七月 06

RBMA 2016 Montreal:Participants Part 4

Red Bull Music Academy 2016 Montrealの参加者を紹介

By Red Bull Music Academy

 

2016年9月24日から10月28日まで開催されるRed Bull Music Academy Montrealには世界各国から選ばれた70人のアーティストが参加する。アーティストたちはPhi Centreで音楽業界の様々な分野の第一人者たちと共にワークショップやレクチャー、スタジオセッションを消化しながら、モントリオールが誇るトップヴェニューでパフォーマンスを披露する。

 

今回の参加者発表に合わせて、Brad Beatsonが各アーティストのイラストとバイオグラフィーを用意したので、才能ある彼らの横顔を知る参考にしてもらいたい。各アーティストの詳細は追って紹介していく予定だ。

 

Red Bull Music Academy 2016 Montrealには2015 ParisのTerm Twoに参加する予定だった30人のアーティストが含まれている。今年はその30人にモントリオールのために選ばれた40人のアーティストを加えたため、例年の60人よりも10人多い70人が参加することになる。今回はPart 4としてその中の17人を紹介する(順不同)。

 

54:Thingamajicks

https://soundcloud.com/thingamajicks

 

Vinicius Duarteは今頃きっとDeleuze(ポスト構造主義時代を代表するフランスの哲学者)の著書を読んでいるか、Pauline Oliveros(米国の現代音楽/瞑想音楽作家)の作品を聴いているに違いない。もしくはブラックメタルバンドでドラムを叩いているかもしれないし、自身のレーベルSubsubtropicsの運営に関する事務作業を行っているかもしれない。それとも、彼がいくつも抱える別名義のために壮大かつ人工的なサウンドスケープを作っているのだろうか。ロンドンでのアートスクール時代から、現在拠点を構えるリオデジャネイロに移るまでの間に彼はたくさんの名義を使い分けながら活動してきた。捻りの効いたウェアハウス的なサウンドに傾倒したDieckmanns名義やバレアリック的なホリデー感覚を持つThingamajicks名義などを使い分け、Viniciusは変幻自在のトリップ感でクラブのメインフロアに解毒作用をもたらそうとする。ハウスやテクノに対するアウトサイダー的な立ち位置を持ちつつアート・インスタレーションの世界にも手を伸ばしている彼だが、そのサウンドには生々しくも多様で豊かな質感というしっかりとした基盤が存在する。Viniciusのサウンドにトリップしよう。

 

55:Érica Alves

https://soundcloud.com/ericaalves

 

サンパウロ在住のÉrica Alvesは空想家でありながらもしっかりと地に自らの足を着けている。彼女のアーシーな声質は自身の楽器類とダイレクトなコントラストを成し、優美でありながらも地を揺るがすようなドラムマシンや泡立つようなオーガニックさを持つ鍵盤がしっかりとその土台を支えている。それらのサウンドは、すべてザラついたカセットテープ特有の音質のもと録音される(彼女はインダストリアル界のイノベーターであるThis Heatのファンであると同時に、フランスのドリーミーなシンセ・ポップ・デュオAirのファンでもある)。ある時は鎮静的で、またある時はダークさを醸し出す彼女のサウンドは、まるでベッドルームで録音されたデモテープを聴いているような生々しさをリスナーに与える。Alvesはその作品で魅惑的な作風を聴かせる一方、よりダンサブルな領域にも足を踏み入れつつあり、その新たなライブセットではテクノやハウスの構造を取り入れたビートが確認できる。

 

56:Lunate

https://soundcloud.com/lunatemusic

 

ホームタウンであるコロンビアのボゴタを覆う不穏なムードとは対照的に、Manuel CortésによるLunate名義の作品群はそのきらびやかなシンセパターンや心地よいテンポによって陽気な作風を打ち出している。そのメロウなグルーヴと天性のポジティブさはロサンゼルスを拠点にするハウスレーベル100% Silkのカラーとぴったりマッチしており、Lunateは2014年暮れにこのレーベルから『Far Shores』EPでデビューしている。まったくの独学で音楽や制作手法を身につけたというLunateは、MoondogからMarvin Gayeにいたるまで幅広いソングライターたちからインスピレーションを受けており、その影響をキックドラムとハイハットの隙間に観念的に落とし込んでいる。

 

57:iskeletor

https://soundcloud.com/iskeletor

 

Kerem Sevincliのそばには、常に音楽があった。ドラマーの父を持つこのトルコ人プロデューサーは幼少期に買い与えられたシンセとパーカッション楽器を使って演奏を始めており、彼が現在好奇心旺盛な実験主義者として成長したことはごく自然な流れだと言える。生まれ育ったイスタンブールでレコーディングスタジオを運営するSevincliは、ゆったりとしたビートの間に不規則なデジタルサウンドの破片を組み合わせる特徴的なスタイルを確立している。彼は2013年に母国トルコのレーベルTektosagからデジタル作品という形でデビューEPを発表しており、その更に2年後にはポートランドのBoomarm Nationからカセットと7インチでフィジカルリリースも行っている。2016年夏にはInnamind Recordings傘下のサブレーベルBlacklistからEP『Lurker at the Threshold』をリリースする予定。

 

58:Kidä

https://soundcloud.com/kida-kida

 

フューチャーソウル、アヴァンポップ、トラップ&ベースなどを手掛けるプロデューサーKidäはこれらのジャンルをいとも軽々とモダンにハイブリッド化してみせる。かつてはニューヨークで活動するソウルバンドのフロントウーマンを務めていたKidäは、10代を過ごしたロサンゼルスでは数多くのアーティストたちのバックヴォーカルとしても活動してきた。そして、当時結成していたデュオでの活動(現在では解散)と留学を目的にロンドンへと移った彼女は、各地で引っ張りだこの女性ヴォーカリストとなり、現在はヴォーカリストとしての仕事を続けながら、ワールドミュージックやそれらとまったく異なる影響源 − Christina Milian、BjörkそしてSun Raなど − を自身の中で醸成しながら、サイケデリックR&Bというべき音世界を作り出している。風変わりでありながらアシッドでセクシーな彼女の作品は折衷的なエレクトロニック室内楽であり、そこには磨き抜かれたソングライティング、灼けつくようなヴォーカル、そして聴く者を魅了するファルセットが内包されている。

 

59:Denis Sulta

https://soundcloud.com/denissulta

 

数多くの名義を持つHector Barbourだが、彼の作品で最も広く知られているのはDenis Sulta名義だろう。プロデューサー、そしてDJとしてSultaはグラスゴーの新世代の音楽の最前線に立っている。彼の特徴的なハウスサウンドはダンスフロアを意識しているが、傍目にはそれと気付かないほどの繊細なニュアンスも含まれており、それぞれの作品において、彼はエレクトロニックなサウンドの中から感情を引き出そうとしている。彼の進歩主義的な作品群は、Numbers、Dixon Avenue Basement Jams、そしてMister Saturday Nightといったレーベル群から注視を集め、これらのレーベルからリリースを果たしている。また、別名義のAtlusとConrad Hartでは折衷的であると同時にメロディックな作品を手掛けており、複数のエレクトロニック・ジャンルの狭間を巧みに動き回ってみせる。しかし、どんな名義の作品でも、常に進歩主義的であろうとするBarbourの決意が共通項として確認できる。

 

60:Emma-Jean Thackray

https://soundcloud.com/emmajeanthackray

 

Royal Welsh College of MusicおよびTrinity Laban Conservatoire of Music and Danceで学んだ経験を持ち、熟練したトランペッター兼コンポーザーでもあるEmma-Jean Thackrayが手掛ける楽曲は雑食的なサウンドの探求と、現代的な意味を維持しながらも先進的なジャズの間を往復するものとなっている。ある時はDuke Ellington期のビッグバンド・オーケストラ的手法を援用したかと思えば、『Bitches Brew』期のMiles Davisを思わせる様式を取り込み、さらにはMadlib的なアプローチでエレクトロニック・ビートに取り組んでみせる。また他の楽曲ではTony Allenの影響と思しきアフロビートを聴かせている。彼女の多面的だが非凡な作品群は入念に作り込まれた熱性と、ダークで抑制されたミニマリズムの間をシームレスに行き来している。そのアレンジがどんなものであれ、Thackrayが手掛ける音楽は挑戦的であると同時に深いエモーショナルさを持ち合わせている。

 

61:Hyroglifics

https://soundcloud.com/hyroglifics

 

『FACT』誌が選ぶ『2015年に注目すべきドラムンベース・プロデューサー10人』のうちのひとりに名を連ねたHyroglificsの名前を知っている人もいるだろう。この英国出身のプロデューサー/DJは2014年にRinse FMにおいて何度も強烈なセットを披露しており、Critical Musicを拠点に痛烈でプログレッシブなドラムンベースをリリースし続けている。10代からエレクトロニック・ミュージックに魅了されているHarrisは、グライムやジャングル、フットワークなどの要素を易々とドラムンベースの枠組みに取り込んでみせる。また、その低域は陰鬱で、複雑なパーカッションが破壊槌の先端部のごとく打ち付けられている。

 

62:Tay Salem

https://soundcloud.com/taysalem

 

熟練のマルチインストゥルメンタリストであるTay Salemの音楽的ルーツはジャズ、ヒップホップからネオソウル、エレクトロニック・ミュージックまで多岐にまたがる。また彼は上記のジャンル以外にもさまざまな影響を受けながら成長してきた。彼はElliott Smithのようなアーティストの生々しい叙情主義に憧れながら育った一方、ArcaやOneohtrix Point Neverのようなプロデューサーたちの革新的な制作手法にも感化されてきた。University of Warwickでフランス文学の学位を修めたあと、初期の音楽的影響は空間を使って孤独と感情を落とし込む卓越したテクニックとして実を結ぶことになった。最近の彼は新たな地平へと向かいつつあるが、2016年の夏にAlter the Motionよりリリースされる予定のEP『Night Mill』は必ずしも極端な飛躍と呼べるものではなく、Salem自身のネオリベラリズムからの影響も一部に窺えるこの作品では、産業主義と孤独感という彼の作品に共通するテーマがサブリミナル的にその瞑想的な楽曲群に落とし込まれており、その楽曲群は他者(ひとりの女の子、もしくは世界全体)とのぎくしゃくした関係性が生み出す感情に基づいている。

 

63:Daudi Matsiko

https://soundcloud.com/hellodaudi

 

英国生まれのウガンダ人シンガーソングライター/ギタリストのDaudi Matsikoはフォーク性が保たれた精巧でモダンな作品を生み出している。Nick Drakeを思わせる巧みでメランコリックなピッキングはモダンなパーカッションと楽器構成によって熱を帯びていく。そして、意図的かどうかは分からないが、その脆く震えるようなサウンドによってMatsikoのヴォーカルに力強さが与えられる。すべての楽曲における彼の独白的なリリックはその核心をむき出しにしていく。『A Brief Introduction to Failure』、『The Lingering Effects of Disconnection』という2枚のEPを自主制作でリリースした後、MatsikoはNaim Recordsと契約を交わし、2016年初頭にはBlue Note所属のトリオGoGo Penguinと共にツアーを回った。

 

64:About:Blank

https://soundcloud.com/about-blank-5

 

Marco Segatoは趣味として2009年からパーティのオーガナイズを始めたが、すぐにプロデューサーとしての才能に気づき、数年間制作を続けたあと、2014年からトラックの公開を始めた。ミランに拠点を置く彼は様々な名義を使い分けており、本名でメロウな作品を提示しながら、About:Blankではエレクトロにインスピレーションを得たトラックを制作し、友人とのコラボレーションであるAural Perception名義ではテクノを手がけている。激しく打ち鳴らされるフロア向けのトラックからアンビエントに近いトラックまで、Segatoのすべての作品はオランダ人のエレクトロ/テクノアーティスト、Gesloten Cirkel、DJ Spider、そしてクラシック音楽の作曲家であるChopinやBeethovenなど様々なアーティストからの影響の元に生み出されている。どの名義であれ、Segatoは独自のテイストを持ち込みながら、新しい方向性を探り続けている。

 

65:Lamusa

https://soundcloud.com/lamusalamusa

 

Lamusaはひとりの男性だが、彼の音楽を聴けば、機材オタクのミュージシャンが集まったバンドによって制作されたものだと思うだろう。スリージーなシンセを多用した音楽から、1980年代後半の影のあるシンセパッドの音楽、そしてルースなベースラインを用いたスムースでエレガントなアンビエントまで、彼のサウンドには温かみが感じられる。時として艶のあるドラムマシンがリスナーをクラブへと引き込むが、BPMはあくまでスローで、ダンスをしてカクテルをこぼすことはない。オルタナティブなポップミュージックを垣間見るかのような奇妙な印象を与える、捻れているが色気のある音楽だ。

 

66:Philippe Partre

https://soundcloud.com/partremusique

 

Philippe Parteは幼い頃から将来は音楽に携わることを知っていた。音楽の様々なジャンルや可能性を長年に渡り探り続けたあと、彼はその夢を現実としており、フィールドレコーディングとグラニュラーシンセシスをベースにした謎めいたアヴァンギャルドな音楽を生み出している。Partreの最近の作品は電子音響の枠に入れることができるが、新しい領域に踏み込むことや昔受けた影響を作品に組み込むことに積極的で、インダストリアル、フリージャズ、テクノ、そしてブラックメタルさえも取り入れている。

 

67:Beatrice

https://soundcloud.com/beatrice-musique

 

Beatrice Lewisが生み出す音楽は瞑想的で美しい没入感がある。メルボルン出身のヴォーカリスト/マルチインストゥルメンタリスト/エレクトロニック・ミュージックプロデューサーである彼女は、すべてのビートと小説、そしてポリリズムにアーティスティックな洗練性を持ち込んでいる。メロディが散りばめられた厚みのあるシンセにメランコリックな歌声が乗せられる「Grid」や「Beautiful Mind」のようなトラックは、ゆっくりと確実に展開されていく。しかし、DJ/ピアニスト/チェリストでもある彼女の才能はそれだけに留まらない。Mark PitchardやLapaluxなどの前座を務め、オーストラリアのメジャーフェスティバル、Let Them Eat CakeやRainbow Serpentなどに出演した経験も持つ彼女のライブはMCと生ドラムを加えて展開されており、更には「Everything Was At Peace」で幽玄な歌声を披露しているEleanor Dixonなど、オーストラリアのアーティストやミュージシャンたちとのコラボレーションも行っている。また、女性4人で編成されるバンドHaiku Handsではヘヴィなベースのエレクトロニック・ポストパンクを披露している。ひとつの枠には入れられない多才なアーティストだ。

 

68:Kučka

https://soundcloud.com/kucka

 

大学時代、Kučkaは制作中のトラックを仕上げるために心理学のテストを途中退席した。これによって彼女は退学になったのだが、本人はこの体験を「最高に自由な体験だった」と振り返っている。Kučkaはその後、オルタナティブなR&Bスタイルのヴォーカルとキュートでどこか曇ったエレクトロニック・ミュージックの世界に落ち着いており、たとえば、2014年にリリースされた「Divinity」はネオン色の沼地にはまるようなトラックに仕上がっている。また、2015年には「Unconditional」EPでStoney RoadsのBreakthrough Producer of the Yearに選ばれた他、Western Australian Music AwardのBest Electronic ProducerとBest Experimental Actをダブル受賞している他、Andrei Eremin、A$AP Rocky、Cosmos Midnight、そして同国出身のFlumeなどとのコラボレーションも経験している。

 

69:Matilda Abraham

https://soundcloud.com/matildaabraham

 

Matilda Abrahamはティーンエイジャーの頃に音楽が作れなくなるという悪夢をよく見ていた。しかし、サプライズでギターをプレゼントされたことでその悪夢は消え、それ以来彼女は音楽の道を邁進している。ジャズを学び、ジャズバンドでプレイした経験を持つ彼女だが、コンピュータでの音楽制作と出会うことによって、デリケートに組まれたエレクトロニック・ミュージックの世界に入り、2016年に初リリースをした。彼女はインスピレーションを得たアーティストとしてBjörkやFeistなど、ユニークなポップソングライターたちを挙げているが、重ねたヴォーカルと温かいシンセをベースにした「New Ballon」や「Hidden Treasure」などでは、それらの影響がサウンドよりもスピリチュアルな部分に感じられる。その作曲能力と親しみやすいフックを生み出す能力は侮れない。

 

70:Unbroken Dub

https://soundcloud.com/unbrokendub

 

ロシア出身のDJ/プロデューサーDenis SafiullinはUnbroken Dub名義で活動する傍ら、チュメンを拠点にするHot Waxのメンバーとしても活動している。2011年にRawaxからデビューした彼の初期作品群は、ミニマルなリズムの上で非常に魅力的に映える強固で冷たいサウンドを提示している。その後、アナログ機材と様々な作曲スタイルを試してきたSafiullinはオランダのレーベルDelsinに認められ、Basic ChannelやJeff Millsからの影響を感じさせるダビーなトラックと音数の詰まったトラックを行き来している。