九月 11

ライブラリーミュージックの現在と未来

1960年代から1970年代にかけてが黄金時代と言われている非商用音楽の2019年はどうなっているのだろうか? 未来はどうなるのだろうか?

By Aine Devaney

 

ライブラリーミュージックはどこにでもある。気付くかどうかは別として、我々はこのジャンルを常に聴いている。ストック / プロダクションミュージックとも呼ばれるライブラリーミュージックは “本物の音楽” として認められないことが多い。なぜなら、特定の目的のためだけに制作されるからだ。しかし、現実を言えば、この音楽は日常生活の音楽として機能している。

 

お気に入りのポッドキャストやテレビ番組のBGMとして流されている音楽であり、ジムのスタジオレッスンで流されているAriana Grandeモドキの音楽であり、電話の保留中にしつこく繰り返されるあのグロッケンシュピールのループでもある。ライブラリーミュージックは遍在し、エンドレスに供給されている。しかし、そのビジネスの実態は多くの人が知らないままだ。

 

熱心な音楽ファンなら、ライブラリーミュージックと言われると、1960年代から1970年代にかけての黄金時代のトップアーティスト、Keith MansfieldAlan HackshawBrian Benettなどを頭に思い浮かべるかもしれない。当時は彼らを含む非常にテクニカルだがどこか空虚なジャズ、ファンク、ディスコのレジェンドたちが数多く存在した。やがて、このようなレジェンドたちのライブラリーミュージックアルバム群がレア盤として高い人気を誇るようになり、他の一般的な音楽ジャンルとは異なるその独特なサウンドと奇妙な立ち位置は今も偏愛されている。

 

また、一般流通しておらず、コンテンツプロデューサーたちによって管理されていることから、この “アンチャーテッド” な世界はサンプルディガーたちの宝島にもなっており、Beyoncé、Gorillaz、Lily Allen、Drake、Madlib、Mark Ronsonなど数多くのアーティストたちがこの世界にインスピレーションを求めてきた。

 

しかし、ライブラリーミュージックの現在地はどこなのだろうか? 誰が制作しているのだろうか? どんなサウンドをしているのだろうか? 過去の名作と同じような文化的価値はあるのだろうか? AI(人工知能)という名の魔王が送り込む “バーチャルコンポーズ製ソウルレスゾンビ” たちによって置き換えられる運命にあるのだろうか?

 

ライブラリーミュージックは、ニーズに合わせて制作される “フェイスレス” な音楽と言われることがあるが、この表現が正しい時は少なくない。そしてそれよりも多く耳にするのがヒットのコピートラックだ。しかし、ここ最近はIkonikaやBNJMNのようなアーティストたちによってこれらのコンセプトが揺るがされている。彼らは自分たちの作品の一部にライブラリーミュージックという新しい存在意義を与える方法を見つけ出しており、ライブラリーミュージックに与えられている “二次創作的音楽” という評価を変えようとしている。

 

 

 

“ミュージシャンなんだけど、本当の仕事をしているみたいな感覚が得られる。誰かのために何かをやるの。説明通りに制作して、ニーズに合わせてクリエイティビティを発揮するこの音楽は自分のスキルをフル活用できる”

Ikonika

 

 

 

IkonikaことSara Chenがライブラリーミュージックの存在を知ったのは、EMIとDomino Publishingとのコラボレーションとしてアルバムをプロデュースして欲しいというオファーがEMIから届いた2018年のことだった。そのアルバム『The Library Album』は抑えの効いたダブステップとダウンテンポのエレクトロニカ、エクスペリメンタルなベースミュージックが集められている秀作で、ライブラリーミュージックとして作られたわけではないトラックも含まれている。

 

「このアルバムにはアンビエントサウンドが大量に使われているんだけど、元々はそれらを使ってサードアルバムを制作するつもりだったの。でも、最後の最後でビートが欲しいと思って足したのがこのアルバムの柱ね。デモとして残っていたトラックも収録されているし、R&Bシンガーをイメージして制作したトラックもあるわ」

 

Chenは自分のトラック群をライブラリーミュージックの一般的な尺である2~3分にまとめたあと、EMIに送って選んでもらった。彼女がライブラリーミュージックの存在を知ったのはつい最近だが、現実を言えば、これは彼女が以前から挑戦したいと思っていた音楽だった。幼い頃からSEGAメガドライブのサウンドトラックやオーストラリアの信号機の音、Paul HardcastleのCM音楽など、ありとあらゆるサウンドに興味を持っていた彼女にとって、ライブラリーミュージックは自分のスキルを無駄なく、満足できる形で使える魅力的な方法に思えたのだ。

 

「ミュージシャンなんだけど、本当の仕事をしているみたいな感覚が得られる。誰かのために何かをやるの。説明通りに制作して、ニーズに合わせてクリエイティビティを発揮するこの音楽は、自分のスキルをフル活用できる」と語るChenは、アンダーグラウンドアーティストという枠に制限を感じている。「自分の今の仕事を本当の仕事だと思ったことは一度もないのよ。だって元々趣味だったから。数年前にようやく自分のキャリアについて真剣に考えるようになって、自分の音楽がどこまで通用するのか試してみたいと思ったの」

 

 

 

 

BNJMNことBen Thomasにとって、ライブラリーミュージックの仕事はアクシデントに近かった。ThomasはこれまでにUniversal、Ghostly Songs、Chappelなどにプロダクションミュージックを提供している。長年に渡りJackhighやSinging Statuesなど複数の名義と多種多様なスタイルを使い分けながら音楽制作を続けてきたThomasだが、彼のキャリアがブレイクしたのはダンスフロアにフォーカスした名義BNJMNをスタートさせたあとだった。

 

元々、Thomasには2つの可能性があった。元々はギターを全面的にフィーチャーしたエレクトロニカサウンドのアルバムをSinging Statues名義で制作する契約をGhostly Songsと交わしていたのだが、色々な理由からこのアルバムの話がなくなり、リリース先がなくなった未発表トラック群はライブラリーミュージックになったのだ。Thomasは今もBNJMN名義にフィットしないソフトでエクスペリメンタルなサウンドをライブラリーに提供している。

 

ライブラリーミュージックで複数のスタイルを使い分けながら、作曲スキルをフレキシブルに変化させてきた経験は、現在のThomasのクリエイティブプロセスに大きく反映されている。

 

「毎日スタジオでテクノを作るなんて僕には無理だ。どうにかなってしまうよ。ライブラリーミュージックがBNJMN名義に活かされる時があるし、他の音楽をやってみようというインスピレーションにもなってくれる。ライブラリーミュージックは自分の中に溜まっていたものを吐き出すためのものなんだ。そのあとでBNJMN名義に戻るのさ」

 

多くのアーティストにとって、自分のトラックをライブラリーミュージックとして提出することはそのトラックに別の人生を与えることを意味する。厳しい批判の目から離れてひっそりと “バックグラウンド” な人生を歩ませるというわけだ。テレビドラマを盛り上げ、悲劇を慰め、失恋を嘆き、ヨーグルトを売る。リスナーにそこまで深く考えさせる音楽ではないが、少なくとも、我々のお気に入りのアーティストが制作して一般流通させている音楽と同じ人間の脆さや弱さから作られているライブラリーミュージックがいくつか存在する。

 

ライブラリーミュージックのもうひとつ奇妙な特徴は、アーティストとライブラリーミュージックレーベルが自分たちの音楽がどこでどう使われるのかをコントロールできないという点だ。そのため、何とも不思議な使われ方をする時がある。ThomasのあるトラックはBBCが制作したダークなドキュメンタリー『How Police Missed The Grindr Killer』に起用されたことがある。本人は「不思議な感覚だったね。あのドキュメンタリーほど自分のトラックは不気味じゃないだろうと思っていたからさ。でも、実際に番組を見てみると、変な感情、殺人的なバイブスが浮かび上がってきたんだ」と振り返っている。

 

しかし、すべてがダークで呪われているわけではない。Thomasはネイチャー系ポッドキャストを聴いている時に、イルカとクジラの生活をイメージして制作したトラックが流れていることに気付いたとしており、Chenは自分のトラックが陰謀論を扱うドキュメンタリーで起用されたことを面白く感じたと語っている。

 

 

 

“簡単にライセンスが取得できる音楽へのニーズがこれまで以上に高まっており、また今は誰もが「コンテンツクリエイター」になれる時代のため、ありとあらゆるスタイルのライブラリーミュージックが信じられないほど多く存在する"

 

 

 

de WolfeとUniversalの最近のカタログをチェックしていくとかなりの困惑を覚える。その大きな理由は「Stardust Indie / スターダスト・インディー」、「Positive Emotion / ポジティブ・エモーション」、さらには「Christmas Jumpers / クリスマス・ジャンパー(※)」などとラベリングされたプレイリストにおびただしい数の駄曲が収録されているからだ。

 

しかし、その奥底にはいくつかの宝石が眠っている。Meredith Monkにインスパイアされたヴォーカルトラックは光が当てられる日をじっと待ち続けており、1980年代ポストパンク風トラック「Lies」は迫真のクオリティだ。筆者はこの2トラックをPaul SandellとWill ClarkがホストしているSoho Radioのラジオ番組『EMIPM Presents The Music Library』経由で知った。この番組は新旧の素晴らしいライブラリーミュージックに光を当てることを目的としているが、黄金時代と現代のライブラリーミュージックのクオリティと価値を比較するのは不可能に思える。

 

こう思う大きな理由は現代のライブラリーミュージックの量と幅にある。簡単にライセンスが取得できる音楽へのニーズがこれまで以上に高まっており、また今は誰もが「コンテンツクリエイター」になれる時代のため、ありとあらゆるスタイルのライブラリーミュージックが信じられないほど多く存在する。

 

John CameronAlan ParkerTrevor Bastowのような1960年代と1970年代に活躍したコンポーザーたちは優秀なセッションミュージシャンで、彼らは常に一緒に演奏をしていた。そのため、彼らが手がけたKPMのアルバム群の多くには人間同士の繋がりとケミストリーが感じられる。この特徴と非商用ヴァイナルというフォーマットの希少さが、初期ライブラリーミュージックのカルト的人気を永遠のものにした。一方、現在はラップトップ1台でオーケストラ曲が作れ、デジタル化によって大量の音楽にアクセスできるが、時としてそれらは消耗品に他ならない。しかし、時代はまた変わりつつある。

 

EMIがIkonikaやLuke Slaterにライブラリーミュージックのオファーを出し、アーティストとしての才能を持ち込んでもらっている中、WotNot Musicのようなレーベル群がモダンなエレクトロニック・ミュージックのブティックセレクションを企画して、My Panda Shall Fly、Sinah、Deftなどのアンダーグラウンド・エレクトロニック・アーティストたちをライブラリーミュージックシーンへ送り込んでいる。

 

「素晴らしくて本格的で今の時代を捉えているエレクトロニック・ミュージックが入り込めるスペースがあることに気付いたんだ。また、僕たちのレーベルとアーティスト、ネットワークが音楽収入を生み出せる従来とは違うビジネスモデルも見出すことができた」とWotNotのArun Sethiは説明している。彼らのカタログは全ジャンルを網羅しているが、安価でコンテンポラリーでエクスペリメンタルなダンスミュージックを手に入れたいと思っている、音楽への意識が高いクライアントがメインターゲットだ。

 

 

 

“ライブラリーミュージックへのニーズが高まっているとはいえ、ライブラリーミュージックは傾いており、業界とコンポーザーの間で厳しい戦いが繰り広げられている”

 

 

 

Universalと自分のレーベルAudio Wallpaperで20年以上働いてきたライブラリーミュージックシーンのベテランCraig Beckは、このビジネスを続けるためには微調整がカギになると考えている。「色々な要素を組み合わせるんだ。芸術性と収益制、未来のトレンドのバランスを上手く取らないといけない。賢く投資して、アートに偏りすぎないようにする必要がある」と語るBeckは、ライブラリーミュージックシーンの稼ぎ頭は彼が言うところの “トレーラーミュージック” だとしている。すでにイメージできているはずだ。そう、トム・クルーズがビルの間を落ちるシーンなどで使われる、異常にドラマティックでサスペンスフルなトラックのことだ。

 

Beckは自社が契約しているコンポーザーたちと家族のように接することを好んでいる。「私がコンポーザーを箱や枠の中に閉じ込めることはない。彼らが何をやりたがっているのかを見つけてあげたいと思っている。自分がやりたい範囲の中でやれば、より優れたクオリティの作品が生み出せる。彼らをその範囲の外側に押し出してしまえば、生まれるのはクズだ」

 

プロダクションミュージックへのニーズが高まっているが、ライブラリーミュージックシーンは傾いており、レーベルとコンポーザーの間で厳しい戦いが繰り広げられている。搾取的なレーベルが登場してコンポーザーに適切な報酬を払わないようになっているのだ。また、業界内ではAIへの恐怖が現実化してきている。Beckは「日々価値が下がっていて、コンポーザーたちは報酬を受け取れていない。完全にAI化されてコンピューターがライブラリーミュージックを制作するようになれば、私たちの利益はさらに減るだろう」と続けている。

 

WarnerのようなレーベルがAIサウンドスケープ企業Endelと契約し、SpotifyがAIを専門とする科学者・作曲家で、世界初のAI作曲作品「Daddy’s Car」の生みの親として知られるFrançois Pachetを雇い入れている今、ライブラリーミュージックの未来について考えるのは気が重い。

 

 

 

 

AI音楽制作会社Amper MusicのCEO、Drew Silversteinは、カスタマーが直接AIとやり取りをして自分のコンテンツ専用の音楽を制作できるウェブアプリケーションを開発している。ジャンル、サブジャンル、ムード、楽器編成、エモーショナルキュー(リスナーに持たせたい感情)などの項目を入力すれば、自分で音楽をコントロールできるのだ。Silversteinは筆者にこのアプリのデモを見せてくれたが、ジャンル「コーポレート・ポップ(※2)」にエモーショナルキュー「少し楽しくて前向きな感じ」を組み合わせてカップルの結婚式のデモ映像用としてそれなりにリアルなストリングスの音楽が作り出されると、自分の中に少しばかりの感情が生まれたものの、微妙な気味悪さを感じずにはいられなかった。

 

Silversteinとコンポーザーチームは、ライブラリーミュージックを必要としているコンテンツクリエイターたちの時間と予算をセーブするためにAmper Musicを立ち上げた。Silversteinはスティーヴン・スピルバーグ監督が次作の音楽にAIを起用することはないだろうとしているが、AIがライブラリーミュージックシーンで成長を続けることは信じている。AIがライブラリーミュージックビジネスとコンポーザーの価値を下げてしまうのではないかという質問を投げかけると、Silversteinは実用主義的かつ冷静な回答をした。

 

「機能的な音楽なら、その価値は民主化されます。Amper Musicが存在しようとしまいと、正直に言えば、この世界のテクノロジーは日々進化していますし、ライブラリーミュージックのような機能的な音楽のコンポーザーはバリュー・チェーン(価値連鎖)を芸術的な音楽へステップアップさせる必要があります。自分の音楽が芸術的ならそのままキャリアを進められるはずです。なぜなら、クリエイティブAIが芸術的な音楽を生み出すことはできないからです。他人と一緒に芸術を生み出すという作業は人間を人間たらしめている核です」

 

AIは今や誰もが意識しているトピックだが、それには正当な理由がある。ライブラリーミュージックのレジェンドレーベルde Wolfe MusicのCEO、Warren de WolfeにライブラリーミュージックとAIの未来について訊ねた時に得られた回答の最後は、かなりフラットで達観さえ感じられるものだった。

 

「AIは未来へ向かうプロセスの一部なんです。音楽だけではなく、色々な部分のAI化が進んでいます。このデジタル時代の生活の一部なんです。この先、AIは非常に興味深い存在になるでしょう。AIに影響を受ける部分もあると思いますが、適宜対応して、共働する方法を見つける必要があります。私はそうすることを怖いと思ったことは一度もありません」

 

 

 

※1:Christmas Jumperはクリスマスセーターを意味する。クリスマスの頃に着るクリスマスをテーマにした柄物セーター

※2:Corporate Pop。オフィスや店舗、商店などで流れているBGMの総称。

 

 

Header Image:©Maria Chimishkyan

 

Translation & Edit:Tokuto Denda  

 

 

13. Sep. 2019