八月 13

Spencer Hickman(Death Waltz)が語るサウンドトラック、アート、アナログレコード

世界で最も不気味なサウンドトラックをリリース/再発するレーベルDeath Waltzのボスに話を聞いた。

By Hanna Bächer

 

Spencer HickmanはDeath Waltz Recording Companyを2011年に設立するまでは、 ロンドンのBrick LaneでRough Trade Eastを経営する傍ら、UK版レコード・ストア・デイのコーディネイターとして活動していた。しかし、自分で始めたこの小さなレーベルは、徐々にフルタイムで関わらなければならないビッグレーベルにまで成長し、現在はロンドン−LA間で運営を続けられている。John CarpenterやRichard Kelly、Alan Howarth、Fabio Frizziなど偉大な作曲家や監督と密接な関係を築きながら運営されているDeath Waltzはハイクオリティのリマスター盤とライナーノーツの制作を行いながら、Dinos Chapman、Graham Humphreys、Candice Trippなど有名なアーティストたちにデザイン面を依頼している。

 

重量盤のアナログレコードと、細部まで語られたライナーノーツ、そして高品質のポスターやプリントなど、細部まで拘りを見せるDeath Waltzは、カルト映画のサウンドトラックを扱うレーベルのトップに位置している。「カルト映画に興味があるのは映画を学ぶ一握りの学生だけだ」という偏見に挑んでいるこのDeath Waltzというレーベルは、素晴らしく奇妙な作品群のアーカイブであると同時に、最高のクオリティで作品を残したいと思っている作曲家や映画監督にとっての試金石でもある。今回はRBMA Radioで行われたHickmanへのインタビューからの抜粋をお届けする。

 

立ち上げた当初はどうやって作曲家や映画監督に連絡を取ったのでしょうか?

 

イタリア映画音楽のレジェンドで、映画『サンゲリア』(原題:Zombie 2/Zombie Fresh Eaters)の音楽を担当したFabio Frizziに連絡を取ろうとした。『サンゲリア』は子供の頃好きな映画のひとつだった。彼の作品は異常だったからね。それで、権利を所有している人物に、 レコードでリリースできるか頼んだ。CDは既にリリースされていたが、初のレコード化ということで快諾してくれた。

 

そして彼らがFabioと俺の間を取り持ってくれた。Fabioからは「君はクレイジーだな。誰がレコードを買うっていうんだい?」とメールが来たよ。俺とFabioはここ3年間友好関係を築けているんだ。

 

あとはJohn Carpenterが『ニューヨーク1997』(原題:Escape From New York)や『パラダイム』(原題:Prince of Darkness)のライナーノーツを書いてくれた。落ち着いて考えると、子供の頃のヒーローが書いてくれたって事実は凄いことだ。彼らのことはただ尊敬しているだけじゃない。彼らが俺という人間を形成してくれたようなものさ。そんな彼らと話して、仕事を一緒にするなんてね。彼らと話す時はただのファンなのに、俺たちは対等の立場で仕事をしているんだ。

 

あなたのレコードを買う人たちは映画自体をよく知っているのでしょうか? それとも単純に音楽が好きなのでしょうか?

 

両方のタイプが混ざっている。『サンゲリア』と『ニューヨーク1997』は500枚ずつプレスして、1日で売り切れた。信じられなかったよ。クレイジーだったね。自分で欲しいと思っていたけれど、ここまで他の人たちから求められるとは思わなかった。

 

新たにデザインしたジャケットをみんなが気に入ってくれるか分からなかった。だがジャケットには拘っていた。俺は既存のポスターのアートワークを使いたくなかった。新しいデザインを生み出したかった。あと音楽を中心にしたかったんだ。これまでは映画がまずありきで、音楽はその次だったからさ。俺が持っている『ニューヨーク1997』のバージョンは、褒められたクオリティじゃなかった。後でやっつけで作った感じだった。だから俺の場合は音楽が中心に来るような作品にしたかった。そしてDVDなどの再販物のアートワークとは違う、きちんと音楽に寄り添うアートを加えたかったんだ。

 

そして映画はどうでも良いと思っている人たちも大勢いる。彼らはアートワークが無くても気にしない。音楽さえあれば良いというタイプだ。カリフォルニアのPoobah Recordsに行った時のことだが、この店はヒップホップDJが大挙する店で、ありとあらゆるDJが俺たちのレコードを買いに来たと店の人たちが言っていた。ブレイクで使える部分や、奇妙な楽曲が収録されているからさ。このレーベルが幅広い層にアピールできているのはラッキーだと思う。

 

リリースするサウンドトラックは、以前何回も見た映画のサウンドトラックを選ぶのでしょうか?

 

俺たちにはリリースしたい作品の膨大なリストがあるが、同時に比較的新しい作品のリリースの話も届いている。俺たちのところへやってきて、作品をリリースするのに興味はないかとオファーしてくるのさ。クールだよ。こうやってレーベルは大きくなっていくからさ。このレーベルは再発だけを扱うレーベルではないが、世間からはそう思われている。だが、俺たちは『ヒットマンVSデビル』(原題:The Devil’s Business)、『ROOM237』、『マニアック』(原題:Maniac)のサウンドトラックもリリースしている。個人的にはクラシックな作品と現代の作品が上手くミックスできていると感じているよ。

 

ノスタルジアにひたってしまうと、上手くいきませんよね。

 

レーベルの将来を考えると良くないね。何故なら古いサウンドトラックの数は限られているからさ。ここ2年程は、サウンドトラックのレーベルが多発していて、レーベル同士で同じ映画をリリースしようと争っている。俺はその状況から抜け出したからハッピーだ。

 

「Video Nasty」について教えてもらえますか?知らない人もいるかと思いますので。

 

「Video Nasty」というのは… 最近奇妙なシーンに発展しているけれど、元々は違った。これはビデオが家庭に普及し始めた頃に生まれた言葉で、スプラッター系の映画を一括りにした単語だ。当時、レンタルビデオ屋に行けば、『地獄の謝肉祭』(原題:Cannibal Apocalypse)、『食人族』(原題:Cannibal Holocaust)、『鮮血の美学』(原題:Last House on the Left)などを年齢制限なしで借りることができた。俺たちは当時13歳で、学校をサボってはこういう映画を借りていたんだ。

 

そのうち、政府の保守的な人たちがこういう映画の存在を知り、酷い内容だという判断を下した。こういう映画はUKの若者たちの精神に悪影響を与え、彼らを殺人者にしてしまうと考えたのさ。それで彼らは規制を始めた。販売したり、貸したりした人は逮捕された。当時は大きな社会問題になった。それが「Video Nasty」だよ。当時を体験したのはある意味自慢だね。

 

あまり好きではない映画のサウンドトラックをリリースする可能性はありますか?

 

ないね。映画の内容が好きじゃないと。「リリースしないといけないから、リリースしよう」という考えには陥りたくない。そんなことをする位なら、半年休んで、自分のやりたいことを見つけた方がマシさ。とにかく映画も音楽も気に入らないといけない。そうしないと結果的に上手くいかない。ジャケットを担当するアーティストもそうだ。その人の作品を気に入らないと。俺はアートを沢山買うし、今話題の人たち以外の作品にも投資している。だからDinos Chapmanが『ザ・フォッグ』(原題:The Fog)のジャケットを担当してくれたんだ。あれは素晴らしかったね。

 

Dinosとの仕事はレーベルにとって大きなポイントになった。すべてが上手く噛み合わさった瞬間だったよ。John Carpenterが『ザ・フォッグ』を作った当時、この映画は全くヒットしなかった。そして本人も満足していなかった。だから彼は再編集して、楽曲もすべて作り直した。だから1枚目は公開されたバージョンの音楽で、2枚目はオリジナルのバージョンだ。オリジナル側の収録曲の大半は公開する際にカットされて、実際には使われなかったものだ。集めるのが大変だったよ。

 

俺は家で泣いていた。すべてが上手くいかなかったからさ。みんなに不満が募っているのは分かっていたし、TwitterやFacebookを使ったり、メールで説明したりしようとした。

この作品はJohn Carpenterがライナーノーツを書いてくれた。ジャケットに関しては、ある友人が、「Dinos Chapmanにパーティーで話をしたら、ホラー映画が好きだって言っていた。『ザ・フォッグ』も好きらしいから、ジャケットを担当したいって言っていたよ」と言ってきた。だが、彼は俺たちの世代のUKのアーティストで最も有名なひとりだし、まぁ話半分で聞いていた。でも、その友人たちがDinos Chapmanの友人のギャラリーのオーナーを紹介してくれて、気がついたら俺は自分たちの作品を持って、本人のアトリエを訪ねていたのさ。

 

彼は奇妙なエレクトロニック・ミュージックのファンだったから、色々と俺が持っていったタイトルを比較したりしたよ。そして最後に「やろう」と言ってくれた。俺は「マジ? そんな簡単に?」って感じだったね。この時レーベルが大きくなったということに初めて気がついた。実はこの作品はライセンスの問題で700枚しかプレスできなかった。それが原因でサイトがダウンしてしまったんだ。怖かったよ。数えきれないほどのヒット数を記録して、それでサイトがダウンしてしまったんだ。俺たちはどれだけ大きなことになるのか分かっていなかったのさ。多くの人たちは俺たちに対して不満を感じていた。俺も家で泣いていたよ。すべてが上手くいかなかったからさ。みんなに不満が募っているのは分かっていたし、TwitterやFacebookを使ったり、メールで説明したりしようとした。すべてがダメになりそうだった。でもリプレスにこぎつけて、別のバージョンをリリース出来たから、みんなをハッピーにできた。その時に趣味の小さなレーベルが大きなレーベルになったんだって理解したね。

 

 

プレス枚数が少ないのはライセンスの問題なのでしょうか? それとも意識的に抑えているのでしょうか?

 

長年レコードショップに勤めていた俺が言うのもおかしな話だが、俺はお高くとまった感じのレコードコレクターは好きじゃないんだ。音楽はすべての人を受け容れるものだ。音楽を好きになるために音楽を買う必要はない。感謝するために買う必要もない。リリースされた作品をすべて持っているからと言って、大ファンだと名乗れる訳じゃない。1枚も持っていなくてもファンでいられるのさ。

 

レコードコレクター特有のあのお高くとまる感じが苦手なんだ。

レコードコレクター特有のあのお高くとまる感じが苦手なんだ。意味がないね。俺もレコードコレクターだが、世間とどう接するかには個人差があるって話さ。元々俺たちはハードコアなファンのためだけの限定盤だけを作ろうと思っていた。俺もそのひとりだしね。自分が欲しいレコードが手に入らなかったら頭に来る。何故ならインターネットが「手に入れないといけない。俺はファンなんだから、持っていて当然だ」と思わせるカルチャーを育ててきたからだ。誰もが限定品を欲しがる。それは別に問題ない。

 

でも、その他に一般の人が買えるバージョンも作りたかった。『サンゲリア』は3年経った今もショップで買える。たとえ1カ月に10枚しか売れなかったとしても問題ない。手に入れられる状態にあるべきだと思う。あとはみんなにアナログレコードを買ってもらいたいと思っている。今はアナログが復活しているが、ちょっと笑ってしまうね。俺が作品を手に入れられない新しいレーベルがたくさんある。彼らはリリースしたらそれっきりだ。何故欲しいと思っている人たちを遠ざけるような真似をするんだ? 変な話さ。彼らにとっては良いことなのかも知れないが、俺には有り難い話じゃない。さっきも言った通り、音楽に金は必要ないし、感謝するために所有する必要もない。音楽はそこがクールなんだ。凄くヒッピーだ。個人的にヒッピーは嫌いが、それが真実なのさ。

 

このようなサウンドトラックではイタリアの作品が特に有名ですが、それはイタリアのカルチャーが理由なのでしょうか? それともイタリアの業界の成り立ち方に理由があるのでしょうか?

 

何故イタリアから「クレイジーな作曲家に好き勝手やらせるクレイジーな映画監督」が沢山生まれてくるのか、その理由は分からないな。お金の問題なのか、文化的な問題なのか分からない。このレーベルからリリースした何人かに訊ねてみた時は、イタリアの映画業界は健康的で、非常に知的だと言っていた。

 

『サンゲリア』や『人間解剖島 ドクター・ブッチャー』(原題:Zombie Holocaust)のような映画はすぐに公開されたはずだ。というのは、イタリアではアメリカで何かがヒットすると、数ヶ月以内にその続編が制作されて、公開される。予算はかかっていないし、音楽家たちは好きなようにやってくれと言われていただけだと思う。当時のスプラッター映画の音楽は、作曲家たちがその時に手元にあった音楽で仕上げた作品なんじゃないかと思っている。とにかく自由にやっていたんだと思うね。

 

セリフ入りのサウンドトラックについてはどう思いますか?

 

サウンドトラック内のセリフについては何とも言えないね。音楽とマッチしていればOKだが、基本的には好きじゃない。楽曲の間にセリフが入っているサウンドトラックはあまり好きじゃないのさ。何故ならセリフが入ると音楽から気が削がれるからだ。そしてセリフの後に音楽が入ってくると、「音楽」または「音楽集」を聴いているのではなく、「映画のサウンドトラック」を聴いている気分にさせられてしまう。

 

『ゼイリブ』(原題:They Live)の冒頭にはセリフを入れている。映画にとって不可欠なパートだし、オープニングだからさ。あと、Ti Westの『ザ・サクラメント』(原題:The Sacrament)をリリースした時は、Tiと作曲家Tyler Batesが曲の中に数行のセリフを入れることを決めた。何故ならフィットしていると感じたからだ。俺じゃなくて彼らの意見でそうした。でも俺も気に入ったよ。音楽の一部になっていたからね。サンプルに近い感じに仕上がっている。

 

 

あなたのレーベルの作品のジャケットを数点手がけているJay Shawについて教えてもらえますか?

 

勿論。『ニューヨーク1997』はまだ最初のリリースだったし、「安全策で行こう。Kurt Russellをジャケットに使おう」と考えるのは簡単だった。その中でJayが提出したジャケットは完全にイカれていたが、素晴らしかった。彼の作品を見れば、『ニューヨーク1997』の要素がすべて盛り込まれているのが分かるが、混沌と配置されているから、何が何だか訳が分からなくなっている。

 

俺はこういう仕事ができるアーティストが好きだ。そして当然ながら、Graham Humphreysのようなトラディショナルな作品も好きだ。彼は『死霊のはらわた』(原題:Evil Dead)や『エルム街の悪夢』(原題:Nightmare on Elm Street)などのオリジナルポスターを手がけた人物で、非常に有名だが、彼もこのレーベルのジャケットを数多く手がけてくれている。彼の色使いは誰にも真似できない。俺は両方を混ぜていくのが好きなのさ。

 

Jay Shawはあなたが一番多く一緒に仕事をしている人物ですよね?

 

JayとGrahamだね。アーティストが必要だという理由だけでアーティストを雇うことはない。レコードの内容に合う人を探そうとしている。Jayはその中でも特殊だ。『ハロウィン3』(原題:Halloween III)が好きで、内容をよく知っている人なら、彼がこの映画を理解していることがすぐに分かると思う。彼はTVで自分の持っている古いVHSを再生して、有名なシーンをカメラで撮影して、それをJPEGに変換してテキストを編集した。そしてそのテキストのラインを映画の中に出てくるラインと入れ替えて、もう一度JPEGに変換して、ぼやけたTV画面のような、そして静電気が走っているような、映画に完ぺきにフィットする作品を作った。彼の制作方法は素晴らしい。彼は普通の人とは違うやり方で制作していて、そこが気に入っている。いつも「とにかくクレイジーに作ってくれ」とけしかけているよ。