十一月 13

French Prog Essentials

RBMA PARIS 特集 Part 7:フレンチプログレの名盤を紹介

By Frédéric Delâge

 

プログレッシブ・ロックはUKで生まれた。1967年にリリースされたThe Beatlesの『Sgt. Peppers』がこのジャンルを開拓すると、ロックはすぐにクラシック、フォーク、ジャズからの影響を電気の力と組み合わせるようになり、このジャンルに組み込まれるバンド群は、それぞれ独自の方法を用いつつ、ロックの境界線を押し広げようという同志の野望を実現しようと努力を続け、テクニカルな演奏や大曲を恐れずに使用する叙情的な音楽で、「ヴァース/コーラス」という音楽構造の鎖からロックを解き放とうとしていた。

 

Pink Floyd、Yes、King Crimson、Peter Gabriel在籍時のGenesisなど、このジャンルのトップバンドの多くはUK発だが、フランスもまた1970年代初期から、Moving Gelatine Plates、Martin Circus、Triangle、Zoo、Heldonなどを擁す、力強いプログレッシブ・ロックシーンを誇っていた。

 

Martin Circus

 

そしてすぐに、Gong、Magma、Angeという、3組のメジャーバンドがその中から台頭した。Gongはフランス人、スペイン人、オーストラリア人が中心となったインターナショナルなバンドで、サイケ、スペースロック、ジャズの周縁をなぞるような音楽を展開。ドラマーのChristian Vanderを中心に結成されたMagmaは、のちにZeuhl(ズール)と呼ばれる独自のアヴァンギャルド&プログレッシブ なスタイルの確立に繋がる、ラディカルな音楽を標榜。そして、Procol HarumやKing Crimson、Jacques Brelから大きな影響を受けていたAngeは、1970年代中盤にはフランス国内のトップロックバンドとして人気絶頂期を迎えた。また、知名度こそ低いがイノベーティブという意味ではこの3バンドに引けを取っていなかった他のバンド群(注1)も、国内のプログレッシブ・ロックシーンの人気獲得に貢献した。そして、プログレッシブ・ロックの美学に内包されていたフロンティア&コンセプチュアルなスピリットは、Albert Marcoeur、Catherine Ribeiro + Alpes、Alan Stivell、Malicorneなどの当時のフランス国内の他のジャンルのアーティストや、Gérard Mansetの『La mort d’Orion』やSerge Gainsbourgの『Histoire de Melody Nelson(メロディ・ネルソンの物語)』、そしてNino Ferrerの『Métronomie』などのアルバム群にも影響を与えた。

 

注1):代表的なバンドとしては、Art Zoyd、Atoll、Carpe Diem、Clearlight、Etron Fou Leloublan、Pulsar、Mona Lisa、Tai Phong、Shylockなどが挙げられる

 

その後、パンクの登場によってプログレッシブ・ロックの黄金期は過ぎ去ってしまったが、それにも関わらず、フレンチプログレシーンは、1980年代にデビューした中世的なメロディが特徴のバンドMinimum Vitalから、ワールドミュージックとエレクトロを取り込み、現在フランス国内のトッププログレバンドとして認識されているLazuliまで、様々なスタイルを持った新しい才能を音楽業界の片隅から輩出し続けている。特にLazuliは、世界的な知名度を誇るRadioheadやMars Volta、Museなどがプログレッシブ・ロックの遺産はまだ十分通用するということを証明した時代の後押しもあり、今でも高い人気を誇っている。今回はフランスが誇るプログレッシブ・ロックバンドを紹介していく。

 

Magma 

 

Magma『Mekanïk Destruktïw Kommandöh』(1973年)

1969年に、ジャズピアニストMaurice Vanderの息子、ドラマー兼シンガーのChristian Vanderによって結成されたMagmaはハードさと神秘性、そしてその暗さによって、「フラワーパワー」の時代精神の中で一際目立つ存在となった。彼らの音楽は、宇宙から伝わるとされるコバイア語という架空言語を使いつつ、勇ましい魔法のようなトーンで、スラブ、ラテン、ドイツ系のサウンドを生み出していた。

 

そのMagmaのサードアルバムに相当する『Mekanïk Destruktïw Kommandöh』は、現在でもこのバンドの代表作として考えられており、反復するシーケンスがJannick Topの超強力なベースを中心に展開されていく容赦ないリズムと相反するように配置されている。Christian Vanderの音楽的・精神的指標だったJohn Coltraneのジャズと、Igor StravinskyやCarl Orffなどの欧州のクラシック作曲家から影響を受けているMagmaの音楽はユニークなパワーを放っており、それはのちに、Zaoや元Magmaのメンバーが結成したWeidorjeなど、数々のZeuhl系フレンチバンドにインスピレーションを与えることになった。

 

Gong『Angel’s Egg』(1973年)

 

オーストラリア人Daevid Allen(Soft Machineのオリジナルメンバーのひとり)によってフランスで結成された多国籍バンドGongは、ジャズ、エスニックフレーズ、コスミックシンセ、グリッサンドを多用したギターなどを取り込んだ折衷性が特徴のバンドだった。セカンドアルバム『Camambert Electrique』のジャジーでサイケデリックなサウンドをこのバンドのディスコグラフィーへの入門編とするならば、3部作『Radio Gnome Invisible』(この『Angel’s Egg』は第2部に相当する)がGongの最盛期に相当する。

 

英国人ギタリストSteve Hillageや、Didier Malherbe(サックス&フルート)、Pierre Moerlen(ドラム&パーカッション)などのフランス人ミュージシャンの卓越した演奏に支えられたこのアルバムは、Allenの素晴らしいヴォーカルとヒプノティックなバンド演奏が交互に繰り返され、風変わりなサイケロックと煌びやかなスペースロックの間を継続的に行き来していく。Gongは3部作の最終作となる素晴らしいアルバム『You』をリリースしたあと、Daevid Allenが脱退したこともあり、ジャズロック期に突入していった。その後、Allenがこのバンドの活動を再開させ、この3部作が生み出した神話の再生に取り組んでいったが、2015年3月に77歳でこの世を去った。

 

Ange『Au-delà du délire』(1974年)

1970年代前半にフランス・ベルフォールで結成されたバンドAngeは、英国のプログレッシブ・ロックのパイオニアたちから影響を受けていることを公言していたが、シンガーソングライターChristian Decampsのシュールレアリストとしての才能によって、そこにフランスらしさを付け加えることに成功していた。その彼らのサードアルバム『Au-delà du délire』は、フレンチプログレ史で最も影響力が大きく、最も成功を収めたアルバムの1枚に数えられている。このアルバムでのAngeは、キーボードを多用した交響曲と静かなアコースティック系楽曲、そして幻覚のようなストーリーを語るChristian Decampsのヴォーカルを組み合わせ、これまで以上にフランス版Genesisのようなサウンドを生み出している。そのサウンドは、素晴らしいコスミックチューン「Si j’étais le messie」で特に顕著だ。

 

尚、その迫力はアルバム全体を通じて保たれており、魅力的なヴァイオリンからスタートする「Godevin le villain」、ギタリストJean-Michel Brezovarのアウトロが冴えるタイトルトラック、滑らかだが力強さも感じられる「Ballade pour une orgie」、壮大なスピリットが感じられる「Les longues nuits d’Issac」などがハイライトとして挙げられる。このアルバムはリリース後数ヶ月で4万枚を売り上げ、Angeはその後1977年までフランスで最も有名なバンドとして名を馳せた。

 

Shylock『Ile de fièvre』(1978年)

Robert Frippに似た切れ味の良い空間系サウンドを誇ったギタリストFrédéric L’Epéeが率いたニース出身のこのバンドは、1970年代にリリースした2枚のアルバムでその卓越した演奏技術を披露した。ダイナミックで魅力的なこのセカンドアルバムのタイトルトラックは、反復と伸びやかなMoogの演奏によって突き進んでいく。

 

このアルバムの残りの楽曲は、一部即興演奏が用いられていることもあり、よりエクスペリメンタルで散開しており、その神秘主義的なサウンドと迫力に満ちた演奏が交互に顔を出す様子は、時としてKing Crimsonの『Starless & Bible Black』のように聴こえる。結局『Ile de fièvre』はShylockのラストアルバムになったが、Frédéric L’Epéeの才能は、同じくKing Crimsonに影響を受けたバンド、PhilharmonieとXangによって1990年代と2000年代に再評価されている。

 

Minimum Vital『Sarabandes』(1990年)

Minimum Vitalの特徴は、受けてきた影響をパッチワークのように組み合わせている部分にある。彼らは1970年代のプログレ(特にYesとMagma)の残してきた遺産を中世音楽やバロックと組み合わせている。1980年代中盤に双子のJean-LucとThierryのPayssan兄弟によって結成されたこのバンドの1990年のアルバム『Sarabandes』は、クリシェを避けるそのユニークスタイルに更に磨きがかかっている。また、彼らはこの後にリリースされた作品群では更にヴォーカルを前面に押し出していき、結果として、フランスのプログレッシブ・ロックバンドとしては非常にレアな、方向性にブレが感じられない安定感のあるバンドのひとつとして世間に認知されており、2015年初頭にも現時点での最新作となるダブルアルバム『Pavanes』をリリースしている。

 

Taal『Skymind』(2003年)

 

チェロ、ヴァイオリン、ヴィオラ、サックス、フルートを擁するロックバンドだったTaalは、2000年代初期のフランスのプログレッシブ・ロックにおいて最も興味深いバンドのひとつとして認識されており、King Crimsonの『Larks’ Tongues In Aspic』期の騒然とした神秘性とFrank Zappaの自由なハイブリッド感覚の中間に位置しながら、東洋の音色や東欧の音楽を引用した音楽を生み出していた。ポワトゥー出身の彼らのセカンドアルバムに相当する『Skymind』は、暴力と優しさ、複雑さとメロディを巧みに組み合わせながら、テンションを落とすことなく、力強い楽曲が披露されている。

 

ヴォーカルパートはやや説得力に欠けるものの、このアルバムはパワーと知性の両面において非常に素晴らしく、伸びやかなヴァイオリンに、エレクトリックな激情とミステリアスな静寂を組み合わせている。その後、数回のコンサートが開催されたものの、Taalは伸び悩み、2000年代初頭のフランスのプログレッシブ・ロックシーンに最も大きなインパクトを与えたアルバムのひとつであるこのアルバムに続くアルバムをリリースすることなく活動を終えた。

 

Lazuli『Tant que l’herbe est grasse』(2014年)

シャンソン、プログレッシブ・ロック、ワールドミュージック、エレクトロの要素を取り入れているLazuliは、1998年のデビュー以来、独特の世界観を保ち続けており、既にBashung、Miossec、Deus、Mogwaiなど様々なアーティストのサポートを務めている。Lazuliの実質的な中心はDominiqueとClaudeのLeonetti兄弟で、Dominiqueの現実的でありながら詩的でもあるフランス語歌詞と伸びやかで心に訴える声質と、Claudeが自分で開発した、ギターとキーボードとミュージックソーを組み合わせたような楽器 “Leode” が特徴になっている。そしてこれらの特徴が、申し分のないメロディセンス、エレクトロ的アプローチ、エスニック/シンフォニックな力強い演奏に支えられた、練りに練られた楽曲群に反映されている。Peter Gabrielや後期Angeの中間に位置するような、またはNoir Désirのポッププログレッシブバージョンと呼べるような音楽だ。尚、ライブ映像以外をチェックしたい人はiTunesで聴ける。

 

Franck Carducci『Torn Apart』(2014年)

 

近年のフレンチプログレシーンからは、Lazuli以外にもNemo、The Last Embrace、Seven Reizh、Spleen Arcana、そしてFranck Carducciなどいくつかの価値あるバンド/アーティストが登場しているが、その中のひとり、シンガー兼マルチインストゥルメンタリストのFranck Carducciは、あらゆる面で英国のトップバンドに引けを取っていない。あからさまに分かる様々な音楽的影響が万華鏡のように揺らめく『Torn Apart』の音楽は、プログレッシブ・ロックの叙情性と純粋なロックンロールを行き来しており、楽曲によってはまブルースまでをも取り入れており、情熱的で楽しいオープニングトラックから、激しいキーボードと牧歌的なフレーズの楽曲、ヴォーカルハーモニーやELO、Toto、Tears For Fears、Supertramp(アルバムの最後は「School」の忠実なカバーとなっている)などの影響が感じられるポップなメロディの楽曲などが収録されている。Franck Carducciのプログレッシブ・ロックは、決して革新的とは言えないが、先人たちの流れを見事に引き継いでいると言えるだろう。

 

RBMA.jpは、2015年11月13日に起きたパリ爆発・銃撃事件の犠牲者及びご遺族の方々に心からの哀悼の意を表すと共に、負傷者の方々に対してもお見舞いを申し上げます。RBMA Parisの関係者・参加者全員の無事が確認されていますが、フランス政府からの安全に関する指導に従い、現地でのイベント開催は最短でも11月19日からとなります。