六月 18

小山田圭吾 X 辻川幸一郎 対談

『攻殻機動隊』のアナザーサイドを作り上げた二人の制作秘話

1989年、ヤングマガジン海賊版に初掲載された『攻殻機動隊』。以降、95年に押井守が監督したアニメ版『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、02年にはテレビアニメ版が放映されている。それぞれのディレクターや制作者により、原作のイメージは増幅され、作品によってイメージは違う。しかし、『攻殻機動隊』というタイトルは、日本アニメのアイコンのひとつとして、世界中で認識され、人気を誇っている。原作の発表から25年を記念して発表される『攻殻機動隊 新劇場版』が公開される。前作『攻殻機動隊 ARISE』に続き、サウンドトラックをコーネリアスこと小山田圭吾が担当。『攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T. by Cornelious』がアルバムとして6月17日に発売された。劇中で主人公、草薙素子を担当している坂本真綾が歌う主題歌「まだうごく」。前作『ARISE』でも「じぶんがいない」や「外は戦場だよ」の作詞を手掛けた坂本慎太郎が担当。坂本が独自に解釈した『攻殻機動隊』の世界を聴くことができる。そして、アニメのサウンドトラックにも関わらず、「まだうごく」、「じぶんがいない」、「外は戦場だよ」には独自のミュージックビデオがある。ディレクションを担当するのは、コーネリアス作品で映像を担当する辻川幸一郎。『攻殻機動隊』のアナザーサイドを作り上げた二人に制作秘話などを聞いた。

(インタビュー:渡部克己)

 

 

 

前作の映画『攻殻機動隊 ARISE』、そして『攻殻機動隊 新劇場版』のサウンドトラックを小山田さんが担当されることは、リスナーやファンにとって大きなニュースでした。その制作の過程をうかがえればと思いますが、映画のストーリーにあわせて、監督などから音楽にも注文が入ると思うのですが。

 

小山田 物語が中心にあるから、それにあわせてオーダーが入ってくる。出来あがった映像を見ながら音を付けていくから、まず能動的には出てこない音楽が出来上がるんですよね。『攻殻機動隊 ARISE』制作時は、新鮮な気持ちでした。 これは個人的の話になりますが、当時は『デザインあ』(NHK Eテレ)の音楽も作っていたんです。ダークな『攻殻機動隊』の制作を終えると、明るく楽しい『デザインあ』が待っているような。明暗が両極端で、バランスはよかったんですよ。

 

『攻殻機動隊 ARISE』(13年)にはborder:1〜4があり、それぞれにエンディングテーマがあり、ミュージックビデオを制作されていますね。

 

小山田 サウンドトラック用に作った曲だから、独立したミュージックビデオがあるのも珍しいよね(笑)。エンディングテーマでありながら、ひとつの独立した楽曲として成立するような曲を作りたかった。そのコンセプトは、最初から話していたんですよ。話が現実的になった段階でジック(辻川)に相談したんです。

 

辻川 「じぶんがいない」(13年)から、もう5本作っていますね。

 

制作はどのように進んでいったんでしょうか?

 

小山田 恒例だけど、まずは事務所に集り、近況報告も含めてダラダラ話をして(笑)。1時間もすると飽きてくるので、仕事の話を具体的に始めます。曲を渡して、僕のイメージを伝えて、アイディアを交換していくね。

 

辻川 次に会う時は、僕が何個か具体的なプランを用意していき、小山田くんが気に入ったものを具体化していく。次に会った時には、大体できているものを見てもらって、という流れが多いかな。フルCGやコマ撮りなど、シリーズ5本すべて違った映像手法にしてみました。映画のストーリーと世界観を取り入れながら、これまでのコーネリアス作品ともどこか繋がっているような映像になっています。

 

小山田 いつも打ち合わせの時、ジックが鉛筆で書いたコンテを描くんだけど、完成時には「ここまでクオリティが上がるんだ」という驚きがあるね。 『攻殻機動隊』のイメージとは?

 

辻川 サイボーグ(義体)やゴーストがある。そして、記憶が書き換えられているかもしれないと、自分自身さえ疑うような、虚実のあやうさが強いかな。

 

小山田 映像化するのは、おもしろかったけど、大変だったね。

 

辻川 僕がやっているのは本編に対しての裏バージョン。攻殻機動隊のテーマをズラして表現しています。レコードでいえばB面というか。ちょびっとサイケ。

 

 

 

まずは『攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T. by Cornelious』に収録されている最新作のエンディングテーマ「あなたを保つもの」ですが、これは坂本慎太郎さんの作詞ですね。

 

辻川 坂本さんの歌詞から「たもつもの」を中心にテーマを考えていきました。シンボリックなものを延々描いていて、割とシンプルに考えていましたね。前4作で取らなかった方法で制作しようと考えて、フルCGにしました。実際の映像制作スタッフとも相談しながら、限られた時間の中でどうしたら完成度があがるか、相談しながら作りましたね。

 

『攻殻機動隊』のイメージは、坂本さんとも共有しているんですか?

 

小山田 3年目にこのプロジェクトが始まる前、坂本くんにも『攻殻機動隊』のDVDボックス観てもらいました。アニメを見ているイメージはないけど、「意外とおもしろかった」と返しがきて、ちゃんと見たみたい(笑)。それで「じぶんがいない」と「外は戦場だよ」の歌詞を書いてもらっていました。新曲「あなたを保つもの」も基本的には同じ世界観だけど、途中で「ひとつのテーマで、何曲も書くのはつらい」と言ってきましたね。坂本くんは歌詞をお願いすると、“え!もうできたの?”という感じで、めちゃくちゃ早く書いてくれるけど、今回は手こずってたみたい。でも、最後に「まだ動く」をお願いした時は、「あなたを保つもの」で何か掴んだようで早かった。

 

辻川 『攻殻機動隊』に新しい解釈を見つけたのかもね。僕は坂本さんの歌詞が本当に大好きで、ものすごく尊敬しています。

 

小山田 坂本くんは歌詞とメロディの相性をチェックしに、レコーディングスタジオへ来てくれるんだけど、いつも何も言わずに帰っていくんだよね(笑)。

 

では、新しいエンディングテーマから順を追っておたずねしますが、border:4「Split Spirit」は、小山田さんが参加されている高橋幸宏&METAFIVEの曲ですね。基本的に小山田さんがシンガーを招くのが『攻殻機動隊』の通例だけに、異色ですね。

 

小山田 幸宏さんがライブ用にバンドを組んで、METAFIVEという名前も付いた時に、丁度border:4をやっていたんです。以前に『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』というテレビシリーズがあったので、幸宏さん(YMOには『SOLID STATE SURVIVER』という名盤がある)に歌ってもらおうと思ったんです。レオくんと二人でボーカルレコーディングをしましたね。

 

インパクトのあるMVになっていますね。

 

辻川 CGは一切使っておらず、3日くらい撮影した素材を、僕が編集しました。『攻殻機動隊』の重要なモチーフのゴースト(=霊)が肉体から離れる(スプリット)状態を、どうヴィジュアル化しようかと考えました。写真で人が素早く動いている時に撮影すると、ブレて映るのは何となくゴーストっぽいので、それでいこうと。スローシャッターでブレた残像をコマ撮りにしました。

 

小山田 僕は撮影現場に応援団としてお邪魔しましたが、大変そうだったね。

 

辻川 制作会社のプロモーションマネージャー(PM)7名に、全身タイツを着てもらい、ゴーストに見えるまで必死に動いてくれとお願いして(笑)。「あ、今ゴーストに見えたね」と言いながら一コマづつ録っていきました(笑)。暑い最中で、空調のないスタジオだったから、次々と倒れちゃって。凄惨な現場でした(笑)。 border:3エンディングテーマ「Heart Grenade」では、ショーン・レノンの悲しいメロディが印象的ですね。

 

小山田 プラスティック・オノ・バンドがロンドンで集まった時、ショーンと話していたら、『攻殻機動隊』が好きで見ているということが発覚して。

 

辻川 シリーズの中で唯一なんだけど、主人公の草薙素子のラブストーリーですね。

 

小山田 ショーンには「ラブソングでよろしく!」と言って、歌詞を見たらもの凄い暗い歌詞で(笑)。作品をよく理解しているんですよね。

 

辻川 義体をテーマにしたMVにしようと思っていたので、どうすれば歌詞の悲しいイメージが出せるか考えましたね。僕自身で手の義体を演じています。デザインは僕が小学生の時に観て衝撃を受けたハービー・ハンコック「ROCK IT」のステージに出ていた機械人形のイメージです。

 

小山田 ショーンが僕の誕生日プレゼントに、大きな絵を描いてくれて。アリとかUFOが散りばめられたサイケな絵なんだけど、ジックに送り、キャラとして混ぜてって言いました。

 

辻川 あの絵をCGのワイヤーフレームに置き換える作業は大変で、CGチームは苦労してました。でも、曲の雰囲気にはピッタリだったので、結果的にはよかったですね。

 

 

 

ここからは以前にリリースされた『攻殻機動隊ARISE O.S.T.』に収録された楽曲とMVを振り返って。坂本慎太郎作詞、青葉市子が歌った「外は戦場だよ」。 “戦場”という言葉の持つダークさ、それに続く“だよ”が組み合わさると、非常にユーモアな響きがありますね。これに映像も感化されているような気がしますが、辻川さんはどう聴かれました?

 

辻川 歌詞の一節に「心配ない、来て、ここに隠れて」という歌詞があったので、MVのモチーフをかくれんぼにしたんです。小山田くんは、攻殻の「殻」を「抜け殻」と表現しているところを気に入っていたので、かくれんぼしている子供たちが、抜け殻を残してみんな消えるというストーリーを立てました。

 

時間もかかった?

 

辻川 ロケで日が沈んだら撮れなくなってしまうので、2日に分けて撮っています。家はマネージャーの実家です。「ウルトラセブン」や「ウルトラQ」にありそうな、SF色のある話にしたくて。

 

小山田 画質はカラーだから「ウルトラセブン」だけど、エピソード的には「ウルトラQ」に近いか。子供が曲に併せて、リップシンクするシーンを撮影するのが大変だった。 そして最後になるのが、「じぶんがいない」。シンガーはsalyu × salyuですね。

 

辻川 salyu × salyuのMVはこれまでにも数本作っていて、Salyuの声を複雑に重ねたり、編集しながら作る音楽の構造を映像に置き換えるというアプローチなんです。今回も肉体的な声という存在、そしてサンプリングやエディットというメカニカルな作業が、『攻殻機動隊』の世界にマッチすると考えたんですよね。

 

小山田 これも撮影が大変で、24時間くらいかかってたもんね。

 

また、応援団として現場に行かれたんですか?

 

小山田 もちろん! Salyuの根性が凄かった。

 

辻川 平仮名50音、濁音にすべてポーズをつけ、1文字づつ撮っていきました。 「“あ”のポーズやります」とか言いながら進めて。それを編集して動かすため、アングルは違っていても、完全に同じポーズを使じゃないとつながらない。だから、15台のカメラを使い Salyuを取り囲みましたね。

 

『攻殻機動隊ARISE』発表から2年、小山田さんと辻川さんのコンビネーションはもう10年以上になりますね。振り返ってみて思うことはありますか?

 

辻川 小山田くんの映像作品を作り始めて随分経ったけど、僕の映像制作チームのメンバーも基本的には変わってないんです。みんな一緒に成長しているというか、仕事のスキルは随分上がったなと思いました。それに、昔は新しい映像機材やソフトが出ると、おもしろがってついやり過ぎてしまったところがある。でも、今は映像を詰め過ぎない、ちょうどいい感じがわかってきたような気がするんですよね。

 

小山田 『Sensuous』(06年)に「Omstart」という曲があり、「あなたを保つもの」と同様、白地がメインになったCGなんだけど、似ているようで、ひとつひとつの質感とかバージンアップ感がよくでていると思います。まずは新作『攻殻機動隊 新劇場版』を見てもらって、その世界観がどう反映されているか、MVもチェックしてもらいたいですね。

 

 『攻殻機動隊 新劇場版』公式サイト

 

「あなたを保つもの」ミュージックビデオはコーネリアス×『攻殻機動隊 新劇場版』のスペシャルサイトから視聴いただけます。