十一月 15

EVENT REPORT : RBMA WEEKENDER TOKYO 2013

“東京の文化的活動全般を巻き込むかのような四日間”を振り返る

By Yuichi Nagao

 

2013年11月。Red Bull Music Academy(RBMA)の開催を一年後に控えた東京を舞台に、『Red Bull Music Academy Weekender』と題した都市型フェスティバルが開催された。"創造性を刺激する音楽カルチャーの祭典"というコンセプトのもと、シーンや流行を超えた個性的なラインナップによるライブやレクチャーが行われ、東京の音楽カルチャーを多いに盛り上げた。

 

rbma-weekender-tokyo-2013-walk-music-1-900

Henrik Schwarz Instruments at Tsukiji Honganji "Opening Party"

 

4日間に渡るフェスティバルのオープニングを飾ったのは、ディープハウスシーンの旗手・Henrik Schwarzによる最新プロジェクト"Henrik Schwarz Instruments"である。銀座・築地本願寺を舞台に、ハウスの名曲たちをオーケストラ演奏によって再構築するという野心的なこのプロジェクトは、まさに本イベントを象徴するアティテュードが貫かれているものだった。このコンサートを皮切りにスタートしたフェスティバル期間中、アヴァンギャルドな即興演奏から先鋭的な電子音楽までを網羅する各種ライブイベント、オールドスクールなクラブジャズと最新のベースミュージックがフロアを揺らしたクラブイベント、ネットラジオの公開放送、果てはアナログレコード鑑賞会に至るまで、凄まじく濃密でバラエティに富んだ企画が連日に渡って催された。それは単なる音楽フェスティバルという枠を超えて、東京の文化的活動全般を巻き込むかのような四日間だった。

 

rbma-weekender-tokyo-2013-diamond-900

Diamond Version (Carsten Nicolai & Byetone) + 伊東篤宏 at "EMAF TOKYO 2013"

 

これらの実験的なプログラムによって、改めて東京の"文化都市"としてのポテンシャルが浮き彫りになったように思う。全ての会場に足を運んだが、当然イベント毎に客の顔ぶれはバラバラで、それらの客層を観察するだけでも非常に興味深い東京の一断面がスケッチできるものとなっていた(しかも、これでもあくまでまだほんの一断面に過ぎない)。耳の肥えたタフなリスナーがそれぞれの現場を支えている様子を強く感じる事が出来たし、ニッチに思えるコンテンツさえも興行として成立することが可能である点で、東京という都市は、そこに住む我々が思う以上に、文化的に恵まれた都市であるという事実を再発見させられたのだった。

 

rbma-weekender-tokyo-2013-damo-900

rbma-weekender-tokyo-2013-omar-900

Damo Suzuki and Omar Rodríguez-López at "Damo Suzuki’s Network"

 

このような東京の文化的"広さ"は一方で、シーンの細分化や蛸壺化といった形で問題点も永らく指摘されてきた。あるクラスタ内の有名人が、すぐ隣のクラスタでは全くの無名、という事は何ら珍しい事ではない。そして、各々のシーン毎に自足が可能であるが故に、時として容易にその場を内向きのベクトルに自閉させ得てしまう(この問題は"東京"や"音楽"に限ったものではないのだが)。その点で言えば、今回の一連のイベントも、本来であれば混ざり合う事がない、全く別のシーンの出来事として、それぞれ過ぎ去っていくものだった筈である。

 

rbma-weekender-tokyo-2013-lecture-900

砂原良徳 Lecture at "Red Bull Music Academy Session"

 

細分化し、混ざり合う事が難しかったドメスティックな"現場"が、RBMAというグローバルなプロジェクトによって、一つのムーブメントとしてパッケージングされたこと。これこそが、今回のRBMA Weekenderによってもたらされたポジティブな成果ではないだろうか。もちろん、混ざり得ないものを無理矢理に混ぜることは必ずしも正しい事ではないし、シーンとして純化していく事で、表現が洗練され先鋭化していくメリットもあるだろう。しかし、洗練によるある種の選民化は、長期的にその文化の担い手を先細りさせてしまうリスクも大いにはらんでいる。本家RBMAという活動自体が、出自の異なる世界中の様々なアーティストたちを結びつけるハブとしても機能しているように、それに伴うこのようなフェスティバルによって、文化の担い手=リスナーやオーディエンスをも巻き込んだ文化的シャッフルが起こり得ることは、東京を拠点に活動する多くのアーティストにとっても、巡り巡ってポジティブな恩恵をもたらすのではないかと思う。

 

rbma-weekender-tokyo-2013-daedelus-900

Daedelus at ”Beacon in the city”

 

rbma-weekender-tokyo-2013-gilles-900

Gilles Peterson at RBMA Weekender "Club Night"

 

そもそもフェスという興行はショウケース的な役割を担っているものではあるが、今回のプロジェクトが多くの野外フェス等と異なる点は、単なる"ハレ"の場としての一過性の祭りではなく、日常と地続きの営みとして音楽文化を楽しむ場を提供していることであろう。都市生活の日常風景の中に、音楽を楽しむ場を再発見してもらうこと。非日常空間に音楽を閉じ込めるのではなく、日常の中に新たな価値を見いだす視点を提供すること。これこそがRBMAが東京に撒いたクリエイティブの種に他ならない。