二月 07

The Cinematic Orchestra インタビュー

By Heinz Reich

Ninja Tuneを代表するアーティストが、一生を左右することになるアイスホッケー選手との出会いやサンプル許諾申請の苦労などを語った。

Jason Swinscoeは90年代後半からThe Cinematic Orchestraとして活動を続けている。ロンドンに拠点を置くレーベルNinja Tuneから数々のアルバムをリリースしている彼はアーティスト名が示す通り、映画的で感情的な、そして起伏があり、時として圧倒的ですらあるメランコリックで雄大な楽曲を生み続け、成功を収めてきた。その彼を昨年末にウィーンのRBMA Bass Campへ招き、ライブの前に自身のキャリアについて語ってもらった。彼の見事なキャリアのダイジェストとも言えるインタビューを是非楽しんでもらいたい。



あなたの音楽は痛々しい程の美しさを携えていますが、アートにおいて「美」とは最も難しいテーマのひとつでもあります。あなたは「美」をどう捉えていますか? そして音楽の「美」とはどこから来ているのでしょうか?

抽象的で難しい質問だな。美か…。僕はかなり若い頃からヴィジュアルアートを学んだ。5、6歳の頃はひたすら絵を描き、音楽を演奏していた。個人的には「美」とは自分の魂から生まれるもの、魂に内在するものだと思う。抽象的でも、絵でも、想像でも、音でも、彫刻でも、3Dでも、実際に触れるものでも構わない…。自分の中にあるものだということ以外、上手い言い方が見つからないな。

The Cinematic Orchestra名義でリリースした初期作品のひとつに、Nina Simoneの名曲「Strange Fruit」をサンプリングした曲がありますね。

そうだね。僕のファーストアルバム『Motion』はオマージュのような位置づけで、名曲をサンプリングした曲が多い。訴えられたことも多々あるけれど、サンプル使用料は全部払って、今はすべての使用許諾を取ってある。「Strange Fruit」は当時僕が作っていた曲にどういうわけか上手くはまったんだ。さっきも言ったけれど、このアルバムはJohn ColtraneやMiles Davis、Ella Fitzgerald、Nina Simoneのようなクラシックなビッグアーティストや、映画音楽のBernard HerrmannLalo Schifrin、Quincy Jonesなどに向けてのオマージュのような位置づけだった。昔のジャズのレコードからリズムやベースラインを、そして映画音楽からストリングス、エレクトロニック・サウンドや奇妙な音をサンプリングした。


 



音楽的な教育を受けていないと言うあなたは、ご両親からも音楽の影響は受けていませんよね。なぜエレクトロニック・ミュージックの道へ進もうと思ったのでしょうか?

6歳の頃にアコースティックギターを手にしたことで音楽の道に進んだ。当時「どんなに酷いものでもいいし、中古でもいいからギターを買ってよ」と両親にしつこく頼んで、楽器屋に連れて行ってもらった。僕はまだ背が低くて、アコースティックギターを抱えるようにして持ってみたものの、弦まで手が届かなかった。それで「もっと小さいギターはないの?」と店員に頼んだ。

すると店員が裏から小さなギターを持ってきてくれた。もう何年も眠っていたような代物で、チューニングも狂っていたけれど、僕は「これなら大丈夫だ」と言って、そのギターを手に入れた。それから丸2年間、ひたすらラジオでかかるポップミュージックに合わせて弾く練習をした。一生懸命指を伸ばしてコードや音を出そうとしてね。すごく時間がかかったし、「音楽は複雑で難しいな。どうやって弾けば良いのだろう?」と思っていたよ。そしてそれから数年後にようやくギターが理解できるようになった。学校の先生がチューニングをしてくれて、そこからは上手くいった。

何が僕を音楽に引きこんだのかは分からない。アートスクールで映画と彫刻を学んだけれど、僕にはヴィジュアルアートと音楽が同じに思えた。卒業した時に周りから「ヴィジュアルアートを続けるのか?」と訊かれたけれど、「音楽と一緒だから、これからはアイディアを音楽に活かしていくよ」と答えた。僕にとってはヴィジュアルアートより音楽の方が少しだけユニバーサルなフォーマットなんだ。

ロックバンドをキャリアとして選ばなかったのは何故でしょう?

大学で初めて組んだバンドは、パンクロックだったけれど、卒業してからはミュージシャン、パフォーマーとしてではない聴き方で音楽に接し始めた。そのうちベーシストを色々調べるようになって、ジャズにかなり入れ込んだ。Charles Mingus、Stanley Clarke、Jaco Pastoriusのような素晴らしいプレイヤーの、ただのリズムキープだけじゃない「名演」を聴きたかったのさ。

ファーストアルバムは基本的に外部のアーティストはほとんど起用せず、すべて1人でこなしていますね。

ファーストアルバムは正直言って、ひたすら自分を探っていた。誰かに生楽器で上からかぶせてもらったり、ドラムを叩いてもらったりした曲もあるけれど、基本的には全部サンプルだ。AppleのPerforma 630とAkaiのS3000、それにCubaseをすべてMIDIで繋いで制作した。当時はサンプリングできる時間はわずか3秒だったけれど、この制限が上手く作用したと思う。最長3秒という制限がね。しかもモノラルだった。当時はステレオのシステムを持っていなかった。スピーカーは1台だけだった(笑)。

今でもサンプルは使用しますか?

面白い話なんだけど、僕はここ7年アメリカに拠点を置いていて、LAに2年、その前はニューヨークで暮らしていた。あっちでアルバムを制作していたけれど、結局それを破棄することにした。そのアルバムはギターやピアノで作っていて、それを再現するためのバンドも用意したけれど、結局上手くいかなかった。ロック色が強すぎたし、生演奏の感じが強すぎた。要するに他の要素が強く出過ぎてしまった。だからリリース直前まで進んでいたけれど、破棄した。

その後スタジオの機材をまとめてLAに移った。そしてLAでAkai S5000を持ち出して、またサンプリングを始めた。持っているレコードすべてをサンプリングしたけれど、「こんな音が入っていたのか!」という感じで、レコードがインスピレーションを与えてくれた。バーチャルインストゥルメントの多くはクリーンでデジタルなサウンドだけれど、僕はノイズやザラザラした感じが好きだ。ループを組むと、素敵なノイズが入ってくる。こういうサウンドがある種の個性を与えてくれる。サンプルに含まれた様々な要素が、コード進行やリズムを作るインスピレーションを与えてくれる時もある。要するにまたサンプリングを始めたのさ。楽しんでいるよ。





To Build A Home』はあなたキャリアのハイライトのひとつだと思うのですが…。

その曲はやめようよ。

確かにあなたは数えきれないほどこの曲を聴いているでしょうね…。

僕はこの先ずっとこの曲の呪縛に悩まされるんだと思っているよ。

この曲について話してもらえませんか? ドラムがないという意味でいつもとは違うアプローチですよね。クラブカルチャーからデビューしたあなたにとって、ドラムを外すというのは結構なチャレンジだったと思うのですが。

確かに熟考した上での判断だったよ。昔はクラブによく通っていたけれど、『Ma Fleur』を制作していた時、僕はクラブシーンに飽きつつあった。ビートを重視しないアルバムを作りたいとも思っていた。当時の僕はビートだけじゃなくてもいいじゃないかと考えるようになっていて、要するに「音楽性」を感じたくて、意識的に「作曲」をしようとしていた。

「To Build A Home」のコード進行はパリで思いついて、その後モントリオールに向かって、マネージャーのDomにPatrick Watsonを取り次いでもらった。Patrickは当時モントリオールのNinja Tuneで働いていたJeffと繋がっていた。彼らは一緒のアイスホッケーチームでね。カナダ人同士だから、2人共ホッケーが大好きだった。Patrickに関しては、ホッケーはあまり上手くなかったと思う。ゴールキーパーだったからおいしいポジションでプレーできなかったのさ。でもPatrickが歌っているって話をJeffが耳にして、僕に「チェックした方がいい」と教えてくれた。それで連絡を取ったのさ。当時の彼はショートフィルム用の音楽を作っていたね。

そしてモントリオールに5日間滞在して、一緒にこの曲を作った。実際は2日間で終わった。まさにコラボレーションというような経験だったよ。僕が「こういうコード進行がある」と言って、彼がそれにメロディーをつけて、歌詞は一緒に書いた。正しい場所、正しいタイミングで起きた魔法のようなコラボレーションだったね。

皆さんからの質問を受ける前に、最後にひとつだけ私から質問です。あなたはアーティストとして素晴らしい環境で仕事をするチャンスに恵まれてきたと思いますし、自分について考える時間、自分が何を成し遂げたいのかを考える時間もあると思います。ここにいる若い世代の人たちも、いつの日かあなたと同じような立場になり、アーティストとしての社会的な役割について考える時があるかも知れません。あなたは自分自身をシンプルに1人のエンターテイナーだと考えていますか、それともそれ以上の存在だと考えていますか?

面白い質問だね。音楽を作るという意味では、僕は自分のためではなく、他人のために作っている。ただのエンターテイメントするというだけの話ではないと思う。今日もこうしてこのインタビューのあと、ウィーンの人たちに向けてパフォーマンスを行えるのは素晴らしいと感じている。みんなで愛をシェアするというか、他の人たちと繋がれることが僕は嬉しい。個人的に音楽はパワフルな言語だと思っているので、更に極めていくつもりだ。

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さて、ここからは皆さんからの質問を受け付けたいと思います。どなたか質問はありませんか?

オーディエンス1:サンプリングをした際、どのように許可を取っているのでしょうか?

基本的には使おうと思っているオリジナルのサンプルをNinja Tuneの版権担当に送って、彼らがその長さが申請に値するかを判断し、そこから著作権を所有している側と連絡を取る。Ninja Tuneは元々ColdcutやDJ Food、Herbaliserなどサンプリング重視のアーティストを抱えてスタートしたレーベルだったから、レーベルが成長するにつれ、サンプルの使用許可の申請が必要になっていった。その点においてのプロになる必要に迫られた彼らは古いサンプルの許可を取ったり、場合によっては作品を外したりしなければならなくなった。

僕がNinja Tuneからリリースし始めた時、彼らは「このサンプルの元ネタは? あのサンプルの元ネタは?」と僕にひっきりなしに訊ねてきた。彼らはかなり積極的にその部分に取り組んでいたし、中には上手く切り抜けられるサンプルもあった。でも5、6年前にニューヨークでライブをした時に、New York Timesの記者が来ていて、レビューで僕たちがライブで使ったサンプルを全部書き出したんだ。「これはJimmy Castorだ…」って具合にね。結局その記事がニューヨークの音楽出版社に出回って、「このバンドを追及しなきゃならない」って感じになった。この記者のおかげで、僕たちはJimmy Castorのサンプルについて激しく非難されることになって、権利関係をすべてクリアにしなければならなくなった。因果応報ってわけさ。

オーディエンス2:制作はどのように行っていますか?

面白い質問だね。というのは、先日LAを引き払ってヨーロッパへ戻ってきたところだけど、アメリカにいる時は、沢山の機材やキーボード、Steinweyのピアノやエレクトロニック系の機材を持っていた。でもヨーロッパへ戻る時にコンパクトにした。だから今はPro Toolsを積んだMacbook Proが基本だね。

あとはPocket Pianoという小さなシンセを使っている。金属製のケースに木製の鍵盤が付いていて、素晴らしいサウンドが詰まっている。あと最近このメーカーから新しくリリースされた機材も使っているね。小さな黄色の筐体で、8ビットのサンプラーにマイクがついている奴だ。今使っているのはこういう小さいオモチャのような機材だね。あとはRadelというインド製の機材で、99のリズムがプリセットで入っている。BPMを自由に変えられるから、自分の曲と連動できるけれど、僕の場合はその音をレコーディングしてから、色々と変化させて使っている。とにかく今は小さくまとめているよ。ラップトップと数台のオモチャ。これだけだね。

実際必要なのはこれ位だ。これだけで沢山のインスピレーションを得ることができる。他の機材は使い道がはっきり分かるまで、スタジオの倉庫に寝かせてある。ギターやベース、キーボードを沢山持っているけれど、今は必要ない。音楽を制作するのに沢山の機材は必要ないという話は面白いね。機材の数より、自分がどういうアイディアを持っているかの方が大事なのさ。