Mar 02

Look back on Electronic Music 2016 part 1

RBMR RadioのDJがPitchforkのライターと共に2016年のシーン全体を振り返っていく

By Shawn Reynaldo and Philip Sherburne

 

RBMA Radioの「First Floor」は、ホストのShawn Reynaldoが最新のエレクトロニック・ミュージックの中からベストと思える作品を取りあげて紹介することにフォーカスしているウィークリー番組だが、2016年末は1年を振り返る総集編となった。

 

Shawnはその総集編を放送するに当たり、現在バルセロナに拠点を置き、Pitchforkでレギュラーコラムを担当している人気ライターのPhilip Sherburneに声をかけ、2人で1年を振り返ることにした。その放送からの抜粋となる今回の記事は、エレクトロニック・ミュージックの2016年のトレンドやストーリー、そして2人のお気に入りのトラックなどが紹介されている。

 

Part 1では、アンビエント・ニューウェーブ・バレアリック・ローファイハウスの2016年を振り返っていく。

 

 

AMBIENT / NEW AGE / BALEARIC

 

SHAWN REYNALDO

僕の考えでは、2016年はエレクトロニック・ミュージックに明確なトレンドがなかった1年だった。

 

PHILIP SHERBURNE

そうだね。僕も似たような印象を持っているよ。ポップ・ミュージックに関しては、2016年はFrank OceanやBeyoncéがアルバムをリリースしたビッグイヤーだったという意見があるけれど、エレクトロニック・ミュージックに関してはこれといったトレンドがなかったというのは興味深いよね。2015年はArca、Loti、Rabit、Elysia Cramptonなどがリリースを重ねて、彼らの作品は特に新しいものではなかったけれど、ブレイクしたし、シーンに大きなインパクトを与えたよね。2016年も彼らは素晴らしい作品を残したけれど、そこに大きな変化はなかったし、彼らの代わりになる存在も出てこなかった。

 

SHAWN REYNALDO

2016年を振り返ってみると、この1年のトレンドの多くは、過去に流行ったものに何かを上乗せしただけのもののように感じられた。そのひとつがアンビエントだった。テクノやハウスをはじめとするエレクトロニック・ミュージックを好んでいる人たちが、突如としてアンビエント、ニューエイジ、バレアリックを聴き始めたように思えたよ。

 

PHILIP SHERBURNE

僕はアンビエントを長年聴いてきたから興味深いなと思っていた。流行っていることに気付かないくらい、ずっと聴いてきたジャンルなんだ。でも確かに、2016年はこれまで以上にこのジャンルが注目されていたイメージがある。

 

SHAWN REYNALDO

若手アーティストの多くがアンビエント、ニューエイジ、バレアリックを試し始めたよね。そのひとりがHuerco Sだね。彼は僕の中での2016年のアルバム・オブ・ジ・イヤーと呼べる作品のひとつをリリースしたんだけど、それまでの彼はハウスを制作していて、数年前に起きた「アウトサイダーハウス」ムーブメントのひとりに組み込まれていた。でも、2016年はAnthony NaplesのレーベルProibitoから完全なアンビエントアルバムをリリースしたんだ。多分、このアルバムにドラムサウンドは一切使われていないと思うよ。

 

 

 

 

PHILIP SHERBURNE

ドラムサウンドは使われていなかったね。僕もあのアルバムは2016年を代表する1枚だと思っているんだ。あのアルバムを聴いたあと、以前のアルバムも聴き直すことにしたんだけど、ファーストアルバム『Clonial Patterns』もかなりアンビエント寄りだったってことに気付いたよ。当時はアンビエント的だとは思っていなくて、どちらかというと、どのジャンルにも当てはまらない、Actress的なサウンドという印象だった。パーカッションは埋もれていたものの、確かに存在していたからね。でも、パワフルなダンスフロア向きのサウンドではなかったし、完全なアンビエントへのステップだったということが感じられる。また、彼はQuiet Timeからもアンビエントアルバムをカセットテープでリリースしたね。Quiet Timeはニューヨークのレーベルだけど、彼の作品は片面に長尺の1曲が収録されているだけなんだ。ひとつのコードで展開していくような美しいサウンドだよ。

 

SHAWN REYNALDO

他にも良かったと思えるアンビエント、もしくはアンビエント的な作品はあった?

 

PHILIP SHERBURNE

最近だとSarah Davachiだね。彼女はカナダ・バンクーバー出身なんだけど、ミニマリスト的なアプローチの作品を数多くリリースしている。彼女はミルズカレッジで電子音楽を学んだアーティストで、テープマシンや声、ヴァイオリン、ピアノを使った作品を生み出している。非常にミニマルかつドローンなサウンドで、明確な音程のようなものはほとんど存在しない。倍音やチリチリとしたノイズだけで構成されている。彼女は2016年にImportant Recordsから非常に美しいアルバム『Vergers』をリリースしたんだ。長尺の3曲が収録されていて、Kevin Drummの『Imperial Horizon』に近い印象だ。La Monte Young、Folke Rabe的なサウンドさ。僕はかなり気に入ったよ。

 

2016年のもうひとつのミニトレンドと言えたのは、1980年代の日本のニューエイジやエレクトロニック・ミュージックの再発見・再解釈だったと思う。僕はあまり知らないし、実際、欧米で知っている人の数は少ないと思う。なぜなら、こちらではほとんどリリースされてこなかったからね。でも今はこのシーンを取りあげている素晴らしいブログがあるし、YouTubeで探すこともできる。その中で、まず取りあげたいのはニューヨークのアーティスト、Motion Graphicsだ。彼のデビューアルバムには日本からの影響が色濃く反映されている。

 

あとはRVNGからニューアルバム『Reassemblage』をリリースする予定(編注:2017年2月にリリース)のオレゴン州ポートランド出身のデュオ、Visible Cloaksもいる。彼らは2016年を通じてシングルを数枚リリースしたんだけど、そのどれもが日本的な雰囲気を持つアンビエント作品だった。あとは日本のバンドMariahのアルバムをリイシューしたレーベル、Palto Flatsからアルバム『All Kind Music』をリリースしたニューヨークのアーティストGeorgiaもいるね。とても不思議なインプロアルバムで、Max Dunbarが参加しているLiftedの作風を少し思い出させるサウンドで、非常に素晴らしい作品だ。特に「Ama Yes Uzume」は優れたアンビエントに仕上がっているよ。

 

 

 

 

SHAWN REYNALDO

2016年を通じて沢山のアンビエント作品を聴いてきたけれど、その多くはInternational FeelやEditions Megoのような特定のレーベルの作品だったね。あとは、リイシューも沢山聴いたよ。特にMusic From Memoryのようなレーベルは、1980年代にリリースされたような作品を次々とリイシューしていた。このような作品群の多くはあまり注目されないけれど、今でも現代的な意味合いを感じられるサウンドだよ。Music From Memoryは、スペイン人のアヴァンギャルドアーティスト、Suso Sáizの過去20年分の作品から選んだコンピレーションアルバムもリリースしたね。実は、彼は今でも活動を続けているアーティストなんだけどさ。

 

Music From MemoryはThe Systemの4曲入りのEP「The System EP」もリリースした。これは1980年代に数多く生み出された、一流のスタジオでレコーディングされたローファイでブギーでニューウェーブな作品のひとつなんだ。この手の作品の多くはインストかアヴァン・ポップだよ。あとは、RVNG Intl.もリイシューと新作の両方でクールな作品を数多くリリースしたね。この周辺のエレクトロニック・ミュージックにはまだまだ掘り下げることができる領域が残っているように感じているよ。

 

PHILIP SHERBURNE

RVNG Intl.の中で個人的に一番印象に残ったのは、Anna Homler and Steve Moshierのアルバム『Breadwoman & Other Tales』だった。凄く奇妙でクールな作品だったね。ミニマリストで異世界なサウンドだよ。あと、Music From Memoryについては、彼らがどこから音楽を見つけてきているの僕にはさっぱり分からないね。彼らの作品の90%は聴いたことがないものだけど、そのどれもに非常に興味深いセンスが感じられる。君が言ったようにローファイだし、ベッドルーム的なバイブスがあるね。

 

SHAWN REYNALDO

あとはエクスペリメンタルなシンセサウンドの中にも面白い作品が沢山あったね。この手のサウンドもアンビエントと言えるんじゃないかな。たとえば、最近はSuzanne Cianiなどがシーンに復活しているよね。彼女はKeitlyn Aurelia Smithと共作アルバムをリリースした。ちなみに、Keitlyn Aurelia Smithもソロアルバムをリリースしたよ。あとは、EmeraldsのメンバーだったSteve HauschildtもKrankyから素晴らしいアルバムをリリースしたね。CFCFもこの枠に入ると思う。彼は良い1年を送ったね。ここ数年、素晴らしい活動を続けている。

 

PHILIP SHERBURNE

バレアリックに目を向けると、Shy Layersのアルバムがあったな。僕は大好きだったよ。西アフリカと南アフリカの音楽、そしてKraftwerkのヴォコーダーとSteely Danからの影響が感じられるサウンドだけど、最近になって、このアルバムはCat Stevensの「Was Dog a Doughnut」に似ているって気付いたんだ。Cat Stevensはフォークアーティストだったけれど、この曲はドラムマシンと4トラックレコーダー的なクオリティの奇妙なエレクトロ・ブギーだった。Shy Layersのアルバム『Shy Layers』はこの曲を思い出させたんだ。

 

 

LO-FI HOUSE

 

SHAWN REYNALDO

2016年に生まれた新しいトレンドは何だったのかと振り返ると、そこに一番近い存在に思えるのは、最近言われるようになったローファイハウスじゃないかな。僕はこの言葉を聞いたことがなかったんだけど、丁度1ヶ月ほど前に『FACT』誌が取りあげたんだ。

 

PHILIP SHERBURNE

僕も「ローファイハウス」という言葉は聞いたことがなかった。数年前にL.I.E.Sと共に「アウトサイダーハウス」という言葉が生まれたけれど、あえて言うならこれがローファイだったね。でも、『FACT』誌の記事を読む限り、このローファイの流れはVersion 2.0へ進化しているようだね。

 

SHAWN REYNALDO

ローファイハウスの美学はSoundCloud上に転移しているように思えるんだ。このサウンドは過剰供給状態にあるよね。僕は、多くの若手プロデューサーたちがMood Hut、1080p、Future Timesなどのレーベルの作品群や、アンビエントやバレアリックを聴いたあと、それらをひとつにまとめたサウンドを生み出そうとしているんじゃないかと思っているんだ。彼らがそういう動きを見せたことで、1990年代ハウス的なドラムサウンドにジャジーなコードを重ね、インターネットっぽいふざけたアーティスト名でリリースするというテンプレートが生まれたんだよ。そのようなアーティストの例として挙げられるのが、DJ SeinfeldやRoss From Friendsだね。彼らを厳しく非難するつもりはないよ。彼らのサウンドはまずまずだからね。でも、限界点を超えてしまったように感じているんだ。

 

PHILIP SHERBURNE

そういう音楽は比較的簡単に生み出せるんだよ。たとえば、僕はL.I.E.Sの作品群は大好きだし、リスペクトもしているけれど、その多くは必ずしも手の込んだ作品じゃないよね。今はトラックの制作方法の難易度が音楽としての善し悪しを決めない時代とはいえ、ハードウェアを使用したジャムをするアーティストが出てくると、それが流行り出す。そして、誰もが似たようなことを始めると、スペシャル感は薄れていく。今は多くのアーティストがその手法をソフトシンセで再現しているんだと思う。テープ独特のコンプレッションもプラグインで再現できるからね。『FACT』誌の記事は、ローファイハウス用のサンプルパックが買えることにも言及していた。全てが分かりやすい特徴として扱われてしまうのさ。

 

僕がかなり強烈だなと思ったのは、DJ Boringのトラック「Winona」だった。このトラックはYouTubeの再生回数が50万回(編注:2017年3月現在120万回以上)を超えているんだけど、僕は彼の存在を知らなかった。トラック自体は良くある感じで、悪くはないけど突出はしていない。僕が不思議に思うのは、世間がどうやってこのトラックの存在を知っているのかということさ。世代的なものなのかなとも思うし、オンラインで音楽を聴いたり掘ったりしている人たちに関係しているのかなとも思う。数年前は、Eton MessyやMajestic CasualのようなYouTubeチャンネルがビキニの女性をバックにディープハウスを流す動画を次々と投稿していて、それぞれが何万回も再生されていたわけだけど、今回の「Winona」は、それの繰り返しのようにも思えるんだ。

 

 

 

 

SHAWN REYNALDO

最近のローファイハウスの一連の流れについてくどくどと言うつもりはないんだけど、この手のサウンドを制作しているプロデューサーたちに関して触れておくべきことがひとつある。これはある意味エレクトロニック・ミュージックの世界では何十年にも渡って続いていることだと思うんだけど、彼らの多くはデトロイトサウンドを開けっぴろげに真似ているんだ。Theo ParrishでもOmar Sでも構わないんだけど、とにかくソウルフルでジャジーなハウスを堂々と真似ているのさ。このサウンドは以前から存在するものだし、マスターと賞賛されるアーティストたちが素晴らしい作品を生み出してきた。でも今は、UKのミッドランズ(中部)に住む22歳のキッズが自分のバージョンを作っている。別に特定のスタイルの音楽は特定の人だけが作るべきだと言いたいわけじゃないけれど、最近は、自分たちが作っている音楽にどんな歴史があるのかさえ知らないアーティストがいると思う。

 

とはいえ、ローファイハウスに関しては、優秀なレーベルもまだまだ沢山あるよね。たとえば、さっきも触れたMood Hutや1080p、それにRhythm Section、Lustwerk Music、Future Times、PPUなどがそうだ。まだ掘られていない宝石も沢山眠っている。でも、今は過剰供給状態だから、僕たちがきちんとセレクトしていくことが重要だ。リリースされるローファイハウス全てに手を出さないようにする必要があるね。

 

 

 

 

PHILIP SHERBURNE

所謂 “ローファイ” をルーツに持つWorkshopのようなレーベルを見てみると、彼らはドラムマシンにサンプルループを乗せたトラックをただリリースしていた。テープのコンプレッションがかかっていて、飾り気がなくて、粗いサウンドだった。でも、このレーベルでリリースを重ねていたKassem Mosseが最近Honest Jon’sからリリースしたアルバムは完全に違う方向に舵が切られている。彼は心地よくて眠くなるようなBPM110のディープハウスを続けていても良かったわけだけど、その代わりに奇妙なエクスペリメンタルシンセサウンドに踏み出した。彼の今のサウンドは冷たい感触だしザラザラしているから、聴きづらい時もある。丁寧に仕上げられたものではないから、これもある意味ローファイなんだけど、DJ Boringのローファイとは180度違うよね。

 

Part 2(エクスペリメンタル・クラブ / ハウス / テクノ)へ続く