九月 22

NY Music Logo (Part 2)

2000年代から現在までのNY音楽シーンを代表するロゴデザイン群とその背後に潜むストーリーを2パートで紹介する

By Ali Gitlow

 

約2年前、我々はNYの音楽シーンを代表する象徴的なロゴデザインの数々をAからZまで網羅する記事を全3回(Part 1Part 2Part 3)に分けて掲載した。前回は1960年代~1990年代の多様性に満ちたNYの音楽シーンを代表するロゴデザインを紹介した。今回は2パートに分けて、2000年代から現在までのモダンなレーベルやコレクティブのデザインを取り上げ、そのバックストーリーを追っていく。

 

NY Music Logo Part 1はこちら

 

Mixpak

 

 

Popcaan、Murlo、Sissy Nobby、Jubilee、Vybz Kartel、Palmistryなど多士済々のタレント陣をロースターに抱えるレーベル〈Mixpak〉は、“brukking out”(ジャマイカのパトワで「無軌道で反抗的」という意)なサウンドを押し進めている。2009年にプロデューサーのDre Skullによってブルックリンで立ち上げられたこのレーベルは、カリビアン風ダンスホール/リディム/クラブ・ラップ/バッシュメント的な斬新なトラックによって、ジャンルの境界線と障壁を取り払ってきた。ウィリアムズバーグにある一流の設備を備えたスタジオで、彼らはソングライターたちとアイディアを交換し、所属アーティストたちを大事に育てながら世界中のダンスフロアを破壊するフレッシュでパワフルなトラック群を送り出している。

 

レーベル名を決めるにあたり、DreはEric B & Rakimが1987年に発表したアルバム『The Mixpak Elpee』に着想を得た。「厳密に意味を限定しない名前が欲しかった。レーベル名に意味を持たせすぎてしまうと、リリースされる作品やレーベルの存在感が制限されてしまうんじゃないかと思ってね」とDreは説明する。また、単純な話、彼は〈Mixpak〉という文字の並びが気に入っていた。そこで、Dreは何人かのアーティストに依頼してロゴ案を提出してもらうことにしたが、数ヶ月間に渡って大量のスケッチをチェックしたあとも、一向にピンとくるものがなかった。そして、〈Mixpak〉のファーストリリースがロゴなしのまま進行していたため、一刻も早くレーベルロゴを決定する必要に迫られ彼は、本来デザイナーではないにも関わらず、自ら手を動かしてロゴを考えてみることにした(本人は「俺のデザインスキルが限られていたからこそ、どんなロゴが可能なのかがはっきり見えたってのは触れておくべきことだね」と説明している)。

 

最初は楽譜のようなアブストラクトで音楽的なロゴにすることを考えたDreだったが、結局、より普遍性を与えたいという理由から、すべて大文字のHelvetica Neueを用いてロゴを構成した。「 “今っぽさ” に縛られ過ぎないようにしたかった。というのも、俺は長年続くブランドと会社を作りたかったからね。レーベルの名前とロゴについては、大企業のブランドロゴのような感覚と機能を持たせたいと考えた。つまり、そのロゴの形状からじゃなくて、見かける回数や見た時の状況によってイメージが生まれるロゴにしたかったのさ」とDreは語る。この着想は上手く機能し、〈Mixpak〉のリリース群に対する容易なカテゴライズを回避すると同時に、様々なヴィジュアルスタイルの適用も可能にした。ロゴをあえて抑制された意匠としたことで、各アーティストの美学を邪魔する不安もない。Dreは「むしろ、アートワークやアーティストの文脈の中でこのロゴは程よく控えめな存在感を放っている」と説明している。

 

 

Other Music

 

 

アンダーグラウンド/レア/エクスペリメンタルなサウンドを専門に取扱うレコードショップ〈Other Music〉は、1995年にグリニッジ・ヴィレッジの中心部でスタートした。当時はTower Recordsの旗艦店が通りを挟んだ真向かいに位置していた。これは個人経営の小規模店舗のオーナーの大半がパニックに陥るような状況と言えたが、〈Other Music〉の設立者たちはTower Recordsへの当てこすりとしてこの店名を選んだ。ショップの共同設立者のひとりJosh Madellは次のように説明する。「自分たちが取扱うセレクションを高らかに声明したんだ。僕らはメインストリームの商品は置かない — 僕たちは別の音楽(other music)が好きなんだ — ってメッセージさ」

 

Madellと彼のチームは、東4番街通りに面した3つの大きな窓にこの新しいビジネスの存在を知らしめる巨大なステンシルロゴを施そうと考えた。彼らは互いに膝を突き合わせながら、サイケデリックなヴァイブを感じさせるデザイン案を練った。「Spacemen 3のバンドロゴを参考にしたフォントをクラシックな楕円の中に入れた。トリッピーでレトロフューチャーなルックスだけど、僕らの一番好きなバンドへ言及したいという思いがあった」とMadellは語る。また、そのカラーには地元NYのNBAニックス、MLBメッツを参考にしてオレンジとロイヤルブルーが選ばれた(〈Other Music〉は別のカラーを採用していた時期もある)。

 

 

 

“トリッピーでレトロフューチャーなルックスだけど、僕らの一番好きなバンドへ言及したいという思いがあった”

Josh Madell

 

 

 

〈Other Music〉は、ニューヨーク大周辺に『Sex and the City』ファンたちが大挙して押し寄せるようになった2000年代初頭のジェントリフィケーションを生き抜き、Tower Recordsの旗艦店が閉店した2006年も乗り越えた。今も〈Other Music〉は豊富な知識を持つスタッフたちが入念にセレクトした様々なジャンルのヴァイナル、CD、書籍などを取り揃えつつ、定期的にインストアイベントを開催している。彼らはStarbucksやChase Bankの波が押し寄せるグリニッジ・ヴィレッジの中で、この地区のカウンタカルチャー的なルーツに忠実であり続けている。

 

 

Output

 

 

成長著しいウィリアムズバーグに巨大なナイトクラブが出現するのは時間の問題だったが、その期待は2013年に〈Output〉がオープンしたことで具現化した。Wythe Hotelの隣に位置し、ウォーターフロントにもほど近いこのクラブのメインルームは450名以上のキャパシティを誇る。設立者たちの「Output is open to anyone, but is not for everyone(Outputは誰でも入れるが、万人向けではない)」というポリシーは、マンハッタンの他の同規模クラブとは異なり、ボトルサービスよりもワールドクラスDJたちのプレイを楽しみたいクラバーたちの要望に応えることを可能にしている。

 

このクラブは、経営について公に語らないという姿勢をオープン以来崩していない。しかしながら今回の取材に際し、彼らはこのクラブのロゴデザインをデザイン事務所Common Spaceに所属するJon Santosに依頼したことを明かしてくれた。ブランディングの専門家Santosは、〈Output〉の首脳陣たちはロゴのデザインだけではなくこのクラブの包括的なデザインを依頼してきたと説明する。その発注内容は、店舗名の考案やロゴデザイン、ウェブサイトのスタイルガイド、ソーシャルメディアチャンネル、フライヤー、内装など多岐に渡った。「これらのデザインは数年間繰り返し使用されることは分かっていたので、ロゴよりもデザインシステムを重視しました」とSantosは説明する。

 

ロゴに関しては、Santosはベルリンのテクノシーンのような雰囲気をブルックリンにも持ち込もうと考えた。Santosは「アナログテクノロジーを使用したかったので、アナログメディア、モノクロの顕微鏡写真、初期のコンピューターで用いられたパンチカードにインスピレーションを得ました。つまり、ノスタルジーではなく、繊細さや抽象性をアピールするローファイテクノロジーを参考にしたんです」と説明する。彼はまず、かつてオランダのグラフィック・デザイナーWim Crouwelが1974年に考案したフォントFoundry Gridnikを使い、そのあとで “O” の文字の中央を塗りつぶすなど、いくつかのカスタムエディットを施した。SantosはFoundry Gridnikの角張った形状が〈Output〉の建築的意匠やサウンドシステムを連想させる点を気に入っている。デトロイト出身のSantosは、自分のルーツにゆかりのあるアートフォームをNYの地で広めるビジネスに参加できたことを誇りに思っている。

 

 

Proibito Records

 

 

2013年に設立された〈Proibito Records〉は、NYで最良のレフトフィールドテクノとハウスを生み出しているレーベルだ。〈Proibito Records〉は以前Mister Saturday Nightのファーストリリース「Mad Disrespect」を手がけた若きDJ/プロデューサーAnthony Naplesによって設立された。Local ArtistやHank Jackson、Huerco S.などの作品の他、Naples自身もProibito名義で作品をリリースしており、その多様性に満ちた作品群は特定のジャンルにカテゴライズするのが難しい。彼らはパーティチューンとチルアウトなベッドルームトラックの両方で高いスキルを見せつけている。

 

〈Proibito Records〉をスタートさせる際、Naplesはレーベルロゴのデザインを外注するつもりはなかった。「僕は、自分が関わる物事についてあまりシリアスに捉え過ぎないようにしている性質でね。大層なロゴを持つなんてことはWarner BrothersやSonyなどの大企業がやることだろうと思ってたんだ」とNaplesは語る。しかし、レーベルのファーストリリース、Royal Crown of Sweden「R.E.G.A.L.I.E.R. EP」が好調なセールスを記録すると、Naplesの友人でグラフィック・デザイナーのGabriel Berriosは正式なレーベルロゴを作るべきだとNaplesに促した。そこで、Berriosが数年前に学校の提出課題として制作した円形のモチーフに着目した彼らは、それを基に手を加えていくことにした。文字だけでも十分なヴィジュアルアピールができる円形のポテンシャルが気に入っていたBarriosは、都会的で分かりやすいデザインながら、ハードな印象を与えないロゴを望んでいた。また、Naplesもいわゆるロゴ然としたデザインは望んでいなかった。「エレクトロニック過ぎず、ラフ過ぎす、かといって牧歌的でオーガニックなものにもしたくなかった」とNaplesは説明する。

 

円の中に入れるフォントにはカスタムのストレッチ処理を施したHelvetica Lightが用いられた。これは、Berriosがフォントの持つ固さを軽減し、より深夜の祝祭性に相応しいオーラを求めた結果だ。「視認性の高いロゴだと思う。モダニズム的な伝統に従っているけど、実際の構成は非常に簡潔で、複雑な要素はほとんど入っていない」とBerriosは語る。このロゴは、円周上部に並べられたレーベル名は固定だが、下半分は他の文字列に入れ替えられるようになっている。しかし、おそらく最も重要なのは、このロゴがリリースしてきた作品群で掘り下げているヴィジュアルイメージにしっかりフィットしているという点だろう。「僕らのレーベルからリリースされている音楽は主に都市部で生まれたものだし、このロゴはある意味そこを反映していると思う」とNaplesは語る。また、Berriosもロゴが作品のリリースされる時間や場所を反映できるのは良いことだと考えている。「僕はロゴに “タイムレス” な要素をあまり求めていない。ロゴが時代遅れになって古びた雰囲気を出す方が面白い」とBerriosは説明している。

 

 

Que Bajo

2人のDJ、Uproot AndyとGeko Jonesが手がけるパーティ〈Que Bajo〉は「NYでナンバーワンのトロピカル・ベース・パーティ」と呼ばれている。ベース・ミュージックのムーブメントが世界的に広がる中、彼らのパーティは伝統的なラテンアメリカ/アフリカのリズムをより現代的なエレクトロニック・サウンドと巧みに融合させている。ちなみに〈Que Bajo〉というパーティ名はドミニカの土着ダンスミュージック "バチャータ" のシンガー、Antony Santosのアドリブから着想を得たものだ。

 

Uproot AndyとGeko Jonesの2人は、〈Que Bajo〉という2つの単語の意味は、国や言語によって多様な意味合いを持つもので、発音のアクセントをどこに置くかによっても意味が異なってくるとしている。「『調子はどう?』みたいな意味にもなり得るし、『こいつはもの凄いベースだ』という感嘆を表す意味にもなり得る。あるいは、何か卑猥な言葉を聞いたときの反応として使われることもあるね」

 

雄鶏のシルエットにマラカスの脚を加えたロゴは、彼らの友人だった故Debbie Silvaによってデザインされたものだ。このロゴが最初に登場したのは、2008年に開催された第1回目の〈Que Bajo〉のフライヤーだった。雄鶏はラテンアメリカ文化を象徴するアイコニックなイメージであり、このパーティにふさわしい動物だった。「プエブロ(編注:メキシコ北部から米国南西部における集落、およびそこに住むインディアンの総称)のロマンティックなアイディアが、都市に住む人々の中に眠るルーツを呼び起こすんだ。この雄鶏は、言ってみればNYのナイトライフに目覚めを促すような存在なんだ。この都市には、知られざる音楽がまだまだたくさん眠っている。僕らがやっているのはエレクトロニック・ミュージックの新しい形式だけど、そこには深い民族音楽的ルーツがあるのさ」とAndyとGekoは語る。このロゴをデザインしたSilvaは、彼女がこのロゴを完成させた翌年に交通事故で他界した。しかし、〈Que Bajo〉は彼女の貢献を讃え、彼女のオリジナルデザインを活かしたまま他のデザイナーたちにアレンジしてもらうことにしている。

 

現在、〈Que Bajo〉の専任グラフィックデザイナーは、Diego Gutierrez(aka Talacha)が務めている。彼は、AndyとGekoが提案する「El Gallo Azteca(アステカの雄鶏)」というイメージを基に、Gutierrez自身のメキシコ的ルーツを示唆するコラージュを施している。「もともとのアイディアは、音楽のリミックスのように、伝統的なものに新たな意味を持たせるというものだったんだ」とGutierrezは説明する。メソアメリカ(=中南米地域の古代文明)的な神話性を図案化しつつ、活き活きとした線画とテクスチャーを組み合わせたこのロゴは、〈Que Bajo〉の2人がプロデュースやDJで見せる繊細さをほのかに暗示している。Gutierrezが続ける。「〈Que Bajo〉は、僕の世界を捉え方をサウンドに置き換えて示しているパーティなんだ。様々なルーツをバックグラウンドに持ち、時に文化的価値観に葛藤を抱えながら肉体と精神という2つの世界を生きている僕という人間のね」

 

 

Qween Beat

 

 

NYで毎週開催されているヴォーギング・バトル『Vogue Knights』で長きに渡りレジデントDJを務めてきたMikeQは、現代のボールルーム・ハウスを代表するグローバル・アンバサダーとして広く認識されている。2005年、彼は自分のネームバリューを高めるためのプラットフォーム〈Qween Beat〉を立ち上げ、その後、20人もの同じ志を持つDJ/プロデューサー/MC/パフォーマーらを擁する正式なレーベルにまで発展させた。このデス・ドロップ(編注:ボールルーム・ダンスの代表的なレパートリーのひとつ)の帝国はDvoli S’vere、Cakes Da Killa、Byrell the Greatといったアーティストたちによる楽曲を集めた初のコンピレーション『Qweendom』を間もなくリリースする予定だ。

 

2012年、MikeQは〈Qween Beat〉には所属するミュージシャンたちを表現するような力強いロゴが必要だと考えた。数多くのデザイナーに協力を仰ぎつつ、自分でもアイディアを練ることにしたMikeQだったが、どれひとつとして自分のイメージにはフィットしなかった。「王冠やスピーカー、ヘッドフォンのケーブル、さらには舌などをモチーフにしたロゴ案もあったんだけど、どれも良いアイディアには思えなくてね。ドープで、ある意味ニュートラルなロゴが必要だったんだ」と振り返る彼は、2013年に友人のプロデューサーSinjin Hawkeと共にマドリッドのパーティを訪れた際に、ロゴに関する悩みを彼に打ち明け、2人でロゴを考えてみようという結論に辿り着いた。「力強くアイコン的で、比較的シンプルで飾り気のないものにしたいという意見は共通していた。だからすぐにアイディアが生まれたよ」とHawkeは説明していた。

 

 

 

"2012年、MikeQは〈Qween Beat〉には所属するミュージシャンたちを表現するような力強いロゴが必要だと考えた"

 

 

 

都合のいいことに、Hawkeは、父親が1990年代初頭にコンピュータ会社Silicon Graphicsで働いていた関係で、子供の頃からそのオフィスのCGIソフトウェアで遊んでいた経験があった。そのため、彼の記憶にはその企業のロゴ — 等角図法で描かれたチューブ状の立方体 — が深く刻まれており、たまにデザイン作業をする際によくその記憶を参考にしていた。

 

Hawkeの幼少期のその記憶は、〈Qween Beat〉のロゴ制作にも影響を与えた。彼は建築用の描画プログラムを用いてロゴのデッサンを行い、ベクタを使用してポストプロダクションを仕上げた。「僕にはモダンなテクノロジーを取り入れてロゴをデザインしたがるところがあってね。構成という点から考える最も魅力的なロゴは、単色で明確なもの、3色を使用した美しいもの、遠くから見た時の視認性が高いもの、様々なプラットフォームでの応用性が高いもの、そして左右のバランスが優れたものだと思う」とHawkeは説明する。当然ながら、あらゆるロゴに求められる最も重要な要素は視認性だが、この点について、MikeQはある笑い話を打ち明ける。「以前Facebookで出回ったポルノビデオがあって、それはアトランタのクラブのトイレで撮られたものらしいんだけど、その映像には大きな〈Qween Beat〉のステッカーがばっちり映っていてね。『最高のプロモーションだ!』って思ったよ(笑)」

 

 

The Rub

 

 

2002年以来、ElevenとAyres、そしてCosmo Baker(2012年に脱退)は、マンスリー・パーティ〈The Rub〉を通じてブルックリンのオーディエンスにハウスパーティのヴァイブスを届け続けてきた。彼らが最も得意とするのはヒップホップだが、ElevenとAyresは常にR&B、ディスコ、ファンク、ソウル、そしてよりモダンなサウンドを自分たちのセットに組み込んでおり、ミックステープやポッドキャストも定期的にリリースしている。彼らのパーティに一度でも顔を出したことがある人なら、彼らがM.O.P.「Ante Up」やLauryn Hill「That Thing」などのクラシックをプレイした時にシンガロングしたくなるあの気持ちは、ダンスフロアの究極の多幸感としか説明できないという意見に同意するはずだ。「女の子が遊びにきてダンスしたくなるような楽しいパーティをクリエイトすれば、男たちは勝手についてくるってもんだろ。〈The Rub〉のアプローチはこの基本に忠実なのさ」とAyresは語る。

 

ElevenとAyresは、このイメージにぴったりのロゴが必要であることをパーティを立ち上げた時点で認識していた。急速に成功を収めた〈The Rub〉は定期的に開催されることになったため、彼らはポスターやフライヤーで一貫したイメージを打ち出す必要にかられた。Ayresは元ルームメイトのグラフィック・デザイナーJosh McFarrenに声を掛け、ヒップホップ的でありながらマッチョでアグレッシブになり過ぎないロゴデザインをリクエストした。当時、McFarrenは、NYのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ(SVA)で学ぶかたわら、ディープハウスのDJ/プロモーターとして活動していたため、〈The Rub〉のロゴ案は、当時の代表的なNYのハウスレーベル、Naked Musicのリリース群のアートワークから大きな影響を受けることになった。実際、彼が提案したロゴにはNaked Musicのコンピレーション『Carte Blanche』と同じフォントCandiceが用いられていた。「〈The Rub〉という名前のパーティのフライヤーデザインにおいて、僕が目指した最大のゴールはセクシーなイメージを打ち出すことだった(編注:Rubには「擦る、すり合わせる」などの意味がある)。70年代のソウルやディスコのスタイルを想起させつつ、少しモダンなアップデートを加えたものにしようとした」とMcFarrenは振り返る。

 

曲線美を活かしたMcFarrenのデザインは、ヒップホップのパーティトラックのサンプルに使用されている古いディスコやR&Bの12インチのジャケットを連想させたため、AyresとElevenの2人もすぐに気に入った。また、このロゴはAyresとElevenがフライヤーに使っていたイメージ素材 — ジャマイカのグラフィックアーティストWilfred LimoniousのドローイングやSalsoulのレコードジャケットなど — ともぴったりフィットしていた。〈The Rub〉のロゴはこれまでに他のアーティスト(グラフィティ界のアイコンStephen “ESPO” Powersなど)によって別のヴァージョンが作られることもあったが、ElevenはMcFarrenが手がけた初代ロゴが今も古びていないことに感謝している。「なんだかんだ言って、結局はこのクラシックなロゴに戻ってしまうんだよ。今でもすごく良い出来に見えるからね」とElevenは語る。また、AyresはMcFarrenのグルーヴィでありながら安っぽくないデザインが〈The Rub〉の初期の成功を後押しし、その後に続く成功の基礎を築いてくれたと考えており、「このロゴの存在がなければ、〈The Rub〉は14年も続くパーティにはならなかったと言っても過言ではないね」とコメントしている。

 

 

RVNG Intl.

2004年にMatt Werthというひとりの音楽マニア(本人は「コズミック・ディフューザー(宇宙の拡散器)」と名乗っている)によって設立されたレーベル〈RVNG Intl.〉は、今日に至るまでブルックリン独特のインディペンデント精神をキープしている。アヴァンギャルドに傾倒したレーベルカラーを持ち、真のオーディオマニアたちを満足させることにコミットしている〈RVNG Intl.〉は、Blondes、Hieroglyphic Being、CFCF、Holly Herndonなどによる傑作を次々と世に送り出している。また、〈RVNG Intl.〉は過去の名作のリイシューにも熱心に取り組んでいる他、現代のミュージシャンと伝説のパイオニアによるコラボレーションLPシリーズFRKWYSも手がけており、FRKWYSはリスナーからの尊敬と支持を勝ち取っている。その実験精神に溢れた作品群はもちろんだが、このレーベルの重要な特色として述べておかなければならないのは、彼らのリリースするヴァイナル/カセット/グッズ類などの入念なアートワークだろう。文字を型押ししたパッケージや手押しスタンプによるタイポグラフィ、スリーブに封入されるインサート、更にはステッカーに至るまで、そこには一貫してイノベイティブなデザインが施されている。

 

 

 

“このデザインは、Kevinの魔法のカバンから飛び出してきたものなのさ”

Matt Werth

 

 

 

これらの鮮烈なデザインの大部分は、デザインスタジオWill Work for Goodを経営するKevin O’Neillの優れた才覚による賜物だ。彼は非常に多様性溢れる〈RVNG Intl.〉のリリース群のアートワークのほとんどを一手に引き受けており、Tim Sweeneyの〈Beats in Space〉のロゴも手がけている(ちなみに、Matt WerthはSweeneyと共にレーベルBISを運営している)。O’Neillは、Werthが2000年代初頭に運営していたレーベルFile-13でも仕事をした経験があり、そこで培われた絆はやがて2007年以降使用されている〈RVNG Intl.〉の現行ロゴの誕生に繋がった。とはいえ、この2人の共同作業がビジネスライクなものに終始したことはこれまで一度もない。O’Neillは「現在使用されている〈RVNG Intl.〉のロゴは、実は過去に使われていたいくつかのロゴの中から使い回しているだけなんだ。たまたまこのロゴがしっくりきたというだけのことさ」と打ち明けるが、Werthは「このデザインは、Kevinの魔法のカバンから飛び出してきたものなのさ」と表現している。

 

ロゴ制作にあたり、O’Neillはこのレーベルの名称そのものをデザインのインスピレーションにした。"RVNG" の4文字は「逆襲/反撃」という意味のrevengeを略したもので(O’Neillは「穏やかじゃないレーベル名だけど、実際は愛に満ちあふれたレーベルだよ」と付け加えている)、O’Neillは紋章のようなフォルムの中にその4文字を組み込んでみることにした。「Vを90度倒しているから、紋章的な意味合いはなくなっていて、むしろ封筒のようにも見えるだろ。メールオーダーはこのレーベルの根底を支える存在だからね」とO’Neillは説明している。Werthもこのロゴを「美しい曲線でメッセージも豊かだ」と評しており、大いに気に入っている。

 

 

Sacred Bones

 

 

ブルックリンのレーベル〈Sacred Bones〉を明確に定義づけることは決して簡単な作業ではないが、ごく分かりやすく説明するなら「ダークな領域から発せられるサウンドのための信頼できるハブ」といったところだろう。Caleb Braatenによって2007年に設立されたこのレーベルは、Lust for Youthのようなメランコリー溢れるシンセポップやZola Jesusの壮大なゴス・トラック、Gary Warのロウファイ実験主義、さらにはホラー映画界の巨匠John Carpenterによる初のスタジオアルバム『Lost Themes』など、多様で意欲的なリリースを一定のペースで重ねている。また、〈Sacred Bones〉は、かのDavid Lynchによる名作『イレイザーヘッド』のサウンドトラックなどをはじめ、いくつかの素晴らしいリイシューも手がけている。

 

〈Sacred Bones〉のロゴ制作でBraatenが念頭に置いたのは、そのダークなレーベルカラーを表現しつつ、神秘的なフィーリングを想起させることだった。「ロゴを目にした人が自分でその意味を解釈する余地を残したかったんだ」とBraatenは説明する。彼は以前別のプロジェクトで共に作業したことのあるグラフィックデザイナー兼アートディレクターのDavid Correllに相談を持ちかけ、円形のロゴデザインこそレコードジャケットで最も良く映えるものだというBraaten自身の考えを伝えた(彼はまた、「タトゥーのような見栄えの良さ」を備えたロゴを欲していた)。Adobe Illustratorのパス機能を駆使し、Correllはヘビのモチーフを円形にアレンジし、まるで1匹のヘビが自らの尻尾に食らいついているような、ウロボロス(古代ギリシャなどに伝わる想像上の生き物)を想起させるイメージを完成させると、その円形の内部に黒い三角形を組み込んだ。「このロゴのデザインが、レーベルの美学の未来を示すことになった」とCorrellは振り返る。

 

ごく最近、〈Sacred Bones〉はお気に入りのアーティスト数人にこのロゴの再構築を依頼した。そのアーティストの中には、DIYのアパレルラインDeath/Traitorsを手がけるAlexander Heir、ブッシュウィックのフリーマーケット通りにショップDripper Worldを構えるSam Ryserなどが含まれていた。しかし、今も〈Sacred Bones〉がリリースするレコード・ジャケットの上で燦然と輝き続けているのはCorrellがデザインしたオリジナル・ロゴだ。良い音楽ロゴを作るためには何が必要かという質問に対し、Correllは次のように回答している。「良いとされるロゴには共通した特徴がある。ごくシンプルな話だよ。つまり、単体で機能し、視認性が高く、単色で構成されていてモノクロでも機能するってことさ」

 

 

Tiki Disco

2009年、NYを拠点に活動する3人のDJ — Eli Escobar、Andy Pry、Lloyd Harris(aka Lloydski)— が、フローズンカクテルやショーツ、サングラスの似合う究極のアウトドア・アフタヌーン・ダンスパーティ〈Tiki Disco〉を立ち上げた。今のようにブッシュウィックが急成長する前に、ピザ屋Roberta’sの裏庭でひっそりと始まったこのパーティだが、現在では毎回1,000人近いクラウドを抱えるNYの新しい夏の定番パーティとして知られている。このパーティは毎年5月から9月にかけて毎週日曜日の午後にThe WellやOutput、貸し切りボートなどで開催されており、更にはNY以外の世界各国にも進出している。

 

最初の数シーズン、〈Tiki Disco〉には正式なロゴが存在しなかった。やがてイベントプロモーターからロゴを作ることを求められるようになると、HarrisはすぐにJoshua PrinceことDust La Rockに相談を持ちかけた。この今は亡き偉大なデザイナーはかつてA-TrakやNick Catchdubsと共にレーベルFool’s Goldの設立に関わり、アートディレクターとして活躍していた。また、好都合なことにPrinceは〈Tiki Disco〉へよく遊びに来る常連客のひとりだった。Pryは「僕らは、Fool’s Goldの初期のリリースを通して彼の作品を知っていたんだ。でも、アーティスト的な視点から選んだじゃない。自分たちのヴィジョンを気楽に共有して、一緒に面白いものを作れる人物を探していただけさ」と説明する。

 

Princeが手がけた円形のロゴの中には、レジデントDJ3人がサングラスをかけた姿を描いたイラストが組み込まれている。Pryは、Princeはおそらく数枚の宣材写真を参考にして描いたのだろうとしている。Pryはまた、パーティの成長と共にそのロゴが意味合いを深めていく姿を見られるのはクールだと語る。Princeの死後、数人のデザイナーが〈Tiki Disco〉のために新たなアートワークを提供してきたが、PrinceがデザインしたオリジナルロゴはNYのダンスミュージックの歴史において重要な存在であり続けている。Pryは「当時は小さな出来事に過ぎなかったけど、今はPrinceのようなクールで素晴らしいアーティストにロゴを制作してもらったことを誇りに思っている。彼がいなくなって寂しいよ」とコメントしている。

 

 

Wrecked

 

 

Ron Like HellとRyan Smithの2人は、自分たちが主催する飾り気のない流浪のゲイ・パーティ〈Wrecked〉を「爆音を好む紳士とその友人たちのためのパーティ」と称している。ブルックリンのAcademy Recordsでバイヤーとして働くRon、ブッキング・エージェンシーLiaison Artistsで働くSmithの2人は共に同名のDJユニットとしても活動しており、質の高いディスコやテクノ、ハウス、イタロなどをミックスしたセットを展開している。

 

〈Wrecked〉は2011年にイースト・ヴィレッジのNational Undergroundでアフターアワーズ・パーティとしてスタートした。それはワンオフ・パーティとして企画されたもので、2人はそれまで朝6時まで続くパーティを試みたことは一度もなかった。彼らは「ふらりと来て、ダンスして大声で喚きながら夜通し遊ぶ」というこのパーティのコンセプトに相応しい名称を考えることが必要だと考えた。そんな折、Smithは1980年代の伝説的なビッグゲイクラブThe Saintのフライヤーに描かれた「レッカー車の後部にホットパンツ姿で縛り付けられているガチムチの兄貴」(Smith談)のイラストを発見した。そのフライヤーに記されていたパーティ名が〈Wrecked〉だった。そして、「1回限りのパーティだし、成功して次もやることになれば別の名前を考えればいいだろう」という軽い気持ちから、彼らはこのパーティ名をそっくりそのまま使用することにした。Smithは「でも、いざパーティをやってみると、後日みんなから電話がかかってきて『すごいパーティだったな! 完全に壊れちゃったよ(=wrecked)!』って言われたんだ。だから、使い続けることにしたんだ」と回想する。

 

〈Wrecked〉のレギュラーDJのひとりで、グラフィックデザイナー兼アートディレクターとして活動するJordan Riveraは、このパーティのフライヤーには一貫性のあるヴィジュアル・アイデンティティが存在していないことに気がついた。そこで、RonとSmithは元となったThe SaintのをRiveraに見せることにした。Riveraはその印象について「一番印象に残ったのはタイポグラフィの持つパワーだった」と振り返っている。その後、そのフライヤーを入念に調べていったRiveraは、この古いフライヤーのフォントがITC Lubalin Graphに似ていることに気付くと、このフォントを足がかりにデザイン作業を進めていった。こうして完成したロゴデザインには、NYに息づくゲイカルチャーの歴史が込められており、その仕上がりにRonとSmithも大いに満足した。2人は「僕らが求めていたのはごくシンプルで格好良くて、レザーバー・Tシャツ(編注:レザー服を着た男がメッセージを掲げたイラストがプリントされたTシャツ。ゲイカルチャーの定番モチーフ)に無理なく収まるようなロゴだったからね」と説明する。また、、“R” を反転させたのは3人の名前(Ron、Ryan、Rivera)の頭文字を強調する狙いがあったとするRiveraは最後にこう付け加えている。「あと、これはまったくの偶然なんだけど、ロゴ全体が男根みたいに見えるだろ。僕らはゲイコミュニティから大きな支持を得ているし、理に叶っているよね」