三月 10

日本人卒業生が語るRED BULL MUSIC ACADEMYの魅力

第二回目は、日本人初の受講生もであるディープ・ハウス/ビートダウン系アーティストのKez YMにインタビュー。

By Yoshiharu Kobayashi (The Sign Magazine)

 

遂に2014年10月から11月にかけて東京で開催されることになったRed Bull Music Academy。3月18日(火)のアプリケーション受付終了まで後僅かとなったが、まだ応募をするか迷っている人もいるに違いない。Red Bull Music Academyが非常に豪華な「音楽の学校」であることは分かっているけれど、それに参加すると具体的にどのような体験が出来て、何を得ることが出来るのか――そんな多くのアーティストが抱えているであろう疑問に応えるために始まった、Red Bull Music Academyの日本人卒業生の「生の声」を届けるというこの企画。前回のEmufuckaに続いては、2007年にトロントで開催されたRed Bull Music Academyの参加者、Kez YMに登場してもらった。日本人初の受講生でもある彼の貴重な言葉にじっくりと目を通してもらいたい。

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―まずはKez YMさんがRed Bull Music Academyに応募しようと思ったきっかけを教えてもらえますか?

Red Bull Music Academyの存在を知ったのは2005年の秋くらいでした。友達のアメリカ人に、「こういうのやってるよ」ってウェブサイトを教えてもらったんです。そこに自分の好きなアーティストのレクチャーがいっぱい載っていたから、「あ、面白いな」と思って。俺は海外のダンス・ミュージックばかり聴いていましたし、そういうレコードばかり買っていたから、自分の好きなところで自分も活動したいというのが元々ずっとあって、だからこそRed Bull Music Academyにも興味を持ったんだと思います。ただ、その時はまだ申し込むことは全然考えていなかったんですよ。2007年4月に日本でインフォメーション・セッションっていうのが開催されたんですが、それに行って初めて誰でも応募出来るんだっていうことがわかって、「じゃあ、ダメ元で申し込んでみよう」と思ったのが、申し込んだ動機ですね。

―そのインフォメーション・セッションでは、具体的にどのようなことが行われたのですか?

UFOの松浦俊夫さんがGilles Petersonにインタビューをするっていう形のレクチャーでした。音楽業界についてとか、最近の若いアーティストはこういう傾向でとか。ただ、そのレクチャーの内容が応募の直接的なきっかけになったわけではなくて。Red Bull Music Academy自体はウェブサイトを知った時から興味を持っていたので、自分が申し込んでも選ばれる可能性があるんだ、っていうことがインフォメーション・セッションで分かったのが、やっぱり大きかったですね。

―申し込みのアプリケーションは英語で記入して、レクチャーも英語で受けなくてはならないということは気になりましたか? それとも、とにかく応募してみようという感じだったのでしょうか?

英語はそこまで得意ではなかったですが、全く出来なかったわけではないので、躊躇はなかったです。ある程度は行けるだろうと思っていたので。ただ、実際にスタジオで誰かと一緒に作業する時に、「もっとこうして」っていう指示が伝えるのが上手く言えない時があって、多少のストレスもありましたけどね。

―なるほど。Kez YMさんが参加された2007年はカナダのトロントで開催されましたが、会場は具体的にどのような感じだったんですか?

本当に街の中心部の賑やかなストリートに面した――たまたま空いていた廃屋だったのかわからないんですけど、開催期間だけRed Bull Music Academyの建物として使われていましたね。一階のエントランスに入って、階段を上って上の階に行くとスタジオやレクチャー用の部屋があって、屋上にはテラスがあってそこでみんなでご飯を食べたりお酒を飲んだりも出来るっていう、いい環境でした。みんな言っていたんですけど、「凄い金かかってるな!」って。ビビってましたね(笑)。いきなりお菓子とか出てきて、みんなで屋上で食べながら、「これ、ヤバいね」って。

―Red Bull Music Academyの初日には、オープニング・セッションというものが開催されるらしいですが、それはどんな感じだったんでしょうか?

自分が普段作っている音楽はこんな感じですよ、っていうのを聴かせるものです。曲を作っている人は、自分の曲を一曲か二曲持ってきて、それを聴かせる。DJをやっている人は自分がよく掛けているレコードを掛けたりとか。持ち時間は1、2分で、結構短いので、大体オーバーするんですけど。人数が多いので、時間が短いのは仕方ないですよね。自己紹介を兼ねて、という感じです。

―Kez YMさんは何をプレイしたんですか?

自分の作った曲を二曲掛けました。普段自分が作っているようなダンス・ミュージックを一曲掛けたのと、全部自分で楽器を弾いて半分遊びで録った曲を一曲。でも後者の方がリアクションが凄くて、その後はやたらと楽器を弾かされていましたね。やっぱり楽器を弾ける人がいると重宝されるみたいで。とは言っても、俺はそんなプロみたいに上手いわけじゃないんですけど。

―その時は、他の受講生は、どういった音楽を作っていて、どういった国から来ている人達だったんですか?

ダンス・ミュージックを作っている人が一番多かったですけど、他にもジャズ・ピアニストとか、シンガー・ソングライターもいたし、DJだけでやっている人もいて。国で言うと、ヨーロッパや北米、それに南米が少し、っていう感じでした。アジアは俺を入れて二人ですね。

―Red Bull Music Academyの期間は、他の受講生とコラボする機会が多いと思いますが、Kez YMさんは具体的にどんなセッションをやっていたんでしょうか?

さっき言ったみたいに、「楽器を弾いてよ」って言われることが多かったんで、もう結構いろんな人に頼まれて、ギターやドラムでいろんな曲に参加していました。それとは別に、パソコンを使ってダンス・ミュージックを違う人と作ったりもしていたんですけど、開催期間中に取り組んだ曲では、ドラムを叩いた曲が2曲あって、ギターを弾いた曲があって、みたいな感じで、基本的に普段やっていることと違うことをやったなって。だから、自分本来の音楽キャリアとは直接関係ない部分が俺としては大きかったんです。でも、それはそれでいい経験になりました。直接的にプラスになったっていうわけじゃなくても、その経験から得たいろいろなフィードバックがありますから。

―ちなみに、制作は二週間、本当にみっちりやっていた感じですか?

自分はそうでしたね。でも、もっと遊んでばかりの人もいたんで、俺ももっと遊べばよかったって思ってます、今は(笑)。

―そこらへんは結構自由なんですね。

そうですね。自分が参加していた頃は、とりあえずレクチャーの時はちゃんと参加してくれ、後の時間は自由にしていていいから、っていう感じでした。でも、俺はお金の掛かった設備に興奮してしまって、ずっとスタジオにこもってばっかりでしたね。スタジオはレコーディング・スタジオがちゃんと一個あって、それ以外に、各自がパソコンや楽器を勝手に使っていいスタジオが何個かあるっていう。そのレコーディング・スタジオが凄くしっかりしていて、プロのエンジニアがいて、楽器がいっぱい置いてあって、個人的にはそこに凄く興奮しました。後は、ヴィンテージのシンセサイザーとかエフェクターとか、古いパソコンとかもあって、機材好きの人はそっちもいじってましたね。

―そういった制作をやりつつ、一方ではレクチャーも毎日受けるわけですが、Kez YMさんが参加された年は、誰が講師で来ていたんですか?

ヒップホップの大御所のDJ Premier、Mulatu Astatkeっていうエチオピアン・ジャズの巨匠、後はPrins Thomas、日本からはドラムンベースのMakotoさんとか、たくさんいましたね。Makotoさんは日本人ということもあって、講師の中では自分と一番境遇が近かったですし、英語も分かりやすかったので(笑)、よかったですね。後は、Don Buchlaっていう自分で楽器をたくさん作っている人がいて(*サン・フランシスコのインストゥルメント・デザイナー)、その人が作ったっていう変わった楽器をいろいろ見せてもらう回もありました。大御所の人はしゃべっているのを見ているだけでも、「いいなあ」と思いますよね。

―確かに。そういった口頭でのレクチャーをしてくれる講師とは別に、実践的なことを直接教えてくれるアーティストも来るんですよね?

そうですね。スタッフというんですけど、そういった人達の中にも結構有名なアーティストがいて、自分の時はドラムンベースのDJ Zincとか、SA-RA Creative PartnersのOm'Mas Keithとか、他にもエンジニアの人とかいろいろいました。マスタリングの説明とか、そういうことをしてくれましたね。後は、個人的に訊きたいことがあれば全然対応してくれますし、一緒に曲を作るのを助けてくれたりとかしていました。

―そういう風に直接教えてもらったことで、自分として役立ったなと思ったものはありましたか?

個人的には、テクニック面ではそんなになかったんです。でも、いろんな国のいろんなキャリアの人達がどういうやり方をしているのか、っていうのを、実際に目の前で見たりする中で、「あ、これでいいんだ」みたいな感じがありましたね。このやり方じゃなくちゃいけない、っていうのが決まっているわけじゃなくて、みんな自由にいろいろやっていて。だから、今までの自分のやり方もありなんだ、っていうのがわかったのは結構大きかったです。あれもありなら、これもありじゃん、っていう。「プロはこうしなきゃいけないんじゃないか?」みたいなのが無くなりました。

―そういった気持ちの変化というのは、自分の制作に何かしらの影響を及ぼしたところはあると思いますか?

それはあったと思います。考える前にやるようになったかもしれないですね。頭で考え過ぎずに。こうじゃないとダメなんじゃないかとか、ああじゃないとフィットしないじゃないかとか、躊躇することが減ったっていう影響があったかもしれないです。後は、人と作ることに対しても気楽に取り組めるようになったのもあります。

―Red Bull Music Academy参加以前は、誰かとコラボで曲を作ることはそんなになかったんですか?

全くなくて、あの時が初めてだったんです。その後は人と作る機会も増えて、最終的に完成したものもあれば完成しないものもある、っていう感じなんですけど。でも、完成しなくても何かしらのフィードバックが自分にあるんで、それは楽しんでやっています、いつも。

―Red Bull Music Academyの期間中は、トロントの街でたくさんのパーティ、イベントが開催されていたと思いますが、そこでプレイもしたんですか?

しました。一回だけ、夜にホテルのラウンジみたいなところで、参加者4人でDJをしたんです。海外でプレイしたのはその時が初めてだったので嬉しかったですね。お客さんがあまりいない時間帯だったのが残念ではあったんですが、楽しんでプレイしました。ただ、その後にRed Bull Music Academyのラジオ用のミックスを録る機会があったんですよ。そのラジオのスタジオが食堂に面した場所だったんですけど、みんなが食事している時間に録音することになって。その時は自分がやったら、食堂にいる人達が結構湧いたんで、「よっしゃ!」っていう感じでしたね。

―自分がプレイしたもの以外では、どんなパーティに行っていたんですか?

受講生の中から歌う系の人達が集まってライヴをやった日があったんですが、それがみんな素晴らしかったので印象に残ってます。自分が遊びに行ったのは合計で3つか4つくらいだったんですけど、本当にたくさんやっていたんで、今思えばもっと行っておけばよかったなって。本当にスタジオばかり入っていたんで、それほど行かなかったんですよね。でも、Red Bull Music Academyの参加者は30人もいますから、中にはたくさんパーティに行って、目を真っ赤にしてレクチャーの最中はずっと寝ているのもいましたし(笑)、本当に人それぞれです。

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―なるほど。Red Bull Music Academyの最後には、各自が作った曲を聴かせ合うリスニング・セッションというものが行われますが、それはどのような様子だったのでしょうか?

最初は誰が作ったとは言わずに曲を流すんですよ。それをみんなで聴いて、その後に立ち上がって、「自分が作った」って言うと、みんなワーッとなるっていう。やっぱり盛り上がりますよね。二週間の最後の総仕上げなので。俺が他の参加者の曲を聴いた感想としては、みんな頑張ったな、っていう感じですかね(笑)。それぞれの特色が出ていて、面白かったです。こいつとあいつが一緒にやって、こうなったか、っていうのが。最後の方になると、みんな仕上げるのに焦ってくるんですよ。だから、スタジオはどこもパンパンで、「空いてない、空いてない」って言って歩き回っている奴もいましたし。そんな中、みんな最終的には何かしら人に聴かせられるものを最後までには仕上げていましたけど。

―では、Red Bull Music Academyに参加してみて、自分にとって一番の収穫は何だったと思いますか?

やっぱり世界中に友達や知り合いが出来たことですね。自分がヨーロッパの誰かが住んでいるところに行くんだったら連絡して、パーティに遊びに来てもらって、自分も数日泊めさせてもらったり。向こうが東京にDJやライヴをやりに来る時はメールをもらって、一緒に観光したりとか。それと、さっき言ったみたいに、好きなやり方でいいんだと分かって気持ちが楽になって、音楽を音楽として純粋に楽しめるようになった、っていうこと。その2つが大きかったです。

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―今後の活動の予定についても教えてください。

RONDENIONのレーベルから、No Milkっていうアーティストが昔出した曲を俺がリミックスしたやつがもうすぐ出ます。あとは、そのRONDENION、No Milkと組んだRONDENION’s Ragrange SymphonyっていうユニットのCD(『Triple Joker』)が出たばっかりで、それのライヴ・セットでTAICOCLUB’14に出ます。どうやってライヴをやるかは、これから考えるところですね。RONDENIONは結構楽器が出来るので、それを押しつつ、俺らはバックでごちょごちょやろうかな(笑)。

―楽しみにしています(笑)。では最後に、これからRed Bull Music Academyに応募しようと思っている人へのメッセージをお願いします。

きっと何かしら自分にとってプラスになる部分が見つけられると思うので、参加してみる価値はあると思います。せっかく身近な場所で開催されるいい機会なので。もし選ばれなくても、いろんなイベントがやっていますし、間接的に参加する機会はいっぱいあると思うので、Red Bull Music Academyが東京で開催されるのを楽しんでほしいですね。







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