八月 01

SF映画/TVシリーズのアンビエントサウンドを使ったループ

『ブレードランナー』、『スタートレック』、『エイリアン』など、SF映画/TVシリーズのアンビエントサウンドを使ったループの数々を紹介する。

Spotify、Pandora、Beats、SoundCloudなどのサービスを受ける人たちの中で、オフィシャルビデオやVEVO、非公式リミックス、ブートレグライブ、ユーザーの作品などを擁するYouTubeは音楽の再解釈や新しい音楽を提供するアクティブな場所として生き残り続けている。最近そのYouTubeで、ミステリアスではあるが、非常に興味深いとある音楽系マイクロトレンドが話題となっている。ただし、それが実際、音楽と呼べるのかどうかは分からない。

 

このクリップ群を説明するとしたら、「SFに限定した映画やテレビ番組のアンビエントサウンドのループ」ということになるだろう。元ネタは楽曲だけに限定されているのではない。クリエイティブな制作者たちは、映画のセリフや象徴的なノイズ、そして有名なシーンなどと共に、すべてのサウンドライブラリやアーティスティックなコンテキストを対象に漁ってきた。しかし、このクリップ群のサンプル抽出作業は、映像作品のアンビエントノイズだけを対象にしており、『スタートレック』、『スターウォーズ』、『エイリアン』、そして『ドクター・フー』などがこのYouTube限定のループクリップ群の元ネタに使われている。

 

このクリップ群の有名なファンのひとりが、Adult Swimの副社長で年1回のシングルシリーズの企画を担っている人物、Jason DeMarcoだ。彼はこのクリップ群の魅力について、「80年代のSF映画のサウンドは本当に豊かな響きで、僕たちはそのすべての構成要素を憶えている。なぜならその多くはシーンや番組に最適化されたオリジナルなサウンドだったからだ。中には他の映画に流用されるものもあったが、こういうクリップは、SF作品の世界観がすべてだった子供の頃に奇妙な形で連れ戻しつつ、クリップ独自の世界にも引き込んでいく」と説明している。

 

 

この中で最も有名で人気のあるクリップが、 『新スタートレック』に登場するU.S.S. エンタープライズDのエンジンアイドリング音を24時間ループさせた作品で、実に150万回以上の再生数を誇る。制作者のYouTubeユーザーcrysknife007は 制作した理由について、「アンビエントとして素晴らしいし、自分が宇宙にいるのを想像できるから」と自身のページ内で説明している。尚、彼はこの他にも似たようなループを制作しているが、すべてのクリップに共通しているのが「SF」で、最近も『エイリアン』、 『GALACTICA/ギャラクティカ』、『2001年宇宙の旅』を含む様々な有名な映画やTVシリーズのサウンドを使用したループを公開している。

 

このような作品を聴くと、2種類の体験をすることになる。ひとつは、宇宙を感じるという体験だ。部屋に貼ったポスター、映画やTVシリーズを見るよりも、このアンビエントサウンドは私たちに宇宙を示し、空間を宇宙で満たし、ありふれた日常を冒険的でミステリアスなものに変えてくれる。尚、この体験は当然ながらその元ネタに対する知識によって情報が付け加えられる。このアンビエントサウンドの元ネタが何なのかを理解していれば、そのコンテキストが楽しめるという訳だ。そしてもうひとつの体験は、ループという作業を通じて、通常はひとつのシーン(使用されているシーンの多くは、『2001年宇宙の旅』は例外の可能性があるにせよ、基本天気に非常に短いシーンだ)のオーディオパートの土台でしかないアンビエントサウンドを引き伸ばして変化させることで、雰囲気でしかないサウンドが新たな曲として感じられるという体験だ。

 

前述した『新スタートレック』の24時間ループはその好例だ。これを聴けば、エピソードの冒頭部分でオープニングのオーケストラの演奏が入りながら、パトリック・スチュワートが航海日誌を読み上げるシーンを思い出すような、ある種の反応が起きるが、『スタートレック』というコンテキストから切り離せば、このサウンドは瞬く間にエンドレスで不穏な、ダークアンビエントとでも呼べるような、ドローンサウンドとして聴こえるようになる。もしMick HarrisRobert Hampsonがリリースした作品だと言っても、誰も疑わないだろう。

 

 

筆者が個人的に気に入っているのは、YouTubeユーザーcoffee300amの作品だ。彼は、他の多くの人も使用しているフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』をベースしにした傑作SF映画『ブレードランナー』を選んでいる。この映画の監督を務めたリドリー・スコットは世界観の構築に力を入れたため、アンビエントサウンドもベテランのBud AlperやGraham Hartstoneによって手がけられている。この映画の街のシーンや飛行シーンを使ったアンビエントループは多数作られているが、coffee300amの場合は、主人公デッカードの自宅のアンビエントサウンドを使った1時間のループを制作した。

 

この映画でしばし用いられている緊張感漂う静寂は、この映画の特徴のひとつだが、デッカードの自宅のアンビエントサウンドは不思議なことに、心地良いまでとは言わずとも、それに近い独特な居心地の良さを携えている。この揺れる風のようなサウンドに延々と続くエレクトロニックサウンドの詠唱が重ねられるアンビエントを聴けば、酒を飲んだり、何かについて考えたり、未来について思いを馳せたりするデッカード、もしくはレイチェルの気持ちになれるだろう。

 

また所謂一般的なループと同様、ここでの「無変化」もリスナーが予想していなかった魅力のひとつになっていき、ミニマリズムが正当化されていくが、この作品にはその他のサウンドも加えられており、 遠くで鳴っている機械音や、ホバリングの音、そして突如として鳴るパトカー(ポリススピナー)のスリリングなサイレン音などが時々聴こえてくるため、まるでこのアパートの室内で実際にフィールドレコーディングが行われたかのように感じられる。

 

 

実験音楽の作曲家Kyle Bobby Dunnはこの作品のファンのひとりで、彼はこの作品を「ひたすら気持ち良く、無人的で静かだ。快適だが同時に恐怖心を煽る」と解説している。また、DeMarcoもこの作品をお気に入りとして挙げており、「このようなクリップ群の中には、アンビエントサウンドの未来版のような単純な作品がある一方で、この『ブレードランナー』のように、特定の音が出たり入ったりしている音楽的要素が強い作品もある。僕はどちらのタイプも好きだ。だが、この『ブレードランナー』の作品に関しては、Brian EnoやAphex Twinのようなアンビエントミュージックと同様の音楽性が備わっていると思う」と解説している。

 

こういった作品が一体どのような形でどこへ向かうのか、むしろ発展する可能性自体があるのかについては疑問が残る。YouTubeがこの先、これまでのような素直なホストとして機能しなくなる可能性があることを踏まえると、尚更答えは出ない。しかし、このようなアンビエントループは現時点でも十分に独自の存在感と魅力を放っており、元ネタの映像作品同様、簡単には分類できない個性が備わっている。