二月 28

ファンク考古学:ロシア産ファンク

レコードコレクターの世界は奥が深く、11年間Stones Throwのジェネラルマネージャーを務めた経験を持ち、トルコ産サイケデリックからザンビア産ソウルなど、世界中に眠るレコードを掘り続けているEgon(Now-Again)のようなハードコアなコレクターもいる。今回はMadlibとのロシアツアー中に掘り出した同国産ファンクのレア盤をツアーの様子と共に語ってもらった。

 

「Madlibとのツアーはいつも失敗しそうになる。昔のドイツ、チェコ、ポーランドの時もそうだったし、最近のヨーロッパ&ロシアツアーもそうだった。今回失敗しそうになった理由は、世界で最も厄介な政府のひとつと言えるロシアから2週間以内に興行ビザを発給してもらわなければならなかったこと、そして銃とドラッグでの逮捕歴があるFreddie Gibbsが帯同するということだった」

「結局、ビザの発給を頼んでいた業者がなんとか問題を回避してくれて、Madlibと俺は出発する1日前にビザが発給されたパスポートを手に入れることができた。ロシアでレコードを掘れるようになったということで、ひと安心だった」

「ロシアでレコードを掘るという行為はそこまで特別に思えないかもしれないが、俺にとっては特別だ。俺の家系はウクライナとリトアニアの血を引いている。だから父親のルーツであるインドとエチオピアの音楽、そしてアンゴラ/ポルトガル系の俺の妻のルーツの西アフリカの音楽を掘るのと同じで、ロシアの音楽もしっかりと掘っておきたいと思っていた」

「俺も他のコレクターと一緒で、最初は手当たり次第掘っていった。旧ソ連時代、ロシアには『Melodiya』というレーベルしか存在しなかった。当然このレーベルは国営で、70年代から80年代のロシア産のアルバムは、すべてピンク、黄色、白、または青の同じラベルで、そこに何が書いてあるか分からないキリル文字が印刷されている。しかも、今人気のある盤の多くはジャケットが存在せず、インナースリーヴがジャケットとして使用されている。そして何よりも厄介なのは、多くの作品は、安っぽい交響曲のような作品だということだ」

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「ロシアから買ったレコードで、『サイケデリック! ジャズロック! ヘヴィーサウンド!』なんて書かれているのに、いざ聴いてみると後期Steely DanやSpyro Gyraみたいな腑抜けた音楽が収録されているという作品は数えきれないほど買ったね」

「とは言え、素晴らしいと思える瞬間もいくつかあった。ブリスベンのDJ SheepがGeorge Garanianが手掛けた映画『Romance For Two Lovers』のサウンドトラックを教えてくれた時は最高だと思えたよ。その中のトラック『Poisk』(英名:The Search)を聴いている時に、ロシアにはもっと面白いサウンドがあるはずだと確信し、現地に行って、詳しい人に会おうと思っていた」

「だから今回モスクワで降りる時の俺は、ワルツを踊るように興奮していた。そして俺たちのプロモーション/プロダクションパートナーのSergo、Alec、Dimitriに会い、ロシア産レコードの専門家Igor Zhukovskyを紹介してもらう手はずになり、彼が会場にポータブルプレイヤーとレコードを持ってくるという話になった」

“『サイケデリック! ジャズロック! ヘヴィーサウンド!』なんて謳い文句に乗って買わされたロシア産レコードはかなり多い”

「その夜、Madlib、J.Rocc、Freddieと俺は1500人ほどを前にプレイした。俺は1曲目にロシアのバンドArielの人気曲『Lebedushka』(白鳥)をプレイしたが、400人位が驚いていたね。控室に戻ると、心優しいマフィアのボスに高級ワインをこぼしてしまったが、それはさておき俺はIgorの持ってきたレコードを聴くことにした。Igorはあらかじめグルーヴィーでファンキーな作品を中心に選んでくれていたが、同時にレフトフィールドなロックも用意してくれていた」

「更に翌日、俺たちは一緒にサンクトペテルブルクへ向かい、そこでIgorのパートナーVasily Ostroumovを紹介してもらうことになった。尚、サンクトペテルブルクまでの道中、IgorはDos Mukasan、Aleksey Mazhukovなど、俺が初めて聴くようなアーティスト名を次々と挙げた。彼の話では、ソ連時代には本格的なサイケデリックなアルバムが少なくとも15タイトルはあるということだった。有難いのは、IgorとVasilyはそれらを俺の持っているアメリカ産ソウル、ファンク、ジャズと交換してくれるということだった」

「そして最後のギグの後(そしてサンクトペテルブルクからLA行きのフライトをミスした後)、聖ワシリイ大聖堂のように美しい聖堂が見える広い公園でIgorとVasilyに会った。そしてサンクトペテルブルクの古い地下道を通ると、ソ連時代に作られたVasilyの家へ行き、彼のコレクションを聴かせてもらったんだ」

以下に今回のロシアでEgonが掘り出した6枚を紹介する。解説はEgon(EA)とIgor(IZ)が担当している。

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George Garanian and the Melodiya Ensemble “Manervi” 『Romance For Two Lovers』(Melodiya 70年代中期)収録

このサウンドトラックは80年代ソ連のロックアイコン、Alexander Gradskyのデビュー作品という意味で非常に重要だが、この作品が素晴らしいのは、Melodiya Ensembleが、彼らの特徴だった腑抜けたフュージョンジャズから離れて、アルメニア人作曲家George Garanianと一緒にサイケデリックファンクジャムを2曲収録しているという点だろう。『Manevri』は俺が一番好きなロシア産トラックだと思う。The Groupのアルバム『Feedback』とDavid AxelrodのCapital時代の3枚、それにBilly Butlerの『Twang Thang』のような作品だ。J. RoccもMadlibもIgorとVasilyからお手頃な価格で譲ってもらえたからラッキーだったね。これといってレアなサウンドトラックじゃないんだが、今は高値が付いている。(EA)



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Aleksey Mazhukov “Prichitaniye” 『Songs』(Melodiya 1973年)収録

サンクトペテルブルクまでの飛行機の中で、Igorがこのトラックを教えてくれた。ロシア人のセッションミュージシャンがAleksey Mazhukovのために演奏した、エクスペリメンタルな楽曲で、このLPにはこういうタイプの曲が2曲だけ入っている。あとは陳腐な内容だ。とにかくこのトラックはIgorの好きな曲のひとつだと教えてくれた。Igorは図書館に置いてあるようなアルバムのコレクターで、このトラックもNino Nardini / Roger Rogerのアルバムに入っていてもおかしくはないね。インナースリーヴジャケット、不可思議なプロダクション、そしてファンキーなリズムセクションと、レアグルーヴマニアには堪らない要素がすべて揃っている。(EA)

Mazhukovはソ連初のヴォーカル/インストゥルメントオーケストラVIO-66の指揮者だった。彼は10インチ1枚のみをリリースしている。このオーケストラに曲を提供した作曲家たちはソ連を代表する作曲家に育って、ソロ作品ではクールでグルーヴィーなアレンジを聴かせてくれる作曲家だ。

このアルバムのA面は70年代初期のソ連産ポップをソ連の人気歌手が歌っただけの印象だが、B面はMazhukovのインストゥルメンタルトラックが2曲収録されていて、しかもこの2曲のカッティングはそれぞれ驚くほど違うスタイルで行われている。ちなみにこの演奏を担当しているバンドはKonstantin Krimet’s Orchestraで、彼らは童話やアニメのオーディオアルバムの音楽を担当していたことで知られている。

このレコードはジャケット付きではなく、インナースリーヴのみでリリースされた。そしてこの仕様はMazhukovのキャリアにとってプラスにはならなかったようだ。というのも、彼が2011年に亡くなった時、彼の遺族に連絡を取ることができたんだが、彼らにこのレコードについて訊ねると驚かれた。彼らはこの作品の存在を知らなかった。(IZ)



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Gaya-Azerbaijan State Vocal/Instrumental Ensemble “Ya Schasily”(英名:I’m happy)『Gaya』(Melodiya 1974年)収録

このトラックはGayaのセカンドアルバムからの1曲で、このアルバムで初めてヴォーカル/インストゥルメント編成になった(1974年までの彼らはヴォーカルカルテットとして、他のアゼルバイジャン系ジャズバンドやインストゥルメントヴォーカルカルテットと組んで活動していた)。70年代にソ連南部で人気だった彼らはヨーロッパ、アメリカ、キューバでツアーも行った。彼らのレコードを見つけるのは難しい。というのも、90年代初頭のCDの登場によって、ロシア産レコードは大量に破棄されてしまったからだ。(IZ)



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Variety Orchestra Oktava “Zapah Lugov”(英名:Meadow Air)『Variety Orchestra Oktava』(Melodiya 1972年)収録

1964年に結成されたOktovaはリトアニアで最高のプロオーケストラで、作曲家兼トロンボーン奏者のMindaugas Tamošiūnasが率いていた。リトアニアの歌手のバックを務め、クラシックダンスの教育系レコードでも演奏していた(こちらにはファズギターやファンキーなリズムセクションが入っている場合がある)。このアルバムは彼ら唯一のソロアルバムで、ソ連産ガレージロックと言えるトラックが2曲収録されている。レアでパワフルだ。尚、この画像は輸出版で、英語のテキストが書かれている。プレスも良く、カラフルで高質なジャケットが使用されている。想像がつくと思うが、ロシア産レコードは輸出版が最もレアで、血眼になって探している人たちがいる。(IZ/EA)



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Vocal/Instrumental Ensemble 75 “Arobnaya” (英名:Vocalize) 『Vocal/Instrumental Ensemble 75,』(Melodiya 1975年)収録

75はグルジア・トビリシのアンサンブルで、このアンサンブルよりも有名だったOreraで指揮者を担当していたRobert Bardzimashviliによって結成された。このアンサンブルはモダンなアゼルバイジャンの音楽を作ろうという目的の下に結成された。このファーストアルバムは1976年にリリースされたが、当時の評価はあまり良くなかった。彼らは80年代に入ると多少人気が出たが、結局ライバルOreraのような成功は収めることが出来なかった。『Arobnaya』という言葉は、「arob」という牛用貨車の名前から取られている。この美しいトラックは、オリエンタルな情緒が詰まったモードジャズから始まり、ブラスとファンキーなフルートが効いたジャムセッションに変化していく。ユニークな作品だ。(IZ/EA)