三月 09

Electronic Music in 2016 Part 2

RBMR RADIOのDJがPITCHFORKのライターと共に2016年のシーン全体を振り返っていく

By Shawn Reynaldo and Philip Sherburne

 

RBMA Radioの「First Floor」は、ホストのShawn Reynaldoが最新のエレクトロニック・ミュージックの中からベストと思える作品を取りあげて紹介することにフォーカスしているウィークリー番組だが、2016年末は1年を振り返る総集編となった。

 

Shawnはその総集編を放送するに当たり、現在バルセロナに拠点を置き、Pitchforkでレギュラーコラムを担当している人気ライターのPhilip Sherburneに声をかけ、2人で1年を振り返ることにした。その放送からの抜粋となる今回の記事は、エレクトロニック・ミュージックの2016年のトレンドやストーリー、そして2人のお気に入りのトラックなどが紹介されている。

 

Part 2では、エクスペリメンタル・クラブミュージックとハウス&テクノの2016年を振り返っていく。

 

Part 1はこちら

 

EXPERIMENTAL CLUB

 

SHAWN REYNALDO

ローファイ(Part 1掲載)の続きになるけれど、この枠組みに入るエレクトロニック・ミュージックとしては、クラブミュージック、他の言い方をすれば、エクスペリメンタル・クラブミュージックも挙げられるね。このジャンルは色々な言葉で表現されているけれど、クラブミュージックには様々なスタイルが存在していて、グライム、フットワーク、ヒップホップ、ノイズ、エクスペリメンタルゴス、ボールルームをはじめ、数々のサブジャンルが常に生まれている。ダンスホールが組み込まれることもあるし、アフリカやラテンの音楽、クンビアなどもある。また、Night Slugs、Fade to Mind、PAN、NAAFI、GHE20G0TH1Kなどのレーベルに所属する数々のアーティストの作品もそうだね。

 

PHILIP SHERBURNE

Príncipeの作品群でさえも組み込まれる時があるね。

 

SHAWN REYNALDO

そうだね。このようなレーベルやアーティストで興味深いのは、いずれもBPM120~130のハウスやテクノではないというところにある。でも、どの作品からも熱いエナジーが感じられるんだ。彼らは独自の路線を歩んでいて、Resident Advisorから認められる必要も感じていない。勝手に成長を続けているんだ。

 

PHILIP SHERBURNE

そういう多種多様なスタイルが “クラブ” という言葉の元でひとつになりつつあるのは興味深い状況だと思う。もちろん、以前にもジャージーやボルティモアがあったし、これらにはそれぞれ長い歴史があるわけだけど、Fade to MindやNight Slugsはある意味これらのスタイルの再現やオマージュを狙っているよね。実際、Night SlugsはClub Constructionsシリーズを展開している。 “クラブ” という言葉の流行をこのシリーズが助けた部分もあると思う。

 

 

 

 

いずれにせよ、個人的には、PríncipeのようなレーベルやDJ Marfoxの手がけるバチーダが必ずしもクラブミュージックの枠には入らないと思っている。数年前はベースミュージックがこの状況に近かった。ベースミュージックには複数の定義が存在していたよね。UKから生まれたポストダブステップ、つまり、ハウスとテクノに少しスウィングやブロークンビーツを加えたようなベースミュージックが存在していた一方、ベース・ディアスポラと呼ぶべきUSを中心としたグローバルなベースミュージックが生まれていった。いまは、クラブミュージックの枠からこれらが消えて、代わりにバチーダやクドゥーロ系のアーティストたちが組み込まれたように思えるね。

 

どう呼ばれているのか、そして実際にどこまでが含まれているのかは関係なく、ハウスとテクノの外側に興味深いエレクトロニック・ミュージックが数多く存在するというのは否定できない事実だよね。これらの音楽の多くは有色人種、そしてUS、UK、ヨーロッパ圏外のアーティストたちによって生み出されている。そして彼らの多くはLGBTコミュニティと繋がっているんだ。全体に新鮮な風を吹き込んでいると思うよ。

 

SHAWN REYNALDO

他のジャンルは、特定のビートパターンやテンポによって定義されるけれど、クラブミュージックはアイデンティティによって定義されるジャンルのように思える。これらは有色人種や過小評価されているコミュニティのためのもので、アーティストもそこに自分たちとの共通点を見出している。ベルリンで開催されているパーティ、Janusへ行けば、Total FreedomやメキシコのNAAFIのクルーがDJをしているし、バチーダとクドゥーロのハイブリッドをプレイするポルトガルのアーティストなどの姿も見かけることができる。どういうわけか、それでもひとつにまとまっているんだ。彼らの音楽がコミュニティの声になっているという事実は、エレクトロニック・ミュージックの白人化が進んだことを踏まえると、素晴らしいと思うよ。また、若い世代が引っ張っているというのも良い流れだよね。ハウスやテクノはやや高齢化が進んでいるから。

 

PHILIP SHERBURNE

この音楽は、正統派の流れを覆しているという点も特徴だ。たとえば、ローファイハウスは、1985年のシカゴや1988年のデトロイトから受け継いだ、特定の美学と制作スタイルからかなりの恩恵を受けているけれど、クラブミュージック系は、今この瞬間から始まっている音楽なんだ。ある意味パンクと同じなんだよね。彼らは自分たちより前の存在を一切気にしていない。リサイクルはしているけれどね。Masters At Workの「The Ha Dance」などは彼らのDNAに組み込まれている。

 

でも、彼らは旧来のスタンダードに自分たちを合わせることをそこまで気にしていない。制作方法も問わない。彼らの多くはラップトップだけで制作していると思うし、それで構わないんだ。彼らの音楽の多くにはコンピューターミュージック特有の光沢が感じられるよね。

 

SHAWN REYNALDO

このエクスペリメンタル・クラブミュージックのもうひとつ興味深い点は、ハウスやテクノ、そして他の多くのエレクトロニック・ミュージックとは異なり、彼らにはメインストリームのポップカルチャーを取り入れようという意志が感じられるところだね。エレクトロニック・ミュージックの世界では、ポップミュージックを取り入れようとする行為は良しとされていないけれど、この音楽をリードする若い世代のアーティストたちは、Rihannaと1960年代のソウルを分けて考えていないんだ。どれも同じソースとして捉えていて、僕が若い頃にしていたような、そして今もしているような、ポップとアンダーグラウンドの線引きをしていない。この考え方は非常に興味深いよ。たまに納得できない時もあるけれどね。

 

ただ、ひとつ言っておきたいのは、このシーンは若いアーティストが非常に多く、そしてジェンダーやセクシャリティ、人種の問題との結びつきも非常に強いから、音楽よりもアーティストの方に注目が集まるケースが多いということなんだ。つまり、彼らの音楽の中には「クラブで聴いて楽しいかどうか」という “テスト” を受けていないものもあるということさ。ポップソングをディストーションでただ歪ませて、そこにフットワークのビートを乗せているだけのような音楽もある。これはあくまで一般論だけど、そのような音楽の大半はパーティでは機能しないし、誰もがクラブで楽しめる音楽でもない。でも同時に、彼らは彼らで万人に向けて音楽を作っていない。彼らの多くが僕のこの意見に対して「仲間が気に入っているならそれでいいんだ」と言うだろうね。

 

 

 

 

PHILIP SHERBURNE

数週間前にバルセロナでRabitのプレイを聴いたんだけど、決してクラブフレンドリーなセットではなかったね。でも、明確なビートが存在しないにも関わらず、フロアは踊っていた。僕はフロアが何に反応して踊っていたのかは分からなかったけれど、それそれが自己表現している姿は素晴らしいと思ったよ。彼の音楽は下品でドロドロで、アグレッシブでカオスだったけど、他とは完全に異なるモデルという意味では大いに感銘を受けたよ。その日、プレイ前のRabitにインタビューをしたんだけど、自分はパーティミュージックを作っているつもりはない、クラブ向きの音楽は作っていないと発言していたし、最近は奇妙なリスニングミュージックを制作しているから、ライブ活動をいつまで続けるかどうか分からないとさえ言っていた。

 

SHAWN REYNALDO

2016年にひとつ言われたことがあるんだ。世界各地の若い世代のプロデューサーたちは超大作映画を見ながら育ったヴィジュアル偏重世代だということを覚えておくことが重要だってね。彼らの音楽はまさにそういうサウンドなんだよ。そこにはワイドスクリーン的な感覚がある。映画館へ行くと、本編が始まる前にDolbyなどのサウンドシステムを紹介する広告映像が差し込まれるけれど、このクラブミュージックの大半はあのサウンドを聴いているような感覚なんだ。彼らの音楽はまるでサウンドデザインのようで、全ての音量がとにかく大きい。あのサウンドの感覚を自分たちの音楽に落とし込んでいるんじゃないかな。彼らは全ての音量が大きくして、ベースも上品に鳴らすんじゃなくて、腹の底まで響かせたいと思っているんだ。

 

 

HOUSE AND TECHNO

 

SHAWN REYNALDO

これまで色々と話をしてきたけれど、ハウスとテクノはほとんど話題に上がらなかったね。このふたつはエレクトロニック・ミュージック、少なくともクラブにおけるエレクトロニック・ミュージックの屋台骨なのに。最近のハウスとテクノはある意味ユビキタス的な興味深い立ち位置にいるように見えるけれど、音楽業界、そして僕たちのようなジャーナリストは、このふたつに関してもはや言うべきことがないように思えるんだ。

 

PHILIP SHERBURNE

実は、2016年を通じて数多くのレビューの依頼を断ったんだ。というのも、何か書きたくなるような、パーフェクトで素晴らしいクラブトラックがなかったからさ。最近のハウスとテクノにはこれまでのようなコンセンサスが存在しない状況にあると思う。Resident AdvisorでDJのチャートをチェックしても、その半分は知らないトラックだし、別にスノッブぶるわけじゃないけど、自分がプレイしたり聴いたりしたいと思うような作品でもないんだ。どこを見渡しても、それぞれ異なったテイストが提示されている。コンセンサスがほとんど存在しないように見えるのさ。でも、これはクールなことだと思うよ。多様性が広がることは素晴らしいと思うからね。

 

SHAWN REYNALDO

コンセンサスの欠如が生んだ素晴らしい副産物のひとつは、ハウスとテクノの新しいアーティストやサブジャンルに以前よりも光が当たるようになっているということだろうね。2016年は、ハウスとテクノの女性アーティストにとって素晴らしい1年のひとつに数えられる年になったと思うよ。The Black Madonnaは世界的なスーパースターになったし、Avalon Emersonもビッグイヤーを経験した。Lena Willikens、Helena Hauff、そしてよりエクスペリメンタル色の強いニューヨークのテクノアーティストのVia AppやVolvoxでさえも脚光を浴びた。別にこれまでも、女性にDJは無理だ、女性アーティストには価値がないなどの否定的な意見は今まで特に存在していなかったと思うけれど、最近は女性DJをブースで見たい、女性がレコードをプレイする姿を見たいと世間が本気で思い始めているように感じられるね。

 

 

 

 

PHILIP SHERBURNE

メディアが社会のメッセージに気付いていることに期待したいね。女性アーティストや女性DJを無視しているメディアは、メディアとしての責務を果たせていないと思うんだ。ゆっくりと、でも確実にトリクルアップ現象(編注:トリクルダウンの逆。下層から上層への波及効果)が起きていると思う。2016年にPitchforkで担当していたDJミックスを紹介するコラムで、僕は毎回男女比を半々にしようとしていたんだ。その結果、僕は無名のDJのミックスを数多く聴くチャンスに恵まれて、有り難いことに数人の素晴らしいDJの存在を知ることになったんだ。そのような存在の中で今すぐに思い浮かぶのは、CourtesyやClaire Morganだね。SoundCloudで彼女たちのDJセットを偶然聴いたんだけど、素晴らしい内容だった。

 

SHAWN REYNALDO

もちろん、全員の名前を挙げるのは不可能だけど、僕の中ではAurora Halal、そしてUKのEclair Fifiが思い浮かぶね。

 

PHILIP SHERBURNE

Jubileeも素晴らしい作品をリリースしたよね。

 

SHAWN REYNALDO

女性の活躍は素晴らしいことだと思うし、この流れが続いて欲しいね。

 

PHILIP SHERBURNE

あと僕は、メディアが全く気付いていない存在が他にも数多くいるんじゃないかとも思っているんだ。たとえば、君がさっき挙げたVia Appも、2016年になるまで僕は存在を知らなかった。でも、彼女の作品やDJセットは本当に素晴らしかった。僕がノーチェックだったアーティストのひとりだよ。彼女のような存在が他にもまだまだ数多く存在すると思う。おそらくはSoundCloudを中心にね。だから、もっとしっかりと調べて発掘する必要があると思うんだ。僕はこの状況をかなりポジティブに捉えているんだけど、メディアやブッキング担当が知名度の低い存在にチャンスを与える努力をする必要があるとは思うよ。

 

SHAWN REYNALDO

その問題の原因のひとつが、音楽業界の男性中心の社会構造だということは間違いないよね。男性が男性に「何を聴いているんだい?」と訊ねるだけのこれまでの流れは徐々に変わりつつあるけれど、君のように女性を同等に扱う行動をもっと積極的に取る必要があると感じているよ。僕も自分のラジオ番組でできる限り君と同じようなアプローチを取ろうとしているけれど、もっと上手くできるはずだと感じているんだ。

 

さて、ハウスとテクノの話に戻るけれど、ひとつ質問があるんだ。ハウスとテクノはかつてのような現代的な意味合いを今も失っていないと思う? かつてのような勢いは失われていないのかな?

 

PHILIP SHERBURNE

現代的な意味合いがあるかどうかは判断しにくいよね。DisclosureやDuke Dumontを見れば分かる通り、UKでチャート入りをしているトラックはどれも分かりやすいハウスビートだ。要するに、1990年代のハウスが世の中に偏在しているのさ。そういう意味では、上手い言葉が見つからないんだけど、イビサでフックアップされるような、Resident Adviserのチャートでトップ25に入るような作品との関連性はあると思うし、テクノやハウスの現代的な意味合いは失われていないと思う。ただ、もうアンダーグラウンドじゃないんだよ。ハウスやテクノはしばらく前からアンダーグラウンドカルチャーの中心にはいない。とはいえ、それでもまだ多くの人にとってのクラビング体験の中心に位置しているとは思うけどね。

 

SHAWN REYNALDO

2016年で気になったハウスやテクノの作品やアーティストを挙げてもらえるかな?

 

PHILIP SHERBURNE

Mr. FingersことLarry Heardは2016年に素晴らしい作品をリリースしたね。11年ぶりのMr. Fingers名義の作品だったから、僕としては嬉しかった。これは4トラックEPで、どのトラックも素晴らしいけれど、その中の2トラックが出色のクオリティだった。ひとつはミニマルアシッドの「Outer Acid」で、これは他のアシッドトラックとは全然違う。もうひとつは「Qwazarz」。これはアンセムトラックだね。両手を挙げるようなアンセムじゃないけど、Neil deGrasse Tyson(編注:米国の天体物理学者)のスピーチをサンプリングした美しいトラックだ。このEPはかなり良かったよ。

 

Midlandも2016年に素晴らしい2トラックをリリースした。そのひとつ「Blush」は個人的にもかなり気に入っているんだけど、ニューウェーブに近いサウンドなんだ。もうひとつは「Final Credits」で、もっとディスコ的なアップテンポのトラックだね。これが2016年のスマッシュアンセムになったっていうのは理解できるよ。Midlandは素晴らしいトラックを次々と生み出しているし、DJとしての評価も高まっている。その評価は適切だと思うね。

 

SHAWN REYNALDO

2016年に僕が楽しませてもらったアーティストのひとりとして挙げられるのはJoey Andersonだ。2016年も数枚のEPをリリースしたけれど、一風変わったハウスとテクノを探求し続けているよね。あとはCall Superも複数の名義を使い分けながら興味深い作品を提示し続けている。

 

あとは言うまでもないけど、Dekmantelのようなレーベルは重要な存在だったね。Dekmantelはパーティとフェスティバルが当たったことで一気にブランドにまで成長したけれど、レーベルとしての活動も安定していて、素晴らしい作品のリリースを続けている。2016年はRobert Hoodの作品をリリースしたよね。Robert Hoodと言えば、Floorplan名義で素晴らしいアルバムをリリースしたね。どういうわけか、彼は年齢と共に成長しているように感じるよ。あとは、John Talabotが運営するバルセロナのレーベル、Hivern Discsも良かったし、ドイツのレーベル、Live At Robert Johnsonも安定している。

 

まだまだ優れたハウスとテクノは存在するよ。トピックとしてはエキサイティングではないのかも知れないけれど、価値のある音楽が生み出されていると思う。ダンスフロアで踊りたい人は特に大きな価値を見いだせると思うよ。ハウスとテクノの大半はフロア向けに作られているからね。

 

PHILIP SHERBURNE

1990年代のハウスとテクノの伝統を重んじる流れはまだ根強いけれど、新しいタイプも生まれてきているね。Hessle AudioやLivity Soundがここに当てはまると思う。君はこの2つのレーベルがハウスとテクノの枠内に収まると思うかい? 僕には分からないな。つかみ所のないUKベースをルーツに持つレーベルだからね。でも、両レーベル共に素晴らしいリリースを続けているよ。Ployの「Move Yourself」とForest Drive Westの「System」は2016年の僕のお気に入りだった。共に直線的でテクノイド的なサウンドだ。今まで聴いたことがないサウンドだったから楽しめたよ。

 

 

 

 

SHAWN REYNALDO

面白いのは、Hessle Audioは2016年にほんの数枚しかリリースしていないってことだ。彼らは毎年数枚しかリリースしていないけれど、リリース枚数が少ないにも関わらず、最もリスペクトされているレーベルのひとつであり続けている。Hessle Audioの創設者のひとり、Pangaeaの待望のデビューアルバムがかなり良かったということも触れておくべきだろうね。

 

2016年は、ブレイクビーツの復活もあったね。自分の番組でも1年を通じてこのトピックについては触れてきたんだけど、今はIlian Tapeがブレイクビーツテクノの最前線に立っていると思う。素晴らしいリリースが続いたよね。中でもSkee Maskのアルバムは素晴らしかったと思う。でも、もちろん、ブレイクビーツをフロアに戻そうとしているのは彼らだけじゃないよね。

 

あとはエレクトロもDJ Stingrayのようなアーティストたちと共に復活したね。Luca Lozanoも自分が運営する複数のレーベルも面白かった。ShedもHead High名義でブレイクビーツ作品を数多くリリースしたね。Tuff City Kidsはここ数年に渡ってハウスとテクノのブレイクビーツサウンドをプッシュしてきたアーティストだけど、2016年はフルアルバムをリリースした。シーンがオールドスクールレイヴ、ハードコア、エレクトロを定期的に繰り返そうとしている動きは良いことだと思うよ。古臭く感じる時もあるけれど、シーンをフレッシュにしてくれるし、BPM122のテックハウスをひと晩ずっと聴かずに済むのは嬉しいよね。

 

PHILIP SHERBURNE

エレクトロはシーンへの貢献を続けているね。昔のような流行にはなっていないけれど、今でもエキサイティングなエレクトロには頻繁に出会うし、素晴らしいサウンドだ。DJセットに変化を加えるのに向いているよね。

 

SHAWN REYNALDO

このままの流れで話を続けていきたいんだけど、今のテクノに何が起きているのかについて話をしておく必要があると思う。テクノにおけるエレクトロの復活と完全に一致する話ではないけれど、テクノにインダストリアルやポストパンク、ノイズの要素を持ち込む流れがあるよね。例を挙げれば、Silent Servant、Adam X、Orphx、Surgeon、Beau Wanzer、Blawanなどがそうだ。彼らの活動はそれぞれ素晴らしいと思っているけれど、彼らによって打ち出されてきた美学がちょっと過剰に流用されているように感じるんだ。ノイジーでダークで冷たいインダストリアルテクノが本当に多すぎる。

 

PHILIP SHERBURNE

そこは興味深いテーマだね。というのも、Blawanは既にそこからある程度距離を取っているし、SurgeonもAnthony Child名義で他の方向に進んでいるからさ。でも、ここ数年のBerlin Atonalで披露されてきたようなサウンドは確かに多すぎると思うよ。まぁ、僕はBerlin Atonalには顔を出してないんだけど、ラインアップを見るだけで、グレーで陰鬱なテクノが多いということは理解できる。この手の音楽はフロア向きではあるんだけど、スウィング感はないし、ポリリズムやシンコペーションも少ない。ひたすら暗い影を落としていくダークなサウンドだよね。今僕は意図的にネガティブな発言をしているわけだけれど、僕にとってこの手のサウンドはリダクティブに感じられるんだ。

 

(編注:リダクティブ / reductiveとは直訳すると縮小・減少的の意味だが、芸術の世界では何かの劣化版を指すネガティブな意味で使われる場合が多い。MadonnaがLady Gagaの「Born This Way」を「Like a Prayer」の劣化版という意味で “reductive” と表現したことが有名)

 

SHAWN REYNALDO

僕も同感だ。デトロイトテクノが好きな人には特にそう感じるだろうね。デトロイトテクノはマシンミュージックだけど、パワフルでカラフル、そしてソウルフルだ。そこには人間性が感じられる。別に冷たくダークな音楽が必要ないと言っているわけじゃないけれど、ずっと攻撃されるのはゴメンだよ。

 

でも、ダークテクノにも革新的な作品やアーティストが存在する。ニューヨークではBank NYCというレーベルが立ち上がった。L.I.E.Sの流れを汲んでいて、ハードウェアジャムと歪んだサウンドが特徴なんだけど、パンクとインダストリアルの要素をクールなスタイルで持ち込んでいる。あと今年は、Powellのアルバムも手に入れたけど、非常に興味深い内容だった。

 

PHILIP SHERBURNE

Powellのアルバム『Sport』は素晴らしい内容だったけれど、同時に面白かったね。ダサくなることを上手く回避しながらユーモアを持ち込んでいた。人によってはダサいと感じるかも知れないけれど、そう感じる人は少ないと思うな。ポストパンクの影響が見て取れるけれど、余裕も感じられる。スペースが広く取られていて、光が差し込む余裕があるから、ダーク一辺倒な感じはないよね。コールドウェーブ的な作品で言えば、Young Maleのアルバムも非常に興味深かったよ。彼が以前にWhite Materialからリリースしていた作品は、ストレートなテクノで、クラブツールという感じだった。それらも悪くなかったけれど、突出していたわけではなかった。でも、今回のニューアルバムはシンセサイザーのスケッチとも言える内容で、2~3分のトラックばかりだ。どれもダークだけど、容赦ない感じはない。

 

SHAWN REYNALDO

コールドウェーブの話を続けると、サンフランシスコのレーベルDark Entriesが大量のリイシューをしている点にも触れておきたい。その多くはポストパンクとインダストリアルなんだけど、イタロや初期ハウスもリイシューしているんだ。その中には長年リイシューが望まれていたアンセムも含まれているし、無名の作品も存在するし、誰も聴いたことがないような変わったバンドの作品もある。ひとりでは全部聴くのが難しいほど大量にリリースされていて、ある意味この手のサウンドの過剰供給の遠因のひとつになっているとは思うけれど、素晴らしい作品がいくつか含まれているのは確かだね。