六月 29

RBMA 2016 Montreal:Participants Part 1

Red Bull Music Academy 2016 Montrealの参加者を紹介(Part 1/4)

By Red Bull Music Academy

 

2016年9月24日から10月28日まで開催されるRed Bull Music Academy Montrealには世界各国から選ばれた70人のアーティストが参加する。アーティストたちはPhi Centreで音楽業界の様々な分野の第一人者たちと共にワークショップやレクチャー、スタジオセッションを消化しながら、モントリオールが誇るトップヴェニューでパフォーマンスを披露する。

 

今回の参加者発表に合わせて、各アーティストのバイオグラフィとBrad Beatsonによるイラストを用意したので、才能ある彼らの横顔を知る参考にしてもらいたい。

 

Red Bull Music Academy 2016 Montrealには2015 ParisのTerm Twoに参加する予定だった30人のアーティストが含まれている。今年はその30人にモントリオールのために選ばれた40人のアーティストを加えたため、例年の60人よりも10人多い70人が参加することになる。今回はPart 1としてその中の16人を紹介する(順不同)。

 

1:Tide Jewel

https://soundcloud.com/milenashakujofm

 

独学でピアノを学んだプロデューサーのTide Jewelはヴィジュアルアートの教師でもあり、フランス文学からエクスペリメンタルジャズに及ぶ幅広い影響をラディカルなノイズ・サウンドスケープに落とし込んだ作品を生み出している。影響を受けたアーティストにGrouper、Laurel Halo、The Blood Brothersなどを挙げる彼は、マシンを通して人間の声をエモーショナルに表現しており、本人のその声はノイズの世界の中で人間の持つ力を示している。

 

2:Idgy Dean

https://soundcloud.com/idgy-dean

 

神秘的なヨガ行者を感じさせる自称 “フェミニスト・ループ・アーティスト” のIdgy DeanことLindsay Sanwaldは、エモーショナルで力強いビートとは真逆に位置するゆるやかな禅の姿勢も兼ね備えたワンマンサイケデリックロックを展開している。2015年にデビューアルバム『Ominous Harminus』をリリースしたばかりのブルックリン出身のIdgy Deanだが、音楽制作は10代の頃から行っており、Kate BushとNine Inch Nailsに影響を受けてドラム、ギター、ベース、そして作曲を学んできた。この2組のアーティストは一見したところ両極端に見えるかも知れないが、落ち着いて考えてみれば、Deanの音楽は、ダークでありながらも生命を生み出すようなパワーに溢れており、直感に訴える壮大な神秘性を誇っている。トライバルなドラムビートと中域が強調されたドライなギター、そして実体を感じさせないヴォーカルが披露されるそのライブは、ルーパーを経由して表現される感情のシンフォニーと呼べるものだ。人を惹きつけるパフォーマーである彼女のその美しいエクスペリメンタルポップは当然ながら劇伴としても使用されており、最近も『The ETLE Universe』の劇伴曲を担当した。

 

3:Kamron Saniee

https://soundcloud.com/kamron-saniee

 

Kamron Sanieeは正式な教育を受けたヴァイオリニストからエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーへ転身したアーティストで、本人は自分の音楽を “アブストラクト・エクスプレッショニスト・テクノ” と呼んでいる。ペルシャのクラシック音楽からアヴァンギャルドなエレクトロニック・ミュージックまで幅広い音楽に影響を受けてきた彼の作品は、まるで命あるプログラミング言語のようで、デジタルなテクスチャと瞬くようなリズムが豊かなソウルと微妙な音階を駆使したメロディと共にゆらゆらと光を放っている。幼少時からヴァイオリンを学んできた彼は、ニューヨーク、ピッツバーグ、シカゴで有名な奏者に師事しながら技術を磨いてきたが、ベルリンでインターンシップとして働いている時にこの都市が誇るテクノシーンと出会うと、MacBook Proを新たな楽器とし、2015年からニューヨーク市内のDIYスペースやクラブでライブを披露しながら、エクスペリメンタルなコンサートを展開するCT::SWaMで立体音響の可能性を模索している。

 

4:Taskforce

https://soundcloud.com/taskf_rce

 

米国人プロデューサーのTaskforceのハイブ・マインドの中には、サウンド、記憶、アイディアの不協和音が鳴っている。ひねくれた少年時代にThrobbing GristleやAphex Twinを聴いていた彼は、中学校時代から面倒(だが同時に楽しい)Fruity Loopsの習得に時間を費やすようになった。自分のサウンドを「デキストロメトルファン1200mgを摂取したTimbalandが作るテクノ」と表現しているが、彼のサウンドはまさにその言葉通りだ。ただし、彼の音楽はいわゆる「ベッドルームテクノ」とは一線を画しており、ニューヨークのラッパーLe1fにビートを提供した他、Fade To MindのNguzunguzuからリミックスも提供されている。また、2015年にはBoysnoizeと契約し、『Liquid Cooled』EPをリリースしている。

 

5:Your Friend

https://soundcloud.com/dominorecordco/your-friend-heathering-1

 

架空のTVの登場人物からアーティスト名を拝借しているカンザス州出身のTaryn Millerは、そのYour Friend名義での活動に自分の居場所を見出している。彼女自身がギター、パーカッション、ベースを演奏して生み出される、カントリーとエレクトロニック・ブルースのエッセンスとデリケートなヴォーカルハーモニーを加えた伸びやかなアンビエントポップは、英国の大手インディーレーベルDominoの耳に届くことになり、2014年にファーストEP「Jekyll/Hyde」、2016年1月にはコラージュ的なテクスチャの新境地を切り拓いたデビューアルバム『Gumption』がリリースされた。2016年の夏はKurt Vileとツアーを回っている彼女だが、映画音楽とサウンドインスタレーションの制作も視野に入れている。音楽制作にマルチメディアなアプローチを持ち込むその姿勢は実にモダンだ。

 

6:Suicideyear

https://soundcloud.com/suicideyear

 

ルイジアナ出身のJames Prudhommeは米国南部のヒップホップシーンの外縁にひとりで立つ異端児だが、本人はそのポジションを気に入っている。彼のスタイルはDJ Paul、Juicy J、Zaytoven、Lex Lugerからの影響があからさまだが、同時にそこにエクスペリメンタルでアンビエントなエッジを持ち込もうとしている。彼のビートはYung Lean、Rome Fortune、Antwonといったラッパーに注目されており、2013年にリリースされたインストゥルメンタルオンリーのミックステープ『Japan』はすぐにカルトクラシック的な扱いを受けることになった。また、Daniel Lopatinが率いるSoftwareからリリースした「Remembrance」EPは彼のエモーショナルなサウンドスケープを更に推し進めた作品となり、美しい広がりと強烈なビートのバランスを非常に見事な形でまとめ上げている。

 

7:Nicholas G. Padilla

https://soundcloud.com/parrot-jungle-95

 

Parma Boy、DJ Club 1235、Parrot Jungle 95など様々な名義を使い分けることで知られているマイアミ出身のプロデューサー/DJのNicholas Padillaはこちらの手の間をスルリと抜けていくような、いたずら心のあるつかみ所のないアーティストだ。彼が作り出すアヴァンギャルドなグライムとテクノの大半はリリースされていないが、それらが世界に向けて発信される際は、サブリミナルメッセージとシークレットコードが埋め込まれる。2016年に匿名でリリースした作品群は友人や家族のみに向けたもので、彼のプロモーショントラックにアクセスするためには、その音楽の中からヒントを見つけなければならなかった。このようなマインドゲームを楽しんでいる彼だが、サウンドの深淵に辿り着く努力もしっかりと重ねており、その濁ったサウンドスケープと金属的なリズムは、ウェアハウスレイヴの轟音やバーチャル熱帯雨林の湿度を想起させる。

 

8:Swisha

https://soundcloud.com/djswishasweet

 

Juke Bounce WerkのメンバーであるSwishaはシカゴのフットワークを地元ロサンゼルスに持ち込むべく、毎週パーティを開催している。また、プロデューサーとしてもオリジナルなフットワークを生み出すことに成功しており、全米のアンダーグラウンドダンスカルチャーの要素を取り入れながら、Crystal WatersやKelelaのサンプルをユニークな形で使用しており、「Ass Like That She was Born 2 Chat」では、Lil’ KimとNelly Furtadoのサンプルを使用している。Swishaのパーカッションとメロディのセンスは彼の幼少時代にルーツを見出せる。ミュージシャンだったSwishaの父親は、お座りができるようになると同時に彼にドラムを学ばせたのだ。その教育もあってか、彼は順調に成長を続けており、2014年と2015年に2枚ずつのEPをリリースしてSoundCloud上で多くのフォロワーを獲得すると、デビューLPもリリースした。2016年4月にDome of Doomからリリースされたその『Perfecto』は、これまでのキャリアを通じて最も色鮮やかな作品に仕上がっている。

 

9:Mirac

https://soundcloud.com/mirac-1

 

オーストリア出身のMiracことSebastian Watzingerは2009年に同国のプロデューサーFeuxと組んでウィーンのレーベルDuzz Down Sanからデビューアルバム『Mastaplan』をリリースし、MC Miracとしてキャリアをスタートさせた。また、このレーベルからはMirac名義で「Mirac & The Miracles」(2010年)、「Was Willst Du Tun, Fisch?」(2014年)の2枚のEPをリリースしている他、Poliracのメンバーとしてアルバム『Kreuzword』もリリースしている。現在はテレビと映画のサウンドデザイナーとして働いているMiracだが、キャリアを通じてMCよりもビートメイクに力を入れており、今も忙しいスケジュールを縫って制作を続けている。2014年にはオーストリア出身のサッカー選手David Alabaに捧げる「Alaba」がバイラルヒットとなり、英国のラップシーンから注目され、Lady Leshurr、Paigey Cakeyなどのアーティストたちのために楽曲を提供することになった。予想不可能なMiracのざらついたビートは両アーティストにはパーフェクトで、Miracのトラックは、たとえば「Oh Oh」ではピッチダウンしたヴォーカルに雑なストリングスを組み合わせるなど、常にサプライズに満ちている。

 

10:Schmieds Puls

https://soundcloud.com/schmiedspuls

 

ウィーン出身のMira Lu Kovacsは、自身が率いるバンドSchmieds Pulsで作曲とレコーディングを担当しながら、作曲法、歌唱法、呼吸法についてのレッスンも行っている。幼少時から音楽に親しんできた彼女は、自分で勝手に作った言語で歌い、それをカセットテープに録音していたが、その後は合唱団や様々なジャンルの複数のプロジェクトへの参加を経て、オーストラリアの東海岸を6週間に渡りツアーした経験も持つ。尚、当時アントン・ブルックナー私立音楽大学でジャズ歌唱を学んでいた彼女は、大学側がツアーで授業を休むことを認めなかったため大学を中退したが、彼女のその反逆精神は本人が「予想不可能な展開を目指しているアコースティックポップ」と称するその音楽の中にしっかりと感じられる。

 

11:Etyen

https://soundcloud.com/etyenmusic

 

作曲家・プロデューサー・サウンドデザイナーとして活動するEtyenは多才なアーティストだ。しかし、ベイルート出身の彼の作品群には「非常にエモーショナル」という筋が1本通っている。最も影響を受けたアーティストのひとりとしてSigur Rósを挙げているEtyenのほぼすべての作品では、そのSigur Rósが得意とするスウィープしていく荘厳な展開を聴くことができる。Etyenは自分のサウンドを “インディーなエレクトロニカのような音楽” と表現しているが、これは決して的外れな表現ではない。積極的にコラボレーションを行っているEtyenはエレクトロニックとアコースティックを組み合わせることを得意としており、ヴ旋回するように展開でリスナーの感情を盛り上げていく彼の作品には、ヴァイオリン、ヴォーカル、そして自身が演奏するギターが盛り込まれることが多い。

 

12:Selfir

https://soundcloud.com/selfir-498563487

 

南アフリカ出身のプロデューサーLuc Veermeerは、ケープタウンを代表する音楽制作デュオ、Christian Tiger Schoolのひとりだ。2015年にリリースされたChristian Tiger Schoolのデビューアルバム『Chrome Tapes』は、Madlibからの影響を取り入れつつも、LAのビートシーンからストレートなトランスとテクノの推進力を活かした方向性に舵へと切っている。一方、Veermeerのソロ名義であるSelfirは、膨張したベースとレイヴ的なシンセのテクスチャを用いながらスローで瞑想的なStones Throwスタイルのヒップホップを生み出している。ArcaやHaxan Cloakのようなトラップ的な要素にアンビエントなスタイルを組み合わせるSelfirの音楽からは、Kanye Westの『Yeezus』からの大きな影響が聴き取れる。デュオとしてもソロとしてもリリースは数枚程度だが、Veermeerの未来は既に明るいと言えるだろう。

 

13:Shake It Maschine

https://soundcloud.com/simpig

 

9歳からトランペットを学んでいるYoan Jaquenoudは以前から音楽制作を行っていたが、20歳の時にフェスティバルでエレクトロニック・ミュージックに出会い、この音楽を自分のクリエイティブな情熱の対象に据えることになった。現在Shake It Maschine名義で活動しているスイス出身のプロデューサー/DJのYoanの作品群は、シカゴ産フットワークのつんのめるリズムを多用しながらも、それ以外からの影響も感じさせるもので、スムースでメロディックな作品も存在する。2015年にはArgent Saleから同国出身のプロデューサーMr.Pigmanとのユニット、SIMPIG名義でアルバム『Strangers』をリリースしている。

 

14:Yung Veerp

https://soundcloud.com/yungveerp

 

Vincent Ruizはダブルベース奏者として活動する傍ら、マシンファンクのプロデューサーとしても活躍している。バーゼル音楽院で正式な音楽教育を受けたあと、Dansk Rytmisk Musikkonservatoriumで演奏の修士号を修めた彼が率いるアコースティックバンドPlaistowは米国の初期ミニマリズムと4x4のテクノを再解釈した音楽を生み出している。このバンドで数枚のアルバムのリリースを重ね、モントルー、ロッテルダム、ロンドンなどの著名なジャズフェスティバルをツアーで回ってきたRuizだが、ソロのYung Veerp名義ではエレクトロニックな作風に挑戦しており、自室のスタジオで行うハードウェアジャムを4トラックのカセットレコーダーに落とし込むという手法で制作活動を行っている。バンドもソロもRuizのミュージシャンとしての確かな耳と、Aphex TwinとSteve Reichなどに代表される静的なアブストラクトな作風への敬愛が感じられる。

 

15:Pan Daijing

https://soundcloud.com/pan-daijing

 

音楽と芸術の境界線があやふやな上海のシーンの最先端に位置するPan Daijingの音楽はダークなノイズとシネマティックでアトモスフェリックな作風を用いながら、Morphosis的な不気味なドローンと捻れたビートを生み出している。彼女はソニック・インスタレーションの展示やアートパフォーマンス/ダンス用の作曲を手がけているが、Noisekollnからカセットテープをリリースしている他、Bedouin RecordsからEPのリリースも予定されている。現在は自身のヴォーカルと3台のモバイルスピーカーを中心に据えたサウンドパフォーマンスプロジェクトのコラボレーションに携わりながら、映画やファッションショーのサウンドトラックの制作を行っている。1980年代のインダストリアルミュージック、哲学、中国の少数民族とチベットの音楽などに影響を受けている彼女は、寺院や宗教儀式のフィールドレコーディングを日常的に行っている。

 

16:Keita Sano

https://soundcloud.com/keitasano

 

Keita Sanoは岡山県出身のアーティストだが、次々と生み出されるハウスとテクノの限界点を探る彼の作品群は、ニューヨークのMister Saturday Nightやカナダの1080pをはじめとする様々なレーベルを通じて世界各国のリスナーの元に届けられている。ジャズファンの父親の音楽センスに影響を受けつつ、兄からはエレクトロニック・ミュージックの教えとMPC1000を受け取ったSanoは、そのMPC1000を使って音楽制作をスタートさせた。多種多様な音楽に触れてきた彼の作風は、ディープハウスからホーンやヴォーカルサンプルを使ったより幅のある音楽までバラエティに富んでいる。ひとつのジャンルやテンプレートに縛り付けられることを拒否するSanoは今日も新しい音楽を生み出している。

 

Illustration: Brad Beatson