二月 05

5000年の歴史を4時間で再現-Yuri Landmanのギターワークショップ

Dunn JohnsonがSonic Youthなどのギター製作者として知られるYuri Landmanのワークショップを訪れ、オリジナルギターの製作に挑んだが、そこで予想以上の経験と知識を得ることになった。

「Sonic Youthは自分たちがどういうバンドなのかをちゃんと理解していたね」-Yuri Landmanはワークショップの最中、Sonic Youthについて振り返った。「Thurston(Moore)とLee(Ranaldo)はかつてGlenn Brancaのギターオーケストラに参加していたし、ハーモニーやテクニックをきちんと理解していた。2人は特定のフレットにスクリュードライバーやドラムスティックを挟み込めば、素晴らしいサウンドが生み出せることを知っていたんだ。これはパンクっぽいアプローチに思えるかも知れないけれど、実際は美しいハーモニーが生み出せたのさ」

そう言うと、Landmanはその場でSonic Youthの『The World Looks Red』をかけた。この曲のコードやノートは音楽として機能しているが、素人でも理解できるほど、そのサウンドは独特だ。彼らが大半の曲で変則チューニングや変則奏法を用いていることを知っているSonic Youthのファンは多いが、それらが正式な理論に則ったものだという事実を知る人は少ない。Landmanのソロ名義やバンドBismuthで奏でられる“ノイズ”も同様に音楽理論に則って生み出されており、Sonic Youthと同様、彼のパンク性は理路整然としたシステムの上に存在している。

ベルリンで開催されたLandmanのギターワークショップに私が参加したのは数週間前のことだ。他の4人の参加者と共に部屋に入ると、大量のスクリュードライバーやドリル、木片、弦、ワイヤーなどが入った古びた数個のスーツケースが開かれた状態で乱雑に置かれているのが目に入る。そして壁にはWhite Eagle Tailed BridgeやChorus monochord、Home Swingerなどすべて独特のボディシェイプとサウンドを持つ、Landmanが手掛けたありとあらゆるギターが飾られていた。

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その日、私たち参加者5人(音楽的な素人を数人含む)はCaterpillar Drum Guitarの製作に取り組むことになったが、ピックアップ2個、アウトプット2個という仕様がワークショップの内容を複雑にしていた。中でもはんだ付けは厄介で、私はこのワークショップで指をやけどし、手に切り傷を負うことになった(太ももにドライバーを刺してしまったこともここに記しておこう)。

Landmanの開発した23のハーモニックポジションを持つ12弦ギターは、生み出せるサウンドの種類を大幅に増やした。

変則チューニングと変則奏法に対する学術的、実践的な知識を武器にLandmanはレクチャーや執筆、楽器製作を積極的に行っている。彼は学生時代に物理を学んでおり、それが分数を基礎とする彼のスケールに対する理解とその実践の助けになっている。彼のスケールは、ある時から数学性が失われ、独自の(Landman曰く、「欠陥がある」)音楽理論として発展を遂げた西洋音楽の12平均律とは異なる。

Landmanはその独自の数学的なスケールを元に、23のハーモニックポジションを持つ12弦ギターを生みだした。非常に幅広いサウンドを生み出せるこのギター“Moodswinger”は、2000年代中頃にバンドLiarsに頼まれて製作された。そしてこのMoodswingerによって成功を手にしたLandmanは続いてSonic Youthのマネージャーに連絡をし、その数分後にはLee Ranaldoと接触。2006年から2007年にかけて2つのヘッドを持つ18弦ギター、Moonlanderを2台製作することになった。尚、1台はRanaldo、もう1台はLandman本人が所有している。

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その後も研究を続けていたLandmanは、彼の数学的なスケールとギターは既に東洋の音楽で昔から使用されていたことを発見する。「昔の中国の楽器、古琴を見つけた時は椅子から落ちそうになるほど驚いたよ。Moodswingerは古琴と同じだった。5000年の開きはあるけれどね…。東洋音楽とノイズは真逆と言えるけれど、僕のMoodswingerと古琴は基本的には同じ楽器で、メビウスの輪のような関係だ。僕のノイズと東洋のスケールにはパラドクスが存在するんだ」

Landmanは自身の哲学に影響を与えた人物として、アメリカ人作曲家・楽器製作者Harry Partchの名前を挙げている。Partchが1947年に出版した『Genesis of a Music』はLandmanの考えを大まかに示したものだ。この本の中でPartchは学生に対し、ありとあらゆることに対して疑問を抱けと強調しており、「ピアノの本質」、「鍵盤の音質」、「奏でられる音楽」、そして何よりも「常に、そして永続的にその楽器の哲学は何か、それらを特徴づけている哲学とは何かについて問い続けなければならない」としている。LandmanはPartchと直接の面識はないが、彼がPartchの思い描いていた「学生」に近い存在であることは明白だ。

「東洋音楽とノイズは真逆と言えるけれど、僕のMoodswingerと古琴は基本的には同じ楽器で、メビウスの輪のような関係だ」-Yuri Landman

Landmanはワークショップで製作するギターを、ベーシックな素材だけを使用して、簡単な工程で組み立てられることから、「IKEA製」と称している(私個人はパーツが上手く組み合わない苛立ちを多く感じることもこの名前の由来のひとつだと思っている)。このワークショップは、LandmanがMoodswingerのカスタムバージョンを2時間以内で組み上げたことにヒントを得て生まれたもので(Landmanはこれまで、一気に組み上げられるギターを8種類開発している)、Landmanは今回のワークショップでも、あらかじめカットして穴が開けられた木材、ノブや弦、ブリッジ、ピックアップ、そして必要なツールを用意していた。

Caterpillar Drumは長い厚めの板1枚とその両脇にはめる小さめの板2枚、合計3枚の板から構成される。まず弦を張る前に、東洋のスケールに対応した形で指板に黒いステッカーを貼る。そして、同様に西洋のスケールに対応した形でカラーのステッカーも貼る。東洋と西洋のスケールの交点は数カ所あるが、基本的に交点は少ない。

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そして弦を張ると、今度はフレットを自由に上下させて、様々なハーモニクスを生みだすための小さなブリッジを2個作成する(Sonic Youthのドライバーとドラムスティックに相当する)。これらを作成している間、Landmanは話し続け、意識的かどうかは別として東洋と西洋のスケールを最初に混ぜ合わせて使用したメジャーアーティストはJimmy Hendrixだったと説明すると、自分の指を指板の上で行き来させた。その指は両スケールの橋渡し的な役割を果たし、独特のサウンドを生みだしていた。


私が自分で製作したギターを最初に弾いた時のサウンドは全くもって美しくなかった。

またLandmanはこのギターで似たようなテクニックを使ったアンビエントサウンドの生み出し方も披露した。前段のブリッジを特定のポイントに置けば、ひとつのコードが生まれるが、弦にコインを通して叩くと、美しいレゾナンスを携えた鐘のようなサウンドが生まれた。ちなみにLandmanがワークショップで披露した演奏方法は数が非常に多くバラエティに富んでいるため、そのすべてを試してみるには数カ月かかるだろう。

「Glenn Brancaや初期Sonic Youthはノイズだが、響きは美しい。それは中国の和音が用いられているからなんだ」とLandmanは解説したが、私が自分で製作したギターを最初に弾いた時のサウンドは全くもって美しくはなかった。しかし、少なくともワークショップ、そしてそこで製作するギターは、今まで生み出すのが難しいとされていた複雑なサウンドを特定のノイズ・ミュージックにもたらしている。「音楽性」とは主観だけで判断するものではなく、伝統も深く関わっている-私は今回のワークショップでこのことを学んだ。