三月 11

Mouse On The Keys インタビュー

ジャンル分け不可能な日本産トリオバンドが東日本大震災やLevon Vincentとの関係について語る。

日本のアーティストは特定のジャンルに拘らないスタイルを特徴としている場合が多い。コーネリアスやボアダムス、YMOなどを聴けばそれが理解できるだろう。今回紹介するキーボード2人とドラム1人で編成されるMouse On The Keysもその系譜上に位置している。ミニマリズムのクラシックと力強いロックを融合させたこのバンドはPhilip Glassのようでありながら、Helmetのようでもある。

彼らの奏でる音楽には、建築家丹下健三の作品や映画監督勅使河原宏の作品のように、鋭さと滑らかさが同居している。彼らの楽曲は数々のテレビCMに使用されているが、パワフルなライブも人気の理由であり、映像作家MINORxUをディレクターに迎え、2011年のヨーロッパツアーを収録したライブDVD『Irreversible』もリリースしている。今回はドラム/キーボードの川崎昭とキーボードの新留大介を迎え、彼らの音楽的な背景や哲学について語ってもらった。



Mouse On The Keysはどのように結成されたのでしょうか? またピアノとドラムという編成にした理由について教えてください。

川崎昭:当初Mouse On The Keysは僕のソロプロジェクトとして考えていましたが、清田敦(キーボード)と新留大介をメンバーとして迎えたことで、バンド形態として活動することになりました。僕は昔からピアノが好きでしたので、いつの日かピアノを中心にしたバンドを組みたいと思っていました。10代の頃、周りのバンドはギタリストが必ずいましたし、彼らは全員才能あるプレイヤーでしたので、逆にギタリストを外してバンドを組もうと思ったわけです。

Mouse On The Keysは立ち上げた時から確固たるコンセプトが頭の中にありました。それは「ドビュッシーやラヴェルのような作曲家によって示されたフランスのモダンクラシックにドラマーとしての自分が80年代と90年代に影響を受けたハードコアを組み合わせたデトロイトテクノのような音楽」というもので、これは僕たちが受けた音楽的な影響をすべて表現していると思います。

Mouse On The Keysのピアノはミニマルミュージック、クラシック、ジャズを想起させます。キーボーディスト/ピアニストとしてはどのような音楽に影響を受けましたか? 清田さんと新留さんは正式な音楽教育を受けているのでしょうか?

川崎昭:清田と新留は音大での教育は受けていません。清田の場合は、小学生の時に小さな私立の音楽学校に通っていました。彼はその後音楽から一時離れていましたが、18歳の時に攻撃的な音楽に興味を持ち、ハードコアのライブなどに出掛けるようになりました。そこで僕と仲良くなり、2人で日本のポストハードコア、ポストロックの先駆け的なバンドのひとつだったNine Days Wonderを結成しました。この頃から清田は米国のポストハードコア、ポストロックに興味を持ち出しましたね。清田はNine Days Wonderではキーボードでしたが、Mouse On The Keysではピアノを担当しています。新留は2007年にMouse On The Keysに加入してからピアノを弾き始めました。彼はこのバンドより前から作曲家として活動していて、ギターやドラムなど複数の楽器をこなせたので、ピアノもすぐに習得しましたね。

これまでに『Sezession』、『Machinic Phylum』、『An Anxious Object』と3枚のアルバムをリリースしていますが、それぞれのコンセプトと違いについて教えてください。

川崎昭:『Sezession』はこのバンドの1枚目の作品で、僕たちが以前やっていた音楽からの決別、そして新しい方向への船出を表現したものです。『An Anxious Object』は僕たちが住んでいる東京という街のイメージですね。70年代以降に生まれた僕たちは、好調な東京しか知りません。東京は第2次世界大戦で灰と化してから、急速に復興しましたが、それは学校で習ったから知っているにすぎません。今の東京にはそのような歴史を感じさせる建物も殆ど残っていませんし、365日常に新しい建物が作られています。そしてビルの看板広告も数週間という、驚くようなハイペースで入れ替わっていきます。僕たちはそういう東京を不安に感じたので、その感覚をアルバムで表現しようとしました。

『Machinic Phylum』はMouse On The Keysの未来を示したものです。構造主義と混沌を組み合わせたハイブリッドな音楽を作り続けるという僕たちの宣言と言えます。自然なのか、人工的なのかは関係ありません。『Machinic Phylum』は自然であり人工的でもあるという僕たちの音楽を表現しています。



『Machinic Phylum』ではLevon Vincentと共作していますよね。これはどのような経緯だったのでしょうか? 共同作業について教えてください。

川崎昭:4年前にMule MusiqがLevonを日本に初めて呼んだ時、平江さん(Mouse On The Keysマネージャー兼ステージディレクター)がLevonのアテンドをしていたんですが、その時から関係が始まりました。そしてLevonが2度目の来日をした時、東京から成田へ向かう車中で僕たちの音楽がかかっていて、Levonが興味を持ってくれたんです。それで音楽を一緒に作ろうと連絡をくれました。

僕たちは『Late Nite Jam』に代表される彼の作品のファンでしたし、テクノの幾何学的な要素とモータウンのようなグルーヴを併せ持つ彼の作品に僕たちは共通点を見出していました。彼は数多くのリミックスを手掛けていますが、僕たちとは違う形で制作したいということで、僕たちが彼の楽曲をアレンジし直すという形式になりました。そこで彼が送ってくれたシンプルなメロディーを新留が作り直して曲にしました。

あなたたちの音楽は非常に複雑で難解です。作曲はどのように行っていますか? ピアノから作っていくのでしょうか? それとも全員でジャムをしながら?

川崎昭:以前は僕がすべてのパートをLogicで組んでいましたが、『Machinic Phylum』からはひとつのモチーフを元に、ジャムをしながら組み上げていく形式も取っています。これからは3人のジャムで作っていきたいですね。ただ、作曲という部分も続けていきたいので、コンピューターを使った作曲も続けるとは思います。

過去ヨーロッパツアーを3度行っていますが、いかがでしたか?

新留大介:僕たちは日本という島国出身ですので、地続きで違う国が存在し、車で簡単に行き来できるヨーロッパに驚きました。ヨーロッパのオーディエンスは日本のオーディエンスに比べダイレクトに感情を表現してくれるので、楽しく演奏で来ましたね。クラブのインテリアや色彩、形式も日本とは違うので魅力的でした。あと僕はお酒を飲むのが好きなので、クラブ側がひっきりなしにドリンクをサービスしてくれるのは嬉しかったですね。日本のクラブもそうだと嬉しいのですが。



ヨーロッパツアーの様子を収めたDVD『Irreversible』をリリースしましたが、このツアー中の2011年3月11日に東日本大震災が起きました。起きた時はどの国にいらしたのでしょう? また東大震災、そしてその後の放射能汚染はあなたたちの音楽にどのような影響を与えましたか?

川崎昭:地震が起きた日はイングランド・リヴァプールにいました。震災から2年と10カ月が経ちましたが、福島第一原子力発電所の問題を解決する手段はまだ見つかっていません。まだ仮設住宅で暮らす人たちがいますし、自宅へ戻れない人たちもいます。僕たちも震災直後は日本に戻れませんでした。DVDのタイトルを『Irreversible』にしたのはそれが理由です。

蛇口をひねるたびに、食事をするたびに放射能汚染のことを考えます。日本に住んでいるすべての人たちが放射能という見えない恐怖に脅かされているという状況は異常だと思います。この状況は日本に住んでいるすべての人たちの精神に影響を与えると思いますし、僕たちの音楽にも影響を与えるでしょう。

ヨーロッパツアーの後にあなたが脳梗塞を患ったと伺いましたが、その経緯について教えてください。

川崎昭:僕が患ったのはラクナ梗塞と呼ばれるもので、脳の毛細血管の一部が損傷して生じるものです。医者の話では、僕の血圧と血糖値は正常だったので原因が分からないということでした。範囲が小さかったので命に関わるものではありませんでしたが、症状が悪化し、脳内の血流に問題が生じるようになれば、認知症や発話障害、運動障害に繋がる恐れがあります。

個人的には、ドラムを長年激しく叩いたり、ヘッドバンギングをしたりしていたことが原因なのではと思っています。Evanescenceのギタリスト、Terry Balsamoも脳梗塞で入院しましたが、その原因がヘッドバンギングのやり過ぎだったと言われていますので。

かつて建築現場で働いていたというのは本当ですか?

川崎昭:昔はビルの解体作業員として働いていました。コンクリートを破壊している間、狭い場所にずっといたので、酸欠になることもありました。そこで長時間の重労働をした後、睡眠時間を削って音楽とリハーサルに充てていましたね。今は働き過ぎないように注意しています。

あなたたちのライブはビジュアルとサウンドが完ぺきにシンクロしていますが、どのような点を意識してシンクロさせていますか?

川崎昭:Mouse On The Keysでは、20世紀のモダニズムを意識しています。ジャケットデザイン、ビジュアル、サウンドを通じて、バンドのイメージをなるべく殺伐とした感じにし、Louis Kahnや丹下健三の作品のようなシンプルなコンクリートの建造物を想起させるようにしています。ステージのパフォーマンスとビジュアルについては専門のスタッフがついているので、チームとして制作していきます。僕たちがコンセプトを出して、彼らが好きなようにビジュアルイメージを組んでいくというスタイルです。

Mouse On The Keysのライブはアグレッシブでエナジーに溢れていますが、あなたたちにとってライブとはどういう位置づけなのでしょう?

川崎昭:ライブは僕たちの音楽をオーディエンスに直接届ける手段ですから、僕たちにとって不可欠ですね。僕たちの音楽は現代音楽に近いような、それを少し洗練させたようなサウンドに聴こえるかも知れませんが、ライブはアグレッシブでハードコアです。ライブではステージからダイブもしますし、マイクで叫んだりもします。ただ、これから先はもう少しアンビエント的な、雰囲気を重視した作品になっていくと思いますので、ライブもドリーミーでディープな感じになるかも知れませんね。



Levon Vincentより
「僕を日本でアテンドしてくれた友人がMouse On The Keysを紹介してくれたんだ。普段はあまりテクニカルな音楽は好きじゃないんだが、彼らは素晴らしかった。そこで、拍節が変わり続けるトラックだし多分気に入ってもらえるだろうということで、以前作った “Memory” というトラックを渡した。すると、彼らが『できたから聴いてみてくれ』と送り返してくれたんだ。彼らの解釈は非常にエキサイティングだったよ。これからも一緒に仕事をしたいと思っているよ」