十月 07

B-Free and Korean Hip Hop

韓国人ラッパーB-Freeが明かす、コリアン・ヒップホップの現状

「音楽は共通言語だよ。言葉が何語だろうが、関係ない」

 

日本でのライブでは韓国でのライブと違って言語の壁を感じるか?と、渋谷のホテルのロビーで始まったインタビューの冒頭で質問すると、韓国人ラッパー、B-Freeはそう答えた。

 

この日は彼が所属する韓国のインディペンデント・ヒップホップ・レーベル、Hi-Lite Recordsの、日本では2度目となるレーベル・ショーケースが行われる日であった。Hi-Lite Recordsは韓国のアンダーグラウンドを牽引する重要レーベルとして国内外から注目を集めており、B-Free以外にレーベル・ボスのPaloalto、日本人ラッパーとのコラボでも知られるOkasian、そしてHuckleberry P、Reddy、DJ Djangaという韓国のシーンを代表するアーティストたちがライブのために東京に訪れていた。

 

音楽はたしかに共通言語だが、韓国のヒップホップがなかなか日本に入ってこないのも事実である。K-Popであれば日本でもしっかりプロモーションされるが、韓国の、しかもアンダーグラウンドなヒップホップとなると、ネット上で検索しても日本語で得られる情報は決して多くない。しかしそれは言葉の壁だけに起因することではないと、B-Freeは感じる。

 

「やっぱり文化が違いすぎると思うね。韓国と日本のヒップホップの間にある壁は、例えばアメリカと日本や、アメリカと韓国の差よりも大きいと思う」。確かに、韓流ドラマなど一部のエンターテイメントは入ってくるものの、歴史的、政治的な背景も関わっているのか、やはりこの隣国と日本には大きな隔たりがあると感じずにはいられない。しかし、今後この状況が覆されるかもしれないと予感させてくれる出来事が、2015年初頭に起きた。

 

Keith Ape - 잊지마 (It G Ma) (feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh) [Official Video]

 

 

Hi-Lite所属の若手ラッパー、Keith Apeが「It G Ma」という曲のビデオを元旦にYouTubeで公開した。マスクをして、マッコリのボトルを片手に持ったKeith Apeが、緊張感漂う不穏なスロウ・トラップ・ビートに合わせ、「忘れるな」を意味する韓国語である「イ・ジ・マ!」と叫ぶこの強烈なビデオは、公開と共に瞬く間に拡散され、ネット上で話題となった。同曲には他にOkasianとJay All Dayという韓国のラッパーと、日本人ラッパーLootaとKohhが参加しており、歌詞が半分韓国語、半分日本語である。珍しい日韓コラボが実現しただけでなく、それまで日本でも韓国でもあまり見受けられなかったタイプの楽曲であったこともあり、両シーンのファンの度肝を抜いた。

 

しかし特筆に値するのはそれだけではなく、この曲がアメリカのヒップホップ・ファンの関心を大いに引きつけた点がとても興味深い。アトランタのラッパー、OG Macoの「U Guessed It」という曲との明確な類似性が指摘され、英語圏のヒップホップ・サイトでは当初、韓国人アーティストによる「U Guessed It」のパクリ/オマージュ/カバーとして「It G Ma」がシェアされた。それによって物議を醸すこととなったが、それまで韓国や日本にこういったヒップホップをやるラッパーがいることを知らなかったアメリカのリスナー層にとって、この韓国語と日本語が入り混じったアジアン・ヒップホップはドがつくほど新鮮であったのだ。YouTubeでの再生数は1400万回を超えており(執筆時)、ビデオのコメント欄を覗けば、「何を言っているか解らないけど、こいつらヤバいね」といった意見が目立つ。

 

「あの曲で全てが変わった」と、B-Freeは言う。「それまで海外で韓国のヒップホップを聴く層は、韓国系のラップ・ファンとか、一部のK-Popファンぐらいだった。それが、言葉の壁とか、文化の違いを超越して、“何だこの曲?ヤベェな”って世界中でなったんだ。それまで韓国のヒップホップに興味がなかった人にとって、韓国のヒップホップを聴くきっかけになった」

 

この日韓コラボの背景には、両シーンに最近見受けられる新しい潮流があるとB-Freeが指摘する。「もともと日本には日本なりのヒップホップ・サウンドがあって、韓国には韓国なりのヒップホップ・サウンドがあった。しかし最近は、日本でも、韓国でも、アメリカのヒップホップと何ら変わらないことをやっている若手が新しい波を起こしている。そういう流れがあるから、今では韓国と日本のコラボが自然にありえると思うんだ」。

 

更にB-Freeは、アメリカでの「It G Ma」の人気は、クール・ジャパンの影響も少なからずあると分析する。「俺とかKeith Apeとか韓国のアーティストって、日本の人気に便乗させてもらってると思う。例えば俺ぐらいの世代ならみんな、子供の頃ファミコンとかプレステとかで遊んでた。日常にSonyの製品が溢れてたし、ドラゴンボールで育った。だからアメリカのキッズはみんな、“日本はクールだ”っていうイメージを少なからず持ってると思うんだ。“It G Ma”が人気になった理由の半分は、日本人が参加していたからじゃないかな。それに、アメリカ人は日本と韓国の区別なんてつかないしね」

 

B-Free - Hot Summer

 

ハワイで育ったB-Freeは、英語と韓国語を流暢に話し、アメリカ人と韓国人の両方の視点を持っている。もともとDJプレミアやピート・ロックに憧れ、トラックメイカーとして活動を始めた彼は、高校生の頃、友人の誘いでラップを始めた。高校卒業後、韓国に戻ることとなり、徴兵制のため2年間軍隊に在籍。2007年に除隊し、韓国でラップ活動を本格的に開始した。

 

「ラッパーのLeoという人に曲をきかせたら、気に入ってもらえて、ハイプマンとして一緒に活動するようになったんだ」と、彼は言う。しかしそのうちハイプマンをやっていることに飽き、自身で活動をしたいと感じた彼は、20曲入りのミックステープを500枚自主制作した。その全てを売り切ることができたが、そのうちの1枚が、インディペンデント・ヒップホップ・レーベル、Hi-Lite Recordsを立ち上げようとしていたPaloaltoの手元に届いた。
「当時、インディペンデント・ヒップホップ・レーベルなんて(韓国では)前代未聞だったんだ」と、B-Freeが言う。「ミックステープを聴いてくれた彼(Paloalto)に、“Hi-Liteに入らないか?”と誘われた。俺は、“考えておくよ”とだけ答えた。それからPaloがライブをやっているのを見て衝撃を受けた。感動したんだ。そのとき、この人について行こうと決心した」

 

Paloaltoは2000年代の前半から活動しているラッパーであり、韓国ヒップホップ界のレジェンドであるTiger JKが設立した大手レーベル、Jungle Entertainment に在籍していたが、2010年に脱退し、Hi-Liteを設立した。B-FreeにHi-Lite Recordsの魅力をきいてみた。
「レーベルってたいていそれぞれカラーがあるだろう?うちは所属しているメンバー、みんなが凄く個性的なんだ。小さいレーベルとか、あと韓国の社会そのものもそうだけど、“お前は俺たちと違う”って、人を押しのけてしまう排他的な奴らが多いと思うんだ。だが俺たちはそうじゃない。“へぇ、お前そういうの聴くんだ。面白いね。俺はこういうのが好きなんだ”。“へぇ、面白いじゃん。コラボしようぜ”って感じだ。音楽性が違っていても、チームとして一丸になれるんだ」

 

アメリカ文化の中で育ったB-Freeは、約7年前に韓国で本格的に活動を始めた頃、韓国とアメリカのヒップホップは随分と違うシーンであることに気がついた。「あの頃のアメリカのヒップホップって、インディーズでビッグなアーティストがいなかったんだよね。Jay-Z、Nas、DMX、Snoop Dogg、Dr. Dreみたいな、メジャーのバックアップがあるアーティストばかりが人気だった。韓国では、数人のビッグなアーティストがいたけど、大抵のヒップホップ・アーティストはアンダーグラウンドにいたんだ。そしてアングラにはカネなんて流れてこないから、全てを自分たちでやるしかなかった。レコーディングとか、ミキシングとか、ビデオを作るとか」

 

そして時は経ち、時代は変わった。「今では、アメリカでもインディペンデントなアーティストがすごく目立ってる。Awful Recordsとか、Relax Rekordsとか、インディーズでやってる奴ばかり。あと、アメリカって昔はギャングスタ・ラップばかりだった。ストリートでリスペクトされていないといけない、とかね。韓国のヒップホップは違ってて、みんな日常のことについて喋っていた。今ではアメリカでも、すごく色々なタイプのヒップホップがあるから、俺たちでも共感できるものが沢山あるんだ。アメリカと韓国のギャップはかなり狭まったと思う」

 

2012年以来、韓国では『Show Me The Money』というテレビ番組が放送されている。プロ、アマ問わず、様々なラッパーたちが実力を競い合うサバイバル・オーディション番組であり、韓国では絶大の人気を博し、韓国のヒップホップ・シーンを揺るがしている。「この番組が始まる前、韓国ではアングラのヒップホップ・アーティストがテレビに出演することなんてほぼなかったし、メジャーの世界のラッパーと接点もなかった。それが、今ではアングラの奴らがどんどんとこの番組で有名になっていて、今や彼らがメジャー・アーティストの仲間入りを果たしているんだ。だからメジャーとアングラの境界線が今どんどん曖昧になってる」と、B-Freeは言う。

 

国内でも国外でも現在勢いを増している韓国のヒップホップ・シーンだが、彼らのようなアーティストにとって、名声は弊害を生む場合もある。「ヒップホップがどんどんと商業化されている今、アーティストの自由が奪われているんだ。テレビとかに映るようになる前は、俺たちは言いたいことを言っていた。俺は韓国の軍隊とか、政府とか、色々なことに対して怒っていて、そういったことを音楽で吐き出していた。それを好んで聴いてた人は、好きで聴いてるんだから問題にはならない。しかし今では色々な人に聴かれているから、“そういうことは言っては駄目だ”とか、“それは間違ってる”とか周りに言われるんだ。韓国ってとても厳しい国なんだ。かなり保守的だ。とても小さい国だし、人々は簡単にメディアに洗脳される。俺は以前テレビに出てる人達をみて、“こいつら、なんで意見を持ってないんだ?”って不思議に思ってた。でも今なら解るね。与えられた台本以外のことを口にしてみろ。すぐに芸能界から干される」

 

“Be free”が名前の由来であるB-Freeにとって、自由でいることは、彼が何よりも大切にしていることだ。「アメリカに居た頃も、実は不法移民だったから自由じゃなかった。仕事ができなかったし、運転もできなかった。ようやく祖国に帰ることができたと思ったら、今度は軍隊に行かないといけなかった。苦痛だったね。韓国の人にとってはそれが普通だから、自分たちがどれだけ自由じゃないか気づかないんだ。俺は自由に生きたい」
しかし、その「自由」が今の彼にとって何を指すのか、解らなくなってきていると、彼は葛藤を打ち明けてくれた。「変に有名になりすぎないで好き勝手やるのか、それとも経済的な自由を優先するのか。去年結婚するまではカネのことなんて二の次だったけど、今では嫁の面倒をみなきゃいけないし、将来的には子供のことも考えなきゃいけないから、そうは言ってられない。だからそろそろ俺も黙って芸能人を演じるべきなのかもしれない…。しかし…やっぱなぁ…」

 

HI-LITE Records (Evo, Huck P, Okasian, Paloalto, Reddy, B-Free, Soul One) - What We Do II

 

 

その晩のこと、渋谷MilkyWayにて。筆者は韓国ヒップホップ・アーティストのライブは初めてであった。キャパ250人のライブハウスはほぼ満員。客層は男性と女性が半々か、女性のほうが多めに見え、若者が中心でありながらも年齢層に幅がありそうであった。ライブ中、観客は歌に合わせて手を振ったり、前後に揺れたりという、ヒップホップ・ライブらしい盛り上がり方をしたが、熱量は日本のアングラ・イベントでは感じたことのないレベル。DJ DjangaがバックDJを務め、Huckleberry P、Reddy、B-Free、Okasian、Paloaltoがそれぞれソロ曲をやったり、ポッセカットを披露し、会場は大盛り上がり。90年代風ブームバップから、叙情的なメロウ、そしてノリノリなトラップ系まで曲調は幅広いが、韓国シーンを牽引するトップ・アーティストたちだけあって、手の動き、表情、声の張り、その全てに自信が満ち溢れていた。曲間のMCでは片言の日本語や英語も混じっていたが、韓国語で喋っていたときにフロアで何度か笑いが起きていたところを見ると、一般の日本人ヒップホップ・ファンだけでなく、日本に住んでいる韓国系の人々や、韓国語が解る日本人がやはりファンに多いようだ。そしてK-Popグループのメンバーにいても違和感のなさそうなOkasianなどが登場したときの黄色い声援を聞くかぎり、K-Popの文脈で彼らにたどり着いたファンも少なくはなさそうだ。話題曲「It G Ma」では、Lootaが飛び入り参加し、ステージ上で日韓コラボが実現した。

 

音楽は確かに共通言語だが、ヒップホップにおける「かっこ良さ」の追究もまた、海や言葉の壁、文化の違いを超えて伝わるものだと、思い出させられた。

 

Photo Credit: DEON

 

 

Words by Danny Masao Winston