三月 02

agraph × Anchorsong × Yosi Horikawa

エレクトロニック・ミュージックを独自の視点で捉えて表現を続けるアーティスト3人のトークセッション

By 坂本哲哉

 

新作『the shader』でメロディ、コード、リズムの境界線をなくし、テクスチャさえも無効化して独自の世界観を作り上げたagraph、同じく新作『Ceremonial』で、アフリカ音楽からの影響を大胆にサンプリングという手法で取り入れ、しなやかなグルーヴを生み出したAnchorsong、そして、環境音や日常にある非楽音を録音・編集して楽曲を構築する手法で知られ、昨年にGiles Petersonが主催するWorldwide Festival Sète ‘15に出演したことで更にその名を広めたYosi Horikawa。現在のエレクトロニック・ミュージックシーンでその尖った才能を存分に発揮している3人に、今回はエレクトロニック・ミュージックとの出会いやテクノロジーに対する考えなどを自由に語り合ってもらった。

 

Anchorsong(以下An):Yosiさんとagraphさんは面識があるんですか?

 

Yosi Horikawa(以下Y):ありますね。

 

agraph(以下ag1回だけ。去年のライブで。

 

An:僕はおふたりとは今日が初対面なんです。

 

Y:Anchorsongさんの音楽は前から良く聴いていたんですよ。MPCとか僕も使っていたんで。MPCの2000をずっと使ってました。それを使う前もずっとAKAIで、REMIX16ってやつなんですけど。

 

An:知らないです(笑)。

 

Y:パッドは一応16個あるんですけど、ベロシティもなくてですね。押すと「カチッ、カチッ」みたいな(笑)。

 

ag:叩けない(笑)。

 

Y:でも、それを必死になって叩いてたんですよ。腱鞘炎になるくらい(笑)。最後にはもうパッドの1と2を押すと電源が落ちるっていう。

 

ag:それが最初の機材なんですか?

 

Y:それが最初の機材ですね。シンセとか買う前にまずはサンプラーだろと。ヘッドホンとかで録音して曲作って。マイクもなくて。本当アナログやったんで(笑)。

 

− Anchorsongさんの最初の機材は何だったんですか?

 

An:僕は元々バンドやってたんですよ。だから最初に買ったのは普通にギターなんです。

 

ag:そこからスタートなんだ。

 

An:だから、実際音楽も最初はロックばっかり聴いてて。でも、段々Radioheadとかそういうのが好きになって、趣味の幅が広がっていったんですよ。それでバンドが解散したタイミングで、ひとりでやり始めたんです。それで買ったのがMPC2000XLでしたね。

 

− agraghさんはいつごろから音楽を作り始めたんですか?

 

ag:僕はすごいポップスばかり聴いていたんですよ。僕は今32歳なんですけど、ちょうど小室世代だったんですね。それをよく聴いてて、シンセに囲まれたいっていう夢からスタートしたんです。それで、家が音楽教室でピアノ弾いてたんですよ。それで「このシンセサイザーがあったらみんなで演奏できるし、音楽教室で買おうよ」って両親にプレゼンして、それで買ってもらったんです。

 

 

 

− ちなみにどのシンセだったんですか?

 

ag:YamahaのEOSっていう、小室哲哉さんがコマーシャルイメージになってた製品ですね。

 

Y:EOSってドラムマシンとかも入ってるやつですか?

 

ag:そうです。今で言うYamahaのMOTIFみたいな機材ですね。サンプルとかはなかったんですけど。でも、シーケンサーとMIDI音源だけは入っていたから、「とりあえず曲の形は作れるぞ」というところからスタートしましたね。

 

− Yosiさんはいつ頃からだったんですか?

 

Y:僕はとにかく何か作りたいと思っていたんですけど、機材もなくて…。でも、変なきっかけからラップとか好きになって、ヒップホップやR&Bをずっと聴いてたんですよ。

 

ag:いいな。カッコいい。僕もそういうこと言いたいです(笑)。

 

− agraphさんはブラックミュージックを通過しているんですか?

 

ag:ブラックミュージックは全然聴かないし、通っていないんですよ。小学生くらいにTMNが好きになって、それからYMOに入って、クラフトワークまで遡っていったから、ずっとエレクトロニック・ミュージックだったんです。中学、高校で一番先鋭だったときは、試聴して歌とギターが入っていたら買わないっていう感じでした(笑)。

 

−(笑)。改めてYosiさんに話を戻します。

 

Y:それで、KRS-Oneっていうラッパーのアルバムでヘッドホンに叫んでいるジャケットのやつがあったんですよ。『Return Of The Boom Bap』ってやつで。

 

An:持ってます。凄くカッコいいですよね。

 

Y:あれが凄い好きやったんですけど、何してるか分からなくて。「何これ?」みたいな(笑)。聴いてるとスキットとかに凄い籠もってる声が入っているし、「どうやってこんな音録音するんや?」って思ってたんですよ。でも、ジャケットと音楽が繋がった日があって、「ひょっとしてこれはヘッドホンをマイクとして使っているのかも!」って思ったんです。まあ、それは思いつきみたいなものだったし、実際にそうなのか分からなかったので、自分のラジカセにヘッドホンを差してみたら、「録れるやん!」みたいな(笑)。

 

ag & An:へえー!

 

 

Y:それが始まりです。楽器は持ってなかったんですが、カリンバっていうアフリカの楽器を、しかも、そんなちゃんとしたのじゃなくて骨董品屋に売ってあるようなやつを持ってたんですよね。昔ピアノを習ってはいたんですけど、ピアノを使うっていうアイディアはなくて、まずはそのカリンバを録音してみようってところから始まって。それで、リズムになりそうなものを探そうと思って、とにかくあらゆるものを叩いてました。それが12、3歳の頃ですね。両親から見たら僕の部屋はガラクタだらけだったんですけど、僕は「ちょっとそれ捨てんといて。それ、めっちゃ音がええから」みたいな感じでした。

 

An:中学生でKRS-One聴いてたってことですよね。凄いな。

 

− その頃すでにヒップホップに馴染んでいたんですか?

 

Y:ちょうど聴き始めた頃ですね。最初は「やたら繰り返すな。繰り返しすぎやろ」って思ってたんですけど、段々その繰り返しにハマりはじめて。「繰り返せば繰り返すほどカッコいい曲ってあるんやな」って思いましたね。最初にミニマリズムの良さに気付いたのはその頃かもしれないですね。

 

− では、ルーツはブラックミュージックということですか?

 

Y:父親が家でよくジャズを聴いていたのも関係してるかもしれないですね。

 

− Anchorsongさんはどういう音楽環境で育ったんですか?

 

An:僕にはバンドをやってる兄がいて、直接的な影響としては彼の存在が大きいかもしれないですね。僕の兄はハードロックの人で、Def LeppardやMr. Big、Skid Rowなんかを聴いてたんですよ。僕はそういう音楽が嫌いだったんですけど、楽器を弾くって部分には興味があったんです。それで、僕は米国のオルタナから入ったんです。Smashing PumpkinsとかNirvanaとか。そうやって音楽にのめり込んだのが確か中学3年の頃でしたね。それで、バンドやり始めて、最初はコピーを中心にやってて、自分たちのオリジナルの曲を書き始めたのが2000年くらいでしたね。バンドの曲はほとんど僕が書いてたので、家でデモを作っているときに、リズムマシンの使い方とかを何となく覚えていったんですよね。だから、ひとりで曲を作るのには慣れてたんです。それでバンドが解散した時に… 実は凄いショックだったんですけどね。バンド活動以外考えたことなかったんで。で、そのショックが大きくて、もうバンドをやるのは辛いなって思って、ひとりでやり始めたんですよ。

 

 

 

− なるほど。場も温まってきたところで、ひとつみなさんに質問を投げかけかけたいのですが。Squarepusherが昨年の新作リリース時のインタビューで「今のエレクトロニック・ミュージックは悲惨な状況だ。今のミュージシャンには選択肢が大きく分けてふたつある。テクノロジーを司るか、テクノロジーに支配されるかのどちらかだ」と発言しているのですが、皆さんはこの意見についてどう思いますか?

 

ag:大先輩の言うことだから… すみません(笑)。僕はシンセ並べて、プラグイン使って曲作るんですよ。でも、おふたりの音源を聴くと、結構サンプルベースで作ってますよね?

 

An:そうですね。サンプリングを始めたのは割と最近なんですけど、今はサンプルから作ることが多いですね。

 

Y:僕は録音が一番多いです。ただ、ヒップホップをやってきたんで、サンプリングは好きなんですよね。エッセンスとして。アフリカの民族音楽の素材とか結構好きで、「これは次の曲に取っておこう」とか考えて。そういう感じで使いますね。あと、僕はよくフィールドレコーディングをするんですけど、それもサンプルというか、音源として使うんです。そこから抜き出して、ドラムのような素材にすることもあれば、うっすらと背景にしていくこともありますね。

 

ag:そう考えると、みんなテクノロジーは使ってますね。

 

Y:ただ、そこはみんなが悩んでいるところじゃないですかね。便利になってきて、サンプルもゴロゴロ転がってるし。誰だって作れちゃうっていうと語弊があるかもしれないですけど、コラージュが上手くて、コードの概念をちょっとでも分かっていれば、曲が作れちゃう。

 

− 「ソフトウェアを自作しよう」なんて考えることはありますか?

 

Y:そこまでは考えてないですね。スピーカーを作ったりはするんですけど。

 

An:凄い良い音がするって話聞いたことがありますよ。

 

Y:実はこの前スピーカーをGiles Petersonにプレゼントしてきたんですよ。

 

− ええ!?

 

Y:Worldwide Festival Sète ’15(Giles Petersonが毎年南フランスの港町セットで主催しているフランスを代表する音楽フェスティバルのひとつ)に参加して、曲を作ってフェスティバルで再生したんですよ。それで、翌日にGilesからインタビューを受けることになって、僕のスピーカーを通してその曲を聴いてもらったんです。インタビューが終わったあとに、Gilesに「ところでさ、今度このスピーカーをオーダーするから」って言われて。それで、「オーダーなんて悪いから、差し上げますよ」ってことで。

 

 

 

− スピーカーを自作するっていうのは凄いですよね。

 

Y:スピーカーは好きですね。もともとものづくりが好きなんですよ、絵を描くのとか。音楽もその延長で、自分が興味を持ったものは何でもまず自分で作ってみたいと思うんですよ。「なんでこんなにカッコいいんやろ?」って感じる響きを何としても自分で再現してみようとか。でも、音楽は一番遠回りをしたかもしれないし、遠回りが自分のスタイルになったと言えるかもしれないですね。機材も何にも分からないし、とにかく身の回りを録るってところから始まったんで。まあ、僕からしたら、それこそがテクノロジーなのかもしれないですね。

 

− なるほど。では、Anchorsongさんはどうですか?

 

An:単純にテクノロジーが身近になり過ぎて、選択肢が多くなり過ぎていると思うんですよね。買ってすぐにプリセットに即戦力になるような音源とかが入ってる機材が廉価で手に入るので、誰でも音楽を作れる環境は整っていると思います。それは決して悪いことではないとは思うんですけど、その分生まれる作品の数も増えていて。その中で、長年音楽をやってきた人たちの作品と新しく音楽を始めた人たちの作品の間でギャップが生まれてきてるのかなと。

 

だから、全体を見て作品の平均レベルが下がっていると思う人もいるかもしれないですよね。でも、僕は最終的には使う人次第だと思うんですよ。作り手側にもいろんなフィルターにかける能力が求められるというか、たとえば、プリセット音ばかりを並べていっても、誰かと同じ音を作っている可能性がありますよね。でも、Yosiさんだったら、自分で録った音が唯一無二のものだし、agraphさんのようにシンセが自由自在に使いこなせたら、プリセットからは想像もできない音を生み出せるわけじゃないですか。そういう意味で差異化はできてると思うんですけどね。

 

− では、音楽を始めたばかりの人がやるべきことは何だと思いますか?

 

ag:音楽をたくさん聴くことじゃないですかね。それが一番良いと思うんですけどね。僕には音楽への興味と機材への興味というふたつの興味があって、要するに両方好きなんですよ。勉強というと言葉が悪いかもしれないですけど、遠回りしてでも自分でやろうと思えば、自然と音楽をたくさん聴くと思うし、機材についてもたくさん勉強すると思う。それは録音方法の勉強かもしれないし、僕だったら友達のプログラマーと一緒にプログラムを作るとかなんですけど、そういうときに生まれてくるアイディアって、必ずしもそうとは言い切れないんですけど、やはり学んでおくというか、勉強しておかないと出てこないと思います。結果としてですけど、長く続けている人はみんなそういうことをしていると思うんです。

 

 

Y:ちょっと前って、音楽作るのに圧倒的に時間がかかったでしょ。例えばテープだと、オーバーダビングを繰り返すとか、ノイズを減らすためにドルビーのCとSのどちらが良いのか考えるとか、本質とは違うところでの工夫もたくさんあったと思うんですよ。そこには時間もエナジーもたくさん使う。今はどんどん機材が良くなっていて、かかる時間も短くなっていると思うんですけど、僕は1曲作るのにエナジーがこれだけ必要っていうイメージがなんとなくあるんですよ。だから、「3分の1の時間でできたから、残りの3分の2は違うアイディアに使ってみよう」とか、作品を高めるために使おうとするんです。でも、その3分の1で曲が完成してしまう人には残りの3分の2という感覚は生まれてこない。

 

ag:そういう人は何をしていいか分からないと思うんですよね。

 

Y:そういう意味で言うと、これは大袈裟かもしれないですけど、僕たちは苦労を厭わないと思います。

 

ag:パッとできちゃったときに罪悪感とか生まれないですか?

 

Y:ありますね。最初のアウトプットが良かったんだからOKっていう気持ちはありつつもね。

 

− その「パッとできちゃう」っていうのは? インスピレーションでしょうか?

 

ag:僕の場合は、インスピレーションとか神懸かり的なものではなくて、なんとなく弾いていたら上手くいったみたいな。事故的なものです。

 

Y:その事故が良かったりするんですよね。

 

 

坂本哲哉

1984年、飛騨高山生まれ。音楽ライター。『ミュージック・マガジン』などに執筆中。