九月 10

A Guide to Indie Game Composers

ビデオゲームミュージックシーン注目のコンポーザー/アーティストを紹介

By Patric Fallon

 

音楽と同じで、ビデオゲームの世界もTVCMや街中で見かけるポスターだけがすべてではない。小規模なインディー系デベロッパーが常に限界を押し広げ、新しい基準を設けようと努力している。しかし、それらの素晴らしい作品に出会うためには注意深く探さなければならない。もちろん、その中にもポップカルチャーのユビキタスになったアンダーグラウンドなゲームも存在する。例えば『Monument Valley』や『Minecraft』がそうだ。しかし、これらは素晴らしいクリエイティビティに溢れた大きな世界の一部でしかない。

 

特に注目したいのは、HEALTHの『Max Payne 3』のサウンドトラックなど、近年のビデオゲームミュージックにおいて最高に面白い作品群がインディーシーンから生まれているという点だ。今回は、このような音楽に興味を持っている人に入り口を与えるべく、低予算のゲームミュージックシーンで素晴らしい仕事をこなしている、注目すべきミュージシャン、プロデューサー、作曲家たちを集めた。その中には、狂気としか言えない音楽を生み出すアーティストもいれば、他に類の見ないユニークなスタイルでゲームミュージックを根底から覆しているアーティストもいる。また、音楽とゲームの関係性を積極的に変えようとしているアーティストもいる。一般生活における仮想空間への執着が大きくなりつつある今、彼らの考察や思想の断片を、私たちの生活をサウンド・感情・ムードなどで彩る人たちのために示しておくべきではないだろうか? その答えが「イエス」になる理由が、次に紹介する10組だ。

 

Jim Guthrie

 

 

 インディーゲーム系アーティストのガイドとなる今回の記事をJim Guthrieから始めるのは正しい。彼はこのシーンを本格的なシーンに変え、より多くのオーディエンスを獲得するきっかけとなったアーティストのひとりだからだ。2011年、トロント出身のGuthrie(2000年代初期にカナダのインディーロックシーンでIslandsなど複数のバンドで活動していたことで知られる)は、映画のように美しいアドベンチャーゲーム『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』(邦題『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇』)のサウンドトラックの作曲・演奏・プロデュースを担当した。このゲームはメディアから称賛され、数々の賞を受賞し、AppleのApp Storeにおいて名作として知られることになるなど、大成功を収めたが、その音楽も、このゲーム体験には不可欠な要素として高く評価された。Jim Guthrieが、自分をこのゲームの制作の中心人物のひとりだと考えていることを踏まえれば、この評価は至極当然だろう。

 

Guthrieのよく練られた、エクレクティックなサウンドトラックは、典型的なゲームミュージックのスタイル(レトロ系ビットミュージックや派手なストリングスなど)を避け、より細かいニュアンスを重視しつつ、茶目っ気も盛り込んだパーソナルな音楽に仕上がっている。これはゲームから離れて聴きたいと思える音楽のコレクションだ。特に「The Cloud」では、Owen Pallettや、Arcade Fireの共同作業者Michael Olsenが参加している。そして『Sword & Sworcery LP - The Ballad of the Space Babies』は、SuperbrothersのアーティストCraig D. Adamsが手がけた美しいアートワークと共に、アナログ、カセット、CDでリリースされ、ゲームミュージックにはBGMとしての機能やムードを助長する機能以上のポテンシャルが秘められていると感じている人たちに大きな刺激を与えるハイライトとなった。Guthrieは現在Superbrothersの次作に取りかかっている。

 

Disasterpeace

 

 

カリフォルニア州バークレーに拠点を置くRich Vreeland(AKA Disasterpeace)も早くからインディーゲームのサウンドトラックにふさわしい量の光を当てた人物だ。Disasterpeaceは2012年に見事なまでに細やかなディテールが特徴のアクションゲーム『FEZ』のサウンドトラックを担当したことで、比較的無名な存在から未来へ向かうビデオゲームミュージックを代表する存在になった。クラシックな音楽教育を受けたミュージシャン兼コーダーの彼は、音楽制作ではソフトウェアを多用しており(この点について本人は臆することなく頻繁に触れている)、その膨大なソフトが、彼をチップチューンに取り組んでいるハードウェア信奉者たちよりも一段上の存在にしているように思える。しかし、恐らくそれよりも重要なのは、Vreelandの手がける楽曲には空間と色彩に対する鋭い感覚が備わっているという点で、ロービットなサウンドと複雑なハーモニーが空間を丁寧に埋めている。『FEZ』のサウンドトラックの大半は、神秘的なビートレス・ミュージックで、さながらBoards of Canadaがゲームボーイを使ってVangelisをカバーしているかのようだが、「Glitch」のような楽曲では、歯切れのよいリズムを効果的に使っている。

 

Disasterpeaceは、3年前にゲームカルチャー史に永遠に残る足跡を残したあと、いくつかの小規模なプロジェクトに関わってから、映画音楽の道へ進んでおり、最近では『It Follows』のスコアを手がけた。『It Follows』のオリジナルサウンドトラックは、ビデオゲームのサウンドトラックではないが、チップチューン系シンセや低解像度のディストーション、色彩豊かなムードなど、『FEZ』で見られた特徴が随所に引き継がれている点は記しておくべきだろう。また、この作品は、John Carpenterの映画音楽のダークな側面も彷彿とさせる。Disasterpeaceは、かつてビデオゲームとしか繋がりがなかったジャンルを、ビッグスクリーンの世界に上手く連れ出したアーティストだと言えるだろう。

 

Salkinitzor

 

 

スウェーデン出身の作曲家Salkinitzorはそれなりの数のインディーゲームのサウンドトラックを手がけてきたが、その音楽は一貫性に欠け、楽しげなヴィンテージ風味の『Spin the Bottle: Bumpie’s Party』の作風から、8ビット系のオンパレードの『Hyper Princess Pitch』の作風まで、彼のBandcampには多種多様な音楽が置かれている。しかし、この多種多様な作品群が、逆に『Rymdkapsel』のサウンドトラックを一層際立った存在にしている。

 

ゲーム自体は「瞑想的スペースストラテジー」と説明されており、収録されている3曲もその説明に沿った内容だ。Salkinitzorは『Rymdkapsel』のサウンドトラックをかなり抑制した作品に仕上げており、コスミッシュ的な柔らかいドローンと、うねるシンセ、そしてクラウト・ロック的リズムがフォーカスされている。確かにスペーシーで瞑想的だが、同時に非常にフレッシュだ。ケルンのレーベルModularfieldが2013年にこのサウンドトラックをリリースしたが、以降Salkinitzorからは音沙汰がないに等しく、特にこの方向性の作品の情報は皆無だ。

 

Ben Babbit

 

「美しい」、「アトモスフェリック」、「ミステリアス」、「ダーク」、「没入感」、「マジカル」 − これらはインディーアドベンチャーゲーム『Kentucky Route Zero』を的確に表現した言葉であり、これらはそのサウンドトラックにも当てはまる。インディーゲームのデベロッパーCard Computerの創設者3人のひとりであるコンポーザーBen Babbitは、美と不可解、奇妙を扱う才能に長けており、それらをシンセを多用したほぼ全編ビートレスのこのサウンドトラックに落とし込んでいる(Angelo Badalamentiが催眠剤を摂取したTim Heckerとコラボレーションした作品を想像してもらいたい)。

 

5パートで構成される予定のこのゲームは、現在『Act III』までしか完成していないため(各作品には様々なアーティストによるカントリー/ブルーグラスのスタンダード1、2曲とBebbitによる新作が収録されている)、この先もCardboard Computerには多くを期待できる。しかし、彼らが今開発を中止したとしても、ゲーム業界が最高のポイント&クリックゲームのひとつを手に入れたという事実は変わらない。まずは『Act I』をプレイして、ゆっくりとそのサウンドトラックに耳を傾けてみるのが良いだろう。しかし、実際にゲームプレイをどこまで進めるかは別として、『Act III』に収録されているデヴィッド・リンチ的な美しいバラード「Too Late to Love You」は必ず聴いてもらいたい。

 

Jessica Curry 

 

UKの小規模なデベロッパーThe Chinese Roomと共に、Jessica Curryは典型的なゲームとインタラクティブな仮想世界の探索との間に横たわる境界線をぼやかしてきた。彼女の作品はピアノとストリングスを中心に、そこに微妙なエレクトロニクスとヴォーカルを加えたもので、莫大な予算を投じたビッグタイトルのサウンドトラックが用いる、流麗で仰々しいオーケストレーションとはほぼ対極に位置している。そしてCurryの音楽が持つその「余白」こそが、プレイヤーたちを荒廃した不思議な世界へと深く誘っていく要因になっている。彼女の音楽はテクスチャとムードがしっかりと感じられるものだが、それがプレイヤーたちの邪魔をすることはない。

 

Dear Esther』におけるCurryのメランコリックなネオクラシック群は、彼女をIGF(訳注:ゲームメディア)の「Excellence in Audio」賞ノミネートへ導いたが、彼女はその後すぐに方向性を変え、『Amnesia: A Machine for Pigs』では不安げで気を揉ませながら、時として恐怖心を煽るサウンドスケープを展開した。The Chinese Roomにおける彼女の最新作は、オープンワールドアドベンチャー『Everybody’s Gone to the Rapture』で、8月11日にPlayStation 4でリリースされたが、そのオペラ的なテーマ曲はSoundCloudで試聴可能だ。

 

Ludwig Hanisch

 

TRI: Of Friendship and Madness』には「フリースタイル・ファーストパーソン・3Dパズル・アドベンチャー・アクション」という、非常に珍しい説明文が付けられている。これは簡単に言ってしまえば、“アシッド漬けの『Portal』” というところだろう。いずれにせよ、明るく色彩豊かで、広大で奇妙なこのゲームは、驚くほどユニークな世界を生み出していると言える。そしてLudwig Hanischeのサウンドトラックは、他とは比較できないこのゲームの魅力の大きな一部となっている。

 

サウンドトラックの大半は、ギターや非伝統的楽器(口琴など)、ワールドミュージック的ヴォーカル、そしてメロディーの代役を務める多数のシンセやエレクトロニクスを用いたパーカッシブな楽曲で構成されている。このサウンドトラックを構成するその楽曲群はゲームと同様、ジャンル分けが不可能で、例えばトライバル系の複数のカルチャーを組み合わせたファンク「Foresight」、風変わりなシンセポップ「Epilogue」、子供にも分かりやすいラップ「Better Friend」などが収録されている。しかし、特異な音楽ではあるが、そのユニークな奇妙さこそが、このゲームと音楽を記憶に残るものにしている。

 

Floex

 

奇妙と言えば、チェコ人アーティストFloex(AKA Tomáš Dvořák)だ。彼は奇妙でユニークなエレクトロ・アコースティックを得意としており、その音楽はAmanita Designによる無声ゲームに命を吹き込んでいる。『Machinarium』や『Samorost』シリーズで知られるプラハを拠点にするこの開発スタジオは、子供の夢の世界とドラッグの幻覚の中間のような、非常に明確な世界観で知られている。そして、彼らのゲームにはセリフらしいセリフがほとんど存在しないため、Dvořákの非常に細かいディテールを誇る音楽とサウンドデザインがなければ、ここまでの深みを与えることはできなかっただろう。

 

初期Mouse on MarsやTortoiseを彷彿とさせる『Machinarium』のサウンドトラックは、2009年にこのゲームがリリースされて以来、世界最高のビデオゲーム用サウンドトラックのひとつとして数えられており、当然ながら、Minority Recordsから4種類の限定版アナログもリリースされている。FloexはAmenita Designの最新作『Samorost 3』のサウンドトラックを近日リリースする予定で、既にリミックスEPを先行リリースしている。

 

Wounds

 

Kairo』のようなビデオゲームのサウンドトラックにはまず出会わない。その理由は恐らく、Bartosz Szturgiewiczの生み出すような無重力で灰色のサウンドスケープを許可するゲームの数が少ないからだろう。Wound名義で活動するポーランド人プロデューサーのSzturgiewiczは、Richard Perrinが作り上げた、アトモスフェリックな3D探索パズルゲーム『Kairo』に新たな次元を加えており、彼の音楽はこのゲームのスケール感に直接影響を与えることになった。

 

Szturgiewiczが『Kairo: Arranged Soundtrack』と名付けたこのゲームのサウンドトラックは、大きなスケール感と、太古と荒廃を感じさせる。ざらついたドローンとダークなノイズの煙をベースにした15曲は、"光" を殆ど取り込んでいないため、時折差し込む瞬くような小さな光が一層明るく感じられる。「Chilling Waves」は壮麗なシンセにニューエイジのアクセントを加えた楽曲で、熱を帯びた「Gentle」も天使のような優しい光が見え隠れする楽曲だが、「Gentle, Two」に辿り着く頃には、彼の異世界的な精神性が浮かび上がる。Haxan CloakやThe Caretakerが好きだという人は、チェックすべきだろう。

 

David Kanaga

 

 

アンダーグラウンド・エレクトロニック・ミュージックをフォローしている人ならば、David Kanagaを知っているかも知れない。カリフォルニア州オークランドを拠点にするこのアーティストは、2013年にOneohtrix Point NeverのレーベルSoftwareから『DYAD』のサウンドトラックをリリースしている。29曲が収録されたこのサウンドトラックは、過激で鮮やかなサウンドを用いることで、このゲームの「幻覚的でサイケデリックな感覚の暴走」に見事に生気を与えている。

 

Kanagaのそのドラッギーな音楽を聴けば、ソニック・ザ・ヘッジホッグが高速移動している画面を思い出す人もいるだろう。また、エクスタシーに満たされた初期レイヴシーンは、『DYAD』の幻覚的サイバーワールドの直接的なソースになっているようだ。ちなみに、Softwareのロゴも80年代から90年代に数々のアドベンチャーゲームを生み出したSierra Entertainmentへのオマージュだ。より多くの同系統のミュージシャンやプロデューサーたちがビデオゲームの持つ可能性に注目すべきだが、恐らくそれよりも重要なのは、自分たちの作品がビデオゲームにどう貢献できるのかという点だろう。

 

Archie Pelago

 

今年4月、ブルックリンを拠点にするジャズ/ジャム系トリオArchie Pelagoが突如としてアルバム『Off-Peak』をリリースしたが、これはチェロ奏者Cosmo Dが開発した無料ゲームのサウンドトラックも兼ねていた。3人はこのアルバムについて、「『Off-Peak』の音楽は数年間に渡り様々な形式で煮詰められてきたものですが、今回ゲームという形式を取ることで、その音楽には特定のコンテクストと機能が与えられました。このゲームのテーマとメッセージはその音楽と織り交ざっています」と記している。

 

そして彼らは、フィルム・ノワール的なモチーフと奇妙なSF、そしてトリッピーでダブアウトしたサウンドスケープをベースにした、このゲームの1時間強のユニークなオーディオとビジュアルでも、自分たちを十分に表現している。ゲームと音楽が同じソースから生まれているというのは非常にレアであり、実際これがどんな恩恵を生むのかについてはまだ完全には理解されていない。しかし、アーティスト向けのツールが数多く存在している(そして数人トレンドセッターたちが同じ方向に向かいつつある)今、ビデオゲームとサウンドトラックを切り離せなくなるのは時間の問題なのかもしれない。

 

その他の注目アーティスト

 

Chris Christodoulou :『Risk of Rain』


Brendan J. Hogan :『Never Alone』


David Wise :『Tengami』


Dualryan:『Starseed Pilgrim』・『Sokobond』


David Housden:『Thomas Was Alone』

Lifeformed:『Dustforce』


Joel Corelitz:『The Unfinished Swan』


Alec Holowka:『Aquaria』・『Lost Constellation』

Austin Wintory:『Journey』・『Sunset』