三月 19

インタビュー:Edgar Wright Part.2

『ベイビー・ドライバー』などで知られる英国人脚本家・映画監督のロングインタビューを紹介。Part.2では音楽変遷やサウンドトラックに関するユニークな考えを語っている

By Frosty

 

映画監督の多くは、作品を特徴付けるトレードマーク的なスタイルを備えている。Edgar Wright(以下、エドガー・ライト)が手掛けた映画作品とテレビ番組について考えてみれば、名作映画をからかうジョークと同時に、アクションを引き立てるユニークな音楽の起用方法がすぐに思い浮かぶだろう。

 

この後者の特徴が、2017年に公開されて高評価を得た彼の最新作『ベイビー・ドライバー』の中心に位置している。この作品の主人公 “ベイビー” は音楽好きの逃がし屋で、作中で描かれる彼の人生は様々な楽曲によって彩られている。脚本と監督を担当したライトは、登場人物たちが織りなす人間関係に音楽が大きく関わってくるこの作品をある種の “ムービーミックステープ” として捉えている。

 

1990年代末にサイモン・ペグ、ニック・フロスト、ジェシカ・ハインズと組んだシットコム『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』でカルト的な人気を獲得して一躍有名になったライトは、その後もポップミュージックとサウンドトラック的インストゥルメンタルを巧みに起用した映画を次々とヒットさせており、その中には、“スリー・フレーバー・コルネット3部作” として親しまれているゾンビコメディの『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)、田舎町の警察をおもしろおかしく描いた『ホット・ファズ - 俺たちスーパーポリスメン!-』(2007年)、SFコメディ『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013年)や、『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』(2010年)などが含まれる。また、当然ながらライトは数多くのミュージックビデオも手掛けており、2014年にリリースされたPharrell WilliamsとDaft Punkの「Gust of Wind」は特に有名だ。

 

Red Bull Radioの番組『Fireside Chat』で行われたインタビューの後半となる今回は、ライトが音楽の変遷やサウンドトラックに関するユニークなテクニックやアプローチなどについて語っている。

 

-----

 

どんな音楽を聴きながら育ったのでしょう? 早くから音楽ファンだったのでしょうか? それとも映画に興味を持ったあとで音楽を聴くようになったのでしょうか?

 

音楽を好きになったのは映画に興味を持ち始める前だね。テレビで流れていた音楽がきっかけだった。曲自体は僕が生まれる前にリリースされたんだけど、『Top of the Pops』でMudが「Tiger Feet」を演奏していたのを覚えている。クリスマスの特番だったんじゃないかな。

 

毎週木曜日に『Top of the Pops』を見ていた。ディスコを沢山聴いたし、John Travolta & Olivia Newton-John「You’re The One That I want」のような曲も聴いていたよ。実は、今このインタビューを行っている場所は、映画『グリース』の舞台になった高校、Marshall High Schoolのすぐ隣で、奇妙なことに、Harold Buddはこの高校の卒業生なんだ。

 

両親が僕と弟に7インチのシングルを買ってくれる時があった。僕が初めて買ってもらったのはディスコだった。Frantique「Strut Your Funky Stuff」だね。ダンサブルなグッドトラックだ。とても大切な思い出だよ。初めて手に入れた7インチシングルだからね。あとは、Bee Gees「Night Fever」も持っていた。弟が上に座って割ってしまったからもう手元にはないんだけど。そのあとで、自分で音楽を買うようになった。当時は50ペンスをお小遣いとしてもらっていたから、数週間貯金してはシングルを買っていた。

 

 

BBC Radio 1のJohn Peelの番組は聴いていましたか?

 

聴き始めたのはティーンエイジャーになってからだね。夜10時からの番組だったから、ある程度の年齢になるまで存在を知らなかった。ほとんどの音楽は『Top of the Pops』かBBC Radio 1を通じて知った。1984年にThe SmithsやPrinceをすでに聴いていたなんてクールぶるつもりはないよ。でも、くだらない7インチシングルは買い集めていた。

 

音楽マニア的な道を歩み始めたのは、レコードプレイヤーが家に置かれてからだと思う。奇妙なレコードプレイヤーでね。生産台数は多くなかったと思う。というのも、回転数が78・45・33だけじゃなくて、16も用意されていたんだ。

 

回転数が16のレコードがあるのかどうか僕は知らないけど、お察しの通り、僕たち兄弟はその回転数で音楽をかけて面白がっていた。映画のサウンドトラックが多かったね。『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』や『E.T.』のサウンドトラックを持っていたから、「 “ベンの死” を78回転でプレイしたあと、16回転でプレイしてみようぜ」、「この曲を45回転から78回転に変えてみよう」なんて言っていた。馬鹿なことをしていたよ。

 

 

家には両親のレコードボックスがあった。枚数はそんなに多くなかったけどね。僕の家は共働きだったから、子供だけで過ごす時間があった。だから、そのレコードボックスを漁って端から端まで聴いていたんだ。The Rolling Stonesのファーストアルバムがあった。実はこのアルバムはかなりの高値が付いているんだ。今は僕が持っているよ。両親がレコードプレイヤーを処分する際に、レコードコレクションを譲ってくれたんだ。

 

両親はThe Beatlesのアルバムを7枚持っていたけど、コンプリートはしていなかった。『Rubber Soul』、『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』、『Magical Mystery Tour』、『The Beatles』、『Abbey Road』は持っていたけど、『Revolver』はなかった。

 

だから、少し不思議に思ったんだ。『Revolver』はベストと言われることが多いからね。それで両親に「なんで『Revolver』を買わなかったの? 『Rubber Soul』以降のアルバムはこれ以外全部持ってるよね」と訊ねたら、買うタイミングを逃したと言っていた。だから、最高傑作と言われているんだよと教えておいた。でも、これは変わった意見に思えるかもしれないけど、僕の中では『Revolver』はベスト3にも入っていない。多分、他のアルバムの方が僕の記憶に強く残っているからだろうね。

 

特定の曲が強く記憶に残っているというのは興味深いですね。そのような記憶とノスタルジアが映画で使用する音楽に影響を与えているのでしょうか?

 

それはあると思う。当然、諸々の理由からThe Beatlesの曲は一度も使ったことはないけど、使いたいと思っているしね。『Rubber Soul』に収録されている「Baby, You Can Drive My Car」は『ベイビー・ドライバー』にパーフェクトだったと思う。カバーバージョンを探すことはできたと思うけど、それでも使用料は発生する。『ベイビー・ドライバー』は、僕の音楽的なノスタルジアを蒸留させた作品と言えるね。

 

両親のレコードボックスには『Bridge Over Troubled Water』もあった。両親が持っていたSimon & Garfunkelのアルバムはこれだけだったよ。アルバム全曲が僕の中で大きな意味を持っている。10歳の時に「So Long, Frank Lloyd Wright」を聴いて、「Frank Lloyd Wrightって誰だよ?」と思ったけど、曲と歌詞が好きだった。

 

 

通称 “ホワイトアルバム” 、『The Beatles』を初めて聴いたのもその頃だった。「このアルバムは一体何なんだ?」と思いながらも気に入っていた。でも、内容は良く理解していなかったし、怖いと思う部分もあった。「Revolution 9」は本気で怖いと思っていたよ。あとは、『Abby Road』の「I Want You (She’s So Heavy)」のラストも苦手だった。ヒプノティックだけど怖いと思っていたね。

 

レコードプレイヤーの回転数をわざと変えて聴いていたと言っていましたが、映画製作でも、あるべき形とは違う形にしてみようと思ったことはありますか?

 

映画製作で、レコードの回転数と同じようにフォーマットを色々いじってみようと強く意識したことはないね。でも、『ベイビー・ドライバー』には、Focus「Hocus Pocus」の再生スピードが変えられているシーンがある。このシーンについては相当考えた。今はスローモーションの映像にポップソングを重ねる手法を用いる人が多いし、『ベイビー・ドライバー』の音楽は、基本的には主人公がリアルタイムで聴いているという設定だからさ。

 

でも、スローモーションが合うだろうと思った瞬間があったんだ。あるメインキャラクターが死んだあとのシーンだね。この時に「ドラムブレイクをスローにするのはどうだろう?」と思ったのさ。音楽の再生スピードを半分に落とせば、映像も同じスピードに落とさなければ設定のつじつまが合わなくなる。だからこのシーンでは両方がスローになっているんだ。

 

でも、実際にこの作業をしたのは随分あとで、ミックスダウンが終わったあとだ。音楽担当から「ここの再生スピードを落とすなら、Focus側から許可を取らないと」と言われたから許可を取った。あれはクールなシーンになったね。

 

 

両親のレコードボックスがあなたを音楽好きにさせたように思えますが、ティーンエイジャーの頃は、音楽をさらに積極的に買い集めるようになったのでは?

 

もちろん。土曜日にアルバイトをしたり、ちょこちょこ働いたりしてお金を貯めては音楽を買っていた。当時の音楽を買うんじゃなくて、そういう音楽はラジオで聴くだけにして、貯めたお金は、僕よりも少し前の世代のアーティストたちのディスコグラフィをコンプリートするのに使っていた。David BowieやQueen、Roxy Musicなどの全作品を買い集めていた時期があった。弟の部屋が隣だったから、 壁越しにAC/DCやAerosmithも聴いていたよ。

 

当時の音楽でちゃんとフォローしていたのは、PrinceとR.E.Mだけだったと思う。あの頃は、僕が興味を持ち始めたタイミングで解散するバンドが多かったっていうのもある。Pixiesなんかがそうだね。あと、1980年代後半にもうひとつ大事なテレビ番組があった。『The Chart Show』だ。数週間に1回のペースで放送されていた1時間番組で、ポップチャートと並行してインディーチャートも紹介していた。この番組を通じて、Pixies「Monkey Gone To Heaven」やSugarcubes「Birthday」などを知ったんだ。

 

ティーンエイジャーだった僕にとって、「Monkey Gone To Heaven」のような曲がテレビで流れていたのは大きな意味を持っていた。クレイジーだったね。頭の中でずっと流れているような感じだった。『Top of the Pops』のようなメジャーな番組でThe Smithsが「Girlfriend In A Coma」を演奏しているのを見るのも最高だった。でも、やっぱり僕は古いアーティストが好きだった。流行りの音楽を聴くようになったのは、20歳手前になってからだね。

 

 

『ベイビー・ドライバー』の主人公ベイビーはiPodを何台も持っていますが、iPodのようなデジタルテクノロジーの登場が異なるジャンルの音楽に触れる助けになった部分はありましたか?

 

あると思うよ。iPodが登場する前は、カセットテープを大量に買っていたし、CDプレイヤーが買えるようになったあとは、カセットテープで持っていた音楽をCDで買い直した。だから、どの音楽も2バージョン持っていたんだ。当時も色々な音楽に触れようとしていた。

 

CDを買うようになった頃はロンドンに移り住んでいた。ブリットポップ全盛期だったね。Blur『Parklife』がリリースされて、UKインディーがピークを迎えていた。凄い盛り上がりだったし、あそこまで大きなシーンが生まれたのはあれ以来ないんじゃないかな。でも、僕はブリットポップが全部好きなわけじゃなかった。Oasisはそんなに好きじゃなかったしね。でも、Pulp、Suede、Supergrass、Blurは好きだった。

 

当時のあなたにとって音楽はソーシャルなものだったのでしょうか? ひとりで楽しんでいたのでしょうか? それとも友人と曲やアルバムの貸し借りをしたり、一緒にギグに出掛けたりしていたのでしょうか?

 

この頃からギグに通い始めたんだ。大学時代はSuedeを観に行ったし、ロンドンに出たあともSupergrassとBlurのギグを観た。こういうギグがきっかけで色々なアーティストを観るようになった。今はもうないんだけど、Astoriaに良く通っていたね。

 

僕の中で音楽がどんどんソーシャルなものになっていったのもこの頃だった。インディー系のクラブに通っていたんだ。Blow Upってパーティが開催されていたLaurel Treeに通っていた。Laurel Treeはもうないけど、Blow Upは今も続いているよ。1960年代、1970年代、1980年代、ブリットポップ、テレビのテーマソングなどが聴けた。衝撃的だったね。僕はクールなクラブなんてひとつもない小さな田舎町の出身だからさ。

 

レイブはどうでしょう? クラブやパーティには通いましたか?

 

正直に言うと、僕はレイバーじゃなかった。クラブには何回か通ったけどね。僕の友人は全員レイバーだったから、エクスタシーなんかを摂りまくってた。僕はそこまで興味がなかった。音楽自体があまり好きじゃなかったんだ。でも、大学で毎週のようにThe Prodigyがかかっていたのを良く覚えているし、「Out of Space」は好きだったね。あれは素晴らしい曲だよ。

 

それ以外はあまり好きじゃなかった。だから、レイブは僕の前をすっと通り過ぎていったイメージだ。むしろ今の方が好きだね。ノスタルジックな気持ちになるからさ。『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』ではレイブトラックを大量に使った。Mark Summers「Summer Magic」や808 State「The Only Rhyme That Bites」、MC Tunesのトラックなんかをね。

 

 

当時はそこまでレイブを好きじゃなかったけど、今は良い思い出になっている。奇妙なレイブトラックが沢山あったしね。『セサミストリート』のテーマソングをHi-NRGバージョンにしたSmart E「Sesame’s Treet」とかね。この曲は一時チャートのトップ10に入った。たしか、2位になったんじゃないかな。

 

これはブリットポップブームの前の話だよ。Primal Scream『Screamadelica』の頃だね。ラジオで「Loaded」を聴いたのを覚えている。この曲には『ワイルド・エンジェル』のサンプルが使われているけど、最初は全く意味が分からなかった。もちろん、今は理解しているし大好きだよ。だから『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』で使ったんだ。

 

映画監督になったことで音楽への探求心はさらに高まりましたか? ライブラリー・ミュージックをチェックして、「どこかのタイミングで使って驚かせてやろう」などと思ったことはありませんか?

 

あるよ。『SPACED 〜俺たちルームシェアリング〜』と『ショーン・オブ・ザ・デッド』にはライブラリー・ミュージックを使っている。テレビ局で働いている頃に見つけたんだ。『SPACED 〜俺たちルームシェアリング〜』を始める前だね。ロイヤリティフリーのKPMのアルバムが沢山あった。だから、KPMのアルバムは良く使っているよ。Keith Mansfieldの作品が特に好きだね。

 

 

『ショーン・オブ・ザ・デッド』のオープニングは、『ゾンビ』の音楽を使っているんだけど、Goblinの曲じゃないよ。『ゾンビ』のサウンドトラックは、Goblinの曲と大量のライブラリミュージックで構成されているんだ。それで、De Wolfe(ライブラリー・ミュージック専門レーベル)が『ゾンビ』の音楽を抱えていることを突き止めて、その中から1曲を選んで使ったんだ。突き止めるのに結構苦労したよ。

 

テレビ番組や映画のサウンドトラックを手掛けるようになると、ミックステープを作っている感覚に近づいていくのは面白いね。ミックステープのルールに沿うようになるんだ。同じアーティストの曲を使い過ぎないようにするとか、なるべく幅を持たせるとかね。『ベイビー・ドライバー』でも、脚本を書きながら、サウンドトラックについて時間をかけて考えた。どのシーンにどんな曲が合うのか、順番をどうするのかなどについて考えたんだ。

 

 

2011年に最初の脚本が仕上がったあと、2012年にロサンゼルスで読み合わせをした。沢山の俳優がやってきたけど、結局その中で本編に出演したのはジョン・ハムだけだったね。

 

とにかく、僕たちはその読み合わせを録音していたから、僕と編集担当で使いたい曲を集めて、その録音の上に重ねた。時間は映画本編とほぼ同じ長さだったし、ラジオドラマを聴いているような感じだった。撮影を始める4年前の話だね。この時に「長さ的にはダブルアルバムだな。全体の流れをちゃんと考えないと」と思ったんだ。

 

DJの友人にアドバイスを求めるメールも送ったくらいさ。Kid KoalaやLemon JellyのFred Deakinに、パーフェクトなDJセットには何が必要なのかを教えてもらおうとしたんだ。全員が興味深い回答をしてくれた。Fredは1時間程度のミックスを何本か送ってきて、展開の付け方を教えてくれた。一度落ち着かせてからまた盛り上げる方法などをね。

 

あと、これは笑えたんだけど、 最後に “シガレットソング” を入れろと教えてもらった。この言葉はその時に初めて知ったんだけど、要するに、落ち着くような静かなトラックをラストに持ってこいってことさ。

 

『ベイビー・ドライバー』の “シガレットソング” は?

 

多分、Sky Ferreiraがカバーした「Easy」じゃないかな。「終わった… のか?」って感じだからね。『ベイビー・ドライバー』は、映像が音楽を引き立てる代わりに、音楽が映像を引き立てる映画を作りたいという僕の長年のアイディアの結晶だった。このアイディアはこれまでの作品にも何回か登場しているよ。『ショーン・オブ・ザ・デッド』でQueen「Don’t Stop Me Now」が使われているシーンとかね。

 

『ベイビー・ドライバー』がクランクインした時、僕はこういうシーンだけで構成される作品を作りたいと思っていた。全てのシーンで音楽を使って、しかも、撮影中に俳優陣が音楽を聴けるようにしたかった。こうすることで、作品全体の魅力とトーンを生まれていった。

 

俳優陣が現場で音楽を聴けたことが、作品にエナジーを与えるカギになったし、作品のクオリティを決めたと思う。あの作品の撮影は本当に最高だったし、もっとやりたいね。特定の音楽をテーマにした他の映画のアイディアがいくつかあるんだ。

 

音楽マニアの映画監督のメリットのひとつは、自分に影響を与えてくれたアーティストの曲を使用して感謝の気持ちを述べられることだ。自分が選ぶことで、その曲に第二の人生を与えたり、それまでその曲を知らなかった人たちに教えたりできる時がある。とても素晴らしいことだと思うし、僕はそういう瞬間を何回か経験している。

 

 

Part.1はこちら>>

 

Header Photo:©Red Bull Music Academy