九月 05

ライブラリーミュージック入門

深淵でミステリアスな非商用音楽の歴史・魅力・集め方をTRUNK RECORDSのオーナーが解説する

By Jonny Trunk

 

ライブラリーミュージックの歴史を学び、メインストリームがすべてではないことを知っておくのは重要だ。なぜなら、ライブラリーミュージックは普通ではないからだ。

 

ライブラリーミュージックをひと言にまとめてくれ、何なのか説明してくれと頼まれるたび、私はシンプルに「映画・テレビ番組・放送で使用されるために制作された非商用音楽」と回答している。この回答で重要なのは「非商用」の部分だ。ライブラリーミュージックは他の音楽ジャンルと同じ形式での販売を目的として制作されていない。一般人は購入できないルートで流通しているのだ。

 

ではどうやって制作されているのか? ライブラリーミュージックは専門レーベルによってキュレートされている。彼らは特定のテーマやコンセプト(ドラマ、コメディ、スポーツ、ノスタルジア、フランス、未来など)に合わせて作曲家をアサインして製品化したあと、放送局や制作会社、そしてCMや映画のトレーラー、テレビ番組などで使用してくれそうな業界関係者へ卸している。

 

ではなぜ、最新のポップソングやヒップスターイチ押しのアーバンチューンを使えばいいのに、彼らはライブラリーミュージックを購入しているのか? 番組制作用ライブラリーミュージックの目的は「制限のない自由な使用」にある。ライブラリーミュージックなら、アーティストやパブリッシャーに使用許諾を求めたり、彼らと使用料の交渉をしたりする必要がない。料金表に記載されている金額を払うだけで全員がハッピーになれるのだ。

 

そのため、ライブラリーミュージックは料理番組、ニュース番組、ポテトチップスのCMなど、ありとあらゆる番組や映像でBGMとして使用されているわけだが、一般人はこれに気が付いていない。また、ライブラリーミュージックは非常にユニークな作曲家たちの "プレイグラウンド" としても機能しており、このジャンルの中には素晴らしい魅力と影響力を持つ歴史的名盤も存在する。

 

 

UKライブラリーミュージックのベンチマークKPM 1000 Seriesの定番ジャケット ©Courtesy of EMI  

 

 

ライブラリーミュージックを理解するためには、インターネットが登場する前、1990年代前半まで時間を巻き戻す必要がある。この時代はライブラリーミュージックの現在地を把握するためのキーポイントと言える。そして、この時代のロンドン・ソーホーを訪れなければならない。

 

かつて、ロンドンの中心部に位置するこのエリアにはレコードショップ、リサイクルショップ、制作会社、映画会社、編集スタジオが建ち並んでおり、私は毎日のように音楽を探し求めてここを訪れていた。中古レコードショップはどれも素晴らしいクオリティで、Reckless、Soul Jazz、Jam RecordsなどはスタッフをUSやヨーロッパへ定期的に送り込んではファンクやソウル、ラテンやジャズなどのレア盤を仕入れていた。また、個人で活動しているレコードディーラーやディガーたちがこのエリアのストリートやコーヒーショップで顔を合わせてはレア盤や最新情報を交換・売買していた。

 

当時の私は映画とテレビ番組の音楽に興味を持っていた。ポップやロックなど、より大きなジャンルのレコードコレクションには一度も興味を持ったことがなかった。1970年代と1980年代を通じて、私は実験的なテレビ番組や深夜番組をよく観ていたのだが、それらで使われていた音楽が好きだったのだ。それでソーホーを訪れては、捨て値のジャンク盤やレコードコレクターのレーダーには映らないサウンドトラックなどを買い集めていた。

 

しかし、そのようなレコード収集生活を数年続けたあとも、私はまだ自分が本当に求めていた音楽、深夜の教育科学番組やPublic Information Film(PFI:政府広報短編映像。日本の公共広告機構のCMに近い)、1960年代の下品なエロティックホラー映画などで使用されていたエクスペリメンタルな音楽を見つけられずにいた。

 

 

V.A.『New Blood』:シュールなジャケットからはイメージできないポップでリズミカルなアルバム ©Courtesy of EMI 

 

 

信じてもらえないかもしれないが、当時の私は死ぬ気で探し回っていた。ソーホー周辺やロンドン市内で開催されていたレコード市、マーケットへ向かえば、自分に似たファッションをしていて同じような好みをしている同世代のレコードコレクターたちと顔を合わせたが、私たちの誰もが床に跪いてひたすらジャンク盤を掘っていた。ヒップクラブ “Smashing” をオープンしていたDJのMartin Green、威勢の良いオーディエンスを相手にクールなラウンジミュージックをプレイしていた2人組のKarminskys、レコードコレクター&ファッションデザイナーとして活躍していたFraser Mossなどと一緒に昔のテレビ番組の奇妙な音楽を探し回っていたのだが、誰も見つけることができずにいた。

 

そんな中、1995年のある夕方にJam Recordsでレコードを掘っていると、『Dramatics Electronic』というアルバムを見つけた。ジャケットのフロントには雑に描かれた楽器が並べられており、Frank Gartnerという一度も聞いたことがない名前の作曲家がクレジットされていた。トラックリストもフロントに印刷されていたが、バックにも4カ国語で印刷されていた。「Radar Blips」、「Dance Of The Ions」、「Nuclear Wash」などのトラックタイトルが私の興味を引いた。教育系アルバムのように思えた。普通のアルバムではないことだけは確かだった。

 

 

 

 

それでこのアルバムを買って家で聴くと、そこには私が長年求めていた音楽、深夜の科学番組の音楽が収録されていた。奇妙で、顔が見えない、他とは違う音楽だった。

 

このアルバムはBosworth Musicというレーベルからリリースされていた。レーベルの住所がソーホーだったので、翌朝彼らの元を訪れるとHoward Friendと知り合った。Howardは興奮している私を落ち着かせたあと、『Dramatics Electronic』が何なのか、つまり、このアルバムがライブラリーミュージック(別名プロダクションミュージック)であることを教えてくれた。そのあと、Howardは他のライブラリーミュージックも見せてくれた。どれも似たようなルックスのジャケットで、ジャズやイージーリスニング、エキゾチカなどが収録されていた。

 

ようやくすべてがひとつに繋がった。自分が長年探して求めて着た "非商用" な音楽(実際はヴァイナル)の奇妙で秘密な世界を見つけた私は探し求めている人が他にもいることを知っていた。そこで、この音楽をがむしゃらに探し続けてきた全員にすべてを紹介するためのコンピレーションが企画された。

 

 

Joel Vandroogenbroeck『Biomechanoïd』:H.R.Gigerのアートワークが光るスペースシンセの名盤 ©Courtesy of EMI

 

 

The Super Sounds Of Bosworth』は1996年に私のレーベルTrunk Recordsからリリースされた。これは一般販売された初めてのライブラリーミュージック・コンピレーションアルバムだった。レコードショップのRough Tradeでさえ最初は「急造バンドとわざと古いサウンドに仕立てた新録トラックを集めたまがい品」と考えたこのアルバムは、ジャズ、エレクトロニック、エクスペリメンタルのリスナーはもちろん、そして一風変わったブレイクを探しているディガーさえ注目することになった。

 

1995年にリリースされて大きな話題になったイージーリスニングのコンピレーションアルバム『The Sound Gallery』に続いてリリースされたというタイミングの良さもあった。これはEMIのバックカタログを使ってDJのMartin GreenとPaddy Whittakerがまとめた作品で、EMIのStudio 2でレコーディングされたラウンジコアクラシックが多数収録されていたが、KPMのライブラリーミュージックとMartinががむしゃらに掘り続けて捨て値で手に入れていたアルバム群からのトラックも含まれていた。この2枚のコンピレーションが、冒険好きのリスナーにライブラリーミュージックを紹介する奇妙な架け橋になった。

 

Basil Kirchin & John Coleman『Mind On The Run』:ジャケットも奇妙だがトラックはさらに奇妙な珍盤 ©de Wolfe Music

 

 

これらがリリースされた頃のライブラリーミュージックシーンは変化を迎えていた。ライブラリーミュージックは20世紀初頭から続いていたビジネスで、1960年代中頃まではライブラリーミュージックを専業とするいくつかの大企業が78回転と33回転のヴァイナルをリリースしていたのだが、1970年代に入る頃にその数が10倍に増えた。ライブラリーミュージック系企業の多くはロンドン、パリ、ケルン、ローマに集中しており、それぞれが素晴らしい音楽を放送業界へ流通させていた。

 

1980年代後半を迎える頃には、100を超えるライブラリーミュージック系企業がアルバムを大量リリースしていたが、一方で放送業界側ではヴァイナルが余るようになっていた。ライブラリーミュージックはすべてCDで用意されるようになっていた。短時間でプレスできるし扱いも楽だったからだ。大体、モダンなCMや最新のテレビ番組に昔のライブラリーミュージックを使いたい人などいなかった。この結果、1990年代中頃までに制作会社や放送局が使わないヴァイナルを破棄するようになった。こうして、レアで非商用だった音楽が初めてストリートやレコードショップに並ぶようになった。

 

そしてタイミングが良いことに、時を同じくしてライブラリーミュージックだということを知らずにこの音楽を聴いて育ち、この音楽を手に入れたいと思っていた一部の奇妙なレコードコレクターが登場した。パーフェクトストームのようにすべてのタイミングが重なり合ったのだ。ソーホーの "パーフェクトストーム" ぶりはひときわだった。このエリアに構えていた一連の歴史ある制作会社が目の前のストリートとレコードショップにヴァイナルをどんどん放り出していた。

 

 

 Barbara Moore『Vocal Shades And Tones』:UKジェットセッター的コーラス入りのレア盤 ©de Wolfe Music

 

 

私が『The Super Sounds Of Bosworth』をリリースすると、BBCで働いている男性から連絡があり、数ヶ月前にBBCのヴァイナルアーカイブから数千枚頂戴してきたと言ってきた。また、他のライブラリーミュージックマニアからも連絡が来るようになった。こうして、ゆっくりとライブラリーミュージックのレコードコレクターグループが広がっていき、奇妙な姿をしたインターナショナルなライブラリーミュージックシーンが生まれていった。

 

シーンの中でレーベルや重要な作品、ウォントリスト、そして「ジョン・カーペンター監督の映画『ダークスター』で使用されているライブラリーボサノヴァトラックの名前は?」などに代表される未回答の質問などがまとめられていった。昔の奇天烈なテレビ番組のテーマトラックが再発見され、コレクターたちはセックス、ホラー、カンフー、1970年代のクラシックな刑事ドラマにライブラリーミュージックが大量に使用されていることに気付くようになった。この結果、UK、フランス、イタリア、ドイツ、そしてUSでコンピレーションが次々とリリースされるようになった。また、この音楽をサンプリングするシーンも登場した。

 

そして、ライブラリーミュージックの歴史が明らかになり、その影響力が大きくなると、2000年頃にはクラシックタイトルの価格が高騰した。『Drama Suite Part I』と『Drama Suite Part II』はそれぞれ500ポンド(2000年のレートで約8万2,000円)に跳ね上がり、『Feelings』は400ポンド(同レートで約6万5,000円)、『Rhythms』は300ポンド(同レートで約4万9,000円)で取引された。

 

インターネットの登場もシーンを拡大させ、ライブラリーミュージックの基礎知識やレーベル名を知っていれば誰でもレア盤を手に入れられるインターナショナルシーンが生まれた。これにより、初期から活動していたライブラリーミュージックコレクターたちがさらなる幻のレーベルを見つけたり、無名のアルバムを安価で手に入れたりするチャンスを得た。

 

 

Astral Sounds『Red Kite』:水や自然風景をイメージして制作されたカルトエレクトロニック ©de Wolfe Music

 

 

私は2005年頃に本を出版した。世界初のライブラリーミュージック本だ。UKで最初期から活動していた最高のレコードコレクターたちの力を借りながら執筆したこの本は『The Music Library』というタイトルでFuelから刊行された。500以上のアルバムとレーベルが収録されていたこの本は、新世代のレコードコレクターとグラフィックマニアたちにまだ多くが未知だった新たな音楽世界を教えることになった。また、この本はライブラリーミュージックがサウンドトラックと教育系音楽の時代を生み出したことも示すことにもなった。

 

ライブラリーミュージックシーンはさらに大きくなっていったが、やがて他のシーンと同じように少し縮小した。レコードコレクターたちがよりヒップなシーンを求めてこのシーンから去ったからだ。だが、ハードコアな連中は残り続け、2014年に再びクレイジーな盛り上がりを見せるようになった。

 

重要作品として位置づけられてきたアルバム群が1000ポンド(当時のレートで約17万5,000円)を超える価格で取引され、新世代のレコードコレクター、特にUSのコレクターが金に糸目を付けずにそのような “トロフィー” を手に入れてオンラインで公開するようになった。私は、『The Music Library』からの10年間でライブラリーミュージックの知識・レーベル・アルバムの数が大きく変化したのことを受けてこの本の拡大版を刊行した。

 

そして2019年を迎えた今、ライブラリーミュージックをテーマにした映像作品が存在し、UKのライブラリーミュージックレジェンドたちのコンサートがソールドアウトになっている。また、再発盤のリリース数も過去最高で、レコードショップでの扱いも大きくなっている。

 

25年のライブラリーミュージックコレクター生活を通じて私は多くを学んだ。しかし、今もまだ学んでいる。今もヴァイナルを買い集めている。簡単に言ってしまえば、1960年代中頃から1980年代中頃までのライブラリーミュージック黄金時代は、私のような熱心なファンに最高に豊かで素晴らしいサウンドと音楽を常に届けてくれるのだ。それらは喜びに溢れており、真のクリエイティビティとリスクテイクが感じられる。ただし、メインヴォーカルは入っていない。

 

 

Brian Eno『Textures』:1989年にリリースされた激レアのライブラリーアルバム ©Standard Music Library

 

 

 

《ライブラリーミュージックを集めたい人へのアドバイス》

 

1: “聖杯” と呼ばれているオリジナル盤にそこまでこだわる必要はない。音質が良くない盤もあるからだ。また、持っていようがいまいが誰も気にしない。少なくとも私は一切気にしない。

 

2:高価なほど名盤というわけではなく、レアだから名盤でもない。というよりも、最近は価格では何も分からない。私の意見を言わせてもらえば、史上最高額で取引されたアルバムでも1~2トラックしか良くない。良いトラックがひとつも入っていないアルバムさえある。1,000ポンド(約14万円)で取引されていても、ただのノイズでしかないアルバムもある。

 

3:自分の耳で判断することが重要だ。できる限り聴いて、自分のテイストを見極めよう。他人の意見やオンラインの評価、価格に振り回されてはいけない。最近はライブラリーミュージックの大半がオンラインで視聴できる。Spotifyも素晴らしいリソースとして活用できる。

 

4:正気を失っていないなら、ライブラリーミュージックのフルコンプを狙うのはやめよう。大金が必要になる上に、カタログの大半は二度と聴きたくない内容だ。

 

5:少額から始めよう。10ポンド(約1,400円)程度でも優れたライブラリーミュージックアルバムが手に入る。中には本当に素晴らしい作品もある。私も先日30ポンド(約4,200円)で素晴らしいアルバムを手に入れた。これは再発盤の平均的な価格だ。しかし、25年のレコードコレクター人生の中で初めて出会った作品で、心底驚かされた。これまでリリースされてきたありとあらゆるライブラリーミュージックを漏らさず聴いたことがある人は存在しない。掘り出されるのを待っている隠れた名盤は必ず存在する。

 

6:ライブラリーミュージックアルバムは他のジャンルの一般的なアルバムのように「聴いてもらうため」に制作されていないことを忘れないようにしよう。これらのアルバムはテレビ番組制作のために企画されたので、『The Beatles』(aka 『The White Album』や『Hunky Dory』のように最初から最後まで通して聴けるクオリティを期待してはいけない。もちろん、中には通して聴ける作品も存在する。

 

7:1960年代から1970年代にヴァイナルでリリースされた初期ライブラリーミュージックアルバムは非常にレアだということも忘れないようにしよう。プレス枚数が非常に少なく、通常は200枚、もしくはそれ以下で、多くても500枚だ。というわけで、大好きなアルバムのオリジナル盤を見かけたら手に入れるしかない。

 

8:他のジャンルとは異なり、ライブラリーミュージックではコンディションはそこまで問われない。もちろん、盤のコンディションは重要だが、ジャケットはそこまで重要視されない。ステッカーが何枚も貼られているジャケットやマーカーでメモが書かれたジャケットもある。制作現場で使われていたレコードなので、その歴史が視認できる時があることを覚えておこう。汚れは悪いことではない。良いことなのだ。

 

9:意外なロケーションで探してみよう。信じてもらえないかもしれないが、ライブラリーミュージックは学校や昔からあるショップの倉庫、ガレージや教会からも掘り出されている。オンラインやレコードショップ以外にも名盤が眠っている。

 

10:ダンスパーティやウェディングパーティのDJでライブラリーミュージックをプレイするのはNGだ。というより不可能だ。30分以上は続かない。

 

 

The International Studio Group『Zenith』:1960年代にSylvester Music Companyからリリースされた隠れた名盤 ©de Wolfe Music

 

 

《Jonny Trunkが選ぶライブラリーミュージックレーベル ベスト10》

 

KPM:膨大なコレクションを誇るクラシックレーベル。Spotifyで聴ける。

 

de Wolfe:最も古く最もエンターテインメント性の強いレーベルのひとつ

 

Selected Sound:ドイツ発のエクスペリメンタルマッドネスが楽しめる素晴らしいレーベル。Spotifyで聴ける。

 

Themes:KPMから分岐したレーベル。1970年代らしいバイブス。

 

Bruton:1970年代~1980年代のドラマ、シンセサウンド、ゴミが混在するビッグレーベル。

 

Chappell:多種多様なジャンルをカバーする膨大なインターナショナルリリースを誇る。

 

Telemusic:ヒップなフレンチレーベル。

 

MP2000:よりパリジャン的サウンドのフレンチレーベル。

 

Musique Pour L’Image:素晴らしいジャズサウンドなどが楽しめる。

 

Sermi Film Edizioni Musicali:イタリアンジャズマッドネス。 “トロフィー” レーベルのひとつと言われているがその評価に相応しいクオリティ。

 

 

 

Header Image:©Standard Music Library

 

 

06. Sep. 2019