十一月 16

Back to the Lab:インタビュー&フォト

J DillaやFlying Lotusなどヒップホップを代表するアーティストのホームスタジオを撮り続けてきたRaph Rashidが最新写真集について語った

By Aaron Gonsher

 

メルボルンに拠点を置くフォトグラファーで、フードトラックの経営者でもあるRaph Rashidは、2000年から自分の好きなプロデューサーの生活空間を記録することで、ベストヒップホップを世に送り出している静かな環境がどのようなものなのかを明らかにしている。2005年に発表した写真集『Behind the Beat』には、のちに米国・ワシントンD.C.にあるNational Museum of African American History and Culture(国立アフリカン・アメリカン歴史博物館)へ寄贈されることになる愛機MPCの前に座るJ Dillaなど、28人のミュージシャンの姿が収められているが、Rashidはこの撮影を通じて、彼らが実際に音楽を生み出している空間であるホームスタジオは彼らのマインドが見える窓としてのエバーグリーンな魅力が備わっていることに気付き、2005年から2016年にかけて、ホームスタジオの撮影を続けた。そして、その間に撮り溜めた写真が、2017年秋に『Back to the Lab』としてまとめられて発表された。『Behind the Beat』の続編とも言えるこの写真集には、前作とは完全に異なるアーティストたちと彼らのスタジオが収められている。今回のインタビューとフォトエッセイで、Rashidは『Back to the Lab』について振り返りながら、Sa-Ra(aka The Sa-Ra Creative Partners)、Georgia Anne Muldrow、The Alchemistなどのホームスタジオが含まれているこの写真集のハイライトをいくつか紹介してくれた。

 

El-Pのホームスタジオ

 

El-Pのホームスタジオ

 

 

写真の世界、そしてヒップホップフォトに興味を持ったきっかけについて教えてください。

 

昔はスケートボードフォトに取り組んでいたんだ。スケートボードのアクションに魅了されていたから、友人たちのライディングを記録していたのさ。でも、プロデューサーの友人も沢山いたから、いつも彼らのホームスタジオのセットアップを見せてもらっていた。だから、そういう写真も撮影していたんだ。写真については基本的に独学で学んだ。フォトグラファーの友人がいたし、写真以外にも芸術関係の友人が沢山いたから、彼らから学びながら、どういう撮影がしたいのかを見出していった。

 

写真の世界を本当に好きだと思い始めたのは、Hasselbladのカメラを手に入れてからだね。Hasselbladはスクウェアフォーマット(正方形)の中判フィルムカメラで、『Back to the Lab』は全てこのカメラで撮影した。このカメラを手に入れた時に、撮影への興味がグッと増して、写真の世界が大きく開けたんだ。このカメラは撮影対象を独自のフォーマットに収める。そこが気に入ったんだ。

 

Kenny Dopeのホームスタジオ

 

Kenny Dopeのホームスタジオ

 

 

ホームスタジオに興味を持った理由は?

 

僕は人が好きなんだよ。人々が生活する様子を眺めているのが大好きなんだ。ホームスタジオっていうのはかなり実務的な空間で、基本的にプロデューサーは、必要な物を用意して仕事をするだけだ。僕はそういう空間が好きなんだ。でも、そういう実務的な空間を、彼らは独自のスタイルで美しい空間に変えているようにも思えるんだ。そのミックスバランスが素晴らしいと思うし、自宅だということが、ただのスタジオには出せない魅力を加えているんだと思う。

 

DJ Shadowのアルバム『Endtroducing』のような素晴らしいレコードがホームスタジオから生み出されているというのは本当に素晴らしいと思うね。僕はこういうビッグヒットのアイディアは、スペシャルな空間でしか生まれないと思っている。だから、そういうホームスタジオを記録したいと思うようになったんだ。

 

『Back to the Lab』に収録されているアーティストたちの何割が、他のスタジオを使わずに、ホームスタジオだけで作品を仕上げていると思いますか? たとえば、Sa-Raは全ての作品をホームスタジオで仕上げているイメージがありますが、Kenny Dopeは他のスタジオも使っているイメージがあります。

 

Kenny Dopeは2つのスタジオで撮影したんだ。『Back to the Lab』を見れば分かるけれど、前半は彼がアイディアをラフにまとめるプリプロ用の小さなスタジオだ。数ページめくれば、彼の実家にあるスタジオに切り替わるよ。

 

Kenny Dopeはまだ実家にスタジオがあるんですね!

 

美しい話だよね。最高だよ。実家はもうひとつのスタジオから車ですぐのところにあるんだ。素晴らしい空間だったよ。撮影したアーティストの多くは、コアなアイディアとそこに関する全てをホームスタジオで用意していたと思う。もちろん、他のスタジオでミキシングなどを行う時もあると思うけれど、大半をホームスタジオで作っていたよ。

 

Sa-Raのキッチン&スタジオ

 

Sa-Raのホーン類

 

 

驚かされたスタジオはありましたか?

 

Oddiseeのホームスタジオは本当に狭いんだ。本人は小柄じゃないのに、ホームスタジオは2m x 2m程度の広さしかなかった。本当に狭くてかなり驚いたよ。Kenny Dopeのセットアップにも驚いたね。昔からずっと同じだからさ。あとはGeorgia Anne Muldrowかな。彼女がキッチンにいる姿は全く想像できなかったからね。

 

『Back to the Lab』の撮影を始める前に、撮影したいアーティストのリストを用意したのでしょうか?

 

ちょっとしたリストは用意するけれど、基本的にはコネクション次第だからね。最初から「Scott Storchのホームスタジオを撮影したい」とは決めていたわけではなかった。なぜなら、コネクションがなかったからさ。もちろん、撮影したくなかったわけじゃないけど、決め打ちではなかった。だから、まずは友人と、友人の友人のリストを用意して、繋がれるかどうかを探っていった。

 

最初のリストは大体10人くらいだよ。そこからスタートして、プロデューサーがプロデューサーを紹介してくれる形で広がっていったんだ。Kenny Dopeを撮影が終わると、夕方の5時くらいだったんだけど、Kennyが「今からJazzy Jeffのところへ車で送ってやるよ」と言ってくれたんだ。Jazzy Jeffのホームスタジオは車で4時間の距離だったから、すぐに出発した。素晴らしい1日になったけれど、元々予定していたわけではなかった。

 

Jazzy Jeffのゲームルーム

 

Oddiseeのレコードコレクション

 

Waajeed

 

Waajeedのスニーカーコレクション

 

Waajeedのホームスタジオ

 

 

撮影をしたかったのに、諸々の理由で叶わなかったアーティストはいますか?

 

Dr. Dreのホームスタジオは撮影したかったね。MPCが5台繋いであるって話を聞いた瞬間からずっとそう願っていたんだ。彼のホームスタジオはいつも話題になっているし、是非とも撮影したいと思っていた。いつの日か撮影できるかもね。何が起きるか分からないからさ。

 

Georgia Anne Muldrow

 

Just Blazeのレコードコレクション

 

Flying Lotusのホームスタジオ

 

The Alchemistのホームスタジオ

 

印象的だったストーリーがあれば教えてください。素晴らしい瞬間がいくつもあったと思いますが。

 

実際に音楽制作をしている姿を見るチャンスに恵まれると、心の底から光栄に思える。Flying Lotusは僕が訪問している間、ずっと制作をしていた。まるで僕がその場にいないかのように集中して作業をしていたよ。しかも、何の注意も受けなかった。ホームスタジオに入れてもらったあとは、「好きなようにやってよ。こっちは勝手にセッションしてるからさ」と言われただけだった。Sa-Raも同じだったね。彼らも自分たちの作業を続けていた。The Alchemistも制作していた。他のアーティストは色々見せて回ってくれた。それも最高だったよ。Just BlazeはNasのトラックをミックスしていた。あのトラックが聴けたのはクールだったね。

 

Just Blazeは以前、ファイナルミックスはホームスタジオの外でチェックすると言っていました。音量を上げたあと、ホームスタジオのドアを閉めて外に立つことで、クラブの外にいる人たちにどう聴こえるのをシミュレートすると言っていましたが、あなたが行った時もシミュレートしていましたか?

 

していたと思うよ。というのも、音量を上げてからホームスタジオを出て、隣の部屋でビデオゲームをプレイしていたからね。僕が「今撮影しても良いですか?」と訊ねると、「今はダメだ。ちょっと聴いているだけだからな」と言っていた。あのトラックがファイナルミックスだったのかどうかは分からないけれど、音量を上げてからホームスタジオを出ていたのは確かだから、シミュレートしていたのかも知れないね。

 

Jazzy Jeffのターンテーブルさばきも見ることができた。とても自然だったし、とんでもなく上手かったね。アーティストたちが自然に振る舞ってくれたのは良かった。僕も彼らの邪魔をしたくなかったし、スタイリッシュに撮影するつもりはなかった。彼らの自然な姿を捉えたかったんだ。

 

The Alchemistのホームスタジオ

 

 

Sa-Raのメンバーとチェスを指すチャンスはありましたか?

 

なかったね。撮影自体にかなり時間がかかったからさ。彼らは3人だし、スタジオから出たり入ったりを繰り返していたからね。僕は彼らの生み出した音楽の大ファンなんだ。最高だと思うよ。でも、残念ながらチェスやペイントの時間はなかった。

 

彼らのターンテーブルはオーブン上やシンクの脇に置いてあるようですが?

 

キッチンがあって、そこに機材が置かれているとは思わなかった。しかも、Om’Mas(Keith)はそこで料理もしたんだ。どうしてそんなことができるのか理解不能だった。料理と音楽制作を同時進行できる彼が不思議で仕方なかったよ。あれはクレイジーだったね。ターンテーブルはベンチに置かれていたと思うんだけど、いきなり料理が始まったんだ。

 

3人は同じ家に住んでいた。丁度、Kanye Westのレーベルと契約した頃に撮影したんだ。3人のポートレートを撮影したんだけど、素晴らしい作品になった。撮影のためにOm’Masが槍を僕に向けて、Taz(Arnold)が機材に向かうと、Shafiq(Husayn)が「ドラッグディーラーみたいにしゃがんでも構わないかい?」と言ってきたんだ。僕は「もちろん。好きなポーズを取ってくれ」と返した。それで撮影したんだ。ああいう瞬間は最高に美しいと思うね。

 

The Alchemistのホームスタジオ

 

Jazzy Jeffの自宅

 

 

Georgia Anne Muldrowを捉えた1枚はとてもスペシャルだと思います。撮影はどんな感じだったのでしょうか?

 

素晴らしい時間だったよ。朝の9時か9時半頃で、彼女たちは起きたばかりだった。彼女はとてもメロウでね。キッチンでちょっとしたビートをプレイしている彼女の横を、子供たちが走り回っていた。赤ん坊と一緒のこの1枚は、本当に美しい瞬間だった。彼女の全てを捉えていると思う。とてもスピリチュアルで穏やかな彼女をね。

 

『Back to the Lab』は現在国内レコードショップ、ショッピングサイトなどで発売中。Raph Rashidから直接購入も可能。