十月 25

Contact High:ヒップホップ&フォトグラフィー

ヒップホップをフォトグラファーの視点から捉えた本から収録されている写真数点とJay-ZのエンジニアYoung Guruのモノローグを抜粋して紹介

By Young Guru

 

フォトグラファーの視点からヒップホップの歴史を追っていくジャーナリストVikki Tobakの新作『Contact High: A Visual History of Hip-Hop』からの抜粋となる今回は、収録されている写真数点と、Jay-Zの作品の大半に関わってきたレコーディングエンジニアYoung Guruが写真との関係について語るモノローグを紹介する。

 

 

 

 

 

僕は、アーティストのルックスよりもサウンドを先に知る時代に育った。デラウェア州ウィルミントンが地元だったから、大抵の場合、アーティストのルックスを初めて知るのはアルバムカバーや雑誌経由だった。ニューヨークシティ以外に住んでいる人の多くにとっては、自分たちが聴いている音楽を作っているアーティストのルックスを知る方法はアルバムカバーか雑誌で、長年、僕の中のアーティストのイメージは、それらから生まれていた。

 

『The Source』、『XXL』、『Vibe』のようなヒップホップマガジンが僕のバイブルだった。アーティストが着ている服、スタイル、個性が分かった。ヒップホップっていうのは、自分の体験を自分なりに表現することだ。そして、そういう表現にインスパイアされた様々なコミュニティが集まることで、ひとつのカルチャーが生まれる。そしてそのカルチャーは記録される必要がある。そこで登場するのが写真さ。

 

僕にとって、写真撮影は非常にパーソナルなもので、今も勉強しながら成長している。始めた頃は、撮影対象のパーソナルスペースを邪魔しがちだった。僕は身長195cmの黒人だから、人にカメラを向けて自然な表情を撮るのが難しかったんだ。その時に、友人のStephen Vanascoがアドバイスをくれたんだ。シンプルなアドバイスだったんだけど、彼からは「とにかく撮影するのを恐れないことだね」と言われた。これを言われて僕の考え方が変わった。色々と試す自由が得られた。ミスを重ねてそこから学べる余裕が生まれたんだ。ストリートを対象にして、自分が必ずしも快適に感じないシチュエーションに自分を置いて撮影することを心がけるようになったんだ。

 

 

 

"誰もがスタジオのバイブスが魔法を生み出すことを知っているけれど、暗室でのフィルムの現像にも同じことが言える"

 

 

 

Instagramで色々な写真を見るようになると、僕の音楽仲間が投稿している写真のクオリティの違いに気付くようになった。D-NiceEvidenceDJ Babuはミュージシャンだけど、全員が写真と真剣に向き合っているから、いくつか素晴らしい写真を撮っていた。だからD-Niceに、なぜ他の写真より彼の写真の方が優れているのか、その理由を尋ねてみると、Leicaで撮影していると言われたんだ。それで、僕もLeicaというブランドのヒストリーに夢中になった。

 

僕は徹底的に調べるタイプだから、「写真の穴」に転がり落ちていった。僕は何かに興味を持つと、徹底的に取り組むんだ。それでデジタル一眼レフの代わりにLeicaのレンジファインダーを手にした。リアルなフォトグラフィーはこうあるべきだと感じたよ。僕はオートは一切使用しない。マニュアルで撮影するのが好きなんだ。

 

 

 

The Notorious B.I.G © Barron Clairborne

 

 

 

The Notorious B.I.G © Barron Clairborne



 

その次に、「偉大な写真家は誰なのか?」、「シーンの中で誰が尊敬されているのだろう?」と疑問に思うようになった。そういう疑問をぶつけた全員が違う答えを返していた。写真もヒップホップと同じで、突然として誰かが姿を現してゲームチェンジャーになっていた。Henri Cartier-Bressonは、意志を備えたストリートフォトの父だった。戦場写真はRobert Capaが生み出したと言っていい。戦場に飛び込んで兵士たちを表情を撮影するっていうのは、完全に新しかった。僕の中では、キャパのストーリーはロックスターのそれに近かった。

 

このような存在はMCやDJになぞえらることができるし、写真とヒップホップの進化の歴史には共通点がある。スタイルの変遷や、既存のルールの壊し方などがね。ルールを破壊するっていうのは、ヒップホップであり、写真であり、絵画であり、人生なんだ。何かを生み出すことだ。同じ瞬間は二度と来ない。だから、写真というヒストリーを捉えるメディアはとても重要なんだ。

 

 

 

Nicki Minaj © Angela Boatwright

 

 

 

コンピューター以前の時代に生まれた僕は恵まれている。アナログでレコーディングをする時は、そのプロセスと時間をリスペクトしていた。誰もがスタジオのバイブスが魔法を生み出すことを知っているけれど、暗室でのフィルムの現像にも同じことが言える。フィルムを使うと時間の流れが遅くなり、現像のプロセスをリスペクトするようになる。でも、スマートフォンやインターネットが原因で、僕たちは「何かを生み出すこと」の触知的な側面を失ってしまった。だからいつも僕は、作品には共感性が重要だと言っているのさ。僕たちは人間だし、何かに触りたい。そういう僕たちがカルチャーを形作っていく。その意味で、音楽と写真には共感性や触知性が必要なんだ。

 

 

 

Kanye West © Danny Clinch

 

 

 

Kanye West © Danny Clinch

 

 

 

今は誰でも音楽が作れるし、誰でもフォトグラファーになれる。昔は誰もがそのためのツールにアクセスできるわけじゃなかった。何かを生み出すにはお金がかかった。でも、今はトラックをレコーディングしたり、フィルムを使ったりする経済的余裕がなくても、壁に当たることはない。

 

これからの世代に、決定的な瞬間、重要だった時代をどう伝えていくのか? ニューヨークシティが「あの時代」に戻ることはないし、ヒップホップが「あの時代」に戻ることもない。地下鉄だって「あの時代」のルックスに戻らない。フォトグラファーがカルチャーに貢献してきたのはこの部分だ。彼らには共感をもたらすパーフェクトな手段を持っていた。イメージっていうのは、音楽を広めるプロセスの中に含まれているし、この2つは密接に繋がっている。僕たちはまだ自分たちを表現しようとしているんだ。僕たちのヒストリーを記録できる手段が存在することに感謝するよ。

 

 

※:この記事は『Contact High: A Visual History of Hip-Hop』から一部を抜粋して翻訳したものです。

 

Copyright © 2018 by Vikki Tobak. Photographs copyright © by Danny Clinch, Barron Clairborne, Angela Boatwright. Published by Clarkson Potter, an imprint of Penguin Random House, LLC.