二月 29

EVENT REPORT : RED BULL MUSIC ACADEMY MTL 2016 WORKSHOP SESSION 東京 @RED BULL STUDIOS TOKYO

Red Bull Studios Tokyoで2日間に渡り開催されたRBMA Montreal 2016へ向けてのスペシャルレクチャーの様子をレポートする。

By yuichi NAGAO

 

RBMA Monteal 2016に向け、国内のミュージシャンを対象としたレクチャーが2016年2月13日と14日の2日間に渡って開催された。

 

2年前に開催されたRBMA Tokyoと同じ会場であるRed Bull Studios Tokyoを利用したレクチャーは本家RBMAを疑似体験出来る貴重な機会となった。濃密な2日間の模様のレポートをお届けする。

 

 

■雑多な交流の場としての『学校』、Red Bull Music Academy

 

午前10:30、休日のRed Bull Studios Tokyoの1Fロビーに続々とアカデミー参加者たちが集まってくる。既に見知った顔同士で環が出来たり、初対面同士で緊張しながら自己紹介し合ったり、まさに『学校』という雑多な場ならではの光景が微笑ましい。

 

 

今回のアカデミーには、ハウス、テクノ、ジューク、エレクトロ、ヒップホップ、民族音楽、ノイズ、エクスペリメンタル、ポストロックなど、実にバラエティに富んだ音楽性の参加者が集まった。また、DJやトラックメーカーのみならず、スタジオミュージシャン、サウンドデザイナー、レーベルオーナー、webメディア編集者に至るまで、音楽に携わる様々な人が、有名無名を問わずフラットに『生徒』の立場で参加する。こうした雑多な人材の交流こそがアカデミーの大きな醍醐味だろう。

 

参加者が揃ったところでレクチャーホールに移動し、早速RBMA卒業生であるsauce81と音楽ライターの原雅明とによるレクチャーが始まった。

 

 

■レクチャーⅠ:sauce81 × 原雅明 ~RBMAアカデミーとは~

 

sauce81、原雅明両名は、前者はアカデミー参加者として、後者はジャーナリストとして、RBMAに深く関わってきた2人である。彼らの体験を交え、本家アカデミーに関するガイダンス的なレクチャーが行われた。

 

 

アカデミーは基本的に、1日2本のレクチャーと毎晩のイベントというルーティンで開催される。イベントでは、参加者のスタイルに併せた企画がブッキングされるので、どんな人でも何かしらの発表の機会が与えられる。クラブミュージックだけでなく、一晩中ノイズミュージシャンがセッションを行うようなイベントなども過去には行われたそうだ。

 

レクチャー以外の時間はかなり自由で、開放されたスタジオや機材をいつでも使用できる。そうした時間を生かした制作やコラボレーションもアカデミーの重要な要素だとsauce81は語る。

 

 

「最初の自己紹介では自分の音源をプレイするんですが、そこで全く違う国から来た奴らが自分と近い音楽をやっていたりして、話が盛り上がったり。参加者同士が交流しやすいようにアカデミースタッフもケアしてくれたり、参加者同士が仲良くなるためのちょっとしたしかけみたいなものも沢山用意してくれていましたね」(sauce81)

 

 

sauce81自身、参加した当時は無名だったにも関わらず、ビッグネームの前座としてパフォーマンスしたり、卒業後にも繋がるコネクションを作るなど、良い交流の機会を与えられた事が大きな刺激になったという。

 

 

過剰に海外コンプレックスを抱く必要はない。あくまで対等でフラットに交流出来るのがアカデミーの魅力であり、そこへ自分の強みを生かして参加することの大切さを語ってくれた。

 

 

■レクチャーⅡ:Yosi Horikawa ~良い音とは何か?~

 

ランチを挟み、午後からは同じくRBMA卒業生であるYosi Horikawaのレクチャーへ。

 

フィールドレコーディングを取り入れた繊細な音像で知られるHorikawa氏だが、近年は、家具メーカーと共同でのスピーカー開発プロジェクトなど、『音の出口』への拘りを深めている。

 

そうした経験を生かし、『スピーカーの仕組みとその原理』、『スピーカーの性能の善し悪しとは?』、さらには『良い音とは何か?』に至るまで、音作りを探求していく上で最も根本的な哲学にまで踏み込んでいくレクチャーが行われた。

 

 

「子供の頃から、オモチャを買ってもらう代わりに自分で段ボールでロボットを作ったりして、自分のほしいものは自分で作る感覚は当然のようにありました。その延長じゃないですけど、音の出口であるスピーカーも自分で作ろうと思ったんです」(Yosi Horikawa)

 

 

スピーカーの性能を支える振動板やツイーター、筐体などについて、どのような素材にどのような特徴があるのか? 理想的なスピーカーの形状はどういうものなのか? 普段触れる機会の少ないスピーカーの中身や仕組みについて、具体的な資料やデータを踏まえて解説していく。

 

 

物理的な空気の振動である『音』を、少しでもベターな状態で聴き手の耳に届けるにはどうすれば良いか? その『少しでもベター』に近づけていくための精度を1mm上げるための凄まじい拘りに驚かされる。

 

ともすれば難解でとっつきにくくなるような話も、親しみ易い関西弁のユーモアを交えながら話が進む。Horikawa氏の暖かく誠実な人柄には思わず惹き付けらずにはいられない。

 

スピーカーの性能を1mmでも上げるために、出来ることは可能な限り行うが、最終的には、それをジャッジする『自分にとっての良い音』の基準をしっかり持っておくことが大切だと締めくくられた。

 

 

■レクチャーⅢ:高橋幸宏 × 砂原良徳 ~最前線のレジェンド~

 

初日最後のレクチャーでは、高橋幸宏と砂原良徳の日本のテクノ・レジェンド両名が講師として登場。二人の若かりし頃の様々な経験から、話題のプロジェクト “METAFIVE” 結成への経緯に至るまで、ファンならずとも垂涎のトークが繰り広げられた。

 

 

レクチャー後半からは、METAFIVE新作より『Luv U Tokio』のデモを聴きながら、具体的な曲作りのプロセスについての解説へ。

 

砂原氏の作ったデモ曲をメールでやり取りしながら、そこにメンバーがオーディオデータを足していく形で進んだという共同制作のプロセスが丁寧に紐解かれていく。最小限の足し算にも関わらず、加えられたオーディオ素材が曲のベストな位置に納まり、淡々と完成に向かう様子が非常に興味深く示された。

 

 

「このバンドは誰かに命令されて動くバンドではなく、メンバー各自が自発的に役割を探すバンドなんです」(砂原良徳)

 

 

『クリックに併せてドラムを叩くのは邪道である』という風潮が80年代頃まで残る中、高橋氏はいち早くリズムマシンを導入したり、マシンビートとの同期を行うなど、クロスオーバー感覚や新しいものへの嗅覚がずば抜けており、そしてそれは今なお健在だという事を改めて感じさせられた。そうした感性が、彼らが『レジェンド枠』に収まりきらず最前線で活躍できる秘訣なのかもしれない。

 

 

■レクチャーⅣ:冨田ラボ × 原雅明 ~理想のビジョンを具現化する~

 

濃密な初日を終えて、向かえたレクチャー2日目。

 

この日の1本目は、キリンジやbirdなど、一癖ありながらも洗練されたポップスを生み出し続ける冨田ラボに原雅明が迫るレクチャーから。

 

 

高度なジャズのイディオムを16ビートのポップスに昇華させたSteely Danに大きな影響を受けたという冨田氏は、同バンドの中心人物であるドナルド・フェイゲンと同じく、音楽の細部にまで自らの意図を反映させ、100%の完成度を目指すこだわりを十分に語ってくれた。

 

 

「スタジオミュージシャンを使って制作していくポップスのプロダクションが映画的なアプローチだとすれば、自分のビジョンを隅々まで投影するという意味で、僕の作品は絵画に近い感覚ですね」(冨田ラボ)

 

 

最新プロデュース作であるbirdの『Lush』においては、洗練された和声に加え、ビートのヨレやポリリズムといったリズムアプローチへの傾倒を聴く事が出来るが、それら『リズムのブラックボックス』についての解説は、非常に興味深いものとなった。

 

訛った打ち込みのビートも、ライブでは人力で再現する必要がある。そのためには、そうした『ビートの訛り』を共通言語としてメンバーが了解しなければならない。ともすれば個人の感覚で完結してしまいがちなヨれたビートの気持ちよさに対し、それらへの解像度を高め、『この音は5連符の4番目に』、『元のBPMの4拍子と7拍で1小節となる4拍子のポリリズムで』など、構造的把握と言語化によって共有するためのプロセスが解き明かされていく。

 

 

惜しげも無く手の内をさらしてくれるものの、それを知ったからといって安易にマネの出来るものではない、経験とスキルに裏打ちされた細部に至るまでの圧倒的な拘りに、参加者も多いに刺激を受けたに違いない。

 

 

■レクチャーⅤ:下村陽子 ~強烈な世界観を支える『妄想力』~

 

2日間の最後のレクチャーを締めくくるのは、カプコンやスクウェア・エニックスなどで数々のゲーム音楽を手がけた作曲家、下村陽子氏だ。

 

『ストリートファイターⅡ』のOSTをはじめとする数々の仕事に海外ファンも多い下村氏だが、その創作における真摯で謙虚な姿勢が非常に印象的だった。

 

 

「私は作曲は独学ですし、会社に入ってから手探りで勉強してきました。技術面では他の作曲家さんに敵わない、だったらテクニックではない自分の強みで勝負しようと思っているんです」(下村陽子)

 

 

こう語る下村氏の作曲スタイルは、とにかく曲の世界観へ徹底して没入していくことだという。例えば、悲劇的なシーンに充てる曲を書かなければならない時、物悲しい響きの和音やスケールを用いるなど、作曲のテクニック上でのノウハウはもちろんあるだろう。しかし、それ以上に、その楽曲が表現する『感情』に徹底して入り込んでいき、素直な感情を曲に載せていくことが自分には大切だと語ってくれた。

 

 

自らの感情を追い込んでいくというスタイルは非常にエネルギーを使うことが予想されるが、それを支える下村氏のバイタリティには驚かされる。

 

また、『自分の音楽が一番だ』と信じ、それを貫く精神力と、周囲から与えてくれたチャンスへの感謝の両方が必要だと下村氏は語る。天狗になりつつ謙虚で居続けることこそ、末永く活動を続ける秘訣である、という参加者へのアドバイスとともに、2日間に渡るアカデミーが締めくくられた。

 

 

■レクチャーを終えて

 

最後に、ホールが開放され、RBMA Montreal 2016へのアプリケーション記入の説明を兼ねた、参加者の交流会が行われた。

 

自分たちの音源を良質なオーディオ環境でプレイしあったり、soundcloudやSNSアカウントを交換したり、音楽を通して自然な交流が生まれる。こうした音楽を通じた交流こそ、今回のアカデミーの中で、ある意味最も『RBMAらしい』時間だったかもしれない。

 

素晴らしい講師陣によるレクチャーはもちろんのこと、参加者、環境、あらゆるものが良質なインスピレーションを与えてくれるRed Bull Music Academyの、その一端に触れられた2日間となった。

 

 

 

 

 

yuichi NAGAO

電子音楽を中心に活動する音楽家。音楽理論にも明るく、ダンサブルなクラブミュージックから各種クライアントワークまで幅広く楽曲制作を行う。文筆においては作り手としての立ち位置を生かした構造分析的なテキストを得意とする。