二月 03

Interview: Black Coffee

ハウス・ミュージックで夢を叶え、希望を与える南アフリカのスター

By Yuko Asanuma

 

南アフリカのモダン・ハウス・シーンの立役者であり、今では国民的アーティストとなったDJ Black Coffee。決して恵まれていたとは言えない境遇で育ち、子供の頃に遭った交通事故で左腕が麻痺してしまうが、音楽の才能と努力と熱意で成功を手にした。同地のケープタウンで2003年に開催されたRed Bull Music Academyの参加者であり、それを大きなきっかけとして音楽キャリアを築いてきた。現在では世界各地を飛び回る多忙な生活を送りながら自身のレーベルSoulistic Musicを運営、ヨハネスブルグを拠点に地元の若いアーティストたちを世に送り出しているだけでなく、音楽を志す障害を持つ子供たちを支援する基金を設立し、次なる世代に希望と目標を与えている。本人も待望だという初来日を前に、日本から見ると地球のほぼ真裏に当たる、遠い国の彼に話を聞くことが出来た。

 

 

 

Resident Advisor(以下RA)が制作したドキュメンタリー、『Real Scenes: Johannesburg』や『Origins』であなたのことを拝見して、いかに南アフリカであなたが若者のお手本になっているか、またハウス・ミュージックの人気が高いかを知ったんですが、あなたは音大でジャズを学んでいたんですよね?ハウス・ミュージックとはどのように出会ったのか教えて下さい。

 

DJをやっているうちにですね。僕は17~18歳のまだ高校生の頃からDJを始めました。高校でも音楽を専攻していて、音楽教育を受けながら、週末はDJをするという生活でした。その後DJは続けながら音楽を学ぶために大学に進学しました。その大学にスタジオがあって、プロダクションの手法も学びました。在学中はほとんどの時間をスタジオで過ごして、ダンス・ミュージックの制作に明け暮れていましたね。それがきっかけだと思います。確かにジャズを学んでいましたが、大学で教えられたのは、ジャズはすべての音楽の核であるということ。R&Bにしろ、ハウスにしろ… そこにはジャズの影響があります。

 

17歳頃にDJを始めた頃は何をプレイしていたんですか?

 

当時ラジオで人気があったような曲ですね。Chaka Khanとか… ミッドテンポの曲が人気で、それらをカセットテープでプレイしていました。

 

カセットテープでDJしていたんですか?

 

そうですよ。ペンを使ってリワインド(巻き戻し)したりしてね。もう片方の曲が流れている間に、ペンで巻き戻しや早送りをして頭出しするんですよ(笑)。CDが普及する前の世代なんで。最初のCDプレーヤーはピッチ・コントローラーもありませんでしたからね。それが段々進歩して、今ではすっかりやり易くなりましたけど。今はCDJでUSBを使ってDJしています。

 

あなたのDJスタイル自体は、どのように進化してきたのでしょうか。

 

とにかく始めた当初はカセットテープですから、制約ばかりでしたよね。友達と一緒に、同じくらいのテンポの曲を探すことばかりしていました。最初からミックスはしていたんですよ。それが周りの人たちとは違っていました。他の人たちは、曲が終わってから次の曲をかけていたんですが、僕は最初からミックスした。何か音楽的な耳を持っていたんだと思います。カセットテープではそんなロングミックスは出来ませんでしたけど、CDJを使うようになってからは楽になりましたね。でも、そんなことはDJ側の事情であって、ダンスフロアにいる音楽ファンにとっては関係のないことですけどね。DJにとっては、今はたくさんの音楽ソフトウェアもありますし、やり方は大きく変わりましたよね。先日はiPad一台だけでDJをする人を見ましたよ(笑)。DJにまつわる技術は大きく変わったと思います。

 

 

日本はレコード(及びCD)の入手という点においては非常に恵まれていて、少なくとも都市部ではかなり多種多様な音楽のレコードを買うことが出来たわけですが、南アフリカでは事情が違ったと思います。DJたちはどのように音楽を探し、自分のスタイルを築いていったんですか?

 

そうですね、インターネットの普及で一気になんでも買えるようになりましたが、レコードの時代は全然事情が違いました。まず大きな街に行かないとレコードを売っている店がありませんでした。僕が学生時代を送ったダーバンには一軒だけレコードを販売している店があって、そこで時々面白い新譜が入ってくるという感じでした。ヨハネスブルグにはもっと店がありましたけど。でもかなり限定されていたので、それらのレコード屋に入ってくるものによって音楽シーンの方向性が定められた部分は大きいですね。その結果としてハウス、特にディープ・ハウスのヴォーカルものが人気を集めたと思います。テクノやダブステップががんがん入ってくるというわけではありませんでしたから、(クラブ・ミュージックとして)ハウスが主流になった。僕らのように自分で音楽を作り始めた連中も、それらのレコードに影響されたわけです。こうして現在の南アフリカのダンス・ミュージック・シーンは形成されたと思います。

 

具体的にはどのようなアーティストがよく聴かれて、影響を及ぼしたと思いますか?

 

Louie Vega、Osunlade、Quentin Harris、Franck Rogerなど、レーベルで言うとUbiquityやJazzanovaなどですかね。

 

地元のDJやプロデューサーでは特に影響力があった人はいましたか?『Real Scenes』ではOskidoというアーティストなどがその代表格として触れられていましたが。

 

Oskido以外だと、DJ Freshという人がいて彼がブレイクしたきっかけが、彼が出した『Fresh House Flava 1』というコンピレーション(1998年、Mood II Swing、Glenn Underground、Romanthony、Chez Damierなどを収録)でした。それがシリーズ化して人気を集め、たくさんの(アメリカの)ハウスの曲がライセンスされて南アフリカ国内に流通するようになりました。僕らの世代の前に、土台を築いてくれたのが彼らですね。それらのコンピレーションに収録されていた曲を、OskidoやDJ Freshの曲だと思い込んでいる人が多かったので、僕は自分で作った曲だけでアルバムを作りたいとずっと思ってました。僕らの前にオリジナル曲だけでダブル・アルバムを作ったRevolutionという双子の兄弟ユニットがいて、彼らが大ヒットしたんですよね。これによってハウスの人気が一気に広まり始めました。

 

 
 

制作面についてですが、もともとハウスといえばアメリカでもTB-303やTR-808といった限られたベースシンセやドラムマシン、サンプラーといったハードウエアで作られたものですが、あなたの場合はいかがでしたか?このような楽器があったのか、それとも全く違った手法で作り始めたのでしょうか?

 

実は、ほとんどのハウス曲がサンプリングによって作られているということを知ったのはかなり最近のことで、結構ショックを受けたんですよね(笑)。例えばDJ Gregoryはアフリカ音楽の要素を取り入れた曲を作っていたこともあって、南アフリカでは絶大な人気がありました。それがほとんどサンプルで作られていたと知ってびっくりしましたね。僕自身はサンプリングをしたことがなかった。全てを自分で作ることが曲作りだと思っていたので。サンプリングにおいても、そのチョイスや配置などに芸術性があるということを理解しましたけど。ハウスもヒップホップのように作られていたんだと知ったわけです。

 

あなた自身はソフトウェアで制作をしているんですか?

 

そうですね。学生の頃は、Cakewalk Sonarというとても基本的なプログラムを使っていました。その次にApple Logicを使うようになって、独学で習得しました。それ以降はずっと変えていません。

 

あなたの楽曲を聴くと、ニューヨーク産の90年代のディープ・ハウスを継承していると思いますが、音質はデジタルっぽいというか、シャープで現代的な感じがします。

 

自分でも、初期のアルバムなどを聴くととてもデジタルなサウンドに感じますね。実際に、最初の二枚のアルバム(『Black Coffee』2005年、『Have Another One』2007年)はコンピューターとマウスだけで作りましたからね。MIDIコントローラーさえ持っていませんでした。例えばパーカッショニストを招いてレコーディングするスタジオもありませんでした。だから今聴き直すと、「ここをこう出来たら良かった」と思うところはたくさんあります。ピアノソロひとつ取ってもクオンタイズされているので、「クオンタイズなんてしない方が良かった」と今は思います。コンピューターでプログラムしたパーカッションと、生演奏のパーカッションはやはり違いますからね。でも、それが当時の限界でリソースが限られていたので仕方ありません。

 

でもその制限があなたの音楽の個性になった部分もありますよね?

 

そうですね、結果としてはそうなったと思います。

 

 

逆に今はとても恵まれた環境になったと思いますが、色んな手法や技術、機材などを使ってさらに自由に音楽が作れると感じますか?それともある程度制約がある方がクリエイティヴになれるでしょうか?

 

今のスタジオも、とてもベーシックな環境のままにしてあります。目新しい機材をどんどん取り入れるようなことはしていなくて、なるべく最小限に維持しようとしています。スピーカーとサウンドカードは良質なものを選びましたが、それ以外は自分が完璧に理解して把握出来る状態にしておきたいんです。

 

幼少の頃はレゲエを聴いて育ったと紹介されていましたが、今もレゲエはよく聴くんですか?自分の楽しみのためにはどんな音楽を好んで聴いているのでしょうか。

 

最近のレゲエでは、Fat Freddy’s Dropしか聴いていませんね!彼らのモダンなアプローチによるルーツレゲエにとても共感します。大好きなバンドですね。他には、Gregory Porterのアルバムは全部愛聴しています。Christian Scottも好きです。R&Bも聴きます。新人のMali Musicというアーティストとか。Frank Oceanも大ファンですし、Little Dragonも好きですね。色んな音楽を聴いていますよ。

 

これらがDJセットに組み込まれることもありますか?

 

もちろんです。僕がDJでプレイする曲の決め手はソウルがあるかどうか。ソウルを感じる音楽であれば、遅い曲でも早い曲でもかけますよ。

 

 

今回が初の来日ツアーというだけでなく、日本に訪問すること自体が初めてですよね?南アフリカからはとても遠い国ですが、日本についてはどんなイメージを持っていますか?

 

別世界というイメージですね!僕が知っている世界とは全く違うところだろうと思います。それと同じように、日本の人たちも南アフリカがどんなところなのか、僕がどんな環境に育ってきたか全然イメージ出来ないんだろうなと思います。だから、音楽を通じて交流が出来て、理解が深められればいいなと思います。行ったことがある他のDJなどはみんな素晴らしいと言うのでとても楽しみです。DJのキャリアにおいては、夢のひとつですからね、日本でプレイするということは。今後コラボレーションやリミックスをするアーティストとの出会いも期待していますよ。

 

あなたが設立したDJ Black Coffee Foundationについて教えて下さい。これは障害を持つ南アフリカの子供たちに音楽教育の機会を与えるための基金ということですが。

 

はい。今も活動を続けています。しばらくは寄付金によってイベントやワークショップをときどき開催するということ以外に活動方針がしっかり定まっていなかったんですが、最近ケープタウンのSAE Institute(オーディオ・エンジニア専門学校)とパートナーシップを築いて、毎年一名の障害のある入学希望者に奨学金を付与していくことになりました。これを少しずつ規模を大きくして奨学生の数を増やしていけたらと思っています。すでに一人の奨学生が昨年から学校に通っていますが、その子は非常に優秀なんですよ。

 


 

それは素晴らしいですね!今後継続して規模が拡大していくといいですね。最後に、実は私も南アフリカを訪れたことがなくて、日本のあなたのファンの多くもそうだと思うんですが、現地を訪れた人や南アフリカの人の話を聴くと、エレクトロニック・ミュージックの人気が高まってきていて、パーティー・シーンも盛り上がってきているそうですが、その一方で今も貧富の差と人種間の隔たりは大きく、根強いと聞きます。クラブなども裕福な層が中心で、みんなが一緒にパーティーを楽しむという感じではないと。あなたの見解はいかがですか?音楽はこのようなギャップを埋める役割を果たせるでしょうか?

 

非常にゆっくりではありますが、変化は起こってきていると思います。あからさまな人種間の隔たりは当然過去の負の遺産なわけですが、音楽の面で言うと、ラジオの影響がとても大きい。白人向けのラジオ局と黒人向けのラジオ曲ではかかる音楽が全然違うのです。人々は平日はこうしたラジオを聴いていて、週末になったからといって突然「一緒に混ざって楽しもう」と言ってもそう簡単にはいきません。でも確実に、僕はそれが始まってきていると思いますよ。僕もそのために努力していますし、例えば(白人富裕層が好む)Loco DiceやRichie Hawtinと共にチャリティー・イベントを開催したこともありますし。音楽を通じて、交流を促していきたいと思っています。

 


 

あなた自身がかなり積極的にそうした活動をしているということですね。

 

はい、全面的に推進しています。ひとつの好例は、Cape Town Electronic Music Festival (CTEMF)です。これは最も上手くいっている例で、客層もかなりミックスされています。2012年に始まったばかりなんですが、今後の発展が非常に楽しみです。

 

音楽は本当に人と人との相互理解や、一体感をもたらすことが出来るものだと思うので、大きなきっかけになり得ますよね。あなたの活動を応援しています。今日はありがとうございました。日本ツアーの成功と、楽しい滞在を祈っています。

 

ありがとう。本当に楽しみにしています!

 


 

Red Bull Music Academy Presents Black Coffee Japan Tour

2/27(金) 東京 @ AIR

2/28 (土) 名古屋 @ JB'S (Black Coffeeによるレクチャー同時開催)

3/1(日) 大阪 @ UNION