七月 26

Mumdance Lectue At THE STAR FESTIVAL

RBMA Tokyo 2014の卒業生が京都のフェスティバルで開催したレクチャーの模様をレポートする

by Hiromi Matsubara

 

RBMA Tokyo 2014の卒業生のMumdanceことJack Adamsが、2年の時を経て、今度はオーディエンスにレクチャーをする側のアーティストとして日本へと還ってきた。Mumdanceのここ2年の活躍は、おそらく本人を含め誰しもの想像を遥かに超えたものだろう。未知なるリズムパターンと宇宙レベルの浮遊感を持ったメロディを創り出し、それを「ウェイトレス(=ベースレスな、無重力感覚のトラック)」というブームにまで推し進めてきた。しかし、彼は決して浮つくことはなく、実直に音楽と向き合い、常に深く思考し、アーティストの鑑とも思える前傾姿勢を保ち続けている。ハードウェアとモジュラーでセットアップを組み、TectonicやXL Recordingsとの契約と並行してセルフレーベルDifferent Circlesを続けるその真意は、彼が貫きたい理想のプロセスとしてあるようだ。今回のレクチャーは『Red Bull Music Academy Festivals 2016』の一環として、『THE STAR FESTIVAL』の会場内にレクチャーを行うための簡易的なセッティングをし、オープンエアという少し型破りな空間で行われた。聞き手を務めたのは、UKを始め世界のアンダーグラウンド・カルチャーに詳しい、日本在住の英国人ジャーナリストのMike Sundaだ。

 

前回来日したのは、2014年の11月に東京で行われたRBMAに参加した時でしたよね。その時が初来日だったそうですが、実際に訪れてみて日本のイメージはどのように変化しましたか?

 

始めは日本ってどんな国か全然わからなかったんですけど、今では来るたびに日本に対する愛情が深まっていく、とても素敵な場所ですね。オーディエンスも素晴らしいですし、街もクリーンですし。人々が全然フレンドリーじゃないUKとは違いますね(笑)。

 

日本のどこに興味があったんですか?

 

僕は日本の概念となっているのは東京だと思っていて。僕にとって東京は「未来都市」というイメージなんです。フューチャリスティックなものに溢れているイメージです。実際に来てみて、2週間滞在してみてもイメージとは100%変わらなかったですね。いつも新しい発見ばかりでした。

 

SF小説がお好きだそうで、最近行っていたLogosとShapednoiseとのコラボレーションでもインスピレーションの元にしたり、かなり影響を受けているそうですね。文学的な部分からの影響とかは受けているのですか?

 

LogosとShapednoiseと一緒にやっているThe Sprawlというプロジェクトでは、主にノイズとドローンを作っているんですが、このプロジェクトに影響を与えているのはウィリアム・ギブソンの『Neuromance』というSF小説です。ほとんどの曲でインスピレーションを受けています。でも、ほとんどのドラムンベースはSF小説や未来主義から影響を受けていると思うので、僕の音楽に限らず、UKのエレクトロニックミュージックに対しても言えることだと思いますよ。グライムはまさにそうですよね。グライムのトラックプロダクションは、特にビデオゲームからの影響が反映されていると思いますし、リリックの内容もロンドンでの都市生活が反映されていますよね。

 

The Sprawlというプロジェクトは、一言で説明するとなれば、即興のライブプロジェクトなんです。僕はモジュラーシンセで、LogosはTempestというドラムマシンや複数のマシンを持っていて、Shapednoiseはラップトップでダブノイズのフィルターをかけています。メトロノームのような時計を目印にして、タイミングを計りながら演奏をするんですけど、とても開放的な気分になりますね。何も制限がないですし、自分のトラックとは違ってループベースを使えるので。

 

グライムには、中国的の風合いがフューチャリスティックに反映されているサイノ・グライムというタイプがありますが、日本のことが反映されたグライムがないのは何故でしょうかね?

 

僕もどうしてかはわからないんですけど、確かにグライムにはアジアからの影響がありますよね。グライムを制作する際によく使われているKORGのTritonというキーボードがあるんですけど、このキーボードに備わっているサウンドの多くが東洋的な雰囲気の音だということが関係しているのではないかなと僕は思っています。

 

あと、数多くある音階の中でも1番弾きやすい、5音でできているペンタトニック・スケールが東洋的なサウンドを作っている音階だと思います。グライムのプロデューサーたちはみんなキーボードを弾いたり、クラシックな作曲に慣れているみたいで、その中でもペンタトニック・スケールは普通に使われていますし、必ず学ぶ音階なので、サイノ・グライム何かしらの関係はあると思いますよ。

 

日本にはノイズミュージックという遺産があると思います。僕が作っている音楽はノイズに近い部分もあるので、日本とのコネクトはそういった部分にあるかもしれませんね。

 

 

あなたの幼少期やトラックメイクをし始めたばかりの頃のお話を聞きたいんですけど、幼い頃にクラシック音楽の勉強はしてきたんですか?

 

全然ないです、ほぼゼロですね。音楽自体は家族全員が好きだったので聴いてはいましたが、家族が聴いていた音楽のジャンルからはあまり影響を受けていません。自分で発見したメロディー、ノイズ、ハーモニーといった、様々な音のコレクションをアレンジして今のスタイルになっています。初めてクラブミュージックやクラブカルチャーカルチャーに惹かれてからは、レイヴミュージックばかり入ったカセットのパックを友達の家で聴いたりしていました。それまでは聴いたことなかった音楽が多かったので、聴いた途端に「凄い!」と思ってエレクトロニックミュージックが好きになってしまったんです。11歳から12歳ぐらいの頃の話ですね。

 

僕自身が90年代にレイヴがカルチャーに大きな影響を与えていた頃に育ったというのもありますね。それ以前はコンピュータゲームが好きで、コモドールのアミーガで、好きなUKのゲーム会社が開発したゲームをプレイしていました。そのゲームはレイヴミュージックのようなサウンドトラックをBGMにしていて、今思うとそれが僕の基礎になっているとも思っています。全然レイヴを聞いているとは意識しなかったんですけど、ゲームをプレイしながら潜在意識が築かれていたんでしょうね。

 

あなたは2008~2009年頃からMumdanceとしてリリースを始めますが、それまでは何をしていたんですか?

 

『VICE Magazine』でイベントのマネージャーやオーガナイザーとして活動していました。17歳ぐらいからイベントプロモーターをしていて、地元のブライトンでドラムンベースのイベントを主催していました。そういった活動をしていたこともあって、地元のグライムシーンの人たちと仲良くなったんです。22~23歳ぐらいの時に、『VICE Magazine』はレーベルに所属していたBlack Lipsの曲をDiploがリミックスしたものを、僕がさらにリロードしてJammerのラップを乗せてリリースをしたんです。そしたらDiploがそれを気に入ってくれて、リロード・トラックをリリースした2週間後にはMad Decentと契約をして、その後には3ヶ月のワールドツアーに帯同させてもらったんです。とてもエモーショナルな経験でしたね。

 

Diploのサウンドは「アメリカン・サウンド」と揶揄されることもありますが(笑)、Diploはバイレファンキのようなブラジリアンな音楽をUKに持ち込んで、逆にダブステップをアメリカに拡めた、UKにとっては重要な存在のプロデューサーだと思っています。それを他のプロデューサーとは異なるやり方で実践したのでUKの人々から受け入れられていないんだと思います。最初はエキゾチックな音楽の印象がありましたが、後に彼はEDMに進出したので音楽が変わってしまったというイメージがあるんです。ちょっとメインストリームに行き過ぎてしまったのかもしれませんね。

 

Mad Decentからシングルをリリースした後は、次のリリースまで少し期間が空きますよね。それはどうしてだったんですか?

 

色々な理由はあったんですが、サウンドが当時の流行から外れてしまったからというのが先ずあります。DJとしてのブッキングも減っていたので、少し世界を旅していました。リミックスを公式にリリースしていた時から自分は力不足だと感じていたので、少し休んでみて、音楽を基礎から勉強し直していました。

 

 

「Take Time」などで大きく話題になったのは、アナログな楽器と機材を使ったサウンドですよね。機材を揃えたり、使いこなしたりするのにはかなり時間をかけたんですか?

 

そうですね、音楽で得た収入はほとんど機材を買ったら音楽の活動に使っています。機材にお金を使うのも好きだし、一生懸命音楽で得た収入は意義のあることに使いたいと思っています。あと、古い機材を集めるのが大好きなんです。

 

でも機材を一通り集めるのはやはり時間がかかりますよね。PCのソフトウェアで作業をするとなったら、凄いスタジオにインストールされている機材と同様の数と種類のサウンドがPCに内蔵されるということですよね。でもハードウェアになると、何をしたくて何を買うべきか、目的をしっかりと考えた上で購入を判断することができると思うんです。制限があるというのは非常に重要なことだと思っていて、手持ちの機材をミニマムに落とし込むと、その制限の中で最大限の仕事をしようと思うので、それがクリエイティヴに繋がっていくんです。僕のトラックがミニマルなのは、豪華なスタジも大量の機材も持っていなくて、16チャンネルのミキサーしか持っていなかったからなんです。だから16種のノイズしか一度に鳴らすことができませんし、その中でも4~5つのチャンネルしか使っていないんです。できる限り最小限でいるということは、僕の音楽に対する考え方のコアな部分ですね。

 

僕が聴いて育ったハードコアやジャングルはオールドなハードウェアのサンプルを使っているんです。今は16bitのサウンドですが、そういった古いハードウェアは12bitのサンプルになっていて、その方がもっと荒くてグライミーなサウンドになりますし、僕の耳にはその方が自然なものとして残っているんです。そのフィーリングを再度作るということをグライムでやっているんです。

 

ミニマリズムは、より実験的に取り組むことでポップになることができるんです。それは、人々がこれまでとは違った音楽にオープンになっていて、もっと興味を持っているということでもありますよね。まぁ、だからといってあんまりくだらないことはしてはダメだと思いますけど(笑)。

 

あなたが主宰しているレーベルのDifferent Circlesは、どのプロダクションも参加アーティストも同時代性がありますよね。核となるコンセプトや、一定基準のサウンドというものはあるのでしょうか?

 

ありますよ。RabitもLogosも色んなタイプのトラックを作ったり、様々なオプションやスキルを持っているプロデューサーなので、それぞれのプロデューサーのタイプが合わさった時に、それぞれの足りない部分を補い合えているかどうかは重要ですよね。

 

 

Different Circlesからリリースしている『Weightless』シリーズや、ウェイトレス(=ベースレスな、無重力のトラック)と呼ばれているトラックを聴くと、Wileyが2003年頃から「Wiley Kat」としてリリースしていたビートレス・リミックス「Devil’s Mixes」とリンクするのですが、影響を受けている部分はありますか?

 

もちろんWileyはグライム・アーティストとしても影響を受けていますし、今僕たちがDifferent Circlesから『Weightless』と称してリリースしている音にももちろん影響はありますよ。ウィトレス・サウンドはただのグライムではないんです。ニューエイジやミュジーク・コンクレートにも似ていると思うんです。ちょっとアグレッシヴな側面もありますし、フローティーでもありますしね。多くの人たちが未知のサウンドにクールな名前をつけて、どういうアイディアがサウンドに含まれているのかといったことを説明をしようとするんですが、僕はそういった見方はしていないんです。

 

個人的にはLogosのサウンドの方が「Devil’s Mixes」に寄っていると思いますね。彼はもっとハッキリとしたアンヴィバレントな部分がありますし、ミニマリズムも持っていると思います。僕が好きなのはやはりミニマリズムで、それぞれのトラックごとに音のカラーを際立たせること重要視しています。Pinchとコラボレーションした時も意識したことは、そういった僕が思うミニマリズムでした。

 

僕はここ3年ぐらいG.R.Mの音楽への熱が高まっていて、例えばピエール・シェッフェールやベルナール・パルミジャーニといったアーティストが気に入っています。彼らの作品はエキサイティングで影響を受けています。彼らは拍子というよりは、ノイズの選択に優れていると思っていて。自分が考えるのに時間がかかったのは、メロディーとハーモニーで構成される音楽はルールがしっかりとしていて、その中で仕事をしないとキーがズレているとか間違えているとか指摘されますし、一方でミュジーク・コンクレートのように実験的に音がアレンジされていくと枠を外れて自由な印象になりますけど、もっと純粋に楽器演奏のテクニックは上手くないといけないんです。でもそういった感覚がミックスして、タイプでいうと、ジャングルやドラムンベース、ニューエイジやミュジーク・コンクレートと、Wileyの「Devil’s Mixes」がバランス良く混ざった時に本当に楽しくなってきました。何と言い表すべきかわからないけどクールだったんです。その時に、自然と僕の中から「ウェイトレス」という言葉が出てきて、僕は「ウェイトレス」と呼ぶことにしたんです。

 

ウェイトレス・サウンドを推し始めた当初は、あなたから見て人々はどういう反応を示しているという印象でしたか?

 

ダブステップが初めて出てきた時に、ドラムンベースみたいに聴こえるけどオーディエンスがどうやってダンスしたら良いのかわからなかったのと同様で、頭の中ではその音楽に対してどう反応したら良いのかわからなかったと思います。Different Circlesからリリースしているトラックも、最初はわからなかったかもしれませんけど、でも今はみんなわかっていますよね。前はダンスフロアからオーディエンスがいなくなってしまっていましたが、今はみんなどんどんダンスをしに来て楽しんでいますよね。

 

昨今のクラブの文脈においては、デジタルでリリースをしてダウンロードしてすぐにプレイをすることで広がっていきますよね。でもDifferent Circlesではフィジカルリリースを続けていますが、あまり簡単なことではないですよね?

 

そういったことは考えるのはとても大事なことですよね。DOMMUNEやBoiler Roomによって、最新のクラブミュージックを最先端の環境で楽しむことが簡単になりましたからね。僕が若い時は、新しい音楽を聴きたかったら、クラブに行ってDJのプレイを聴かなければ行かなかったんですよ。クラブもそのために運営をしなきゃいけなかったですしね。今の時代にとっては、家でネットを繋げば音楽が聴けるというのはとても大事なことだと思います。

 

でもやっぱりクラブミュージックはクラブで聴くべきだとも思うんです。ダブステップの低音はクラブで聴かなければ本質がわかりませんし、ラップトップで聴くのとは比べものにならないですよね。実際に僕が初めてドラムンベースを聴いた時も、スタジオで聴いてみて楽しいことはわかったんですけど、その後にクラブで聴いたら、感じていたことが理解へと変わりました。ラップトップで聴いていては本当の感覚は味わえないんですよ。ノイズとかドラムトラックとかはクラブで聴くと、顔を殴られているように激しく聴こえてきますよね。だから全然別物ですよね。

 

サウンドシステムも重要な音楽の一部なんです。身体的に胸がドキドキしますし、瞳孔が開きますよね。同様にヴァイナルでリリースすることも音楽を構成する重要な一部だと思うんです。300枚ぐらいは作るのは面倒なことではないんですよね。作って売れば終わりますから。あと、フィジカルで音楽を買う人にとってはヴァイナルはご褒美でもあると思うんです。インターネットでダウンロードしやすくなったのも良いですけど、やっぱりフィジカル・フォーマットを買ってアーティストをサポートすることに意味はあると思うんです。僕とLogosはヴァイナルを作る予算の面でインセンティヴを与えたかったというのもありますね。

 

 

デジタルフォーマットでどんどんより快適にDJをすることが可能になっていって、ヴァイナルを買う人が減っていると思うんですが、あなたは人々の音楽の消費パターンはどのように変化したと思いますか?

 

僕の仕事にはあまり影響はないですが、気付くことは多くありますよね。特に音楽の寿命は短くなったと思います。僕がドラムンベースにハマり始めた若い頃は、ひとつのトラックでも1か月かけてジワジワと人気が出てくるものだったんですね。だからDJのプレイの仕方も最も見合った方法に合っていったんです。大体6人ぐらいのDJがプレイをすると認知度が高まってきているんだなと感じられましたね。ミックスされると、「あ、あの曲だ!」とわかるんです。で、1年後に再びかけられたりするんです。Pinchが前に教えてくれたのは、一度プレイした音楽にはその人の名前が付くんです。だからPinchがかけたトラックは、PinchのDJセットの中でしか再び聴くことができないということなんです。僕はグライムラッパーとライブのみのエクスクルーシヴ・トラックをプレイすることがありますけど、多くの人がそれに気付いてくれていると思いますし、再び聴けることを期待してくれていると思っています。

 

人が音楽を買わないで、無料でダウンロードをしようとするからアーティスト/プロデューサーたちからしてみれば生き残るのが大変ですよね。15年前だったら、プロデューサーとDJがいたら、プロデューサーはスタジオで音楽を作ってそのレコードを売って収入を得ていて、DJはレコードを買うなり、プロデューサーからもらうなりして、クラブでかけて曲の認知度を上げていました。でも今は曲を作って、レコードを作った次の日にはインターネット上にアップロードされていて無料でダウンロードできるようになっているんです。だからDJをしながら音楽を作っている感じですよね。DJから収入を得ていて、音楽からは得ていないということです。その内稼げるプロデューサーになったら良いなとは思っているんですけどね(笑)。

 

まだレコードショップに行ってレコードを買っているんですか?

 

もちろんです。でも今はそんなに大量には買っていなくて、どちらかというとハードウェアかモジュラーシンセを買っていますね。でも僕がラッキーなのは、ツアーで世界中のレコードショップに行くことができるんですよ。東京のレコードショップは素晴らしいですよね。Disc Shop ZeroやBig Loveがお気に入りです。僕はレコードを買う時に決めているのは、訪れたその国でしか買えないレコードを買うということです。

 

レコードレーベルって果たして意味があるものなのでしょうか? やはり自分である一定数のヴァイナルを作ることができる人が増えたら、レーベルの存在意義はどうなっていくんでしょうか?

 

レーベルはゲートキーパーのようなものですよね。私にドアを開けてくれた、チャンスをくれたことで多くのオーディエンスにアクセスすることができたわけですよね。セルフレーベルでリリースをしていたら、300枚ぐらいのリリースを未だに出し続けていたと思いますね。

 

PinchとTectonicは僕に多くのファンとのリンクを作ってくれました。たくさんプレスしてリリースできたし、色んな人に音楽を届けることができましたしね。XL Recordingsもそうです。AdeleやThe White Stripes、M.I.Aといった偉大なアーティストを輩出しているレーベルに名を連ねられるだけでも、本当に名誉だと思っています。