寂が感じられる「Always the Youngest」や、彼女がティーンエイジャーの頃に好きだったJohn Mausの影響が最も色濃く感じられる、ギターを前面に押し出した「Fluffy Paws」などで確認できる。12歳で音楽に興味を持った彼女は、演奏方法を知らないにも関わらず、友人の誕生日パーティでギターを演奏しては自分の世界に没頭していたと振り返っているが、このような内面世界の探求心は今の彼女にも影響を与えている。

 

 

bear

ペンブローク・パインズ(USA)

 

 

失恋は偉大な芸術作品の数々を生み出すきっかけとなってきたが、Adam Ovletreaはその理由を知っている。23歳のこのフロリダ州出身のプロデューサーは「喪失感には純粋さがある。その純粋さが僕を最悪の瞬間から救い出してくれた」としている。13歳の時に叔父からPro Toolsの使い方を学んで以来、Ovletreaはその「最悪の瞬間」を迎えるたびに音楽と向き合い、悲しみに打ちひしがれ、希望の光を見出し、ローファイ映画に慰められるという一連の流れを数々のインディーミュージックで表現してきた。bear名義でリリースされた「Breadcrumbs」と「Cruise Control」は共にUS産レーザーライトミュージックのエモーショナルな部分を恥ずかしがることなく表現しているエレクトロニックミュージックだ。Drakeと1980年代ニューウェーブの影響がわずかに感じられるOvletreaの音楽は、恋に悩むスイートなダンストラックで、シンセと滑らかに絡み合う力強いアコースティックギターの上で優しいハーモニーが切ない気持ちを歌っている。独特な音楽だが、褒め言葉としての独特だ。

 

 

Benjamin Sallum

サンパウロ(ブラジル)

 

 

Benjamin Sallumは家業を継いだアーティストと言っても良いのかもしれない。サンパウロ在住のこのDJ / プロデューサーは、長年イベントプロデューサーとして活動してきた母親を通じて、地元に息づくアンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックに触れた。3歳の時に父親からギターを与えられ、それから10年以内に音楽制作を始めた彼は、近年はブラジル国内のフェスティバルやパーティでプレイを重ねながら、メキシコのQuiero Recordingsからアシッドトラックやテクノトラックをリリースしており、さらにはローファイなカセットテープレーベルOxiも立ち上げている。また、RBMA Tokyoの卒業生Pedro ZopelarとのデュオMy Girlfriend名義でハウス、アンビエント、テクノも生み出している。尚、My Girlfriendは2017年にサンパウロで開催されたRBMA FestivalでTheo Parrishのオープニングを務めたが、音楽に囲まれて育ってきたSallumは生まれて間もない頃にTheo Parrishのプレイを聴いている。

 

 

BRUX

シドニー(オーストラリア)

 

 

BRUX名義でリリースを重ねているシドニー出身のElizabeth Maniscalcoは、最も大きな影響を受けたアーティストと公言しているThe Knifeを感じさせる不穏で強烈なビートにピッチシフトさせたヴォーカルを組み合わせたトラックを生み出している。彼女にとってBRUX名義は、かつてElizabeth Rose名義で制作していたシンセヘヴィなトラック群からの方向転換を意味しており、よりヘヴィでダークな作風を打ち出している。最近もLAのプロデューサーMadeauxがFool’s Gold Recordsからリリースしたトラック「The Wave」にゲスト参加し、クラブトラックに彼女らしいマジックを加えた。

 

 

Camille Mandoki

メキシコシティ(メキシコ)

 

 

メキシコ出身のシンガー / サウンドアーティストのCamille Mandokiは、奇妙でカテゴライズ不能な音楽を通じてカタルシスの辺境を探索し続けており、その内容はよろめくような退廃的なフェアグラウンドミュージックから威嚇的なパーカションの嵐まで実に幅広い。2016年にリリースされたデビューアルバム『We Used to Talk for Hours』では、自身の声を使って荘厳で美しいハーモニーを生み出していたが、ここ2年は「Priscilla Drums」や「Failure (Sound of an Animal)」などの作品で確認できるように、歪んだスタイルを打ち出している。対照的な2つのスタイルだが、ヴォーカルの限界を押し広げようとしている姿勢は共通している。その姿勢はDiamanda GalásやLydia Lunchを彷彿とさせるものだが、ソロ、そして彼女が “サウンドと肉体の告解室” と表現する、女性だけで構成されるグループでの彼女のパフォーマンスは唯一無二だ。


 

 

Carga Aérea

リスボン(ポルトガル)

 

 

Francisco Marujoの姓(Marujo)はポルトガル語で “船乗り” を意味する。このリスボン在住のプロデューサーは、自分の音楽に欠けている部分を探し続けている自分を「サウンドの海で彷徨っているようなもの」と表現しているが、この表現はWilliam Basinskiに影響を受けている彼のシンセアンビエントそのものだ。Carga Aérea名義でのMarujoは、揺れる波のようなサウンドを生み出しており、温かいノスタルジアを感じる瞬間もあれば、力強いドラマが生み出される瞬間もある。また、彼は遠洋へ漕ぎ出すことを恐れておらず、2017年末にリリースされた2枚目のEP「Ocorrência Em Aberto」は、同年にポルトガルで起きた山火事に触発されて生み出された32分のシネマティックな大作となっている。この作品は、アンビエントミュージックの抽象性を実在する場所や問題に結びつけられる彼のユニークな才能の証左と言える。

 

 

Caroline Lethô

リスボン(ポルトガル)

 

 

熱心なサックス奏者を父親に持つCaroline Lethôは、リスボンで最もエキサイティングなDJ / プロデューサーのひとりに数えられている。音楽学校を卒業(ジャズベースを専攻)した彼女は、やがてエレクトロニック・ミュージックに傾倒するようになり、音楽理論や音楽形式に関する豊富な知識を、学校では聴けない既存のルールを無視したユニークなサウンドに活用するようになった。実験的で粗いサウンドを魅力的なビートに溶け込ませている彼女のトラックには、知性を感じさせる直感的なグルーヴが備わっている。Caroline Lethôは混沌の中に自身のリズムを見出せている。

 

 

chawood

インチョン(韓国)

 

 

「ディストピアン」、「ダークバイブ」 - これらはchawoodことHyuna Chaが、機械と感情が複雑に入り組んだ自分のエレクトロニック・ミュージックを表現する時に使う言葉だ。ベッドルームで音楽制作をしているインチョン出身の彼女は、くすんだサウンドスケープ、圧がかかったダブベース、浮世離れしたシンセパターンを通じて世界が抱える問題に挑みながら、自身が抱える孤独感と矛盾を表現している。オンラインでプライベートレッスンを受けながら、音楽制作のスキルをベッドルームで磨いていった彼女は、アンビエントとFrank Oceanのようなソウルフルなイノベイターからの影響が等しく感じられるユニークなサウンドを手に入れており、ムードとテクスチャを重視しながら、感情や気持ちをにじみ出させている。

 

 

CHINO

クラクフ(ポーランド)

 

 

ポーランド出身のプロデューサーCHINOは、自分の音楽を「強迫的な時もあるし、ディストピア的な時もあるけれど、そこにはいつも希望がある」と表現している。クラブの外ではArtur Olesとして知られているCHINOは、冷たいシンセと激しく打ちつけるキックをロウテクノに詰め込んでいるその音楽を現在台頭しつつある “ウェーブ” のひとつとして捉えている。CHINOの音楽がどのジャンルに入ろうとも、彼の音楽が美しいサンセリフフォントのような味わいを保っていることに変わりはなく、彼が音楽だけではなくフェスティバルやパーティのポスターデザインも手掛けているデザイナーであることを踏まえると、この表現は的を射ていると言える。ミニマルでインダストリアルなCHINOの音楽はレイバーが詰めかけた冷たいウェアハウスで鳴らされるためのものだが、彼が言っているように、最もメタリックなトラックでさえもそこにはいくばくかの温もりが感じられる。

 

 

Cornelius SA

プレトリア(南アフリカ)

 

 

DJと制作を独学で学び、Cornelius SA名義で活動しているCornelius Mashilaneは、南アフリカ屈指の才能を持つエレクトロニック・ミュージシャンのひとりに数えられている。ヒプノティックなハウスに強い拘りを持ち続けてきた彼は、2016年にKenny Dopeに見出されてシングル「Heaven」をリリースした。また、続いてリリースされた「Keep Your Mouth Shut」と「Boogie Woogie」は、ソウル、アフロハウス、そしてテクノも僅かに感じられるディープハウストラックとなっている。数多くのオファーが届いている感情豊かなDJセットと同様、彼のトラック群もダークで味わい深く、満足度が高い。

 

 

Dj Heroin

レスラート(ドイツ)

 

 

DJ / プロデューサーのDj HeroinことPhilip Muellerはドイツ・レスラートで生まれ育ったが、彼の作品はあらゆる地理的特性を回避している。Dj Heroinは、濃霧の夕暮れやシカゴ産ドリルビート、Autechreなど、様々なものをインスピレーションの源にしている。静電気のようなざらつきと不穏なメロディを備えているDj Heroinのトラック群は、リズミカルなパーカッションの上に意外なサウンドが重ねられており、彼が多方面からの影響を作品に落とし込んでいることを明確に示している。Dj Heroinは幼少時に短期間ピアノを学んだあと、トライ&エラーを繰り返しながら独学であらゆる音楽を学んできたが、その努力は結果に繋がっている。近年の彼はヨーロッパ圏内でギグを重ねており、2016年に「Enemy Territory」EP、2017年に「Sanguine」EPを自主リリースしている。

 

 

FAKETHIAS

オスロ(ノルウェー)

 

 

オスロ在住のアーティストFAKETHIASは、ジャンルに囚われない強烈なエレクトロニック・ミュージックを生み出しているアーティストで、インダストリアルなテクスチャにパンチーなベースラインと瞑想的なメロディ、つんのめるようなリズムを組み合わせている。2015年からラップグループSushi x Kobeのトラックを担当している彼は、翌年にソロデビューシングルをリリースした。そのファーストシングル「Left」とセカンドシングル「esc」は共にノルウェーのレーベルTelléからリリースされ、この2トラックが国内外での多忙なDJスケジュールに結びついた。2018年5月には、RBMAの卒業生Drippinが共同経営者として名前を連ねるオスロのレーベル兼オーガナイザーBall ‘Em Upから最新EP「Attune」がリリースされる。夜型で、明晰夢を見てはファンタジーの世界に入り込むことが多いとしているFAKETHIASのサウンドは、目が覚めるか覚めないかの微妙な時間帯のためにデザインされているように感じられるもので、ダンスフロアを不安な夢の世界に再び引き込んでいく。

 

 

IARAHEI

サンティアゴ(チリ)

 

 

チリ出身のIara Espinoza Dos Santosはタロットと占星学を学んでいるチリ出身のIara Espinoza Dos Santosは、その神秘の学問をダークでドリーミーなトラック群に活かしている。しかし、フルタイムのプロデューサー / ヴォーカリスト / DJとして活動する彼女はポップミュージックの領域にも踏み込んでいる。IARAHEIは、Daft Punk、Panda Bear、M.I.A.、A Tribe Called Questなどから影響を受けたスマートでエナジーに溢れるダンスフロアトラックも作り出しており、この活動が認められてチリのトラップクイーンPrincesa Albaのサポートや同国のインディーポップデュオDënverの南米ツアーのサポートに抜擢された。また、彼女は近年活動範囲をさらに広げており、ノスタルジックなシンセポップバンドSri Lank 100とのコラボレーションも行っている。

 

 

Impey

ヘメル・ヘムステッド(UK)

 

 

Tommy Impeyにとって音楽と家族は常に同義だった。UKの小都市出身の彼は、両親が持っていた大量の80’sジャズファンクレコードに囲まれて育ったため、2014年に「Bangclap / 4titude」でヴァイナルデビューを果たした彼がわずか18歳でDJ / プロデューサーの新星として人気を獲得したのは驚きではなかった。2018年に自身のレーベルGhost Notesを立ち上げた彼は、NTS Radioで同名の番組もスタートさせており、"ポスト・トワイライト" と名付けたサウンドをプレイしている。Impeyのトラック群は多様性が特徴で、最近は空を舞うような煌びやかなシンセトラック(「Midnight in Little Havana」)や、時代を捉えた緊張感の漂うインダストリアルグライムなどを生み出している。音楽性の幅が非常に広いImpeyの作品だが、その全ては “ブロックバスター” というひとつの言葉に集約できる。

 

 

indi

クライストチャーチ(ニュージーランド)

 

 

2013年から2016年にかけて、Indira ForceはネオトリップホップデュオDoprahのメンバーとして活動した。Lordeのオープニングアクトにも抜擢されたDoprahは、2016年にリリースしたデビューアルバム『Wasting』で世界から注目を集めたあと解散。Forceは映画のサウンドトラックやコンテンポラリーダンスのスコア、政治キャンペーンのテーマソングなどを手掛けながら音楽活動を続け、ソロ名義indiをスタートさせた。当初は独り立ちに恐怖を感じていたというindiだが、2017年にリリースしたアルバム『Precipice』がヒット。このアルバムでは、サックス、トロンボーン、ヴァイオリンなどで構成されるセプテットが、indiの色彩豊かなバロック調の世界に命を吹き込んでいる。自然界と夢からインスピレーションを得ている彼女の音楽 - 荘厳な「Airportal」やたゆたうような心地良さが感じられる「Demeter」など - には、BjörkやKaitlyn Aurelia Smithからの影響が感じられる。

 

 

J Colleran

ダブリン(アイルランド)

 

 

アイルランド・キルデアで生まれ育ったJ Colleranはクラシックピアノを学んだ経験を持っており、彼のドリーミーなサウンドスケープはエレクトロニックとオーケストラを上手く組み合わせている。Mmoths名義でトップアーティストとしての地位をすでに確立している彼は、Simone RochaのSS17のコレクションの音楽を担当した他、Aphex Twinとの共演やUS / ヨーロッパツアーを展開した経験もある。2018年には8曲を収録した大作『Gardenia』をBecause Musicからリリースする予定で、この作品では有機性と無機性の間を漂う彼のユニークなサウンドがさらに追求されている。

 

 

Jacob Stoy

ベルリン(ドイツ)

 

 

ドイツ東部の小さな工業都市に生まれたJacob Stoyが初めて音楽に魅了されたのは、父親と一緒にWindows用ソフトMixmanでループを組んだ8歳の時だった。そして、ジャズバンドでのギター演奏にのめりこんだティーンエイジャー時代を経て、現在は、ダンスミュージックとアートの交差点に立つ複数のプロジェクトに参加しながら音楽活動を続けている。ひとりでビートを組んでいる時も、シンセポップバンドRoom ServiceとエクスペリメンタルデュオInkassoと共作している時も、Stoyは奇妙でザラついたテクスチャの強烈なグルーヴを生み出している。2012年以降、Uncanny Valley、Abstract Animal、Eyes of My Eyesから複数の12インチをリリースしてきた彼は、2017年はクラブ、フェスティバル、ラジオ番組への出演を重ね多忙な日々を送った。また、Stoyはソロライブパフォーマンスも展開しており、このライブにはダンサーが加わる時もある。

 

 

Jakinda

エデンベール(南アフリカ)

 

 

プロデューサー / DJのJakinda Boyaは、南アフリカで最も勢いのあるシーンに数えられるGQOM、Kwaito、ヒップホップを組み合わせている自分のスタイルを「アフロフューチャー・エレクトロニカ」と表現している。ラッパーのAyema ProblemとのデュオStiff Papとして活動しているウムラジ出身のJakindaは、このデュオが2017年にリリースしたデビューEP「Based on a Qho Story」で、ティーンエイジャーの自分たちが初めて経験したイリーガルパーティでの経験を語っている。ベースヘヴィなバンガー「Dlala」、狂乱の「Live From Eloxion」、そして強烈な「Stiff Pap Forever」など、Jakindaのサウンドレンジの広さは、2年前からYouTubeのチュートリアル動画だけを頼りに音楽制作をスタートさせたプロデューサーとしては出色だ。Kanye WestとCuloe de SongのファンだというJakindaは、以前はプロサーファーになることを夢見ていたとしているが、2018年現在、彼はここ10年を代表する音楽シーンのひとつの中心に位置している。

 

 

Jakob Herber

ウィーン(オーストリア)

 

 

本名名義での作品、i don’t tell fairy tales(idtft)名義でのトラック群、そしてFLUTのドラマーとしての活動と、Jakob Herberの音楽活動は多岐に渡る。このような幅広い活動を通じて、Herberは静かに爪弾かれるシンガーソングライターチューン、艶のあるアンビエントサウンドトラック、1980年代のラジオから抜け出してきたかのようなシンセロックなどを生み出してきた。ドラム、ギター、ベース、キーボードを自在に操るHerberは音楽の好みも雑食で、好きなアルバムもDrakeからDaniel Johnstonまで実に幅広い。

 

 

Jeannel

ベルリン(ドイツ)

 

 

Jeanne Kaiserが生きるために欠かせないものがひとつあるとすれば、それは愛だ。彼女は「人間の魂と宇宙は愛を与え、愛を受け取るために存在する」としている。正式な音楽教育を受けたチェリストでもあるシンガー / プロデューサーの彼女は、この強い思いをR&Bに影響を受けたドリーミーなポップソングで表現している。2016年にリリースされたシングル「Mind Tricks」はアコースティックギターから静かに始まるが、やがてエレクトロニックなビートと旋回するシンセサウンドに彩られたワイドスクリーンの夢へと昇華していく。通常はバックバンドを従えている彼女だが、チェロといくつかの機材だけにまとめたセットアップにギターとバッキングヴォーカルを担当する友人を加えただけのシンプルなライブも試している。スタジオでもライブでも、彼女は力強い愛で常にオーディエンスと繋がっている。

 

 

Katarzia

プラハ(チェコ)

 

 

スロバキア出身・プラハ在住のアーティストKatarina Kubosiovaは、作詞作曲が自分の感情を包み隠さず表現できる唯一の方法だということに気付いた20代前半に音楽制作をスタートさせた。しかし、彼女の音楽の才能は本人の予想を遥かに上回ることになり、自分の感情を解放するためだけにベッドルームで音楽制作を始めた彼女は、今やスロバキアとチェコのフェスティバルのメインステージばかりか、スロバキア国立劇場にまで進出しており、後者ではソポクレスの『アンティゴネ』を再解釈した作品に取り組んでいる。Katarzia名義で活動する彼女の音楽は力強さと脆さの間で揺れるようなスタイルで、彼女の歌声がフラクタルなビートと壮麗なアナログサウンドスケープの上で漂っている。セカンドアルバム『Agonstika』リリース後、彼女はバンドを従えたロングツアーをこなしており、2017年にはチェコのフェスティバルColours of Ostravaにも出演。中央ヨーロッパ最大のフェスティバルとして知られるColours of Ostravaの会場はKatarinaの生まれ故郷からほど近い距離にあるが、“ベッドルーム” からの距離はかなり遠い。

 

 

L CON


トロント(カナダ)

 

 

トロントから車で2時間北上した森の中に、都市の喧噪から切り離されて執筆活動とレコーディングに集中できるスタジオがある。このスタジオの共同所有者が、L CON名義で動的なアヴァンポップを生み出している作家 / ミュージシャン / 作曲家のLisa Conwayだ。カナダとスイスの国籍を持つConwayは、パフォーマンスアーティスト、映像作家、ダンサーのための音楽を手掛けてきたが、ソロでは活き活きとした独自の世界観が表現されており、このスタイルが彼女を魅力的なアーティストにしている。Conwayは、ヴァイオリンに太いエレクトロニック・ドラムサウンドと、完全に異なっているサウンドを重ねることで、作品に通底しているリズムや感情を引き出している。また、彼女はヴォーカルチョップも使用した粗くミニマルなピアノバラードも手掛けている。世間のあらゆるホワイトノイズを消してくれる生命力に溢れる彼女の作品は非常に魅力的だ。

 

 

Lindsey Abudei

ラゴス(ナイジェリア)

 

 

ナイジェリア・ジョスに生まれたLindsey Abudeiは、ラジオから流れる音楽を子守歌にして眠りについていたため、彼女が耳だけで歌を学んだという事実は驚きではない。両親は音楽に興味津々だった愛娘に、Roberta Flack、The Beach Boys、Stevie Wonder、Sarah McLachlanなど自分たちが好んでいた様々な音楽を聴かせ、Abudeiはそれらの音楽から受けた影響をネオソウルにアコースティックギターのリフを重ねた独自のサウンドの創出に活かしていった。The Jazzcatsのリードシンガーを務め、MIとJesse Jagzのアルバムにフィーチャーされたあと、2013年にデビューEP『Brown』をリリースした彼女は、この作品でRadio France Internationaleの賞、Prix Decouvertesで3位を獲得した。また、2015年にはデビューアルバム『… And the Bass Is Queen』をリリースし、ピュアな歌声とデリケートなピアノ、そしてアーシーなベースラインを組み合わせた魅力溢れるサウンドをさらに押し進めて、ネオソウルにネオヴォイスをもたらした。

 

 

Loradeniz

アムステルダム(オランダ) / イスタンブール(トルコ)

 

 

正式な音楽教育を受けたピアニスト / バイオリニストでもあるプロデューサーのLoradenizは、オランダとトルコで新進気鋭のインディーアーティストとして注目を集めている。トラッドとフォークに影響を受けつつ、エレクトロニックとアコースティックを巧みに組み合わせて不規則な広がりを生み出していく彼女の空間的な音楽の底部には、作曲・制作・サウンドデザインの学士号・修士号を修めた彼女の豊富な知識が確認できる。オランダ・アムステルダムに拠点を置きながらトルコ・イスタンブールで定期的にパフォーマンスをしている彼女は、自分のサウンドをコンテンポラリーなクラシックとミニマル、アンビエントのブレンドと表現しているが、そこにポップとジャズの感覚も持ち込んでおり、それらは、2017年にリリースされたEP『Mara』のデリケートなハーモニーと美しいピアノの旋律や、作家チャールズ・ブコウスキーの作品を引用した歌詞が印象的な「Jello」の魂が込められた情熱的なヴォーカルなどで確認できる。

 

 

lullahush

ダブリン(アイルランド)

 

 

Daniel Coughlanが音楽制作を始めるきっかけになったのは、少年時代に見たテレビ番組『The Old Grey Whistle Test』の中で「Sylvia」を演奏しているFocusだった。それ以来、彼は “ストリート” で音楽スキルを磨いており、13歳からは、Denielが「親友5人が集まってエレクトロギターポップバンガーを作るバンド」と説明するSearch Party Animalや、作曲とプロデュースに携わった「Glow」をリリースしたインディーエレクトロニックユニットÆ MAKなど、複数のプロジェクトを掛け持ちしている。Danielはドリーミーなポップヴォーカルにテレビのサンプルを組み合わせて月夜のようなトリップホップを生み出している。艶のあるコードやダウンテンポなベースラインなどを用いている彼のサウンドアレンジは独自のストーリーを感じさせるもので、そこにヴォーカルサンプルを並べてひとつの大きな感情のうねりを生み出せる才能が、作品全体にソウルフルなアンビエントバイブを加えている。

 

Part 2へ続く