三月 15

インタビュー:Edgar Wright Part.1

『ベイビー・ドライバー』などで知られる英国人脚本家・映画監督のインタビューを紹介。Part.1では影響を受けた映画監督やキャリア初期について語っている

By Frosty

 

映画監督の多くは、作品を特徴付けるトレードマーク的なスタイルを備えている。Edgar Wright(以下、エドガー・ライト)が手掛けた映画作品とテレビ番組について考えてみれば、名作映画をからかうジョークと同時に、アクションを引き立てるユニークな音楽の起用方法がすぐに思い浮かぶだろう。

 

この後者の特徴が、2017年に公開されて高評価を得た彼の最新作『ベイビー・ドライバー』の中心に位置している。この作品の主人公 “ベイビー” は音楽好きの逃がし屋で、作中で描かれる彼の人生は様々な楽曲によって彩られている。脚本と監督を担当したライトは、登場人物たちが織りなす人間関係に音楽が大きく関わってくるこの作品をある種の “ムービーミックステープ” として捉えている。

 

1990年代末にサイモン・ペグ、ニック・フロスト、ジェシカ・ハインズと組んだシットコム『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』でカルト的な人気を獲得して一躍有名になったライトは、その後もポップミュージックとサウンドトラック的インストゥルメンタルを巧みに起用した映画を次々とヒットさせており、その中には、“スリー・フレーバー・コルネット3部作” として親しまれているゾンビコメディの『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)、田舎町の警察をおもしろおかしく描いた『ホット・ファズ - 俺たちスーパーポリスメン!-』(2007年)、SFコメディ『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013年)や、『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』(2010年)などが含まれる。また、当然ながらライトは数多くのミュージックビデオも手掛けており、2014年にリリースされたPharrell WilliamsとDaft Punkの「Gust of Wind」は特に有名だ。

 

Red Bull Radioの番組『Fireside Chat』で行われたインタビューの前半となる今回は、ライトが影響を受けた映画監督やキャリア初期について語っている。

 

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“映像と音楽のマジック” とも言えるあなたのスタイルを生み出すきっかけのようなものはあったのでしょうか?

 

映像と音楽を見事に組み合わせている映画は何本もある。それらが僕に大きな影響を与えた。僕が指しているのは、劇伴ではなく既存の音楽を使っている映画だ。

 

好例として挙げられるのは『2001年宇宙の旅』だね。これは非常に興味深い作品だよ。というのも、スタンリー・キューブリック監督は当初Alex Northに音楽を任せていたんだけど、途中でこのアイディアを破棄して、既存のクラシック音楽を使った。でも、実はこれらのクラシック音楽は編集作業のために仮に入れていたものなんだ。

 

僕はこの作品をかなり小さな頃に観たんだけど、僕の中では、この作品で使用されている音楽のいくつかはこの作品固有のものとして扱われている。Richard Strauss「Also Sprach Zarathustra(ツァラトゥストラはこう語った)」をこの映画と切り離して聴いたことはない。僕の中で、この曲はこの映画に結びついてるんだ。永久に映画と一緒に語られる曲の良い例だね。

 

 

映画におけるポップミュージックの使用方法という点で僕が心底驚いた作品は『狼男アメリカン』だ。この作品は僕のオールタイムフェイバリットのひとつなんだ。

 

この映画が優れている部分は沢山あるけど、そのひとつとして挙げられるのが、ホラー映画にポップミュージックを合わせて、カウンター効果を生み出しているジョン・ランディス監督の手腕だ。全ての楽曲が映画のテーマに沿っている点も見事だね。全ての楽曲のタイトルに “Moon” が含まれているんだ。本当に素晴らしいアイディアだし、効果も絶大だ。

 

この映画には、Bobby Vinton「Blue Moon」の使い方など、衝撃を受けた部分がいくつかある。映画はこの楽曲で幕を開ける。エンドロールで使われているThe Marcelsのバージョンも大好きなエンドロールソングのひとつだ。

 

 

「一番好きなエンドロールは?」と質問されることがあるんだけど、僕はいつも『狼男アメリカン』と回答している。なぜなら、画面が暗転して、The Marcelsがドゥワップで歌う「Blue Moon」が流れる瞬間は最高だからね。

 

音楽の使用方法で大きな影響を受けたもう1本の映画は、ジョージ・ルーカス監督の『アメリカン・グラフィティ』だ。この作品のダイエジェティック・サウンドトラック(Diegetic Soundtrack)は、僕の『ベイビー・ドライバー』にとても大きな影響を与えた。

 

ダイエジェティック・サウンドトラックというのは?

 

"ダイエジェティック" は、シーンの中で実際に流れている音楽を指すんだ。観客が聴いている音楽は、登場人物たちも聴いているってことさ。

 

『ベイビー・ドライバー』に関しては、主人公のベイビーは基本的にイヤフォンをしているから、彼しか聴いていない時があるけど、その時もその音楽が “作品世界の中で流れていること” に変わりはない。最近の映画の多くは劇伴を用意して映像に重ねて流しているけど、その音楽は作品世界の中では流れていない。

 

『アメリカン・グラフィティ』で使用されている曲は、エンドロールで流れるBeach Boys「All Summer Long」以外、全てがダイエジェティックだ。また、映画の中で使われている音楽は古き良き “ロックンロール” だけで、ラジオやダイナー、プロムナイト、車の中などあらゆるシーンでずっと流れている。

 

この映画を初めて観た時は、大胆なことをやるなと思ったけど、今は普通だよね。最近のテレビ番組の大半は、番組を通して何かしらの音楽を流し続けているからさ。でも、劇伴を用意しないでその時代の音楽だけを使うというのは、当時としてはかなり実験的だった。僕に大きな影響を与えたよ。

 

ティーンエイジャーの頃は、『グッドフェローズ』の音楽の使い方に影響を受けた。マーティン・スコセッシ監督はいつも最高の音楽を用意するけど、映像と音楽のコンビネーションという意味では、『グッドフェローズ』が最高傑作じゃないかな。

 

この作品には素晴らしいシーンが沢山ある。死体が登場するシーンでのDerek & The Dominos「Layla」の使い方は絶妙だし、Cream「Sunshine of Your Love」の使い方も良いね。あと、ヘリコプターのシーンも好きだ。確かあのシーンでは2曲使われている。George Harrison「What Is Life?」とHarry Nilsson「Jump Into The Fire」だ。「Jump Into The Fire」が流れる瞬間は最高だね。

 

 

『グッドフェローズ』はとにかく選曲が素晴らしい。スコセッシ監督は自分のレコードコレクションの中から曲を選んでいると思うし、The Rolling Stonesが良く選ばれているよね。その意味で、Harry Nilsson「Jump Into The Fire」は意外だけど素晴らしいチョイスだった。さっきの『2001年宇宙の旅』と同じで、この曲も聴けば映画を必ず思い出す。映画で音楽をどう使うべきかを示している名作だと思う。

 

音楽を素晴らしい形で使っているもうひとりの監督は、クエンティン・タランティーノ監督だ。もちろん、僕が初めて観た彼の作品は『レザボア・ドッグス』だった。それゆえに、僕に一番大きな影響を与えたタランティーノ作品だよ。

 

 

 

"『レザボア・ドッグス』のサウンドトラックからは「登場人物たちが聴いている音楽」というメッセージが伝わってくる"

Edgar Wright

 

 

 

彼の他の作品と同じく、この作品のサウンドトラックも素晴らしい。僕が彼の作品の中で何よりも先にこの作品を思い出す理由は、『アメリカン・グラフィティ』と同じくサウンドトラックにひとつの共通テーマがあるからだ。この作品はある週末の出来事を追っていくんだけど、ラジオ局がその週末に「Super Sounds of the ’70’s」という特番を組んでいるという設定になっている。だから、その時代の音楽だけが使われているんだ。

 

タランティーノ監督は、他の作品ではひとつのジャンルをテーマに据えてサウンドトラックを用意しているように思えるんだけど、『レザボア・ドッグス』のサウンドトラックのテーマはもっと具体的だ。「登場人物たちが聴いている音楽」というメッセージが伝わってくる。作品自体も1970年代のタフガイ系の作品を彷彿とさせるし、登場人物たちも作中でそこに言及している。

 

この作品のサウンドトラックは、登場人物たちが好んで聴いている音楽なのさ。彼らはこの音楽を聴いて育ったんだ。素晴らしい選曲だし、見事に機能しているよね。

 

あなたが映画製作を始めた頃の初期作品群、たとえば、アクションスリラーのパロディ『Dead Right』でも音楽を使っていましたか?

 

僕の中では『Dead Right』は正式な映画作品じゃないけどね。あれは18歳の時にビデオカメラで撮影した作品で、映画製作を本格的に始める前のものだから。当時は手元にあるものを選ばずに使っていた。同級生とふざけた映像やアマチュア作品を作ることから僕は映画の世界に足を踏み入れたんだ。『Dead Right』の頃まではどれもコメディだった。

 

『Dead Right』の頃から人に音楽を頼むようになった。この作品以前に僕が作っていた西部劇やスーパーヒーローもののパロディは、John Williams、Ennio Morricone、Queen、Lalo Schifrin、Goblinなどの楽曲を編集後にかぶせて使っていた。この頃の作品を深夜に放映したいというオファーをUKのテレビ局から何回かもらったことがあるんだけど、ここが問題になった。曲の使用許諾を取らなかった作品ばかりなんだ。

 

『Dead Right』は『ダーティ・ハリー』のコメディなんだけど、ひたすらふざけてる作品だし、IMDBのリストに載ってはいるけど、僕としては載せたくない。この作品のサウンドトラックには、サウンドライブラリから選んだ曲と友人が作ってくれたロックが数曲使われている。

 

この頃には、John Williamsの楽曲を使うのはグッドアイディアじゃないってことを理解していた。これは多くの人が参考にできることだと思うよ。実際、若手には「払えない音楽は使うな」と教えているんだ。

 

 

 

"若手には「払えない音楽は使うな」と教えている"

Edgar Wright

 

 

 

短編作品やアマチュアとしてのデビュー作で、John WilliamsやEnnio Morriconeの音楽を使いたいと思っても、優れた効果は得られないし、がっかりするだけだってことを思い出すべきだね。

 

実は、僕が『ショーン・オブ・ザ・デッド』を作った時、ラフカットにはJohn CarpenterとGoblinの音楽を使ったんだ。でもそれは、似たようなオリジナルの劇伴が手に入ることを知っていたからさ。だから、どこかに『遊星からの物体X』の音楽を使用した『ショーン・オブ・ザ・デッド』があるはずだよ。皮肉なことに、『遊星からの物体X』の音楽は、Ennio MorriconeがJohn Carpenterを真似たものだけどね。

 

このラフカットで彼らの音楽を代役として用意したのは賢い判断だったと思う。John Carpenterの音楽は使用料が安かったっていうのも使った理由だね。彼が自分で音楽を作るようになったのは、作曲家を雇う金銭的な余裕がなかったからだ。だから、「それなら自分でやろう」と思ったのさ。それで、シンセサイザーを取り出して、『ハロウィン』のようなクラシックな音楽を作ったんだ。僕が短編映画を作り始めた頃は、どの作品にも『スター・ウォーズ』シリーズの音楽を使っていた。「ベンの死とTIE戦闘機の攻撃」は特に良く使ったね。あれは最高の “キュー” だよ。

 

なぜ最高の “キュー” なのでしょう?

 

後半の「TIE戦闘機の攻撃」が流れれば否が応でも盛り上がるからさ。あの楽曲はそういうシーンに最高だ。あと良く使ったのは、James Hornerが手掛けた『エイリアン2』の音楽だね。たしか、曲名は「ビショップのカウントダウン」だと思う。1986年から1990年代中頃までのあらゆる次回予告映像にはこの音楽が使われているように思えたくらいさ。本当に素晴らしい。アマチュア時代は、映画のサウンドトラックを聴きながらこういう “キュー” を見つける時がたまにあった。「あそこに使う音楽を見つけたぞ」と思うわけさ。

 

 

17歳の頃に、スーパーヒーローもののパロディ『Carbolic Soap』を作った。この時は、エンドロールでダリオ・アルジェント監督の『フェノミナ』の音楽を使ったんだ。壮大な楽曲がエンドロールに使われていたからね。たしか、GoblinかメンバーのClaudio Simonettiが作ったんじゃなかったかな。どれも良い思い出だね。

 

『ショーン・オブ・ザ・デッド』で皮肉だったのは、The Sons of SilenceのDaniel MudfordとPete Woodheadが音楽を手掛けてくれたんだけど、彼らが僕が仮で入れていた曲からインスピレーションを受けて作ったってことさ。僕が仮で何を入れていたのか思い出せないんだけど、思い出せないってことは、彼らの曲のクオリティが高い証拠だと思う。

 

 

『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』でもThe Sons of Silenceの曲を使いましたよね?

 

使ったよ。The Sons of Silenceは、Fatboy Slim、Bentley Rhythm Aceなどに続く形で1990年代後半に登場したバンドだったんだけど、彼らはラウンジミュージックにも影響を受けていた。僕が『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』をやっていた頃、彼らが「Bobby Dazzler」というトラックをリリースしたんだ。で、僕は『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』の音楽のスーパーバイザーも務めていたからそれを使った。脚本の時点では音楽は一切用意していなかったんだけど、バイブスが合うと思える楽曲がいくつかあった。たとえば、サイモン(ペグ)からFatboy Slim「The Weekend Starts Here」を教えてもらった時も、すぐに「これは番組にピッタリだ」と思った。

 

他にも気に入っている楽曲があった。CorneliusPizzicato Fiveの曲も好きだったんだけど、使用許可が取れなかったから、他の曲を選ばなければならなかった。当時は、僕たちが使っていた編集室のすぐ近所にVirgin Megastoreがあった。だから、『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』の編集中にCDを200枚ほど買ったんだ。あの番組のサウンドトラックは、僕がすでに知っていたThe Sons of Silenceのようなバンドを除いて、全てそのCDの中から選んだ。

 

「Bobby Dazzler」を番組で使ったあと、バンドメンバーのひとりと話をする機会に恵まれたんだ。その時に彼から「未発表のアルバムが1枚あるんだ。使いたければ自由に使ってよ」と言ってもらえた。それで、『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』のシーズン2で大量に使ったんだ。その中の1曲が「Fizzy Legs」だ。これは『ショーン・オブ・ザ・デッド』のサウンドトラックにも使われている。ダークな楽曲としてはかなりふざけたタイトルがつけられているけど、『ショーン・オブ・ザ・デッド』のバイブスに合っていると思えた。John Carpenterの進化版みたいな感じだね。ダンスミュージックだしエレクトロニックだけど、邪悪な感じがあるんだ。

 

 

『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』は、音楽と登場人物がマッチしている印象ですが、使用した曲が登場人物のキャラクター作りに影響を与えたのでしょうか?

 

この作品のサウンドトラックは、僕たちの音楽的趣向がある程度反映されていると思うけど、登場人物たちならこういう音楽を聴くんじゃないかと考えながら選んだ部分もある。当時は1990年代後半から2000年代前半で、サウンドトラックの大半は、Mr. Scruff『Keep It Unreal』やDavid Holmes『Let’s Get Killed』のような、当時クールだと言われていたアルバムから選ばれている。僕自身こういう音楽を好んで聴いていたから、選曲には全く苦労しなかった。

 

Virgin Megastoreをうろついている間に見つけたバンドも沢山あった。Fantastic Plastic Machineもそうだね。何かのコンピレーションに収録されていた「S'il vous Plait」を聴いて、「これはハッピーなシーンに合うぞ」と思ったんだ。登場人物たちの行動を自分でなぞっている感じは楽しかった。彼らならこういう音楽を聴くかもしれないなと思いながらチェックしていたんだ。

 

 

当時発見したもうひとつのバンドはLemon Jellyだ。シーズン2で彼らの曲をかなり沢山使ったよ。アルバム『Lemonjelly.ky』のレビューを『The Guardian』紙か何かで読んだんだ。レビューを読んで番組に合うと思って、手に入れたんだ。Lemon Jellyは『ショーン・オブ・ザ・デッド』にも参加している。本編に使ったかどうかは覚えていないけど、サウンドトラックに1曲収録されているよ。

 

本編にも使われています。曲名は「The Staunton Lick」ですね。

 

それだ。あれは名曲だよ。『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』を思い出すたびに、思い出すんだ。サイモンに聴かせると、彼も気に入った。あの頃はお互い20代半ばで、僕たちの生活は登場人物たちの生活にかなり近かった。周囲からシーズン3をやってくれと良く言われるんだけど、僕たちがやらない理由のひとつは、今の僕たちの生活が、登場人物たちが送っているはずの生活とは大きく異なっているからさ。彼らの生活を今の僕たちが描こうとするのは間違っていると思うんだ。

 

Part 2はこちら>>

 

Header Photo:©Drew Gurian